大都市化は住宅価格と空き家に何をもたらすのか ―「国民生活」2026年7月号の特集から、副首都構想の議論を考える―
大都市化は住宅価格と空き家に何をもたらすのか ―ウェブ版「国民生活」2026年7月号の特集から、副首都構想の議論を考える―

■ はじめに
独立行政法人国民生活センターが発行するウェブ版「国民生活」の2026年7月号【No.167】(2026年7月15日発行)を読みました。消費生活相談の現場で働く方や消費者問題に関心のある方向けの月刊誌ですが、今号は特集「変わるマイホームの常識-住宅市場の転換期とローン選択の新ポイント-」をはじめ、私たちの暮らしに直結するテーマが多く、大変勉強になる内容でしたので、ご紹介します。
あわせて、特集1「大都市化と住宅市場の新潮流」の内容は、いままさに国会で審議されている副首都構想(新たな「都」機能を担う都市の整備)を考えるうえでも重要な視点を含んでいると感じました。記事後半では、この特集の知見を踏まえ、副都市の整備が住宅価格や空き家問題を通じて市民生活にどのような影響を与えうるのか、私なりの考察を述べます。
なお本記事では、「ここまでが国民生活センターの資料に基づく事実」「ここからは資料を踏まえた考察」を明確に区分して記載します。
■ 2026年7月号の全体構成
今号の掲載記事は次のとおりです(執筆者敬称略)。
| 区分 | タイトル | 執筆者 |
|---|---|---|
| 特集1 | 大都市化と住宅市場の新潮流 | 中川雅之(日本大学経済学部教授) |
| 特集2 | 迷わない住宅ローン戦略-残価設定型と長期住宅ローンの選び方と留意点- | 豊田眞弓(ファイナンシャルプランナー) |
| 特別寄稿 | 日本ヒーブ協議会 48年の歩みとこれから | 鈴木聖子(一般社団法人日本ヒーブ協議会代表理事) |
| 消費者問題アラカルト | デジタルコンテンツの購入と所有-買ったのに使えなくなる? | 高木篤夫(弁護士) |
| 消費者教育実践事例集 | 中学生とシニア世代が共に学び意見を交わす「デジタル消費者教育授業」 | 道高真理(一般社団法人北海道消費者協会) |
| 気になるこの用語 | 投資信託の基本(2)投資信託の費用 | 石川由美子・永沢裕美子 |
| 暮らしの法律Q&A | 隣家から自宅の敷地内にライフラインの設置を求められたら断れない? | 小島直樹(弁護士) |
| 暮らしの判例 | 無登録ファンドへの暗号資産による出資をマルチ商法の手法で勧誘することを企画し拡散した者の責任 | 国民生活センター消費者判例情報評価委員会 |
| 誌上法学講座 | 改めて学ぶ景品表示法 第9回 景品規制 | 佐藤吾郎(明治学院大学法学部教授) |
出典:ウェブ版「国民生活」2026年7月号【No.167】目次(国民生活センター、2026年7月15日発行)
特集2の住宅ローン記事では、2023年春頃から本格化したJTI方式の残価設定型住宅ローン、2026年3月に住宅金融支援機構が新設した「特定残価設定ローン保険」(商品は2026年秋以降発売見込み)、40年・50年の超長期ローンの注意点が整理されており、「住宅ローンを検討するときに金融機関窓口で確認する質問リスト」も掲載されています。マイホーム購入を検討されているご家庭には特に有用です。
このほか、電子書籍や音楽配信など「買ったはずのデジタルコンテンツが使えなくなる」問題を法的に整理したアラカルト、暗号資産×マルチ商法の被害判例(東京地裁令和6年12月23日判決)の解説など、消費者被害の未然防止に役立つ記事が並んでいます。
■ 特集1「大都市化と住宅市場の新潮流」の要点
【ここまでが国民生活センターの資料に基づく事実】として、以下は同誌7月号1~6ページ(執筆:中川雅之・日本大学経済学部教授)に記載された内容の整理です。
(1)政策介入にもかかわらず大都市集中は進んできた
東京一極集中の是正は、全国総合開発計画が策定された1960年代以来、継続的に追求されてきた重要な政策アジェンダでした。しかし、ジニ係数等の指標で確認すると、強い政策的介入にもかかわらず、東京をはじめとした大都市への集中は、人口増加局面(1965~2005年)でも人口減少局面(2005~2015年)でも着実に高まってきたことが分かる、と筆者は指摘します。
さらに、1965年と2045年の日本の総人口はいずれも1億人程度と推計されているものの、国立社会保障・人口問題研究所の地域別人口推計によれば、総人口が同水準に回帰しても、大都市化が大きく進んだ国土構造になるとみられています。その要因として、第2次産業が主要産業だった1965年と異なり、都市を舞台とする第3次産業・知識集約産業が現在の主要産業となっていることが挙げられています。
(2)住宅価格の高騰 ―大都市化がもたらした副産物
(株)不動産経済研究所が発表した2025年の新築マンション1戸当たり平均価格は、東京23区で1億3613万円、首都圏で9182万円と、いずれも過去最高でした。2025年の首都圏のマンション供給戸数は2万1962戸と過去50年で最低であり、建設コストの上昇が止まらないため、価格は全体的に高止まり傾向が続くとみられています。
需要側の背景として、高所得者が流入し住宅価格が上がり続ける「スーパースター都市」(2013年に米ペンシルベニア大学のジョセフ・ジョーコ教授らが提唱した概念)の考え方が紹介され、東京大都市圏でも所得の高い若い居住者が中心都市で増加する「ジェントリフィケーション」が起こっていることが示されています。
(3)「価格高騰」と「空き家増加」が同時に起きている
特に注目したいのは、筆者が「奇妙な現象」と呼ぶ事実です。2023年時点の東京都には空き家住宅が89.8万戸、うち賃貸・売却用及び二次的住宅を除いた「その他空き家」が21.5万戸も存在しています。都心からの距離帯別(2018~2023年)にみると、0~10km圏では二次的住宅・賃貸・売却用の空き家、10~20km圏では放置された「その他空き家」の増加率が際立って高く、30km以遠でもその他空き家が大きく増加しています。
つまり、スーパースター都市化している東京大都市圏では、都心部の住宅価格高騰と遊休資源(空き家)の増加が同時に起こっているのです。その構造的要因として、不動産で相続させた方が税制上有利であること、既存住宅市場が機能せず高齢者が広すぎる住宅を適正価格で売却できないこと、強すぎる借家人保護により賃貸化も難しいことが挙げられ、高齢者が亡くなるまで住宅を抱え込む構造が指摘されています。
対応策としては、フランスやカナダで実施されている「アンダーユースドタックス」(放置空き家だけでなく、投資家等が保有する一定期間未使用の住宅にも課税)や、神戸市で検討されているタワーマンション空き部屋課税、住宅用地の固定資産税を6分の1に軽減する特例措置の対象外とすることなどが例示されています。
(4)世帯の変化と、新築・広さ偏重からの転換
世帯構成は大きく変わりました。1980年には「夫婦と子ども」(42.1%)と「3世代等」(19.9%)で全世帯の6割以上を占めていましたが、2020年には各25.0%・7.7%に低下し、「単独」世帯が38.0%(1980年は19.8%)と2倍近くに増えています。家事サービスの外部化も進み、住宅の「広さ」は従来ほど重要な要素とはみられなくなりつつあります。
住宅流通量に占める既存住宅流通の割合は、2010年代前半の30%強から2024年には44%に上昇しました。既存住宅市場の課題である「情報の非対称性」(売り手は品質を知っているが買い手は知りにくい)については、不動産業者が既存住宅を買い取りリフォームして売却する「買取再販事業」が、品質のシグナルとして機能していることが2012年の研究(原野・中川・清水)から示されています。
筆者は結論として、大都市化が進行する社会では、規模・新築・戸建てという属性に必ずしもこだわらない、多様化した住宅の取得供給が住宅政策の目標としてふさわしい時代が到来している、と述べています。
■ 考察:副首都構想は住宅価格・空き家に何をもたらしうるか
【ここからは資料を踏まえた私の考察です。以下の内容は「国民生活」誌面に書かれたものではなく、特集1の分析枠組みを現在の政策議論に当てはめた場合の「想定」であることをあらかじめお断りします。】
前提となる事実:副首都法案の現状
まず考察の前提として、現在の国会の状況を確認します。2026年6月24日、「国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律案」(いわゆる副首都法案)が衆議院に提出されました。法案は首都中枢機能のバックアップと多極分散型経済圏の形成を担う「副首都」を法律で定義するもので、7月中旬時点で衆議院の特別委員会で審議が行われ、衆院通過・参院送付の見通しが報じられています。修正協議も各党間で続いており、公明党も協議の当事者となっています。なお、法案上どの都市を副首都とするかが確定しているわけではありません(出典は末尾参照)。
想定1:副都市の中心部では住宅価格の上昇圧力が働きうる
特集1が示した最も重要な知見は、「集積の経済」が働く都市には、政策介入があっても人口と所得の高い層が集まり続け、住宅価格が上がるという実証的事実です。副首都として行政中枢機能・企業機能・雇用が計画的に集積されれば、その都市は知識集約産業の受け皿となり、スーパースター都市化のメカニズム(高所得層の流入→住宅需要増→価格上昇)が働く可能性があります。
これは「東京の一極集中が分散されて住宅が買いやすくなる」という単純な期待とは異なる帰結です。東京の経験に照らせば、副都市の中心部ではむしろマンション価格・賃料の上昇が先行し、従来からの住民、特に若い子育て世帯や中低所得層が住宅取得しにくくなる(ジェントリフィケーションの負の側面)ことも想定しておく必要があります。
想定2:「価格高騰と空き家増加の併存」が副都市圏でも再現されうる
東京大都市圏では、都心の価格高騰と、10~20km圏・30km以遠での放置空き家の増加が同時進行していました。副都市への機能集積が進んだ場合、同じ構造、すなわち中心部の高騰と、通勤圏外縁部・旧来の住宅団地エリアでの空き家増加が併存する形が、副都市圏でも再現される可能性があります。相続・税制・既存住宅市場の未整備という空き家発生の構造的要因は全国共通だからです。
つまり副首都構想は、空き家問題を自動的に解決するものではなく、むしろ圏域内の「立地間格差」を拡大させる方向に働きうる、というのが東京の経験からの示唆だと考えます。
想定3:周辺都市・大津市への示唆
仮に関西圏に副首都機能が整備される場合、その通勤圏・生活圏に位置する周辺都市には、住宅需要の波及(地価・家賃の上昇)と、逆に選ばれないエリアでの空き家増加という、両方向の影響が及びうると考えます。琵琶湖線・湖西線で京阪神と結ばれた大津市も無縁ではありません。
だからこそ、特集1が示した政策の方向性、すなわち①放置空き家に限らない遊休住宅への課税等のあり方(アンダーユースドタックスの議論)、②既存住宅流通とリフォーム市場の整備、③新築・広さにこだわらない多様な住まいの選択肢の確保は、国の制度論であると同時に、基礎自治体が空き家対策計画や立地適正化の中で先取りして考えるべきテーマだと受け止めています。住宅は暮らしの基盤であり、価格の急変も空き家の放置も、最終的に市民生活と地域コミュニティに影響します。国会の議論を注視しつつ、市政の現場でも備えてまいります。
(考察はここまでです。想定1~3は特集1の分析枠組みからの推論であり、確定的な予測ではありません。)
■ まとめ
| 項目 | 誌面に基づく事実 |
|---|---|
| 2025年新築マンション平均価格 | 東京23区1億3613万円、首都圏9182万円(不動産経済研究所発表・過去最高) |
| 2025年首都圏マンション供給戸数 | 2万1962戸(過去50年で最低) |
| 東京都の空き家(2023年) | 89.8万戸、うち「その他空き家」21.5万戸 |
| 世帯構成の変化 | 「単独」世帯 19.8%(1980年)→38.0%(2020年) |
| 既存住宅流通の割合 | 30%強(2010年代前半)→44%(2024年) |
ウェブ版「国民生活」は毎月15日ごろ発行で、どなたでも無料で読むことができます。今号は住宅ローンの実務的な注意点からデジタルコンテンツの法律問題まで、生活に直結する情報が詰まっていますので、ぜひ原文もご覧ください。
【参考資料・出典】
- ウェブ版「国民生活」2026年7月号【No.167】(独立行政法人国民生活センター、2026年7月15日発行)
- 特集1:中川雅之「大都市化と住宅市場の新潮流」1~6ページ
- 特集2:豊田眞弓「迷わない住宅ローン戦略-残価設定型と長期住宅ローンの選び方と留意点-」7~11ページ
- https://www.kokusen.go.jp/pdf_dl/wko/wko-202607.pdf
- 特集1内で引用されているデータの原出典:住宅・土地統計調査(総務省統計局、1998年・2023年)、(株)不動産経済研究所発表(2025年新築マンション平均価格)、国立社会保障・人口問題研究所 地域別人口推計、国民経済計算(内閣府)、(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター推計、原野啓・中川雅之・清水千弘「中古住宅市場における情報の非対称性がリフォーム住宅価格に及ぼす影響」『日本経済研究』No.66(2012年)、中川雅之「大都市圏のジェントリフィケーションとマンション供給」『マンション学』第84号(2026年)
- 副首都法案の状況:日本維新の会「副首都法案を衆議院に提出しました」(2026年6月24日)、日本総研・若林厚仁「副首都法案の成立で何が変わるのか」(2026年7月13日)、時事通信「『副首都』、15日衆院通過 国会1週間延長論」(2026年7月14日)、NHK「自民・維新・みらい『副首都』法案修正合意」(2026年7月14日)
※本記事の「考察」部分は、上記資料の記述を踏まえた筆者の見解であり、国民生活センターおよび誌面執筆者の見解ではありません。








