高齢期は「痩せすぎ」に要注意 ~健康寿命を延ばす“適糖生活”とは~
「メタボ対策」として、痩せることを良しとする考え方が長く浸透してきました。しかし高齢期に限っては、事情が異なるようです。公益財団法人 全国精糖工業会・糖業協会が発行する情報誌『砂糖類・でん粉情報』2026年9月号に掲載された、公益社団法人日本栄養士会常任理事・西村一弘氏の解説をもとに、高齢期の健康づくりのポイントをご紹介します。
■ 高齢者のBMI目標値、引き上げの理由
厚生労働省「日本人の食事摂取基準」では、高齢者のBMI(体格指数)の目標下限値が引き上げられました。
| 基準 | 従来 | 改定後 |
|---|---|---|
| 50歳以上 | 18.5 | 20.0 |
| 65歳以上 | 18.5 | 21.5 |
同基準に基づくBMIと死亡率のグラフでは、65歳以上を対象とした場合、BMIが高くても死亡率は上昇しない傾向が示されているとのことです。つまり、高齢者は「痩せすぎ」が寿命を縮める可能性があるということです。
また、2020年版の基準で紹介された研究では、次の点が指摘されています。
- BMIが変化なく維持されることが、最も認知症リスクが低い
- 過体重・肥満の人でBMIが急速に減少すると、認知症のリスクとなる
- BMIの10%以上の減少が、認知症のリスクとなる
■ メタボ対策から「フレイル予防」へ
2000年代以降のメタボ対策の浸透により、「痩せ=健康」という考えが広まり、高齢者にも過度な減量志向が見られるようになりました。しかし記事では、次のような目安が示されています。
- 75歳以降:無理な減量はやめ、体重を現状維持する
- 若い頃から痩せ型(BMI20未満)の人:50歳を超えたら、体重を増やす方向へ切り替える
超高齢社会において、要介護の手前の状態である「フレイル(虚弱)」の予防が重要な課題とされる中、痩せすぎがかえってフレイルを招くケースがあると指摘されています。
■ 糖質は「優れたエネルギー源」
記事では、炭水化物(糖質)が体内で最も早くエネルギーとして利用される栄養素であり、たんぱく質を筋肉に利用する際にも糖質が必要だと説明されています。
極端な糖質制限を行うと、相対的に高脂質・高たんぱくの食生活になり、次のようなリスクが懸念されるとのことです。
- 心血管疾患:LDLコレステロールの増加による動脈硬化の進行
- 腎臓:過剰なたんぱく質の分解に伴う老廃物処理の負担増加
- 認知症:低血糖・高血糖のいずれも認知症リスクに関わる可能性
記事は、糖質制限を行う場合は自己流ではなく、医療機関や管理栄養士など専門職の指導のもとで行うことを勧めています。
■ 糖尿病の増加と、糖質摂取率の低下
厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要」によれば、「糖尿病が強く疑われる人」の数は年々増加傾向にあります。
一方で、同調査に基づく資料では、日本人のエネルギー摂取量に占める炭水化物の割合は1970〜80年代の60%超から低下傾向にあり、2024年調査では55.8%となっています。
記事では、糖尿病の増加は糖質摂取量そのものよりも、運動量の低下、食物繊維摂取量の低下、脂質摂取量の増加などが影響している可能性があると指摘されています。
■ 実践のヒント:“スローカロリー”という工夫
記事で紹介されている、糖質の吸収をゆるやかにする工夫(スローカロリー)の例です。
- 食事の際に牛乳を摂る(低GI効果)
- 一汁三菜をそろえ、ゆっくり食べる習慣を持つ
- 吸収速度が遅い糖質(パラチノースなど)を活用する
こうした生活習慣は「適糖生活」と呼ばれています。
■ まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 高齢者のBMI目標 | 65歳以上は21.5以上を目安に(下限引き上げ) |
| 対策の重心 | メタボ対策 + フレイル予防の両立へ |
| 糖質の役割 | 極端な制限はかえってリスクに |
| 実践法 | 牛乳・一汁三菜など「スローカロリー」で適糖生活 |
痩せすぎを避け、糖質を上手に、ゆっくりと摂る「適糖生活」が、高齢期の健康寿命を延ばす一つの鍵になりそうです。

【参考資料・出典】
- 西村一弘「健康寿命を延ばすには?~適糖生活のすすめ~」『砂糖類・でん粉情報』2026年9月号(独立行政法人農畜産業振興機構〔alic〕発行)
- 記事内引用:厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020」「日本人の食事摂取基準2025」
- 記事内引用:厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要」
- 記事内引用:糖尿病ネットワーク「糖尿病と認知症の危険な関係」(2016年6月13日、第59回日本糖尿病学会年次学術総会)
※本記事は上記資料の内容に基づき作成しています。数値・データの引用元は各項目に記載のとおりです。