大津市議会議員 佐藤弘

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民間施設やホテルの避難者受け入れ「急に避難させて」に現場は対応できるか?

行政 防災 / 2026年8月22日

「急に避難させて」に現場は対応できるか?民間施設やホテルの避難者受け入れに「事前協定」と「料金整理」が必要な理由

本日、ある民間施設(体育館)が、避難者に対して施設を迅速に提供したというニュースがありました。事前に行政と「避難者受け入れの協定」を結んでいたことで、混乱なく非常にスムーズな受け入れができたとのことです。

一方で、もしこの「事前協定」がなかったらどうでしょうか? ある日突然、大津波や巨大地震、大型台風などの災害が発生し、自社の施設(企業のオフィスやロビー、あるいはホテルや旅館などの宿泊施設)に「避難させてくれ!」と地域住民や帰宅困難者が押し寄せてきたら……。

現場の責任者は、自らの権限だけで「受け入れるべきか」「料金はどうするのか」「安全は確保できるのか」といった重い決断を瞬時に下さなければなりません。当然、判断に迷いが生じ、対応が遅れてしまうことも考えられます。

民間施設や宿泊施設が、地域の「避難先」としてスムーズに機能し、同時に企業の事業継続(BCP)や財政的リスクを守るためには、平時からの「事前協定」と「料金やサービス基準の明確なルール化」が極めて重要です。今回は、内閣府や自治体、専門機関の資料をもとに、その具体的な理由と対策について解説します。


1. なぜ「急な受け入れ要請」に現場は困惑するのか?

災害時における民間施設での避難者受け入れにおいて、多くの宿泊事業者や民間施設の現場責任者が誤解や戸惑いを抱きやすいのが現状です。

「目の前の被災者を助けたい」という善意はあっても、現場責任者は以下のような現実的な経営・運営上のリスクと直面することになります。

  • 施設の安全確保(絶対条件): そもそも余震や土砂災害の危険がある中で、建物が本当に安全かどうか。安全面に懸念がある場合は、断る判断も必要になります。
  • サービス提供能力の限界: 停電や断水の中で、どこまでのサービス(トイレ、水、食料、サニタリー)を提供できるか。
  • 通常営業(一般営業)再開への影響: 長期にわたって避難者を受け入れた場合、施設が「生活の場(住居化)」となることで生活臭や内装の損傷(壁紙の剥がれなど)が発生し、営業再開のための修繕に多大なコストと時間がかかるというリスクがあります。

このように、理念や感情論だけでは乗り切れない「財務と運営のバランス」があるため、現場だけで急に判断するのは不可能なのです。


2. 現場の迷いをゼロにする「事前協定」と「運営マニュアル」の威力

こうした現場の混乱を防ぐための唯一の解決策が、平時からの「行政(地方自治体)や事業者団体との事前協定」です。

行政は、公共施設だけでは避難スペースが不足する場合を想定し、民間企業や宿泊施設を避難所(指定一般避難所や福祉避難所)として活用できるよう、事前に調整・協定を締結することを強く推奨しています。

先進事例:港区の「民間事業者向け一時滞在施設運営マニュアル」

東京都港区では、新橋駅周辺の民間事業者らが主導し、全国で初めて「民間事業者向けの一時滞在施設運営マニュアル」を共同で策定・公表しました。

このマニュアルの優れた点は、民間企業の状況に合わせて自由にカスタマイズできる点にあります。

  • 施設入口に掲示する「利用者への留意事項」
  • 施設を運営する際の「チェックリスト」
  • 避難者から取得する「施設利用同意書」

など、災害時にすぐ使える具体的な掲示物や帳票類があらかじめパッケージ化されています。 平時からこのようなマニュアルを整備・訓練しておけば、災害時という不測の事態においても、現場責任者や初めての担当者が組織的に、かつ柔軟に避難者対応に当たることができます。


3. 宿泊施設(ホテル・旅館)における同様の課題と解決策

ホテルや旅館などの宿泊施設は、災害発生時だけでなく、災害が長期化する際の「二次避難所(指定避難所から移動する生活環境の整った場所)」や、特別な配慮が必要な方のための「福祉避難所」として極めて重要な役割を期待されています。

しかし、宿泊施設の場合も「通常のお客様」と「避難者」の受け入れではルールが異なるため、事前に以下の基準を明確化しておくことが大切です。

① 「おもてなし」ではなく「避難生活の場所の提供」

ホテルや旅館が避難所となる場合、通常の宿泊サービスと同等のサービス水準を求められるわけではありません。国の基準でも、提供すべきサービスは「避難所として適正な程度(場所の提供が主)」と明確に定められています。

  • アメニティや清掃: 歯ブラシやタオルの毎日交換は不要。客室の簡単な掃除や布団敷きは避難者自身が原則。
  • 食事: 自施設での調理が困難な場合は、お弁当などの外部調達(デリバリー)で対応可能。

このように、あらかじめサービスの水準を「避難所レベル」に制限しておくことで、被災したホテル側の従業員負荷を大幅に軽減することができます。


4. 「ロビーは無料?部屋はいくら?」事前に整理しておくべき料金の境界線

受け入れ時の「料金(対価)」の問題をクリアにしておくことこそ、最も現場対応をスムーズにする要素です。避難のフェーズや利用形態によって、料金の考え方は以下のように整理されます。

避難のフェーズ・利用形態 料金の負担ルール 具体的な考え方
① 帰宅困難者のロビー・宴会場の一時利用 実質無料(宿泊約款上、徴収は困難) 宿泊サービスの提供とはいえないため、料金の徴収は難しい。原則無料としてルール化しておくべき。
② 帰宅困難者による「客室」の利用(宿泊・延泊) 自己負担(有料) お客様が客室での宿泊や延泊を希望する場合は、提供可能なサービスに応じた宿泊料金の請求が可能です。
③ 台風・大雨など災害予想時の「事前避難」 自己負担(有料)(※自治体の補助制度がある場合も) 基本は個人負担ですが、一部自治体(例:奈良市)では「住民負担1,000円、市が5,000円を補助」といった事前協定もあります。
④ 災害救助法に基づく避難所(二次避難所など) 行政(国・自治体)負担(実質無料) 災害救助法が適用された場合、有償借上げとなり、国費から宿泊施設へ費用が支払われます。

災害救助法適用の「ホテル等避難」における最新基準

災害救助法に基づき、ホテルや旅館などを借り上げて避難所とする場合、最新の基準額として「1人1泊あたり税込11,000円以内(食事代別)」という上限額が定められています。 (※以前の基準であった「三食込み7,000円」から大幅に引き上げられ、宿泊事業者が協力しやすい現実的な金額に改定されました)

一般客の旅行需要が激減する災害時において、この災害救助法に基づく有償の受け入れ(1泊11,000円以内・食事別)は、宿泊施設側にとっても「安定した財務基盤の確保(地域貢献と収益確保の両立)」という大きなメリットになり得ます。


まとめ:善意を仕組み化し、地域貢献と事業継続の両立を

災害発生時における民間施設やホテルの避難者受け入れは、「現場の善意やその場の即興の判断」だけに頼るべきではありません。それではいつか現場が疲弊し、判断ミスや二次被害、ひいては企業の経営危機を招くことになります。

  • 平時から地方自治体や業界団体と「事前協定」を結ぶこと
  • 自社用の「一時滞在施設運営マニュアル」をカスタマイズして備えておくこと
  • パブリックスペース(ロビー)利用や客室利用時の「料金ルール」を事前に明確にしておくこと

これらの「仕組み化」を事業継続計画(BCP)に組み込んでおくことこそが、いざという時の社会的価値の向上と、災害時におけるより確実な事業継続(BCP)に繋がります。

ぜひこの機会に、自社施設における災害時の「避難者受け入れルール」について、平時の見直しを進めてみてはいかがでしょうか。


 


【引用元・参考文献】