「座りすぎ」は命に関わる—年間2,825億円の経済損失と、自身の健康を守るために
「運動はしていないけれど、特に病気もないから大丈夫」—そう思っている方は多いのではないでしょうか。
実は、運動習慣の有無に関わらず、長時間座り続けること自体が、死亡や重大疾患のリスクを高めることが、国内外の複数の科学的研究によって明らかになっています。
2026年5月、東京都健康長寿医療センター研究所と早稲田大学の研究グループが発表した最新の研究では、日本人の「座りすぎ」が慢性疾患を通じて年間約2,825億円という膨大な経済的負担をもたらしていることが推計されました。
そう言えば、私の身につけているスマートウォッチもパソコンで作業しているときに「起立」を求めるメッセージが出てきます。
「運動しましょう」ではなく「起立しましょう」ぐらいのことでは、大して健康に影響はないだろうと思っていたのですが、「起立」の重要性が理解できました。(-_-;)

これは個人の健康の問題にとどまらず、社会全体で取り組むべき公衆衛生上の重要課題と考えます。
本記事では、複数の根拠を示しながら、座りすぎの危険性をわかりやすくお伝えします
■ 「座りすぎ」とは?—1日8時間が一つの目安
研究における「座りすぎ(過剰な座位行動)」の定義は、1日8時間以上、座った状態や横になった状態で過ごすことを指します。
テレワークの普及やスマートフォンの長時間使用など、現代の生活スタイルでは、この水準を超えてしまっている方も少なくないでしょう。
■ 根拠①:死亡リスクが最大1.89倍に——複数研究のメタ解析
最も強力な根拠の一つが、**客観的に測定した座位行動に関するメタ解析(複数の研究を統合した分析)**です。
厚生労働省のe-ヘルスネットが整理しているメタ解析の結果によれば、
- 座位時間が最も長い群は、最も短い群と比較して、
- 心血管疾患による死亡リスク:1.89倍
- 総死亡リスク:1.58倍
という差が確認されています。
さらに、1日の総座位時間が6〜8時間、またはテレビ視聴に伴う座位時間が3〜4時間を超えると、総死亡および心血管疾患死亡のリスクが高まる傾向が示されています。
この結果は一つの研究ではなく、複数の研究を束ねたメタ解析によるものであり、科学的根拠として高い信頼性を持ちます。
出典: 厚生労働省「e-ヘルスネット」座位行動(身体活動・座位行動)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
■ 根拠②:運動していても、座りすぎは危険——厚生労働省の指摘
「ジムに通っているから大丈夫」とは言い切れません。
厚生労働省の資料では、座りすぎている人は、たとえ運動習慣があっても、以下のリスクが高いことが報告されています:
- 肥満
- 2型糖尿病
- 心臓病
- 死亡リスクの上昇
さらに、世界保健機関(WHO)は、「長時間の座りすぎの悪影響を軽減するには、中〜高強度の身体活動を推奨レベル以上に行う必要がある」と勧告しており、座りすぎの悪影響は、かなり高い身体活動量でしか十分に相殺されない可能性を指摘しています。
出典: 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
WHO「身体活動および座位行動に関するガイドライン(2020年)」
■ 根拠③:日本人のデータでも確認——国立がん研究センターの大規模研究
「欧米のデータが中心では?」という疑問もあるかもしれませんが、日本人のデータでも同様の傾向が示されています。
国立がん研究センターの多目的コホート研究(日本の大規模追跡調査)では、職業上の座位時間が長いことと、全死亡リスクの上昇との関連が報告されています。
大規模な日本人集団でも、複数の欧米研究と一致した結果が得られていることは、この知見の普遍性を裏付けるものです。
出典: 国立がん研究センター「多目的コホート研究(JPHC Study)」
https://epi.ncc.go.jp/jphc/
■ 根拠④:年間2,825億円の経済的損失——最新の国内研究(2026年)
2026年4月、国際学術誌『Journal of Public Health』(Oxford University Press発行)に、日本における座りすぎの経済的コストを推計した研究が掲載されました。
東京都健康長寿医療センター研究所の光武誠吾研究員、早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授らの研究グループが公的な全国統計情報等をもとに推計した結果、
| 項目 | 金額(95%信頼区間) |
|---|---|
| 経済的負担(合計) | 約2,825億円(2,589億〜3,060億円) |
| うち直接医療費 | 約2,384億円(2,153億〜2,615億円) |
| うち間接費(生産性損失等) | 約441億円(243億〜610億円) |
疾患別では、外来医療費では糖尿病、入院医療費では認知症による経済的負担が最も大きいことが示されました。
また、研究グループはこの推計が控えめな試算であるとも指摘しています。処方薬費・介護サービス費・家族の介護負担・欠勤などの損失が含まれておらず、実際の負担はさらに大きい可能性があります。
出典:
光武誠吾ほか「The Economic Costs of Excessive Sedentary Behaviour in Japan」
Journal of Public Health(Oxford University Press)、2026年4月24日掲載
DOI: 10.1093/pubmed/fdag029
プレスリリース:東京都健康長寿医療センター・早稲田大学(2026年5月12日)
https://www.tmghig.jp/research/release/2026/0512.html
■ まとめ:座りすぎが危険な4つの根拠
| 根拠 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| ① メタ解析(複数研究統合) | 座位時間が長い群は心血管疾患死亡リスク1.89倍、総死亡1.58倍 | 厚生労働省 e-ヘルスネット |
| ② WHO・厚労省の指摘 | 運動習慣があっても座りすぎは肥満・糖尿病・心臓病・死亡リスクを高める | 厚労省「身体活動・運動ガイド2023」・WHO指針 |
| ③ 日本人大規模コホート | 職業性座位時間の長さと全死亡リスク上昇の関連を確認 | 国立がん研究センター JPHC研究 |
| ④ 経済損失推計(最新) | 座りすぎによる慢性疾患の経済的負担は年間約2,825億円 | 光武ほか(2026)Journal of Public Health |
■ 私たちにできること——今日から始める「座りすぎ対策」
研究者たちは、個人の努力だけでなく、社会・職場・地域の環境整備が重要だと指摘しています。
個人でできること
- 30〜60分に1回、立ち上がる習慣をつける
- テレビを見ながらでもストレッチや軽い体操を取り入れる
- 職場でスタンディングデスクや昇降デスクを活用する
社会・行政として求められること
- 健診・保健指導の場に座位行動チェックを取り入れる
- 職場環境整備の促進(座りすぎを防ぐレイアウト・休憩ルール)
- 地域の健康づくり施策に「座らない時間をつくる」視点を組み込む
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」でも、座位行動の悪影響への注目が明記されており、国の施策としての重要度は今後さらに高まると考えられます。
■ おわりに
「座っているだけで病気になるはずがない」——そう思いがちですが、科学的な証拠は、長時間の座位が死亡リスクや医療費を着実に押し上げることを示しています。
健康寿命の延伸は、すべての人にとっての願いです。身近なところから「座りすぎない」生活を意識し、地域・職場全体でその環境をつくっていくことが、私たちの健康と社会の持続可能性を守ることにつながります。
【参考資料・出典一覧】
- 東京都健康長寿医療センター研究所・早稲田大学「日本の成人における座りすぎに伴う慢性疾患による経済的負担は年間約2,825億円と推計」プレスリリース(2026年5月12日)
https://www.tmghig.jp/research/release/2026/0512.html - 光武誠吾・柴田愛・石井香織・Neville Owen・岡浩一朗「The Economic Costs of Excessive Sedentary Behaviour in Japan」Journal of Public Health(Oxford University Press)、DOI: 10.1093/pubmed/fdag029、2026年4月24日掲載
- 厚生労働省「e-ヘルスネット:座位行動」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/ - 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
- 世界保健機関(WHO)「身体活動および座位行動に関するガイドライン(2020年)」
- 国立がん研究センター「多目的コホート研究(JPHC Study)」
https://epi.ncc.go.jp/jphc/
本記事は上記公式資料・学術論文に基づき作成しています。