大津市議会議員 佐藤弘

一人のひとを どこまでも大切に 心豊かな まちづくりを目指します

認知症や孤立のリスク ー いま知っておきたい「難聴」の早期発見と最新対策

医療 生活 福祉 高齢者 / 2026年7月31日

日本医療政策機構(HGPI)がまとめた最新の政策提言をもとに、私たちの生活に密接に関わる「難聴」の現状と、これから期待される対策についてお伝えします。

【参照元記事】 ライフコースを通じた切れ目のない難聴対策の実現に向けた政策提言

難聴は「認知症」の最大のリスク因子?

現在、世界の人口の約5%にあたる4.3億人が難聴への介入を必要としています。 世界的医学誌「Lancet」の2017年の報告では、難聴は認知症の最大のリスク因子であると指摘されています。また、社会的孤立やうつ病などのリスクとの関連も示唆されており、ただ「耳が聞こえにくい」という枠に留まらない重大な課題です

日本でも2030年には難聴者が約2,275万人に増加すると見込まれています。しかし、補聴器による介入が必要な人が多いにもかかわらず、日本の補聴器所有率は15.6%にとどまっており、先進国の中で最低水準にあるのが現状です

切れ目のない支援へ向けた「4つの重要ポイント」

誰もが適切な聴覚ケアを受けられる社会にするため、今回の政策提言では大きく分けて以下のポイントが示されています。

  • ネガティブなイメージを変え、早期介入を推進 「難聴=恥ずかしい」という社会的スティグマ(偏見)を払拭することが重要です。実際、補聴器所有者の95%が「補聴器の使用によってQOL(生活の質)が向上した」と回答しており、前向きな理解を広める必要があります

  • 日常生活の中で気づける「スクリーニング」体制 テレビなどの機器使用時に聴力低下に気づける仕掛けづくりや、高齢者向けの聴力検査を健診に組み込むなど、より広い世代が早期発見できる体制の整備が求められています

  • 専門家へのアクセスと連携の強化 難聴を自覚しても受診へのハードルが高いのが現状です。耳鼻咽喉科医や言語聴覚士など、専門人材の育成と適切な医療にスムーズにつながる仕組み作りが提言されています

  • 軽度・中等度難聴者への公的支援の拡大 現在、補聴器購入の公的補助は主に身体障害者が対象ですが、補装具費支給の対象外となっている軽度・中等度の難聴の成人にも、介護保険などを活用した段階的な公的支援の導入が検討されるべきとされています

まとめ

難聴は、若者からお年寄りまであらゆる世代で起こりうる身近な問題です。「聞こえ」に不安を感じたら、放置せずに早めに専門家に相談することが、豊かな人生を送るための第一歩になります。

今後、誰もが安心して聴覚ケアにアクセスできる社会に向けて、日本の制度がどのように変わっていくのか、引き続き注目していきたい。

<政策提言>ライフコースを通じた切れ目のない難聴対策の実現に向けた政策提言ーすべての人が適切な聴覚ケアにアクセスできる社会の構築を目指してー

自治体のデジタル化最前線!陸前高田市とたつの市から学ぶ「地域の守り方」

介護 家族 災害 生活 福祉 行政 高齢者 / 2026年7月29日

今回は、総務省が公開している事例集から、私たちの街でもぜひ参考にしたい「自治体のデジタル化」の取り組みを2つピックアップしてご紹介します。

デジタル化というと「スマホが使えないと取り残されるのでは?」と不安に思うかもしれませんが、今回ご紹介するのは、誰もが安心して暮らせる「地域の守り方」をテクノロジーで優しくサポートする素晴らしい事例です。

参考資料:地域社会のデジタル化に係る参考事例集【第5.0版】(総務省)

1. 黒電話でもOK!AIと電話で災害時の安否確認【岩手県陸前高田市】

大雨や台風などの災害時、迅速な避難指示と安否確認は命に関わる重要な課題です。陸前高田市では、最新のクラウド・AI技術と、昔ながらの「電話」を組み合わせた自動音声一斉配信システムを導入しました。

  • スマホがなくても大丈夫: 音声のみの応答で完結する設計のため、スマホを持たない高齢者や、黒電話を使っているご家庭でも確実に情報を受け取れます。

  • 一斉発信で逃げ遅れを防止: 災害の恐れがある際、事前に登録した連絡先へ一斉に電話やSMSを発信し、必要な情報を即時に届けます。

  • 市職員の負担を大幅カット: 手作業で行っていた安否確認が自動化され、職員が他の重要な災害対応に集中できるようになりました。

まさに「デジタルとアナログの融合」で、住民を誰一人取り残さない防災を実現している事例です。

2. 離れていても安心。高齢者への「ゆるやかな見守り」【兵庫県たつの市】

コロナ禍以降、地域との繋がりが減少し、高齢者の「新しい孤立」が問題となりました。
そこでたつの市は、ICT機器を活用して、離れて暮らす家族が高齢者を無理なく見守れる仕組みを導入しました。

  • 生活の様子を自然に確認: 高齢者がテレビ等で動画を視聴したタイミングや、部屋の温度・起床情報などが、離れて暮らす家族のスマホアプリに届きます。

  • お互いに負担のない「ゆるやかさ」: 監視されているという抵抗感を感じさせず、お互いのプライバシーを尊重しながら自然な安否確認ができます。

  • 行政からの直接サポート: 必要に応じて、行政からフレイル(虚弱)予防などの最適な情報を、対象者へ直接発信することも可能です。

テクノロジーが家族の絆をそっと繋ぎ直し、温かくサポートしてくれる優しい取り組みです。

まとめ

陸前高田市とたつの市の事例から見えてくるのは、デジタル化の目的は単に効率化することではなく、「地域の安心と繋がりを守る」ことだということです。 最新技術を使いながらも、住民の目線に徹底的に寄り添う工夫が、地域の安全に直結しています。私たちの住む街でも、こうした温かいデジタル化のアイデアが広がっていくと良いですね!

草津養護学校大津地区PTAの皆様との意見交換会

社会保障 福祉 行政 議員活動 / 2026年7月28日

昨日、草津養護学校 大津地区PTAの会長、副会長、そして大津市の担当者の皆様と、2026年度の要望書について意見交換会を行いました
市議会議員として私も参加させていただき、子どもたちとそのご家族が安心して暮らせる環境づくりに向けた切実な声をお伺いしました。
今回の要望書には、これまで継続して要望されている項目に加え、実態に即したいくつかの「新規」の要望が含まれています
まずは、その新規要望のポイントを簡単にご報告します。
  • 放課後等デイサービスの整備:医療的ケア児や重度障害児が利用できる事業所や、土日利用が可能な事業所の拡充
  • 看護職員配置事業所の拡充と人材確保:卒業生が安心して利用できる看護職員を配置した事業所の拡充と、看護学生等への障害福祉分野の魅力周知
  • 就労支援事業所の品質チェック体制の構築:適切な支援が提供されているかを継続的に把握し、安心してサービスを受けられる環境整備
  • ユニバーサルシートの整備:市内商業施設等において、車椅子に乗ったまま入室できない、介助者が付き添うためのスペースがないなど、実際の利用場面を想定した設備に
  • 手続きのデジタル化・共通様式化:福祉サービス申請や「おむつ券」のデジタル化、および事業所ごとに異なるアセスメントシート等の共通様式化による保護者負担の軽減
  • 災害時の備え(経管栄養剤等の備蓄):災害時でも衛生的に使える「使い切りパウチ型」の経管栄養剤や容器を、備蓄用として購入する際の公的助成の創設
このように、日々の生活の質を向上させるための具体的な要望が多く寄せられました。
また、本日(28日)付の公明新聞の主張では、医療的ケア児の改正支援法の成立と、ケア児に対する親の負担軽減の重要性が取り上げられていました。
今回の要望書の中にも、まさにこの「保護者の負担軽減」に直結する
ショートステイ事業所の拡充(継続要望)が盛り込まれています
睡眠障害により夜間に覚醒するお子さんの介助を続ける保護者の皆様は、十分な休息が取れず、心身ともに限界に近い状態にあるレスパイト(休息)支援を強く必要とされています
しかし現状では、小学生が安全に利用できるショートステイや、緊急時に受け入れてくれる施設が市内で不足しています
公明新聞の主張にもある通り、医療的ケア児を育てるご家族の負担軽減は社会全体で取り組むべき急務です。ショートステイの拡充は、保護者の皆様が倒れてしまう前に対策を講じるための「命綱」でもあります。
今後も、現場のリアルな声をしっかりと受け止め、市と県、そして国とのネットワークを活かしながら、医療的ケア児とご家族を支える制度の拡充に全力で取り組んでまいります。

AIを単なる「効率化ツール」で終わらせない!企業と自治体から学ぶ、AI時代の人材育成と組織変革

AI生成機能 / 2026年7月27日

現在、多くの企業や地方自治体が生成AIを導入していますが、業務効率化などの「便利なツール」としての利用に留まり、企業価値の向上や真のビジネス変革には結びついていない現状が浮き彫りになっています
今回は、AI時代に成果を出すための人材・マネジメントのあり方と、地方自治体における最新の活用実態から見えてくる課題と解決策について以下の資料を参考に紐解いていきます。

1. AI時代に成果を出すカギは「メタ・スキル」

AI環境下において成果を大きく左右するのは、AIの利用頻度そのものではありません。情報収集(集める)、優先順位づけ(決める)、実地検証(確かめる)などの「メタ・スキル」の高さが、業務成果に最大3.6倍もの差を生み出しています また、AIで高い成果を上げるハイパフォーマーには、タスク遂行力だけでなく、強い好奇心(アニマル・スピリット)や、物事を多面的・長期的に捉える「立体思考」が備わっています。AIの出力をそのまま鵜呑みにせず、新しい発想を広げたり、自らの思考を深めたりするための基盤として活用することが求められます

2. 上司は「管理者」から「チューナー役」へ

AIの普及により、マネジメントのあり方にも変革が迫られています。これからの上司には、単なる成果物の管理者ではなく、人とAIの価値共創を支える「チューナー役(協働を支える調整役)」としての役割が求められます
具体的には、仕事の背景や目的といった「枠」を示し、裁量範囲を明確にした上で、部下の思考の深さを問いかける(分かったつもりを見逃さない)ような支援が、チームのパフォーマンス向上に直結します

3. 組織全体のデザインと「リアルな実践経験」の両立

組織全体としては、属人的な判断を排除し、変化に対応するための明確な「意思決定の場」や新しいテーマの「受け皿」を設計することが、生産性向上とビジネス変革のカギを握ります さらに、AI活用の深化には、現場でのリアルな実践経験(手触り経験)や、所属組織を超えた経験(踏み出し経験)、複数の立場から俯瞰する経験(見渡し経験)が不可欠です。AIに依存しすぎず、現場での実践と思索を深める学びを両立させることが重要です

4. 地方自治体における生成AIの現状と課題

こうした課題は、地方自治体においても同様に発生しています。政令指定都市などの大規模自治体では2025年度の導入率が9割前後に達する一方で、町村レベルでは低調であり、規模による格差が拡大しています
導入における主な障壁としては、「生成物の正確性への懸念」「人材不足」「要機密情報流出の懸念」が上位に挙げられています。特に小規模自治体では、導入効果が不明であることや、予算獲得の難しさがハードルとなっています

5. 先行自治体に学ぶ成功の秘訣

では、導入を成功させている先行自治体は何が違うのか?事例からは以下の共通点が見えてきます。
  • トップダウンとボトムアップの融合: 単なるツール導入ではなく「行政改革」を前提とし、首長の強力な推進力と現場の主体的な取り組みが連動しています
  • スモールスタート: 最初から完璧を求めず、まずは「知る、使う、学ぶ」ことを優先し、段階的に経験値を蓄積しています
  • デジタル公共財としての共有: 自治体単独で抱え込まず、得られた知見やノウハウを他の自治体や民間企業と共有し、オープンな横展開を推進しています

大津市議会公明党議員団で「美輪湖マノーナファーム」を視察しました!

生物 産業 福祉 議員活動 / 2026年7月23日

 

22日、大津市議会公明党議員団で、社会福祉法人美輪湖の家大津が運営する「美輪湖マノーナファーム」を視察してまいりました。
農業と福祉を掛け合わせた「農福連携」の素晴らしい取り組みについてお話を伺いましたので、その内容をご報告します。

■ マノーナファームの事業内容

マノーナファームでは、就労継続支援B型、就労移行支援、就労定着支援、そして大津市北部では唯一となる就労選択支援の4つのサービスを展開しています。

①水耕栽培を中心とした農業を通じた就労支援 ほうれん草や水菜、空心菜などの水耕栽培を行っており、種まきから約4週間で出荷しています。生産された野菜は、生協や市場をはじめ、平和堂やバロー、道の駅など、広く一般流通に乗せて出荷されています。

②地域の農家さんと繋がる「施設外就労」 施設内での水耕栽培だけでなく、人手不足や高齢化に悩む地域の農家さんに出向いて作業をお手伝いする「施設外就労」にも積極的に取り組まれています。現在では農家さん同士の繋がりから「うちの収穫も手伝ってほしい」と口コミで広がり、先方からお声をかけていただけるようになっているそうです。

③一人ひとりに寄り添う支援と高い就労定着率 過去に生きづらさを抱えていた方にも、「自信が持てるよう褒める」「安心できる居場所を確保する」といった丁寧な支援を行っています。作業工程でも、一人ひとりに合った工夫(計量器の小数点を隠して分かりやすくするなど)を取り入れており、その結果、多くの利用者を一般企業への就労へ導き、就職1年後の定着率は97.6%(ほぼ100%)という驚異的な実績を誇っています。

■ 質疑応答・意見交換

事業概要の説明を受けた後、私たち議員団と施設代表者の方とで活発な意見交換を行いました。

Q. 他市では、企業内での就労で高い工賃を得ている事例もありますが、そういった展望はありますか? A. マノーナファームでも現在、一部の企業様に通わせていただいています。一般企業での経験は、利用者の皆さんの特性の見極めや自信に繋がり、工賃向上という点でも非常にありがたいです。今後そういった機会がさらに増えればと願っています。

Q. 大変素晴らしい取り組みですが、入所を希望する方の受け入れ枠に余裕はありますか? A. 大変ありがたいことに人気があり、就労継続支援B型は定員20名に対して23名が在籍するなど、常に満杯に近い状態です。一般就労へ移行して空きが出ることもありますが、緊急時の受け入れ枠の確保や、職員の配置などの運営面とのバランスを考えながら対応しています。

■ 視察を終えて

今回の視察を通して、土や自然に触れる「農業」が持つ不思議な力と、利用者の皆さんの可能性を信じて寄り添う職員の方々の情熱に深く感銘を受けました。

公明党議員団として、現場で伺った切実な声や先進的な事例を、今後の大津市における障害者就労支援の充実や、農福連携のさらなる推進にしっかりと活かしてまいります!

総務省の最新調査から見えた!成年後見制度の現状と課題

人権 家族 社会保障 / 2026年7月22日

認知症や知的・精神障害などで判断能力が不十分な方の財産や権利を守る「成年後見制度」。
少子高齢化が進み、身寄りのない高齢者が増える中、そのニーズはますます高まっていくと見込まれています
しかし、総務省が最近まとめた調査報告書を読むと、制度の利用者数は増えているものの、お住まいの市区町村によって利用状況に大きなばらつきがあることが分かりました
誰もが安心して制度を利用できるようにするためには、何が必要なのでしょうか?
今回は、総務省の調査結果から見えてきた「3つの壁」と現場のリアルな声、そして行政が今後取り組むべき対応策について解説します。

1. 調査で判明した「利用促進」の3つの壁

制度を本当に必要としている人に届けるためには、まず地域の実態を把握することが重要ですが、調査資料からは以下の3つの壁が浮かび上がってきました。
① 利用ニーズが把握しきれていない 驚くべきことに、約85%の市区町村が、将来想定される「利用ニーズ」を把握していません。必要性は感じつつも、「把握方法や手順が分からない」と悩む自治体が半数以上を占めているのが現状です。アンケート調査は質問の設計が難しく、推計方式は過大な数字が出がちという実務上の難しさがあるようです
② 地域の相談窓口での「つなぎ」の迷い 高齢者や障害者と直接接する地域包括支援センターなどの「相談支援機関」が、制度の利用が必要な人を専門の「中核機関」へうまくつなげていない現状があります。現場の約2割が「制度が複雑で理解が難しい」と答え、また2〜3割程度が「どのようなケースをつなげばいいか分かりにくい」と回答しています
③ 家庭裁判所との連携不足 後見人を選任する家庭裁判所と市区町村との連携も十分ではありません。約37%の市区町村が未連携であり、そのうちの約3割が「司法機関である家庭裁判所に依頼することに抵抗感がある」と回答しています

2. 利用者や現場からの「さまざまな声」

報告書には、実際に制度を利用している親族後見人や、現場の支援スタッフからの切実な声も多数記載されていました。
  • 「家庭裁判所に提出する報告書の作成の負担が大きい」
  • 「親族後見人の横のつながりがないので講習会等の機会を設けてほしい」
  • 「後見人の後見事務に対して、中核機関がどのような支援を行ってくれるのか分からない」
  • 「本人や親族に制度のメリットや費用(報酬の目安など)を説明するのが難しい」
特に親族後見人は孤立しがちであり、事務的な負担や精神的な不安を抱えながら活動している実態が浮き彫りになっています。

3. 声に応える!行政が取り組むべき課題と対応策

こうした調査結果や現場の声を受け、総務省は厚生労働省などに対して、以下のような対応策を進めるよう求めています。
① 誰もが分かりやすい「基準」と「説明ツール」の作成 相談支援機関が迷わず必要な人を支援につなげるよう、中核機関へつなぐ際の明確な「基準」や「目安」を作成することが求められています
また、未利用者への説明のハードルを下げるため、制度のメリットや費用の目安を具体的に示した分かりやすい説明資料の作成も必要です
② 相談支援機関への研修サポートの強化 国や都道府県が、相談支援機関の職員に向けた実践的な研修を充実させ、現場の制度理解を深めるサポートを強化することが重要とされています
③ 家庭裁判所と市区町村の「顔の見える関係」づくり 家庭裁判所と市区町村が意見交換の場を設けることで、連携のハードルが大きく下がることが分かっています
行政は、意見交換の好事例や方法を全国に周知し、両者が連携しやすい環境を促す必要があります
④ 親族後見人を孤立させない「寄り添う支援」の構築(重要) 市区町村は親族後見人の連絡先を把握しづらく、支援を届けにくいという大きな課題があります これに対し、「家庭裁判所から親族後見人に送付する書類の中に、地域の支援窓口(中核機関)のパンフレットを同封してもらう」ことや、「同意を得た上で、家庭裁判所から中核機関へ連絡先等の情報を提供する」といった仕組みづくりが有効な対応策として提案されています

おわりに

総務省の調査報告書を読んで、成年後見制度は判断能力に不安を抱える方の生活を守る大切なインフラである一方、まだまだ現場レベルでの連携やサポート体制に課題が多いことが分かりました。
利用者やその家族が孤立せず、未利用者がためらうことなく制度を活用できるよう、行政・司法・地域の福祉機関が一体となった「寄り添うサポート体制」の構築が今後さらに進むことを期待したいです。


【参考資料】 今回読んだ資料はこちらです。

大都市化は住宅価格と空き家に何をもたらすのか ―「国民生活」2026年7月号の特集から、副首都構想の議論を考える―

まちづくり 政治 / 2026年7月16日

大都市化は住宅価格と空き家に何をもたらすのか ―ウェブ版「国民生活」2026年7月号の特集から、副首都構想の議論を考える―

■ はじめに

独立行政法人国民生活センターが発行するウェブ版「国民生活」の2026年7月号【No.167】(2026年7月15日発行)を読みました。消費生活相談の現場で働く方や消費者問題に関心のある方向けの月刊誌ですが、今号は特集「変わるマイホームの常識-住宅市場の転換期とローン選択の新ポイント-」をはじめ、私たちの暮らしに直結するテーマが多く、大変勉強になる内容でしたので、ご紹介します。

あわせて、特集1「大都市化と住宅市場の新潮流」の内容は、いままさに国会で審議されている副首都構想(新たな「都」機能を担う都市の整備)を考えるうえでも重要な視点を含んでいると感じました。記事後半では、この特集の知見を踏まえ、副都市の整備が住宅価格や空き家問題を通じて市民生活にどのような影響を与えうるのか、私なりの考察を述べます。

なお本記事では、「ここまでが国民生活センターの資料に基づく事実」「ここからは資料を踏まえた考察」を明確に区分して記載します。


■ 2026年7月号の全体構成

今号の掲載記事は次のとおりです(執筆者敬称略)。

区分 タイトル 執筆者
特集1 大都市化と住宅市場の新潮流 中川雅之(日本大学経済学部教授)
特集2 迷わない住宅ローン戦略-残価設定型と長期住宅ローンの選び方と留意点- 豊田眞弓(ファイナンシャルプランナー)
特別寄稿 日本ヒーブ協議会 48年の歩みとこれから 鈴木聖子(一般社団法人日本ヒーブ協議会代表理事)
消費者問題アラカルト デジタルコンテンツの購入と所有-買ったのに使えなくなる? 高木篤夫(弁護士)
消費者教育実践事例集 中学生とシニア世代が共に学び意見を交わす「デジタル消費者教育授業」 道高真理(一般社団法人北海道消費者協会)
気になるこの用語 投資信託の基本(2)投資信託の費用 石川由美子・永沢裕美子
暮らしの法律Q&A 隣家から自宅の敷地内にライフラインの設置を求められたら断れない? 小島直樹(弁護士)
暮らしの判例 無登録ファンドへの暗号資産による出資をマルチ商法の手法で勧誘することを企画し拡散した者の責任 国民生活センター消費者判例情報評価委員会
誌上法学講座 改めて学ぶ景品表示法 第9回 景品規制 佐藤吾郎(明治学院大学法学部教授)

出典:ウェブ版「国民生活」2026年7月号【No.167】目次(国民生活センター、2026年7月15日発行)

特集2の住宅ローン記事では、2023年春頃から本格化したJTI方式の残価設定型住宅ローン、2026年3月に住宅金融支援機構が新設した「特定残価設定ローン保険」(商品は2026年秋以降発売見込み)、40年・50年の超長期ローンの注意点が整理されており、「住宅ローンを検討するときに金融機関窓口で確認する質問リスト」も掲載されています。マイホーム購入を検討されているご家庭には特に有用です。

このほか、電子書籍や音楽配信など「買ったはずのデジタルコンテンツが使えなくなる」問題を法的に整理したアラカルト、暗号資産×マルチ商法の被害判例(東京地裁令和6年12月23日判決)の解説など、消費者被害の未然防止に役立つ記事が並んでいます。


■ 特集1「大都市化と住宅市場の新潮流」の要点

【ここまでが国民生活センターの資料に基づく事実】として、以下は同誌7月号1~6ページ(執筆:中川雅之・日本大学経済学部教授)に記載された内容の整理です。

(1)政策介入にもかかわらず大都市集中は進んできた

東京一極集中の是正は、全国総合開発計画が策定された1960年代以来、継続的に追求されてきた重要な政策アジェンダでした。しかし、ジニ係数等の指標で確認すると、強い政策的介入にもかかわらず、東京をはじめとした大都市への集中は、人口増加局面(1965~2005年)でも人口減少局面(2005~2015年)でも着実に高まってきたことが分かる、と筆者は指摘します。

さらに、1965年と2045年の日本の総人口はいずれも1億人程度と推計されているものの、国立社会保障・人口問題研究所の地域別人口推計によれば、総人口が同水準に回帰しても、大都市化が大きく進んだ国土構造になるとみられています。その要因として、第2次産業が主要産業だった1965年と異なり、都市を舞台とする第3次産業・知識集約産業が現在の主要産業となっていることが挙げられています。

(2)住宅価格の高騰 ―大都市化がもたらした副産物

(株)不動産経済研究所が発表した2025年の新築マンション1戸当たり平均価格は、東京23区で1億3613万円、首都圏で9182万円と、いずれも過去最高でした。2025年の首都圏のマンション供給戸数は2万1962戸と過去50年で最低であり、建設コストの上昇が止まらないため、価格は全体的に高止まり傾向が続くとみられています。

需要側の背景として、高所得者が流入し住宅価格が上がり続ける「スーパースター都市」(2013年に米ペンシルベニア大学のジョセフ・ジョーコ教授らが提唱した概念)の考え方が紹介され、東京大都市圏でも所得の高い若い居住者が中心都市で増加する「ジェントリフィケーション」が起こっていることが示されています。

(3)「価格高騰」と「空き家増加」が同時に起きている

特に注目したいのは、筆者が「奇妙な現象」と呼ぶ事実です。2023年時点の東京都には空き家住宅が89.8万戸、うち賃貸・売却用及び二次的住宅を除いた「その他空き家」が21.5万戸も存在しています。都心からの距離帯別(2018~2023年)にみると、0~10km圏では二次的住宅・賃貸・売却用の空き家、10~20km圏では放置された「その他空き家」の増加率が際立って高く、30km以遠でもその他空き家が大きく増加しています。

つまり、スーパースター都市化している東京大都市圏では、都心部の住宅価格高騰と遊休資源(空き家)の増加が同時に起こっているのです。その構造的要因として、不動産で相続させた方が税制上有利であること、既存住宅市場が機能せず高齢者が広すぎる住宅を適正価格で売却できないこと、強すぎる借家人保護により賃貸化も難しいことが挙げられ、高齢者が亡くなるまで住宅を抱え込む構造が指摘されています。

対応策としては、フランスやカナダで実施されている「アンダーユースドタックス」(放置空き家だけでなく、投資家等が保有する一定期間未使用の住宅にも課税)や、神戸市で検討されているタワーマンション空き部屋課税、住宅用地の固定資産税を6分の1に軽減する特例措置の対象外とすることなどが例示されています。

(4)世帯の変化と、新築・広さ偏重からの転換

世帯構成は大きく変わりました。1980年には「夫婦と子ども」(42.1%)と「3世代等」(19.9%)で全世帯の6割以上を占めていましたが、2020年には各25.0%・7.7%に低下し、「単独」世帯が38.0%(1980年は19.8%)と2倍近くに増えています。家事サービスの外部化も進み、住宅の「広さ」は従来ほど重要な要素とはみられなくなりつつあります。

住宅流通量に占める既存住宅流通の割合は、2010年代前半の30%強から2024年には44%に上昇しました。既存住宅市場の課題である「情報の非対称性」(売り手は品質を知っているが買い手は知りにくい)については、不動産業者が既存住宅を買い取りリフォームして売却する「買取再販事業」が、品質のシグナルとして機能していることが2012年の研究(原野・中川・清水)から示されています。

筆者は結論として、大都市化が進行する社会では、規模・新築・戸建てという属性に必ずしもこだわらない、多様化した住宅の取得供給が住宅政策の目標としてふさわしい時代が到来している、と述べています。


■ 考察:副首都構想は住宅価格・空き家に何をもたらしうるか

【ここからは資料を踏まえた私の考察です。以下の内容は「国民生活」誌面に書かれたものではなく、特集1の分析枠組みを現在の政策議論に当てはめた場合の「想定」であることをあらかじめお断りします。】

前提となる事実:副首都法案の現状

まず考察の前提として、現在の国会の状況を確認します。2026年6月24日、「国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律案」(いわゆる副首都法案)が衆議院に提出されました。法案は首都中枢機能のバックアップと多極分散型経済圏の形成を担う「副首都」を法律で定義するもので、7月中旬時点で衆議院の特別委員会で審議が行われ、衆院通過・参院送付の見通しが報じられています。修正協議も各党間で続いており、公明党も協議の当事者となっています。なお、法案上どの都市を副首都とするかが確定しているわけではありません(出典は末尾参照)。

想定1:副都市の中心部では住宅価格の上昇圧力が働きうる

特集1が示した最も重要な知見は、「集積の経済」が働く都市には、政策介入があっても人口と所得の高い層が集まり続け、住宅価格が上がるという実証的事実です。副首都として行政中枢機能・企業機能・雇用が計画的に集積されれば、その都市は知識集約産業の受け皿となり、スーパースター都市化のメカニズム(高所得層の流入→住宅需要増→価格上昇)が働く可能性があります。

これは「東京の一極集中が分散されて住宅が買いやすくなる」という単純な期待とは異なる帰結です。東京の経験に照らせば、副都市の中心部ではむしろマンション価格・賃料の上昇が先行し、従来からの住民、特に若い子育て世帯や中低所得層が住宅取得しにくくなる(ジェントリフィケーションの負の側面)ことも想定しておく必要があります。

想定2:「価格高騰と空き家増加の併存」が副都市圏でも再現されうる

東京大都市圏では、都心の価格高騰と、10~20km圏・30km以遠での放置空き家の増加が同時進行していました。副都市への機能集積が進んだ場合、同じ構造、すなわち中心部の高騰と、通勤圏外縁部・旧来の住宅団地エリアでの空き家増加が併存する形が、副都市圏でも再現される可能性があります。相続・税制・既存住宅市場の未整備という空き家発生の構造的要因は全国共通だからです。

つまり副首都構想は、空き家問題を自動的に解決するものではなく、むしろ圏域内の「立地間格差」を拡大させる方向に働きうる、というのが東京の経験からの示唆だと考えます。

想定3:周辺都市・大津市への示唆

仮に関西圏に副首都機能が整備される場合、その通勤圏・生活圏に位置する周辺都市には、住宅需要の波及(地価・家賃の上昇)と、逆に選ばれないエリアでの空き家増加という、両方向の影響が及びうると考えます。琵琶湖線・湖西線で京阪神と結ばれた大津市も無縁ではありません。

だからこそ、特集1が示した政策の方向性、すなわち①放置空き家に限らない遊休住宅への課税等のあり方(アンダーユースドタックスの議論)、②既存住宅流通とリフォーム市場の整備、③新築・広さにこだわらない多様な住まいの選択肢の確保は、国の制度論であると同時に、基礎自治体が空き家対策計画や立地適正化の中で先取りして考えるべきテーマだと受け止めています。住宅は暮らしの基盤であり、価格の急変も空き家の放置も、最終的に市民生活と地域コミュニティに影響します。国会の議論を注視しつつ、市政の現場でも備えてまいります。

(考察はここまでです。想定1~3は特集1の分析枠組みからの推論であり、確定的な予測ではありません。)


■ まとめ

項目 誌面に基づく事実
2025年新築マンション平均価格 東京23区1億3613万円、首都圏9182万円(不動産経済研究所発表・過去最高)
2025年首都圏マンション供給戸数 2万1962戸(過去50年で最低)
東京都の空き家(2023年) 89.8万戸、うち「その他空き家」21.5万戸
世帯構成の変化 「単独」世帯 19.8%(1980年)→38.0%(2020年)
既存住宅流通の割合 30%強(2010年代前半)→44%(2024年)

ウェブ版「国民生活」は毎月15日ごろ発行で、どなたでも無料で読むことができます。今号は住宅ローンの実務的な注意点からデジタルコンテンツの法律問題まで、生活に直結する情報が詰まっていますので、ぜひ原文もご覧ください。


【参考資料・出典】

  • ウェブ版「国民生活」2026年7月号【No.167】(独立行政法人国民生活センター、2026年7月15日発行)
    • 特集1:中川雅之「大都市化と住宅市場の新潮流」1~6ページ
    • 特集2:豊田眞弓「迷わない住宅ローン戦略-残価設定型と長期住宅ローンの選び方と留意点-」7~11ページ
    • https://www.kokusen.go.jp/pdf_dl/wko/wko-202607.pdf
  • 特集1内で引用されているデータの原出典:住宅・土地統計調査(総務省統計局、1998年・2023年)、(株)不動産経済研究所発表(2025年新築マンション平均価格)、国立社会保障・人口問題研究所 地域別人口推計、国民経済計算(内閣府)、(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター推計、原野啓・中川雅之・清水千弘「中古住宅市場における情報の非対称性がリフォーム住宅価格に及ぼす影響」『日本経済研究』No.66(2012年)、中川雅之「大都市圏のジェントリフィケーションとマンション供給」『マンション学』第84号(2026年)
  • 副首都法案の状況:日本維新の会「副首都法案を衆議院に提出しました」(2026年6月24日)、日本総研・若林厚仁「副首都法案の成立で何が変わるのか」(2026年7月13日)、時事通信「『副首都』、15日衆院通過 国会1週間延長論」(2026年7月14日)、NHK「自民・維新・みらい『副首都』法案修正合意」(2026年7月14日)

※本記事の「考察」部分は、上記資料の記述を踏まえた筆者の見解であり、国民生活センターおよび誌面執筆者の見解ではありません。

子どもと家庭を地域で支える:家庭支援事業の構築とセーフガーディング

子育て / 2026年7月15日

 
近年、核家族化や地域社会の変容等により、子育てに困難を抱える世帯がこれまで以上に顕在化しています
こうした家庭を地域全体で支えるための「家庭支援事業」の構築と、その支援の場を子どもたちにとって真に安全な場所とするための「セーフガーディング」の導入について、重要なポイントを解説します。
 

1. 家庭支援事業の構築と地域資源の開拓

家庭が抱える課題には生活上の困難が多く、保育所や学校などの既存施設ではカバーしきれない時間帯や対象に対し、柔軟に対応する支援メニューを提供することが家庭支援事業の重要な役割です
事業を地域の実情に合わせて構築し、効果的に機能させるためには、以下の取り組みがポイントになります。
  • サービス構築の4ステップ:①支援対象者とニーズの把握、②事業内容の検討、③担い手・委託先の確保と育成、④予算確保と庁内外の調整を順に行い、事業を設計します
  • 地域資源の開拓とネットワーク化:行政のサービスだけでなく、市民等によるインフォーマルな活動も含めて地域の社会資源を「見える化(リスト化)」し、多様な主体が情報やノウハウを共有できるネットワークを構築します。これが潜在的な担い手発掘にもつながります
  • サービスの柔軟な組み合わせ:例えば、きょうだいがいる家庭に対し、第一子には「児童育成支援拠点事業(居場所の提供)」、第二子の乳児には「子育て世帯訪問支援事業」を組み合わせるなど、各家庭の変化する状況やニーズに応じて、支援の種類を横断的に組み合わせたサポートプランを調整することが効果的です

2. 子どもの安心・安全を守る「セーフガーディング」

家庭支援の現場において、支援そのものと同じくらい欠かせない視点が「セーフガーディング」です。
セーフガーディングとは、組織の活動において子どもや若者が尊重され、安心して過ごせるよう、虐待や搾取、暴力、ハラスメントなどのあらゆる危害から守るための組織的な取り組みを指します
大人と子どもの間には年齢や立場による力の非対称性(権威勾配)が存在するため、「よかれ」と思った関わりが意図せず子どもの権利侵害につながってしまうリスクもあります
これを防ぐために、支援を提供する組織は以下の体制を整えることが求められます。
  • 体制づくりのステップ:組織の現状とリスクを把握した上で、全体の方針となる「セーフガーディング指針」や、現場での適切な関わりの基準となる「行動規範」を策定します
  • 周知・予防と相談体制:採用時の確認やスタッフへの定期的な研修を実施するとともに、子どもや保護者、現場の職員が違和感を覚えた際に安心して声を上げられる「相談・通報の窓口」を複数設けることが重要です
  • 日常的な振り返りと文化の醸成:ルールを作って終わりではなく、日々のミーティング等で「子どもの権利の観点で気になったことはなかったか」を共有するなど、日常の中で自分たちの関わりを振り返る習慣を持つことが、セーフガーディングを組織の文化として根付かせる最大の鍵となります

最後に

地域のニーズを汲み取り、多様な資源を組み合わせて支援を届ける「家庭支援事業」と、その支援のプロセスで子どもの権利を保護する「セーフガーディング」。
この両輪を回すことで、
「必要な支援が届くこと」と「その支援の場が安全であること」が両立し、子どもと家庭にとって真に信頼できる地域のセーフティネットが実現します。
まずは自らの組織や地域の活動を振り返り、子どもたちとともに対話しながら、安心・安全な環境づくりを始める必要がありそうです。
 
参考

 

子どもの医療費無償化は「親の安心」を生んでいた ― EBPMの視点から見た最新研究の評価

保健 子育て 社会保障 行政 / 2026年7月15日

■ はじめに ― なぜこの研究に注目するのか

子どもの医療費無償化は、いまや全国のほぼすべての自治体で実施されている子育て支援策です。大津市でも、子育て世帯にとって身近な制度となっています。

しかしEBPM(エビデンスに基づく政策立案)の観点から見ると、この政策には長年、厳しい指摘がありました。「医療費を無償化しても、子どもの健康は必ずしも改善していないのではないか」「近隣自治体との横並び競争(ヤードスティック競争)で対象年齢が拡大しているだけではないか」という疑問です。

こうした中、2026年7月、経済産業研究所(RIETI)から注目すべき研究成果が公表されました。佐藤大晃氏(慶應義塾大学)と中室牧子氏(経済産業研究所・慶應義塾大学)による「子どもの医療費無償化のスピルアップ効果」(RIETI Discussion Paper Series 26-J-031)です。

この研究のポイントは、政策効果を測る「ものさし」を変えたことにあります。本稿では、その内容を市民の皆さまにわかりやすくご紹介します。

■ 「スピルアップ効果」とは何か

これまで子どもの医療費無償化の評価は、受益者である「子ども本人」への効果、つまり子どもの健康や受診行動を見るのが中心でした。

これに対し本研究が着目したのは「スピルアップ効果」です。これは、子どもへの支援が、直接の受益者ではない「親」にまで好影響を及ぼす波及効果のことです。子どもの通院費の自己負担がゼロになることで、「急な出費への不安」や「費用を心配して受診をためらう心理的負担」が軽減され、親の精神的な安心感(peace of mind=心の平穏)につながる、というメカニズムが想定されています。

米国では、低所得者向け公的医療保険(メディケイド)への子どもの加入が母親の心理的負担を改善することが確認されていました(Grossman et al., 2022)。本研究は、国民皆保険制度をもつ日本でも同じ効果が成り立つのかを検証した、国内でも先駆的な研究です。

■ 研究の方法 ― 青森県のデータで「差の差」を検証

研究では、青森県の「青森県子どもの生活実態調査」(2018年・2023年の2時点、小学5年生・中学2年生とその保護者が対象)が用いられました。

青森県では、県内40市町村のうち36市町村が2018年4月時点で通院に係る子どもの医療費無償化を導入済みだった一方、八戸市・五所川原市・黒石市・むつ市の4市は未就学児までにとどまっていました(2023年4月には全40市町村が15歳年度末まで拡大)。この「導入時期の差」を利用し、差分の差分法(DID)という統計手法で政策効果を推定しています。親の心理的負担は、うつ病等のスクリーニング指標であるK6スコア(0〜24点、高いほど負担が重い)で測定されています。

■ 主な結果① ― 子どもの健康には効果なし、しかし親の心理的負担は改善

結果は示唆に富むものでした。

子ども本人への効果:医療費無償化は、子どもの受診控えや健康状態には統計的に有意な影響を与えていませんでした。これは「子どもの健康改善効果は限定的」とする従来の研究(Takaku, 2016等)と整合的です。

親への効果:一方で、親の心理的負担(K6)は統計的に有意に低下しました。DID推定で0.60ポイント、共変量の偏りを調整した二重に頑健な推定(DRDID)でも0.50ポイントの低下で、K6の平均値3.87に対して約13〜16%の改善に相当します。

つまり、「子どもの健康のため」という当初の政策目的では効果が確認できない一方、「親の安心」という別の便益が実証されたのです。

■ 主な結果② ― 効果が出たのは「高所得層」と「小学生の親」

さらに興味深いのは効果の偏りです。

  • 所得層別:効果は等価世帯可処分所得の上位50%の世帯でのみ確認され(DIDで-0.97ポイント)、下位50%では有意な効果はありませんでした。低所得層には生活保護やひとり親世帯向けの医療費助成が既にあり、無償化による追加的な便益が小さかった可能性が指摘されています。
  • 学年別:小学生の子を持つ親には有意な効果(DIDで-1.42ポイント)があった一方、中学生の親には効果が見られませんでした。低年齢ほど外来受診の機会が多く、恩恵を受けやすいことが背景と考えられます。

「医療費の負担軽減策の効果が高所得層に表れる」というのは意外に感じられるかもしれませんが、全国規模のレセプトデータを用いた先行研究(Fukuma et al., 2023)とも整合する結果です。

なお、全サンプルでの効果は、より厳格な統計検定(ワイルドクラスターブートストラップ法)では有意性が確認されず、著者らも慎重な解釈を求めています。ただし高所得層への効果はこの検定でも頑健でした。

■ 主な結果③ ― 給食費無償化との比較:効果の大きさと費用対効果は別物

本研究のもう一つの柱が、同じく青森県内で順次導入された小学校給食費無償化との比較です。

比較項目 子どもの医療費無償化 学校給食費無償化
親の心理的負担(K6)への効果(DRDID) -0.50ポイント -0.63ポイント
一人当たり年間費用 27,843円(0〜14歳平均医療費) 55,140円(青森県小学校平均給食費)
費用対効果比(費用÷効果、小さいほど効率的) 55,686円 87,524円

(出典:本論文第7章。医療費は厚生労働省「子どもの医療の費用負担の状況(平成27年)」、給食費は文部科学省「学校給食実施状況等調査」に基づく著者らの算出)

スピルアップ効果の「大きさ」自体は給食費無償化の方が上回りますが、政策にかかる費用を考慮した「費用対効果」では、医療費無償化の方が優れているという結果です。著者らはこの違いを、給食費無償化が「毎月確実に発生する負担の軽減=所得再分配」であるのに対し、医療費無償化は「将来の不確実な出費への備え=保険」として機能しているためと解釈しています。

ただしこの比較は「親の心理的負担」というアウトカムに限ったもので、子どもの学力や長期的な健康への影響は含まれていない点に留意が必要です。

■ 主な結果④ ― 親の行動も変わる:家庭内か、学校・地域か

媒介分析(政策効果がどの経路を通じて生じたかを分解する手法)の結果、両政策は親の「子どもへの関わり方」を異なる方向に変えていました。

  • 医療費無償化:勉強を見る、学校の話をするなど「家庭内での子どもへの関与」を増加(総合効果0.195、うち約7.7%が心理的負担軽減を通じた効果)
  • 給食費無償化:学校行事・PTA・地域活動など「学校や地域への関与」を増加(総合効果0.141、うち約11.3%が心理的負担軽減を通じた効果)

同じ「子ども向けの現物給付」でも、波及する経路が異なるという発見です。

■ EBPMの観点から ― この研究が示す政策評価の教訓

本研究がEBPMの実践に示す教訓は、次の3点に整理できると考えます(論文第9章の政策的インプリケーションに基づく)。

第一に、政策評価の「ものさし」を広げる必要性。子ども本人への直接効果だけを見ると、政策の便益を過小評価する恐れがあります。親へのスピルアップ効果まで含めた総合的な評価が求められます。

第二に、「どちらが優れた政策か」ではなく「何を目標とするか」。家庭内の養育環境の改善を重視するなら医療費負担の軽減、学校・地域との連携強化を重視するなら給食費負担の軽減と、政策目標に応じた使い分けの視点が示されました。

第三に、便益は必ずしも低所得層に集中しない。子ども関連政策は所得再分配の観点から低所得層への重点化が議論されがちですが、波及効果まで含めれば異なる設計もあり得ることを示しています。

なお本研究の対象である青森県は、所得水準が全国平均より低く人口減少が進む地方自治体であり、著者らは同様の課題を抱える他の地方自治体への応用可能性に言及しています。一方、都市部では医療機関の混雑など異なる影響もあり得るため、検証は今後の課題とされています。

■ まとめ

ポイント 内容
子どもの健康・医療アクセス 有意な効果なし
親の心理的負担(K6) 約13〜16%改善(主に高所得層・小学生の親)
給食費無償化との比較 効果の大きさは給食費が上、費用対効果は医療費が上
親の行動変化 医療費→家庭内の関与増、給食費→学校・地域活動の関与増
EBPM上の示唆 直接効果+スピルアップ効果+財政コストの統合評価が必要

子どもの医療費無償化は「子どもの健康を改善する政策」としては効果が確認されない一方、「親の安心を生み、家庭での子どもとの関わりを増やす政策」としての価値が実証されました。政策の効果を先入観ではなくデータで検証し、その結果に基づいて制度を設計する――本研究は、地方自治体におけるEBPMのあり方を考える上で、大変示唆に富むものです。


 


【参考資料・出典】

  • 佐藤大晃・中室牧子「子どもの医療費無償化のスピルアップ効果」RIETI Discussion Paper Series 26-J-031(独立行政法人経済産業研究所、2026年7月)
  • 本文中の数値はすべて上記論文に基づく。データは青森県「青森県子どもの生活実態調査」(2018年・2023年)、制度導入状況は厚生労働省「乳幼児等に係る医療費の援助についての調査」およびこども家庭庁「こどもに係る医療費の助成についての調査」による
  • 一人当たり医療費:厚生労働省「子どもの医療の費用負担の状況(平成27年)」(論文内引用)
  • 一人当たり学校給食費:文部科学省「学校給食実施状況等調査」(論文内引用)
  • 論文内引用の主な先行研究:Grossman, Tello-Trillo and Willage (2022, NBER Working Paper No. w29661)、Fukuma et al. (2023, BMJ Open)、Takaku (2016, Social Science & Medicine)

※本記事は上記ディスカッション・ペーパーの内容を紹介するものであり、論文に述べられている見解は執筆者個人の責任で発表されたもので、経済産業研究所の見解を示すものではありません(論文冒頭の注記による)。

夏休みは、子どもに「思いっきり遊んでもらう」季節に

教育 / 2026年7月9日

もうすぐ夏休み。子どもたちにとって、長期休業期間は学校とは異なる環境の中で、自分の判断で過ごし方を選び、多様な学びや体験に触れることができる貴重な機会です。

ともすれば「夏休み=机上の学習を進める期間」というイメージが先行しがちですが、国や東京都の直近の発信を見ると、むしろ「遊び」や「体験活動」そのものを充実させようという方向性が明確に打ち出されています。今回は、文部科学省の事務連絡と東京都子供政策連携室の発表という2つの公式資料をもとに、この夏、子どもにどう「大いに遊んでもらう」かを考えます。

■ 国の動き:長期休業期間中の学び・体験の充実を要請

文部科学省総合教育政策局地域学習推進課は、令和8年7月3日付の事務連絡「長期休業期間中等の学び・体験の充実について(要請)」を、各都道府県・指定都市の教育委員会(社会教育主管課、生涯学習・青少年教育主管課)宛てに発出しました。

この事務連絡はまず、長期休業期間について、子供や家庭の判断で自由に過ごし方を選択でき、日常とは異なる環境の中で多様な学びや体験に触れることができる貴重な機会であると位置づけています。その一方で、近年は家庭環境の多様化などを背景に、多様な学び・体験活動の機会を充実させることが課題になっているとも指摘しています。

背景には、令和8年5月15日にこども家庭庁など関係省庁が連名で発出した「夏季休業期間中の酷暑対策及び食支援に係る各施策の活用について」という別の事務連絡があります。今回の要請は、この関係省庁連名事務連絡の趣旨も踏まえたものとされています。

要請の主な内容(5項目)

事務連絡は、各教育委員会に対して、地域の実情に応じて次の5点への積極的な対応を求めています。

項目 内容の概要
①学校施設・社会教育施設の開放及び積極的活用 学校施設、公民館、図書館、青少年教育施設、スポーツ・文化施設、科学館等について、子供が安心して学び、活動し、過ごせる場としての活用。特に酷暑時は空調設備を備えた施設の活用を検討すること
②学び・体験活動等の充実 放課後子供教室、社会教育団体による体験活動、公民館事業、読書・文化芸術・スポーツ・自然体験・科学技術体験活動等の充実。スポーツ活動時は熱中症対策など安全管理への配慮
③子供や保護者への周知・情報提供 長期休業開始前の適切な時期に、学校・教育委員会・社会教育施設を通じて情報を周知。文部科学省の体験活動ポータルサイトの周知も含む
④地域における様々な関係者の連携・協力の推進 社会教育主事、社会教育士、地域学校協働活動推進員等が中心となり、学校・社会教育施設・関係団体・企業・大学・NPO等との連携をコーディネート
⑤ニーズ把握及び好事例の共有 子供や保護者等のニーズ把握と、効果的な取組事例の域内での情報共有

(出典:文部科学省総合教育政策局地域学習推進課「長期休業期間中等の学び・体験の充実について(要請)」令和8年7月3日付事務連絡)

なお、この要請は夏季休業期間に限定したものではなく、冬季休業・春季休業を含む長期休業期間全般を対象としている点も明記されています。

現場の好事例に見る「遊び」の効果

同事務連絡には別添資料として、公民館・図書館・青少年教育施設・地域学校協働活動の好事例が多数紹介されています。その中でも注目したいのが、青少年教育施設の事例です。

妙高青少年自然の家(新潟県)と吉備青少年自然の家(岡山県)が連携して実施した「吉備高原と犬島でのキャンプ」(6泊7日)では、野外炊事やイカダ作成、島探検などの体験活動を通じて、主体性やコミュニケーション力とあわせて非認知能力を育成することを目的として掲げています。また、赤城青少年交流の家(群馬県)の「あかぎ無限大キャンプ」でも、計画的な話し合いと協働的体験を軸に主体性と多様性理解を育むことを目指し、参加者自身が活動内容や目標を決定・合意形成する機会を重視しているとされています。

(出典:同事務連絡 別添「青少年教育施設事例~夏休み等の活動充実~」)

こうした事例からは、体験活動や遊びが、学力とは異なる「非認知能力」(主体性、協働性、合意形成力など)を育む場として国レベルでも位置づけられていることが読み取れます。

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■ 東京都の動き:専門家の声で「外遊び」を後押し

同じ時期に、東京都子供政策連携室も動いています。令和8年7月8日、東京都は「夏を思いっきり楽しもう!『夏の子供の外遊び』をテーマとした動画を公開~専門家インタビュー編~」と題するプレスリリースを発表しました。

東京都は、夏の暑い時期でも子供が体験活動・遊びを思い切り楽しめるよう、ハード・ソフト両面から暑さ対策に取り組み、子供の健やかな育ちを支援するとしています。その一環として、「暑さ対策をしながら夏でも外遊びを楽しむ」という切り口での普及啓発コンテンツを順次発信していく方針で、第一弾として小児科専門医と保育アドバイザーへのインタビュー動画を公開しました。

動画の内容

テーマ 出演者 解説内容
熱中症対策と外遊び 首里京子先生(日本小児科学会認定小児科専門医・指導医、東京都医師会理事、サニーガーデンこどもクリニック院長) 効果的な水分補給、暑熱順化の大切さ、外遊びの注意点
夏の外遊びの楽しみ方 野村直子先生(保育アドバイザー、new education LittleTree代表) おすすめの外遊び、遊びに適した時間帯、水分補給と服装

(出典:東京都「夏を思いっきり楽しもう!『夏の子供の外遊び』をテーマとした動画を公開~専門家インタビュー編~」令和8年7月8日発表)

動画は子供政策連携室ホームページ、公式YouTube、公式Instagram(cfoo〈クフー〉)のほか、Web広告やデジタルサイネージ等でも発信されるとしています。この取組は「2050東京戦略」の戦略1「子供(Children):子供目線に立った政策の推進」を推進するものと位置づけられています。

■ 見えてくる共通のメッセージ

2つの公式資料を並べると、次のような共通の方向性が見えてきます。

  • 長期休業期間は「学力の補習」だけでなく、遊びや体験そのものに価値があるという前提に立っていること
  • ただし近年の酷暑を踏まえ、安全に遊べる環境づくり(空調設備のある施設の活用、熱中症対策の周知)が不可欠であること
  • 遊びや体験活動には、主体性・協働性・合意形成力といった非認知能力を育む側面があること(文部科学省の好事例より)

■ まとめ

資料 発信元 発表日 主な内容
「長期休業期間中等の学び・体験の充実について(要請)」 文部科学省総合教育政策局地域学習推進課 令和8年7月3日 学校・社会教育施設の開放、体験活動の充実、周知、連携、ニーズ把握の5項目を要請
「夏を思いっきり楽しもう!『夏の子供の外遊び』をテーマとした動画を公開」 東京都子供政策連携室 令和8年7月8日 小児科専門医・保育アドバイザーによる外遊びの安全・楽しみ方の解説動画を公開

机の前で過ごす時間だけでなく、暑さ対策をしながら思い切り体を動かし、自然や人と関わる体験の中で、子どもたちが自ら考え、決め、乗り越える経験を積むこと。それが今夏、国・都が共通して後押ししている方向性だと言えます。ご家庭や地域でも、この夏、安全に配慮しながら子どもの「遊ぶ時間」を意識的に確保していただければと思います。

【参考資料・出典】