避難行動要支援者名簿のデジタル化 ── 「紙が確実」から「電子データを共有」へ、9月通常会議の答弁と経団連の規制改革要望
9月通常会議の一般質問で、避難行動要支援者名簿の電子データの扱いについて取り上げました。
そのさなかの9月15日、一般社団法人 日本経済団体連合会(経団連)が「2026年度規制改革要望」を公表しました。その「防災・国土強靭化」の分野に、No.39「避難行動要支援者名簿および個別避難計画におけるデジタル化の推進」 という項目が置かれています。読んでみると、私が議場で取り上げた問題と、根っこのところで同じことを指摘していました。
自治体の現場で突き当たっていた課題が、経済界から国への要望としても示されたことになります。この機会に、議会でのやり取りとあわせてご報告します。

■ 経団連の要望が指摘したこと ── 「自治体ごとに解釈が分かれている」
要望が問題にしているのは、国の二つの文書の間にある食い違いです。
① 国の取組指針は、クラウドでの管理を想定している
内閣府の「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針(令和3年5月改定)」では、災害により市町村の機能が著しく低下する可能性を踏まえ、名簿情報および計画情報をクラウド上でデータ管理することによるバックアップ体制の構築が規定されています。
② しかしセキュリティのガイドラインには、その規定がない
一方で「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和8年3月版)」には、名簿情報・計画情報のクラウド管理について明確な規定がありません。要望本文は、その結果として次の状況が生じていると述べています。
セキュリティポリシーに反するとの見解から名簿情報および計画情報を紙で管理する従来の運用を続ける自治体がある等、自治体毎に解釈が異なりデジタル化が進展しない現状がある。
(出典:経団連「2026年度規制改革要望」No.39)
③ そのために起きていること
| 場面 | 生じている支障 |
|---|---|
| 災害発生時 | 浸水時や停電時に情報共有や集計作業が進まず、要支援者の状況や避難所の情報等を迅速に収集・展開することが困難な事例が生じている |
| 平常時 | 紙で管理する運用により、名簿登録依頼書の印刷や発送作業をはじめ、名簿情報・計画情報の作成・更新・共有に係る作業が自治体職員の業務を圧迫している |
出典:経団連「2026年度規制改革要望」(2026年9月15日)No.39
④ 求めていること
要望が国に求めているのは、次の二点です。
- セキュリティポリシーのガイドラインにおいても、取組指針と同様に、名簿および個別避難計画に関する情報をクラウド上で管理することが可能である旨を明確化し、自治体によって解釈が分かれることのないよう見解を統一すること
- 名簿情報・計画情報の管理が認められるクラウドの基準や条件についても明確化すること
■ 大津市議会で私が質したこと
6月通常会議でのやり取り
6月通常会議では、発災時に地域が速やかに安否確認を行えるよう、避難行動要支援者名簿の電子データの提供を求めました。これに対して市からは、発災時においてインフラの状況が不明な点を踏まえると、紙媒体による提供が確実な方法である、との答弁をいただきました。
経団連の要望が挙げている「紙で管理する従来の運用」と、まさに同じ論点です。
9月通常会議で改めて取り上げた点
そこで9月通常会議では、名簿の電子データについて、次の点を市に質しました。
- 名簿を扱う職員の位置づけ ── 安否情報を扱う職員が、不同意の方を含む避難行動要支援者名簿を用いて分析と判断を行うことを、災害対策基本法第49条の11第1項に基づく内部利用として明確に位置づけること
- データの中身と新しさ ── 職員が用いる名簿の電子データに、災害リスクや区域の区分など、対象となる方の絞り込みに必要な項目を備えること。また名簿の更新のつど最新のものが用いられるようにすること
- 手順の明文化 ── 避難行動要支援者名簿の電子データを用いて対象となる方を絞り込むための分析の手順を、マニュアルとして定めること
- 通信が途絶えたときの備え ── 平時から支所に最新の名簿を電子データで保存し、インターネット通信が使えない状況でも参照できるようにすること。およびその保存と管理の方法をルールとして定めること
申し上げたかったのは、紙かデータかという二者択一ではないということです。通信が途絶えても使える形でデータを持ち、その上で紙も併せて備えておく。その両方があって初めて、どのような状況でも安否確認が動きます。
■ 市の答弁 ── 「紙が確実」から「電子データを共有」へ
今回、市から次の答弁がありました。3か月前とは明らかに内容が変わっています。
電子データの共有と、支所への職員の配置
現在、避難行動要支援者名簿を使用する大規模災害時に、保健福祉支援班と支所及び各関係所属において、市内部のネットワークを用いて名簿の電子データを共有し、的確に名簿データを取り扱うことのできる職員を支所に配置の上、地域からの安否確認情報を収集することや、健康福祉分野の各所属が介護事業所等から安否情報の提供を受けるなど、保健福祉支援班を中心とした効率的・効果的な安否確認体制について検討を進めております。
(令和8年9月通常会議 部長答弁)
6月の「紙媒体による提供が確実な方法」という答弁からの変化が、はっきり見て取れます。
職員の配置については、危機・防災対策課からも重ねて答弁がありました。
安否確認を行う上では、防災拠点となる施設に担当職員を配置することが最善であると考え、当該プランへの記載方法も含めて、現在、福祉部局と協議を進めているところです。
(令和8年9月通常会議 危機管理監答弁)
データの中身、手順、通信途絶時の備え
残る三点についても、次の答弁を得ました。
| 求めた内容 | 答弁 |
|---|---|
| データに必要な項目を備え、最新のものを用いる | 要介護度や障害者手帳等級などの個人の情報や、お住まいの地域の土砂災害の危険度など、使用する際に必要となる項目を検討するとともに、名簿の更新に合わせて、できる限り最新の情報を反映することを含め、検討してまいります |
| 分析の手順をマニュアルとして定める | 発災時に的確な対応ができるよう、必要な手順について検討を進め、保健福祉支援班活動マニュアルに反映させてまいります |
| 通信が使えない状況でも参照できるようにする | そのような状況も想定し、共有する電子データをUSBメモリー等の電子記録媒体に保存し活用することを検討してまいります |
出典:令和8年9月通常会議 一般質問に対する答弁(部長答弁・福祉政策課)
手順のマニュアル化については、「保健福祉支援班活動マニュアルに反映させてまいります」と、受け皿となる既存の文書まで示されました。 通信が途絶えたときの備えについても、「セキュリティ上できない」ではなく、電子記録媒体での保存を検討するという方向が示されています。
■ 残された論点 ── 「どの災害のときに、どの範囲で使えるのか」
一方で、名簿をどの場面でどこまで使えるのかという基準の部分は、今回は明確になりませんでした。
私は、土砂災害や浸水災害のように危険の及ぶ区域があらかじめ定められている災害であれば、その区域に住む方に対象を限ることで、法が求める「必要な限度」にとどめながら名簿を活用できるのではないか、と提案しました。これに対する答弁は次のとおりです。
大津市避難行動要支援者避難支援プランに例示している、阪神・淡路大震災や特別警報級の大雨に至らないような災害における名簿提供の基準は、状況に応じた判断になると考えており、居住地等で抽出したデータの提供については、個人情報保護の観点から慎重な取り扱いが求められます。
(令和8年9月通常会議 危機管理監答弁)
また、名簿を扱う職員が不同意の方を含む名簿を用いて分析と判断を行うことを、災害対策基本法上の内部利用として明確に位置づけることについては、
避難行動要支援者名簿に記載のある個人情報の利用については、災害対策本部等で適切に判断し、対応するものと考えております。
との答弁でした。
ここで、一つ気になる点があります。名簿の項目としては「お住まいの地域の土砂災害の危険度」を備える方向で検討する一方、その区域で絞り込んで使うことについては慎重な姿勢が示されている、ということです。整えたデータを、いざというときにどう使ってよいのか ── そこが定まらなければ、備えは備えのままで終わってしまいます。
■ 二つが重なるところ
経団連の要望は「国がガイドラインを明確化すべきだ」という話であり、私が議場で申し上げたのは「市として運用のルールを定めるべきだ」という話です。向いている方向は違います。
しかし、止まっているところは同じです。名簿の電子データをどういう場合にどこまで扱ってよいのかについて、拠りどころとなる明確な基準がない。 だから現場は判断を先送りせざるを得ない。国のレベルでも、市のレベルでも、同じことが起きているわけです。
今回、大津市は「電子データで共有する」「扱える職員を支所に置く」「手順をマニュアルに反映する」というところまで進みました。残っているのは、まさに経団連が国に求めている「基準の明確化」と同じ部分です。
そして、どちらか一方だけでは進みません。国が見解を統一しても、市の側に「誰が、どのデータを、どういう場合に、どこまで扱うのか」というルールがなければ、発災時には動けません。逆に、国の明確化を待っているだけでは、市の備えはいつまでも始まりません。
■ 今後に向けて
避難行動要支援者名簿は、発災直後に「あの方は無事か」を確かめるための、いちばん基礎になる情報です。それが紙の束のまま、浸水した支所の保管庫に眠っている、ということがあってはなりません。
今回の答弁で、電子データを共有し、扱える職員を配置し、手順を定めるという方向は示されました。あとは、それをいつ、どの場面で、どこまで使えるのかという基準です。国の動きを注視しつつ、引き続き市の体制整備を求めてまいります。
【参考資料・出典】
- 一般社団法人 日本経済団体連合会「2026年度規制改革要望」(2026年9月15日公表) Ⅱ.2026年度規制改革要望 / 戦略分野 (7) 防災・国土強靭化 / No.39「避難行動要支援者名簿および個別避難計画におけるデジタル化の推進」 https://www.keidanren.or.jp/policy/2026/049_honbun.html#n39
- 上記要望が根拠法令等として挙げているもの
- 災害対策基本法 第49条の10、第49条の11、第49条の14、第49条の15
- 避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針 第Ⅱ部 第2 2(3)、第Ⅲ部 第2 2(10)(内閣府、令和3年5月改定)
- 地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン 図表22(令和8年3月版)
- 大津市議会 令和8年9月通常会議 一般質問に対する答弁(危機管理監答弁:危機・防災対策課/部長答弁:福祉政策課)
- 大津市議会 令和8年6月通常会議 一般質問に対する答弁(令和8年6月17日)
- 大津市「大津市避難行動要支援者避難支援プラン(全体計画)」(平成27年3月作成、令和7年4月修正)
- 大津市「大津市地域防災計画【震災対策編】」「同【風水害等対策編】」(令和8年3月、大津市防災会議)
※本記事のうち経団連の要望に関する記述は、上記「2026年度規制改革要望」No.39の記載に基づいています。市議会での質問および答弁に関する記述は、9月通常会議において実際に発言した内容および答弁書の記載によるものです。











