陸山会事件で政治資金規正法違反(虚偽記入)に問われた小沢一郎民主党元代表に対し、指定弁護士側が9日に読み上げた論告の要旨は次の通り。
<起訴議決の有効性>
検察審査会(検審)が証拠の評価を誤ることは予想しない事態ではないが、検察審査会法は議決が無効となる規定を置いていない。検審は非公開とされ、裁判で検審が証拠の信用性に関する判断を誤ったか否かを判断することはできない。従って、検賓が起訴議決した場合、裁判所は証拠を総合して評価し、判決を言い渡すべきである。
弁護人は、東京地検特捜部が田代政弘検事が作成した内容虚偽の捜査報告書を検審に送付し、陸山会元専務担当者・石川知裕衆院議員の供述に信用性が認められると誤解させて起訴議決させたと主張する。しかし、仮に検審を誤解させる意図があったとしても、検審の手続きは違法とはならず、議決の効力に影響を及ぼすことはあり得ない。
<虚偽記入>
石川被告は、小沢元代表が4億円もの巨額資金を所有していることを第三者に知られたくなかったため、土地購入のため借り入れた4億円を.政治資金収支報告書に記載せず隠そうとした。
そして第三者から気づかれないようにするため、4億円を陸山会の口座に分散迂回(うかい)して入金し、陸山会名義の定期預金を開設。これを担保に銀行から元代表名義で4億円を借り入れるなど、偽装工作を実行した。
後任の事務担当者・池田光智被告は石川被告から引き継ぎを受けており、収支報告書への不記載・虚偽記入は、石川、池田両被告の確定的故意に基づいて実行された。
<元秘書らとの共謀>
小沢元代表は政治資金の無駄遣いに厳しく、秘書らに節約を心がけるよう指導していた。銀行からの4億円の借り入れは、陸山会にとって必要のないもので、その目的は、土地購入の資金が元代表の4億円であることがばれるのを避けるためであった以外にはない。
また、元代表は融資申込書に署名し、4億円の約束手形にも振出人として署名した。自分の資金で土地購入の資金を確保できたことを知る元代表が、同じ土地購入という目的のために、多額の金利負担が生じる4億円の借り入れを承諾することは、元代表の指示、了解がない限り、あり得ない。
さらに小沢元代表は、週刊誌の質問書に対する回答の修正を池田被告に指示した。回答は元代表の資金を土地購入に充てたことも、銀行からの借り入れの担保としたことも否定するもので、明らかに元代表が4億円を提供したことを隠す方向での虚偽である。
問題の土地購入は、それまでと異なり、小沢元代表が購入資金を全額提供し、物件の下見をするなど、白身の利害に関わり、関心も深い取引だった。このため、契約を変更して所有権移転の登記を先送りにし、登記前に全額支払うことを、元秘書らが元代表の了解を得ずにすることはあり得ない。
石川被告は、登記の時期をずらし、土地取得費用を2005年分収支報告書に記載することについて、「小沢先生の了解を取ってやっている」と池田被告に説明している。これを受け、池田被告が06年3月頃、元代表に「石川被告から引き継いだとおり、04年に支払った約3億5000万円の土地代を05年分の支出に計上した」と説明したところ、元代表は何ら質問することなく、「ああ、そうか」と言って了解した。
もし小沢元代表が登記をずらしたことを知らなければ、04年に支払った資金を05年に記載する処理に反問しないことは到底考えられず、登記がずらされたことを知っていたのは明らか。
たとえ小沢元代表と元秘書らとの間の具体的な日時、場所を特定した謀議が認められず、元秘書らの行為について元代表の認識が概括的であっても、土地取得の事実などを05年分収支報告書に記載し、土地取得の公表を遅らせることについて知っていたことは疑問の余地がない。元代表と元秘事bの共謀共同正犯は成立する。
一方、小沢元代表の供述は極めて不自然で、弁護側の主張にも反し、証拠上明らかな事実にも随所で反し、到底信用できない。責任回避のための虚言であることは明らか。元代表の動機が、誰にも明らかにしていなかった巨額の資金を有していること、それを利用して土地を購入したことがばれるのを避けたいことにあったのは明らかだ。
<情状>
本件は、04年10月頃から周到な準備と巧妙な工作を伴ってなされた計画的な犯行で、悪質としかいいようがない。政治資金規正法が、会計責任者には不実の収支報告書の作成を禁止し、代表者には、会計責任者の選任監督に注意を尽くすことを求めていることは、小沢元代表も十分理解している。
しかし、小沢元代表は、具体的にどう注意を払ったかは、「担当者を信じていた」と言うのみで全く説明できていない。「具体的な指導はしていない」と居直りとも言うべき供述をしており、法の軽視は明らか。元代表はその理由として、「私の関心と仕事は天下国家の話だ」としたが、衆院議員が「天下国家の話」に関心を集中するのは当然で、元代表だけに要請されていることではない。
また小沢元代表は、実質犯罪を伴わない単純な虚偽記載は修正すれば足り、刑事責任を問うべきではない旨を述べている。しかし、収支報告書の不記載・虚偽記入は、実質犯罪を伴うか否かにかかわらず成立する。元代表の主張は独自な解釈である。
小沢元代表は、元秘書らが有罪判決を受けた後でも、「収支報告書を見ていない」と強弁した。一審とはいえ、司法において「虚偽がある」と指摘された場合、陸山会代表者として、修正の要否を判断するために内容を確認する必要があるはずだ。元代表の発言は、規範意識の著しい鈍磨を示すと言わざるを得ない。
小沢元代表は、刑事責任を回避するために不合理な否認を繰り返し、反省の情は全くなく、再犯の恐れは大きい。元代表は政治家として大きな影響力を有している。であるからこそ国民、他の国会議員の範となる行動が求められると言うべきで、それを裏切って犯行に及んだ以上、長く国政に尽力したことを有利な情状とすることは妥当ではない。
120310_読売新聞10面から