大津市議会議員 佐藤弘

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子どもと家庭を地域で支える:家庭支援事業の構築とセーフガーディング

子育て / 2026年7月15日

 
近年、核家族化や地域社会の変容等により、子育てに困難を抱える世帯がこれまで以上に顕在化しています
こうした家庭を地域全体で支えるための「家庭支援事業」の構築と、その支援の場を子どもたちにとって真に安全な場所とするための「セーフガーディング」の導入について、重要なポイントを解説します。
 

1. 家庭支援事業の構築と地域資源の開拓

家庭が抱える課題には生活上の困難が多く、保育所や学校などの既存施設ではカバーしきれない時間帯や対象に対し、柔軟に対応する支援メニューを提供することが家庭支援事業の重要な役割です
事業を地域の実情に合わせて構築し、効果的に機能させるためには、以下の取り組みがポイントになります。
  • サービス構築の4ステップ:①支援対象者とニーズの把握、②事業内容の検討、③担い手・委託先の確保と育成、④予算確保と庁内外の調整を順に行い、事業を設計します
  • 地域資源の開拓とネットワーク化:行政のサービスだけでなく、市民等によるインフォーマルな活動も含めて地域の社会資源を「見える化(リスト化)」し、多様な主体が情報やノウハウを共有できるネットワークを構築します。これが潜在的な担い手発掘にもつながります
  • サービスの柔軟な組み合わせ:例えば、きょうだいがいる家庭に対し、第一子には「児童育成支援拠点事業(居場所の提供)」、第二子の乳児には「子育て世帯訪問支援事業」を組み合わせるなど、各家庭の変化する状況やニーズに応じて、支援の種類を横断的に組み合わせたサポートプランを調整することが効果的です

2. 子どもの安心・安全を守る「セーフガーディング」

家庭支援の現場において、支援そのものと同じくらい欠かせない視点が「セーフガーディング」です。
セーフガーディングとは、組織の活動において子どもや若者が尊重され、安心して過ごせるよう、虐待や搾取、暴力、ハラスメントなどのあらゆる危害から守るための組織的な取り組みを指します
大人と子どもの間には年齢や立場による力の非対称性(権威勾配)が存在するため、「よかれ」と思った関わりが意図せず子どもの権利侵害につながってしまうリスクもあります
これを防ぐために、支援を提供する組織は以下の体制を整えることが求められます。
  • 体制づくりのステップ:組織の現状とリスクを把握した上で、全体の方針となる「セーフガーディング指針」や、現場での適切な関わりの基準となる「行動規範」を策定します
  • 周知・予防と相談体制:採用時の確認やスタッフへの定期的な研修を実施するとともに、子どもや保護者、現場の職員が違和感を覚えた際に安心して声を上げられる「相談・通報の窓口」を複数設けることが重要です
  • 日常的な振り返りと文化の醸成:ルールを作って終わりではなく、日々のミーティング等で「子どもの権利の観点で気になったことはなかったか」を共有するなど、日常の中で自分たちの関わりを振り返る習慣を持つことが、セーフガーディングを組織の文化として根付かせる最大の鍵となります

最後に

地域のニーズを汲み取り、多様な資源を組み合わせて支援を届ける「家庭支援事業」と、その支援のプロセスで子どもの権利を保護する「セーフガーディング」。
この両輪を回すことで、
「必要な支援が届くこと」と「その支援の場が安全であること」が両立し、子どもと家庭にとって真に信頼できる地域のセーフティネットが実現します。
まずは自らの組織や地域の活動を振り返り、子どもたちとともに対話しながら、安心・安全な環境づくりを始める必要がありそうです。
 
参考

 

子どもの医療費無償化は「親の安心」を生んでいた ― EBPMの視点から見た最新研究の評価

保健 子育て 社会保障 行政 / 2026年7月15日

■ はじめに ― なぜこの研究に注目するのか

子どもの医療費無償化は、いまや全国のほぼすべての自治体で実施されている子育て支援策です。大津市でも、子育て世帯にとって身近な制度となっています。

しかしEBPM(エビデンスに基づく政策立案)の観点から見ると、この政策には長年、厳しい指摘がありました。「医療費を無償化しても、子どもの健康は必ずしも改善していないのではないか」「近隣自治体との横並び競争(ヤードスティック競争)で対象年齢が拡大しているだけではないか」という疑問です。

こうした中、2026年7月、経済産業研究所(RIETI)から注目すべき研究成果が公表されました。佐藤大晃氏(慶應義塾大学)と中室牧子氏(経済産業研究所・慶應義塾大学)による「子どもの医療費無償化のスピルアップ効果」(RIETI Discussion Paper Series 26-J-031)です。

この研究のポイントは、政策効果を測る「ものさし」を変えたことにあります。本稿では、その内容を市民の皆さまにわかりやすくご紹介します。

■ 「スピルアップ効果」とは何か

これまで子どもの医療費無償化の評価は、受益者である「子ども本人」への効果、つまり子どもの健康や受診行動を見るのが中心でした。

これに対し本研究が着目したのは「スピルアップ効果」です。これは、子どもへの支援が、直接の受益者ではない「親」にまで好影響を及ぼす波及効果のことです。子どもの通院費の自己負担がゼロになることで、「急な出費への不安」や「費用を心配して受診をためらう心理的負担」が軽減され、親の精神的な安心感(peace of mind=心の平穏)につながる、というメカニズムが想定されています。

米国では、低所得者向け公的医療保険(メディケイド)への子どもの加入が母親の心理的負担を改善することが確認されていました(Grossman et al., 2022)。本研究は、国民皆保険制度をもつ日本でも同じ効果が成り立つのかを検証した、国内でも先駆的な研究です。

■ 研究の方法 ― 青森県のデータで「差の差」を検証

研究では、青森県の「青森県子どもの生活実態調査」(2018年・2023年の2時点、小学5年生・中学2年生とその保護者が対象)が用いられました。

青森県では、県内40市町村のうち36市町村が2018年4月時点で通院に係る子どもの医療費無償化を導入済みだった一方、八戸市・五所川原市・黒石市・むつ市の4市は未就学児までにとどまっていました(2023年4月には全40市町村が15歳年度末まで拡大)。この「導入時期の差」を利用し、差分の差分法(DID)という統計手法で政策効果を推定しています。親の心理的負担は、うつ病等のスクリーニング指標であるK6スコア(0〜24点、高いほど負担が重い)で測定されています。

■ 主な結果① ― 子どもの健康には効果なし、しかし親の心理的負担は改善

結果は示唆に富むものでした。

子ども本人への効果:医療費無償化は、子どもの受診控えや健康状態には統計的に有意な影響を与えていませんでした。これは「子どもの健康改善効果は限定的」とする従来の研究(Takaku, 2016等)と整合的です。

親への効果:一方で、親の心理的負担(K6)は統計的に有意に低下しました。DID推定で0.60ポイント、共変量の偏りを調整した二重に頑健な推定(DRDID)でも0.50ポイントの低下で、K6の平均値3.87に対して約13〜16%の改善に相当します。

つまり、「子どもの健康のため」という当初の政策目的では効果が確認できない一方、「親の安心」という別の便益が実証されたのです。

■ 主な結果② ― 効果が出たのは「高所得層」と「小学生の親」

さらに興味深いのは効果の偏りです。

  • 所得層別:効果は等価世帯可処分所得の上位50%の世帯でのみ確認され(DIDで-0.97ポイント)、下位50%では有意な効果はありませんでした。低所得層には生活保護やひとり親世帯向けの医療費助成が既にあり、無償化による追加的な便益が小さかった可能性が指摘されています。
  • 学年別:小学生の子を持つ親には有意な効果(DIDで-1.42ポイント)があった一方、中学生の親には効果が見られませんでした。低年齢ほど外来受診の機会が多く、恩恵を受けやすいことが背景と考えられます。

「医療費の負担軽減策の効果が高所得層に表れる」というのは意外に感じられるかもしれませんが、全国規模のレセプトデータを用いた先行研究(Fukuma et al., 2023)とも整合する結果です。

なお、全サンプルでの効果は、より厳格な統計検定(ワイルドクラスターブートストラップ法)では有意性が確認されず、著者らも慎重な解釈を求めています。ただし高所得層への効果はこの検定でも頑健でした。

■ 主な結果③ ― 給食費無償化との比較:効果の大きさと費用対効果は別物

本研究のもう一つの柱が、同じく青森県内で順次導入された小学校給食費無償化との比較です。

比較項目 子どもの医療費無償化 学校給食費無償化
親の心理的負担(K6)への効果(DRDID) -0.50ポイント -0.63ポイント
一人当たり年間費用 27,843円(0〜14歳平均医療費) 55,140円(青森県小学校平均給食費)
費用対効果比(費用÷効果、小さいほど効率的) 55,686円 87,524円

(出典:本論文第7章。医療費は厚生労働省「子どもの医療の費用負担の状況(平成27年)」、給食費は文部科学省「学校給食実施状況等調査」に基づく著者らの算出)

スピルアップ効果の「大きさ」自体は給食費無償化の方が上回りますが、政策にかかる費用を考慮した「費用対効果」では、医療費無償化の方が優れているという結果です。著者らはこの違いを、給食費無償化が「毎月確実に発生する負担の軽減=所得再分配」であるのに対し、医療費無償化は「将来の不確実な出費への備え=保険」として機能しているためと解釈しています。

ただしこの比較は「親の心理的負担」というアウトカムに限ったもので、子どもの学力や長期的な健康への影響は含まれていない点に留意が必要です。

■ 主な結果④ ― 親の行動も変わる:家庭内か、学校・地域か

媒介分析(政策効果がどの経路を通じて生じたかを分解する手法)の結果、両政策は親の「子どもへの関わり方」を異なる方向に変えていました。

  • 医療費無償化:勉強を見る、学校の話をするなど「家庭内での子どもへの関与」を増加(総合効果0.195、うち約7.7%が心理的負担軽減を通じた効果)
  • 給食費無償化:学校行事・PTA・地域活動など「学校や地域への関与」を増加(総合効果0.141、うち約11.3%が心理的負担軽減を通じた効果)

同じ「子ども向けの現物給付」でも、波及する経路が異なるという発見です。

■ EBPMの観点から ― この研究が示す政策評価の教訓

本研究がEBPMの実践に示す教訓は、次の3点に整理できると考えます(論文第9章の政策的インプリケーションに基づく)。

第一に、政策評価の「ものさし」を広げる必要性。子ども本人への直接効果だけを見ると、政策の便益を過小評価する恐れがあります。親へのスピルアップ効果まで含めた総合的な評価が求められます。

第二に、「どちらが優れた政策か」ではなく「何を目標とするか」。家庭内の養育環境の改善を重視するなら医療費負担の軽減、学校・地域との連携強化を重視するなら給食費負担の軽減と、政策目標に応じた使い分けの視点が示されました。

第三に、便益は必ずしも低所得層に集中しない。子ども関連政策は所得再分配の観点から低所得層への重点化が議論されがちですが、波及効果まで含めれば異なる設計もあり得ることを示しています。

なお本研究の対象である青森県は、所得水準が全国平均より低く人口減少が進む地方自治体であり、著者らは同様の課題を抱える他の地方自治体への応用可能性に言及しています。一方、都市部では医療機関の混雑など異なる影響もあり得るため、検証は今後の課題とされています。

■ まとめ

ポイント 内容
子どもの健康・医療アクセス 有意な効果なし
親の心理的負担(K6) 約13〜16%改善(主に高所得層・小学生の親)
給食費無償化との比較 効果の大きさは給食費が上、費用対効果は医療費が上
親の行動変化 医療費→家庭内の関与増、給食費→学校・地域活動の関与増
EBPM上の示唆 直接効果+スピルアップ効果+財政コストの統合評価が必要

子どもの医療費無償化は「子どもの健康を改善する政策」としては効果が確認されない一方、「親の安心を生み、家庭での子どもとの関わりを増やす政策」としての価値が実証されました。政策の効果を先入観ではなくデータで検証し、その結果に基づいて制度を設計する――本研究は、地方自治体におけるEBPMのあり方を考える上で、大変示唆に富むものです。


 


【参考資料・出典】

  • 佐藤大晃・中室牧子「子どもの医療費無償化のスピルアップ効果」RIETI Discussion Paper Series 26-J-031(独立行政法人経済産業研究所、2026年7月)
  • 本文中の数値はすべて上記論文に基づく。データは青森県「青森県子どもの生活実態調査」(2018年・2023年)、制度導入状況は厚生労働省「乳幼児等に係る医療費の援助についての調査」およびこども家庭庁「こどもに係る医療費の助成についての調査」による
  • 一人当たり医療費:厚生労働省「子どもの医療の費用負担の状況(平成27年)」(論文内引用)
  • 一人当たり学校給食費:文部科学省「学校給食実施状況等調査」(論文内引用)
  • 論文内引用の主な先行研究:Grossman, Tello-Trillo and Willage (2022, NBER Working Paper No. w29661)、Fukuma et al. (2023, BMJ Open)、Takaku (2016, Social Science & Medicine)

※本記事は上記ディスカッション・ペーパーの内容を紹介するものであり、論文に述べられている見解は執筆者個人の責任で発表されたもので、経済産業研究所の見解を示すものではありません(論文冒頭の注記による)。