大津市議会議員 佐藤弘

一人のひとを どこまでも大切に 心豊かな まちづくりを目指します

手摺りのちょっとした工夫で快適に!福祉用具に利用者の本音は?

福祉 高齢者 / 2026年5月30日

「据置式の手摺りの土台プレートが眩しい」という声がありました。
そこで、歩行路に合わせてビニルのマットを敷いてみることにしました

このマットは素材が薄いのに重みがあり、少し柔らかくてゴムに近い感触なので、滑り止めとしても効果が期待できるベストチョイスでした!
加工もしやすいので、同じように据置式の手摺りを設置しているお家の参考になれば嬉しいです。
ちなみに材料費は1mあたり2580円で、今回は4.2m購入してぴったり収まりました
さて、こうした日々の環境調整を行う中で、ふと「利用者様は福祉用具の利用に対して、どう感じているのだろう?」と考えることがあります。
福祉用具の貸与(レンタル)サービスは非常に便利ですが、利用者様の視点に立つと、利用をためらったり、購入への切り替えを検討したりする「いくつかの心理的・物理的なハードル」があることが分かっています。

1. 中古品を利用することへの心理的な抵抗感
貸与品は他の人も使用したものであるため、どうしても「人が使用したものが嫌」「新品を気持ちよく活用したい」といった、中古品に対する心理的な抵抗感を持つ方がいらっしゃいます

2. 定期的な訪問や継続的な関わりへの抵抗感
福祉用具を安全に利用するためには定期的なモニタリング訪問が必要ですが、利用者様の中には「定期的に訪問されることが煩わしい」と感じるケースも少なくありません

3. 毎月継続して発生するランニングコストへの負担感

身体状況が安定しており長期的な利用が見込まれる場合、毎月のレンタル料金の支払いに負担を感じ、「長い目で見れば購入してしまった方が得である」「毎月の支払いを無くしたい」と考える利用者様がいらっしゃいます

4. 紛失・弁償への不安や手続きの煩雑さ

「物忘れなどで用具を紛失してしまったら弁償しなければならない」というリスクを避けるために最初から自分の所有物にしたいと考えるケースや、レンタル契約時の書類手続きが煩雑であることを負担に感じる方もいます
福祉用具は利用者様の生活を支える大切な存在ですが、その裏には「できれば新品がいい」「毎月の訪問は気を使う」といったリアルな本音が隠れています。
今回のように、「プレートが眩しいからマットを敷く」といった小さな配慮や環境調整が、利用者の心理的・物理的なハードルを少しでも下げることにつながればと思っています。
これからも利用者様の声にしっかりと耳を傾け、より快適で安心できる在宅生活を一緒に作っていきたいです。

道具は変わり続ける、問う力は変わらない ― AIを「自分のもの」にする向き合い方

AI生成機能 / 2026年5月28日

生成AIを日々使っていると、文章も資料も驚くほど早く形になります。便利さに慣れるうちに、AIが生み出したものを「これは自分が作ったものか?」と感じてしまうことがあります。

そんなとき、マイナビ総合研究所のコラム「AIを使った仕事は『自分のもの』か」を読みました。そこでは、生成AIで効率化が進む一方、「AIが数秒でやってしまうから、自分が担当するやりがいを感じない」といった声が現場で上がっていることが紹介されています。
便利になったはずなのに、仕事を「自分のもの」と感じにくくなる ―― この矛盾は、決して他人事ではありませんでした。

「拡張」か「代替」か

コラムによれば、同じAIを使っても、自分でまず書いてからAIに推敲させる「拡張」的な使い方と、AIに初稿を作らせて自分は編集だけする「代替」的な使い方とでは、前者のほうが仕事を「自分のもの」と感じやすいといいます。AIに肩代わりさせるのか、自分の力を補う相棒として使うのか。その向き合い方が、やりがいを左右するのです。

北里柴三郎の顕微鏡

ここで思い出したのが、北里柴三郎の話でした。破傷風菌の純粋培養や血清療法の確立、ペスト菌の発見 ―― その業績の背景には、顕微鏡という当時の最先端の道具を誰よりも巧みに扱える技量があったと理解しています。顕微鏡もやがて姿を変えました。技術はいつの時代も進化し、古くなっていきます。いま手にしているAIも、10年20年経てば古い道具になるでしょう。大事なのは道具そのものではなく、それを使いこなして次の進歩へつなげる人間の側の力なのだと思います。

変わるスキルと、変わらないスキル

この直感を裏づけてくれたのが、文部科学省の資料でした。

AIが瞬時にプログラムを生成できる時代に、多くの人にとって、プログラムを書く行為自体の価値は急速に低下しています。しかし、何を解くべきかを見定め、AIの出力の誤りや限界を見抜き、問題の本質を捉える力、こうした思考の力の価値は時代とともに低下しません。時代とともに必要なスキルは変化しますが、思考する力は時代が変わっても重要であり続けます。

出典:文部科学省「AI時代に変わるスキル、変わらないスキル ~海外の論考から考える教育の本質的課題~」(教育課程部会関連資料、2026年5月26日) https://www.mext.go.jp/content/20260526-mxt_syoto01-000050170_12.pdf

道具の扱い方は移り変わっても、「何を解くべきかを見定める力」「出力の誤りを見抜く力」「本質を捉える力」は変わらない。顕微鏡の話で感じたことと、まさに同じ筋道でした。

では、何を考えて進むか

AIが作ったものを前に「自分のものではない」と感じる ―その感覚はむしろ大切にすべきものだと思います。その上で前へ進むために、私は次のことを心に留めておきたいと考えています。
AIは「代替」ではなく「拡張」として使い、出力は理由まで確認して最終判断は自分で下すこと。磨くべきは道具を使う技術だけでなく「何を問うか」という思考の力であること。そして技術は必ず古くなるという前提を、不安ではなく足場として受け止めること。

道具は変わり続けます。だからこそ、変わらない力 ―― 問い、見抜き、考える力 ―― を磨きながら、新しい道具と付き合っていきたいと思います。

 

賃貸で暮らす人へ。知っておくと安心の“住まいの権利”

情報 生活 / 2026年5月25日

オーナーが変わっても、借りている人は守られます

賃貸住宅に住んでいると、まれに「建物の所有者が変わりました」という通知が届くことがあります。
そんなとき、 「急に退去を求められるのでは?」 と不安になる方も多いのではないでしょうか。
現在の法律では、賃借人(借りて住んでいる人)の権利はとても強く守られていますので、もしもの時のために知っておくと助かります。

どうして賃借人の権利が強くなったの? ― 歴史的な背景

明治時代、賃借権を守るためには「登記」が必要でした。 しかし実際には、

  • 土地所有者が協力してくれない
  • 費用が高い
  • 手続きが難しい

といった理由で、ほとんど登記されませんでした。

その結果、土地が売買されるたびに住民が立ち退きを迫られるという問題が全国で発生しました。 建物が次々と壊され、まるで地震の後のようだったため、 「地震売買」 と呼ばれ、社会問題になりました。

この反省から、賃借人を守るための法律が整備されていきました。

⚖️ 現在のルール:住んでいれば賃借権を主張できる

現在は「借地借家法」や「民法」により、次のように保護されています。

  • 登記がなくても、建物を引き渡され住んでいれば賃借権を主張できる
  • オーナーが変わっても、賃貸借契約は自動的に新オーナーへ引き継がれる
  • 賃借人の承諾は不要
  • 契約条件(家賃・期間など)はそのまま

つまり、 オーナー変更=退去ではありません。

市民の皆さんが知っておくと安心なこと

  • オーナー変更の通知が来ても、退去を求められることは基本的にない
  • 契約内容はそのまま引き継がれる
  • 不安なときは、自治会・市役所・法律相談などに気軽に相談できる

賃貸で暮らす方が安心して生活できるよう、法律はしっかり整備されています。

✏️ まとめ

  • 昔は「地震売買」という深刻な問題があった
  • その反省から、賃借人保護の法律が整備された
  • 今はオーナーが変わっても、賃借人は強く守られる

住まいは生活の基盤です。 知っておくだけで、いざというときの安心につながります。


デジタル化とAIが民事訴訟のハードルを下げる時代へ

行革 / 2026年5月23日

民事訴訟の手続きが、いよいよ本格的にオンライン対応へと変わりました。訴状や準備書面の提出、裁判記録の閲覧、判決書の受け取りまでをインターネット上で進められるようになり、裁判所に足を運ばなくても手続きが進む時代に入りました。

今回のデジタル化で大きく変わるのは、手続きの負担が軽くなる点です。まず、訴状や準備書面をオンラインで提出できるため、印刷・持参・郵送の手間が減り、時間と労力が節約できます。

次に、裁判記録をオンラインで閲覧・ダウンロードできるようになり、場所や時間にとらわれずに必要な資料を確認しやすくなります。さらに、裁判手数料の支払いも電子納付が広がり、弁護士や本人訴訟の当事者双方にとって、手続きの効率化が進みます。

ただし、すべてが一律にオンライン化されるわけではありません。主に対象となるのは2026年5月21日以降に新たに提起される事件で、すでに進行中の事件は、一定の条件のもと従来の紙中心の運用が残る場合があります。また、弁護士に依頼しない本人訴訟の場合には、オンライン提出が必須ではなく、紙の提出も認められるなど、利用者によって扱いが異なります。

一方で、手続きが多少複雑であっても、今ではAIが分からない点を丁寧に解説してくれるため、本人訴訟のハードルはかなり低くなっています。AIが訴状や準備書面の書き方を整理し、法律用語や手続きの流れを分かりやすく説明してくれるため、「法律が分からない人」でも、自分の主張を整理しやすくなります。

ただし、AIはあくまで「支援する道具」であり、最終的な判断やリスク管理は利用者自身が行う必要があります。AIの出力は誤りや情報の更新が滞る可能性もあるため、重要なポイントは裁判所の案内や弁護士の意見などと照合しながら、慎重に使うことが大切です。

このように、民事訴訟のオンライン化とAI活用の組み合わせにより、「裁判所に行かなくても、弁護士に依頼しなくても、比較的身近に裁判手続きを進められる」環境が少しずつ整ってきています。

ただし、その恩恵をしっかり得るためには、AIをどう使うか、そして手続きの仕組みをどれだけ理解しているかが、大きな鍵になってくるでしょう。

「過労死=働きすぎ」はもう古い―脳の病気という新常識

医療 / 2026年5月21日

「過労死」という言葉を聞いて、多くの方が思い浮かべるのは、がむしゃらに働き続けた末に倒れる姿ではないでしょうか。「休めば防げた」「もっとゆっくり働けばよかった」―私もそうですが、そんな印象を持つ方が多いと思います。
ところが、最新の疲労医学の研究は、この常識を大きく塗り替えつつあるようです。

  財務省広報誌『ファイナンス』2026年5月号の巻頭言に、東京慈恵会医科大学・疲労医学講座特任教授の近藤一博氏が「過労死の原因は働き過ぎから脳の病気へと変化している」という論考を寄稿しています。
私も初めて知ったことなので、その内容を中心に、関連する公的資料・研究をあわせて紹介しながら、「過労死の新常識」を分かりやすくして学びたいと思います。

■ 20年前と今では、過労死の「原因」が変わった

近藤氏は、過労死の様相が過去20年で大きく変化したと指摘しています。

時代 主な死因 疲労の性質 予防の方法
20年以上前 心筋梗塞・脳溢血 生理的疲労(働きすぎによる) 休息で回復・予防可能
最近20年 過労うつ病による自殺 病的疲労(脳の炎症が原因) 休息だけでは回復困難。脳の炎症の治療・予防が必要

出典:近藤一博「最近の疲労の問題について」(財務省広報誌『ファイナンス』2026年5月号巻頭言、財務省、2026年5月)

かつての過労死は「生理的疲労」――つまり体を酷使した結果であり、十分な休息さえ取れば防ぐことができました。しかし近藤氏は、最近の過労死の最大原因は過労によるうつ病の自殺へと移行したと述べています。そして、この「過労うつ病」には、休息では回復しにくい「病的疲労」が関与しているといいます。


 


■ 「病的疲労」とは何か――脳の炎症が引き金

では「病的疲労」とはどういうものでしょうか。

近藤氏の説明によれば、過労状態になると、脳の中に幼少期から潜伏しているヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)が再活性化します。このウイルスは、突発性発疹の原因として知られており、ほぼすべての人が幼児期に感染し、その後は脳内に潜伏し続けます。

このウイルスが再活性化すると、脳内の神経伝達物質(アセチルコリン)を減少させ、脳の炎症を引き起こす。この状態が「病的疲労」であり、「休んでも取れない疲れ」という自覚症状が、実は脳の炎症の危険信号なのです。


■ コロナ後遺症が解明のヒントになった

この病的疲労のメカニズム解明に意外な貢献をしたのが、新型コロナウイルスの研究でした。

新型コロナウイルスも、感染後に脳の炎症や病的疲労(いわゆる「ブレイン・フォグ」)を引き起こすことが知られています。近藤氏らの研究グループはこの新型コロナ後遺症の状態が、過労による病的疲労と同じメカニズムで生じていることを発見し、その仕組みを解明しました。

これは、「過労によるうつ」が単なる「精神的な弱さ」や「意志の問題」ではなく、脳という臓器で起きている医学的な病態であることを示す重要な知見です。


■ 厚生労働省の認定基準も「脳・心臓の病態」を重視

この視点は、行政の認定基準にも反映されています。

厚生労働省は2021年に「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」を公表し、過労死認定の基準を改正しました。同報告書では、過労死認定事案における脳血管疾患(高血圧性脳出血、ラクナ梗塞など)・虚血性心疾患の病態が詳細に整理され、「血管病変等を著しく増悪させる業務」が脳・心臓疾患を誘発するというメカニズムが医学的根拠とともに示されています。

つまり行政の公式見解においても、過労死は「働きすぎ+もともとあった脳・心臓の病変の急激な悪化」として捉えられているのです。

出典:厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました」(2021年) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21017.html


■ 脳の炎症は、うつ病だけでなく認知症・がんのリスクにも

近藤氏の論考はさらに重要な警告を含んでいます。脳の炎症は、うつ病の原因となるだけでなく、アルツハイマー病やがんの発症リスクにもなりうるとされています。

出典:近藤一博「最近の疲労の問題について」(財務省広報誌『ファイナンス』2026年5月号巻頭言)

また、近藤氏が代表を務める科学研究費助成事業(KAKENHI 課題番号:19H03891「うつ病リスクの低減を目的とした脳疲労の発生・回復メカニズムの解明」、研究期間2019〜2022年)では、脳疲労がうつ病・アルツハイマー型認知症・心血管リスクと関連する可能性が示唆されており、査読付き国際論文(Journal of Alzheimer’s Disease, iScience, Journal of Medical Virology 等)でも発表されています。

出典:国立情報学研究所 科学研究費助成事業データベース(KAKEN) https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19H03891/


■ 「休んでも取れない疲れ」は医学的サインかもしれない

この新しい知識から、私たちが日常生活で意識すべきポイントが見えてきます。

  • 十分に眠っても疲れが取れない
  • 休日に休んでもなぜか元気が出ない
  • やる気が続かず、気分が沈みがちになった

このような症状が続く場合、それは「根性が足りない」のではなく、脳の炎症という医学的な病態のサインである可能性があります。
近藤氏の論考は、「こうした病的疲労を放置せず、医学的なアプローチで対処することの重要性」を強調しています。


■ まとめ

項目 従来のイメージ 最新の医学的理解
過労死の主な死因 心筋梗塞・脳溢血 過労うつ病による自殺(最近20年)
疲労の性質 働きすぎによる生理的疲労 脳の炎症が関与する病的疲労
予防・対処法 休息を取ること 脳の炎症の早期発見・治療が必要
「休んでも取れない疲れ」 根性や意志の問題 脳の炎症の危険信号(医学的サイン)
関連リスク 過労による急性疾患 うつ病・アルツハイマー病・がん等にも関連

出典:近藤一博「最近の疲労の問題について」(財務省広報誌『ファイナンス』2026年5月号巻頭言)をもとに作成


過労死の問題は「働き方の自己責任」ではなく、脳という臓器で起きている病気の問題へと認識が深まっています。職場環境の改善はもちろん大切ですが、それだけでなく、脳の炎症・病的疲労という医学的アプローチで対策を考えることが、これからの社会に求められています。

引き続き、こうした最新の知見を市民の皆さんと共有してまいります。


【参考資料・出典】

  1. 近藤一博「最近の疲労の問題について――過労死の原因は働き過ぎから脳の病気へと変化している」(財務省広報誌『ファイナンス』2026年5月号巻頭言、財務省、2026年5月) https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202605/202605b.pdf
  2. 厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました」(脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書、2021年) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21017.html
  3. 厚生労働省「令和5年度 過労死等の労災補償状況」(2024年公表) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40975.html
  4. 国立情報学研究所 科学研究費助成事業データベース(KAKEN) 近藤一博代表「うつ病リスクの低減を目的とした脳疲労の発生・回復メカニズムの解明」(課題番号:19H03891、2019〜2022年) https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19H03891/
  5. Japan Prize財団 セミナー要旨「ウイルス研究から判る疲労の正体」(近藤一博、2008年) https://www.japanprize.jp/seminar_resume_191_kondo.html

「座りすぎ」は命に関わる—年間2,825億円の経済損失と、自身の健康を守るために

保健 医療 / 2026年5月20日

「運動はしていないけれど、特に病気もないから大丈夫」—そう思っている方は多いのではないでしょうか。
実は、運動習慣の有無に関わらず、長時間座り続けること自体が、死亡や重大疾患のリスクを高めることが、国内外の複数の科学的研究によって明らかになっています。

2026年5月、東京都健康長寿医療センター研究所と早稲田大学の研究グループが発表した最新の研究では、日本人の「座りすぎ」が慢性疾患を通じて年間約2,825億円という膨大な経済的負担をもたらしていることが推計されました。

そう言えば、私の身につけているスマートウォッチもパソコンで作業しているときに「起立」を求めるメッセージが出てきます。

「運動しましょう」ではなく「起立しましょう」ぐらいのことでは、大して健康に影響はないだろうと思っていたのですが、「起立」の重要性が理解できました。(-_-;)

これは個人の健康の問題にとどまらず、社会全体で取り組むべき公衆衛生上の重要課題と考えます。
本記事では、複数の根拠を示しながら、座りすぎの危険性をわかりやすくお伝えします

■ 「座りすぎ」とは?—1日8時間が一つの目安

研究における「座りすぎ(過剰な座位行動)」の定義は、1日8時間以上、座った状態や横になった状態で過ごすことを指します。
テレワークの普及やスマートフォンの長時間使用など、現代の生活スタイルでは、この水準を超えてしまっている方も少なくないでしょう。


■ 根拠①:死亡リスクが最大1.89倍に——複数研究のメタ解析

最も強力な根拠の一つが、**客観的に測定した座位行動に関するメタ解析(複数の研究を統合した分析)**です。

厚生労働省のe-ヘルスネットが整理しているメタ解析の結果によれば、

  • 座位時間が最も長い群は、最も短い群と比較して、
    • 心血管疾患による死亡リスク:1.89倍
    • 総死亡リスク:1.58倍

という差が確認されています。

さらに、1日の総座位時間が6〜8時間、またはテレビ視聴に伴う座位時間が3〜4時間を超えると、総死亡および心血管疾患死亡のリスクが高まる傾向が示されています。

この結果は一つの研究ではなく、複数の研究を束ねたメタ解析によるものであり、科学的根拠として高い信頼性を持ちます。

出典: 厚生労働省「e-ヘルスネット」座位行動(身体活動・座位行動)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/


■ 根拠②:運動していても、座りすぎは危険——厚生労働省の指摘

「ジムに通っているから大丈夫」とは言い切れません。

厚生労働省の資料では、座りすぎている人は、たとえ運動習慣があっても、以下のリスクが高いことが報告されています

  • 肥満
  • 2型糖尿病
  • 心臓病
  • 死亡リスクの上昇

さらに、世界保健機関(WHO)は、「長時間の座りすぎの悪影響を軽減するには、中〜高強度の身体活動を推奨レベル以上に行う必要がある」と勧告しており、座りすぎの悪影響は、かなり高い身体活動量でしか十分に相殺されない可能性を指摘しています。

出典: 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
WHO「身体活動および座位行動に関するガイドライン(2020年)」


■ 根拠③:日本人のデータでも確認——国立がん研究センターの大規模研究

「欧米のデータが中心では?」という疑問もあるかもしれませんが、日本人のデータでも同様の傾向が示されています。

国立がん研究センターの多目的コホート研究(日本の大規模追跡調査)では、職業上の座位時間が長いことと、全死亡リスクの上昇との関連が報告されています。

大規模な日本人集団でも、複数の欧米研究と一致した結果が得られていることは、この知見の普遍性を裏付けるものです。

出典: 国立がん研究センター「多目的コホート研究(JPHC Study)」
https://epi.ncc.go.jp/jphc/


■ 根拠④:年間2,825億円の経済的損失——最新の国内研究(2026年)

2026年4月、国際学術誌『Journal of Public Health』(Oxford University Press発行)に、日本における座りすぎの経済的コストを推計した研究が掲載されました。

東京都健康長寿医療センター研究所の光武誠吾研究員、早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授らの研究グループが公的な全国統計情報等をもとに推計した結果、

項目 金額(95%信頼区間)
経済的負担(合計) 約2,825億円(2,589億〜3,060億円)
うち直接医療費 約2,384億円(2,153億〜2,615億円)
うち間接費(生産性損失等) 約441億円(243億〜610億円)

疾患別では、外来医療費では糖尿病、入院医療費では認知症による経済的負担が最も大きいことが示されました。

また、研究グループはこの推計が控えめな試算であるとも指摘しています。処方薬費・介護サービス費・家族の介護負担・欠勤などの損失が含まれておらず、実際の負担はさらに大きい可能性があります。

出典:
光武誠吾ほか「The Economic Costs of Excessive Sedentary Behaviour in Japan」
Journal of Public Health(Oxford University Press)、2026年4月24日掲載
DOI: 10.1093/pubmed/fdag029
プレスリリース:東京都健康長寿医療センター・早稲田大学(2026年5月12日)
https://www.tmghig.jp/research/release/2026/0512.html


■ まとめ:座りすぎが危険な4つの根拠

根拠 内容 出典
① メタ解析(複数研究統合) 座位時間が長い群は心血管疾患死亡リスク1.89倍、総死亡1.58倍 厚生労働省 e-ヘルスネット
② WHO・厚労省の指摘 運動習慣があっても座りすぎは肥満・糖尿病・心臓病・死亡リスクを高める 厚労省「身体活動・運動ガイド2023」・WHO指針
③ 日本人大規模コホート 職業性座位時間の長さと全死亡リスク上昇の関連を確認 国立がん研究センター JPHC研究
④ 経済損失推計(最新) 座りすぎによる慢性疾患の経済的負担は年間約2,825億円 光武ほか(2026)Journal of Public Health

■ 私たちにできること——今日から始める「座りすぎ対策」

研究者たちは、個人の努力だけでなく、社会・職場・地域の環境整備が重要だと指摘しています。

個人でできること

  • 30〜60分に1回、立ち上がる習慣をつける
  • テレビを見ながらでもストレッチや軽い体操を取り入れる
  • 職場でスタンディングデスクや昇降デスクを活用する

社会・行政として求められること

  • 健診・保健指導の場に座位行動チェックを取り入れる
  • 職場環境整備の促進(座りすぎを防ぐレイアウト・休憩ルール)
  • 地域の健康づくり施策に「座らない時間をつくる」視点を組み込む

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」でも、座位行動の悪影響への注目が明記されており、国の施策としての重要度は今後さらに高まると考えられます。


■ おわりに

「座っているだけで病気になるはずがない」——そう思いがちですが、科学的な証拠は、長時間の座位が死亡リスクや医療費を着実に押し上げることを示しています。

健康寿命の延伸は、すべての人にとっての願いです。身近なところから「座りすぎない」生活を意識し、地域・職場全体でその環境をつくっていくことが、私たちの健康と社会の持続可能性を守ることにつながります。


【参考資料・出典一覧】

  1. 東京都健康長寿医療センター研究所・早稲田大学「日本の成人における座りすぎに伴う慢性疾患による経済的負担は年間約2,825億円と推計」プレスリリース(2026年5月12日)
    https://www.tmghig.jp/research/release/2026/0512.html
  2. 光武誠吾・柴田愛・石井香織・Neville Owen・岡浩一朗「The Economic Costs of Excessive Sedentary Behaviour in Japan」Journal of Public Health(Oxford University Press)、DOI: 10.1093/pubmed/fdag029、2026年4月24日掲載
  3. 厚生労働省「e-ヘルスネット:座位行動」
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
  4. 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
  5. 世界保健機関(WHO)「身体活動および座位行動に関するガイドライン(2020年)」
  6. 国立がん研究センター「多目的コホート研究(JPHC Study)」
    https://epi.ncc.go.jp/jphc/

本記事は上記公式資料・学術論文に基づき作成しています。

中東情勢が直撃・建設資材の高騰不足で何が起きているか【第二弾】~設備工事費の急騰と発注者・施主への緊急のお願い~

建設 生活 経済 / 2026年5月19日

前回の記事では、中東情勢を背景とした建設資材の高騰と不足の現状についてお伝えしました。多くの方にご覧いただき、ありがとうございました。
今回は「第二弾」として、特に深刻化している設備工事費の急騰と、民間事業者・施主の皆さまへの具体的なお願いについてお伝えします。


■ まず確認——建設コストは今どこまで上がっているのか

日本建設業連合会(日建連)が2026年5月に発表した最新資料(「建設資材高騰・労務費の上昇等の現状〔四半期版〕2026年春版」)によると、建設資材物価は2021年3月と比較してこの5年間で37%上昇しています(一般財団法人建設物価調査会の推計)。

直近の2年間に絞ってみても、2024年3月比で7%上昇(建設総合平均)しており、特に土木部門では10%上昇と、上昇が止まらない状況が続いています。

主な品目の上昇率(直近2年間:2024年5月号→2026年5月号、東京)は以下のとおりです。

品目 上昇率(2年比較)
600Vビニル絶縁電線 IV 1.6mm単線 55%上昇
アルミ地金 43%上昇
ストレートアスファルト 29%上昇
生コンクリート 20%上昇

出典:一般財団法人建設物価調査会「建設物価」2024年5月号・2026年5月号掲載価格(東京)の比較


■ 労務費(職人さんの賃金)も急上昇

「公共工事設計労務単価(全国・単純平均)」は、この2年間で9.5%引き上げられ、全国全職種加重平均値が25,834円となり、初めて25,000円を超えました(2026年2月27日・国土交通省発表)。

また、国土交通大臣と日建連を含む建設関係4団体は、2026年の技能労働者の賃上げ目標を**「おおむね6%」**と申し合わせており、現場の人件費はさらに上昇する見込みです(国土交通省不動産・建設経済局建設業課長通知、2026年3月25日)。

材料費割合を50〜60%、労務費率を30%と仮定した場合、この2年間の資材高騰・労務費上昇の影響で、全建設コストは平均4.4〜5.1%上昇しています(土木部門5.8〜6.8%上昇、建築部門3.7〜4.3%上昇)。


■ 特に深刻——設備工事費の「別次元」の高騰

ここからが今回の本題です。設備工事(電気・空調・衛生・昇降機など)の費用上昇は、建設資材の平均的な指数をはるかに超えています。

日建連が大手建設会社12社を対象に調査した結果(2020年12月→2026年3月比較)では、特注品等の設備機器の価格上昇率は以下のとおりです(出典:「設備工事費上昇等の現状について 2026年春版」日建連発行)。

設備の種類 上昇率(約5年間) 物価調査会の汎用品指数との比較
空調機類(特注品) 111%上昇 物価調査会:約23%上昇
自動制御 126%上昇 物価調査会:約57.8%上昇
変電設備 71%上昇 物価調査会:数値なし
自家発電装置 94%上昇 物価調査会:数値なし
エレベーター(特注品) 98%上昇 物価調査会:数値なし
ダクト類 74%上昇 物価調査会:約23.8%上昇

※数値は大手建設会社12社(一部11社)の調査価格を平均したもの。個々の機器の値上がり状況を示すものではありません。

なぜこんなに高いのか? 主な理由は以下のとおりです。

  • 大規模建築物では特注品が多く、汎用品ベースの物価調査会指数に反映されない
  • 全国で工場・データセンター・大型再開発が同時進行し、設備工事の需給が極めてタイトになっている
  • **時間外労働の上限規制(2024年度適用)**により、追加経費が発生している
  • 遠方からの技能労働者の宿泊費・交通費など、現場経費も上昇している

■ 中東情勢が追い打ちをかけている

2026年4月24日時点(日建連会員ヒアリング)によると、中東情勢の影響により、建設資材・設備を問わず広範な品目で納期遅延・価格改定・受注停止が発生しています(出典:「中東情勢による建設資材の調達への影響について」日建連発行)。

特に深刻なのが、石油系素材を使った製品への影響です。防水材(アスファルト防水・ウレタン防水)、シーリング材、塗料・シンナー類、樹脂配管・樹脂バルブ、断熱材(スタイロフォーム等)など、内装・仕上・設備の幅広い分野で「価格改定・納期遅延・受注制約」が同時に発生しています。


■ エレベーターは「今すぐ発注しても2027年度以降」

昇降機(エレベーター)の需給ひっ迫は特に顕著です。同資料によると、首都圏の場合の対応可能時期は次のとおりです。

  • 15人乗りを超えるエレベーター(特注品):原則として2027年度以降着工(メーカーによっては2033年度以降)
  • 超高層建物用エレベーター(特注品):原則として2029年度以降着工(メーカーによっては2033年度以降)

今からご計画の建物に大型エレベーターが必要な場合、工期全体への影響を含めた早急な相談が不可欠です。


■ 発注者・施主の皆さまへ——今すぐ必要な対応

日建連は、民間事業者・施主の皆さまに対して、以下の点について理解と協力を求めています。

1. 設備工事費の適正な価格での発注を

上述のとおり、設備工事費は物価調査会の平均指数を大幅に上回っています。各建設会社から個別説明を受けた上で、実態に即した価格での発注をお願いします。

2. 早めの相談・発注を

設備協力会社はすでに多くの工事を抱えており、すぐに着工できる状態ではありません。少しでも早い段階での相談が、コスト増を抑え、適切な工期確保につながります。

3. 適正な工期の確保を

設備協力会社においても、建設業の時間外労働上限規制に対応した「4週8閉所(週休2日)」の取り組みが進んでいます。工期が短すぎる案件は受注を回避される傾向があります。余裕のある工期設定をお願いします。

4. 設計変更・着工時期変更はできるだけ避けて

設計段階での仕様変更、着工後の設計変更、着工時期の変更は、工期遵守の上で大きな負担・コスト増につながります。できる限り早期に仕様を確定させてください。


■ 国への対応策も求められている

こうした事態は、個々の発注者・施主と建設会社だけの問題ではありません。建設資材の安定供給確保、労務費の適正反映、工期・工費の適正化に向けた国レベルの政策対応も引き続き求められています。

現在、国土交通省においても建設資材の安定供給確保に向けた取り組みが進められていますが、中東情勢や円安、世界的な資源価格の高騰が続く中、さらなる対策の強化が必要です。


■ まとめ

項目 現状
建設資材物価(5年間) 37%上昇(建設総合平均)
建設資材物価(2年間) 7%上昇(建設総合平均)
公共工事設計労務単価(2年間) 9.5%引き上げ
全建設コスト(2年間) 4.4〜5.1%上昇(平均)
設備工事費(特注品・約5年間) 71〜126%上昇(品目による)
エレベーター着工可能時期(首都圏) 2027年度以降〜2033年度以降

建設工事を計画している事業者・施主の皆さまには、最新の建設コストの実態をご理解いただいた上で、早期相談・適正価格・適正工期での発注計画を立てていただくことが、今もっとも重要な対応策です。



【参考資料・出典】


この記事は上記資料をもとに作成しています。個別案件の工事費・工期については、必ず担当建設会社にご確認ください。

「家族がいるのに寂しい」の正体。健康を蝕む『家庭内孤立』のリスク

保健 家族 / 2026年5月15日

「家族と一緒に暮らしているから、自分は孤独とは無縁だ」 そう思っている方は多いかもしれません。しかし、現実は必ずしもそうではないようです。

東京都健康長寿医療センター研究所が発表した調査結果によると、同居家族がいても心理的に孤立している「家庭内孤立」の状態にある人は、実は一人暮らしの人よりも精神的な健康状態が悪化しやすいという衝撃的な実態が明らかになりました。

今回の研究で注目すべきポイントをまとめました。

  • 「同居=安心」ではない:家族と同居していても、会話や頼り合える関係がない「家庭内孤立」の状態は、精神的健康に深刻な悪影響を及ぼします。

  • 一人暮らし以上のリスク:客観的に一人で暮らしている人よりも、家族の中にいながら孤独を感じている人の方が、心理的な苦痛が強い傾向にあります。

  • 「つながりの質」が重要:単に一緒に住んでいることよりも、困った時に相談できたり、日常的な交流があったりといった「関係性の質」こそが、私たちの心を守る鍵となります。

「同じ屋根の下に誰かがいればいい」というわけではなく、大切なのはその中身です。 もし、家族と一緒にいても強い孤独感や疎外感を感じているのなら、それは個人の性格の問題ではなく、健康を脅かす一つの「リスク」として捉える必要があるかもしれません。

今の時代、物理的な距離よりも「心の距離」に目を向けることが、健やかに生きるための第一歩と言えそうです。

出典:「同居家族がいるから安心」とは限らない 家庭内孤立と精神的健康の関連を解明|研究成果|地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所 の資料より


【参照元記事】 <プレスリリース>「同居家族がいるから安心」とは限らない 家庭内孤立と精神的健康の関連を解明|研究成果|地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所

介護保険外でも~据置型手すりの設置と補強で安心~

介護 家族 / 2026年5月12日

妻から「93歳になる義母の足取りが最近少し心配なので、玄関に手すりを付けてほしい」と相談がありました。

義母は幸いなことに今も元気で、自分の足で歩いています。
しかし、それゆえに「介護保険」の対象外。 転倒予防のために何かしたくても、公的な支援の枠組みにはなかなか入り込めないのが現実です。

「今すぐ」欲しいのに、立ちはだかる申請の壁

最初はアンカーを打つような本格的な工事も検討しましたが、制度を利用しようとすると「事前の見積もり」や「申請」が必要になり、許可が出るまで時間がかかります。

「転倒のリスクは、明日やってくるかもしれない」

家族としては、今この瞬間の不安を解消したいのです。行政の判断を待っている間に万が一のことがあっては本末転倒。
さらに、助成対象となる正規の工事は、たとえ補助が出たとしても、自己負担額が跳ね上がってしまうという矛盾もあります。

工夫で解決。低価格でも「安心」は作れる

そこで今回は、段差にも対応できる「置くだけ」タイプの手すりを探しました。既製品はどれも驚くほど高価でしたが、その中でも最もリーズナブルなものを2セット購入。
組み立てと設置には約2時間ほどかかりました。
そのまま置いただけでは、プレートに体重を乗せないと少し不安定な面もありましたが、そこはDIYの出番です。玄関の柱や既存の門扉をうまく活用して補強・固定したことで、案外しっかりとした仕上がりになりました。

「予防」を阻む制度の課題

今回の経験を通じて痛感したのは、「予防のための住宅改修」がいかにハードルが高いかということです。

  • スピード感: 申請主義によるタイムラグ。
  • コストの逆転: 助成を受けるための高い工事費 vs 自分で工夫する安価な対策。
  • 自立高齢者への支援: 「元気なうちの予防」こそ重要なのに、そこへの支援が手薄。

制度が整うのを待つのではなく、現場の状況に合わせて知恵を絞り、迅速に動くことか。
今回はなんとか形になりましたが、こうした「制度の網の目から漏れるニーズ」をどう救い上げていくか。
一市民として、また高齢者を抱える家族の一員として、毎回、考えさせられることです。
とりあえず、これで義母も、安全に外出できるようになればと願っています。

なぜ今、動物との関わりが医療を救うのか?研修で得られる「癒やし以上の価値」

介護 医療 / 2026年5月11日

「動物と触れ合うと癒やされる」

これは多くの人が経験的に知っていることです。しかし、今、日本の医療・福祉の現場では、単なる「癒やし」を超えた、科学的根拠に基づく「動物介在療法(Animal Assisted Therapy)」への注目が急速に高まっています。

深刻な人手不足、患者のQOL(生活の質)向上、そして医療従事者自身のメンタルヘルス。こうした現代医療が抱える課題に対し、動物たちは驚くべき「力」を発揮し始めています。

本記事では、「人間と動物の医療福祉を豊かにするための研修事業」から、なぜ今、医療・福祉現場で動物との関わりが求められているのか、そして、それを正しく現場に導入するための「研修事業」がもたらす真の価値についてまとめてみました。

医療現場が動物を必要とする、これだけの理由

かつて、医療現場への動物の立ち入りは、衛生面のリスクからタブー視される傾向にありました。しかし、厳格な衛生管理プロトコルの確立とともに、そのメリットが科学的に証明されつつあります。

1. 「心の扉」を開く、究極のアイスブレイク

長期入院や慢性的な疾患を抱える患者は、心を閉ざし、治療への意欲を失ってしまうことがあります。医療従事者がどれほど言葉を尽くしても届かない時、一匹のセラピードッグが寄り添うだけで、患者の表情が劇的に和らぎ、会話が生まれる瞬間があります。

動物は、相手をジャッジ(評価)しません。無条件の受容と愛情を向けるその存在は、患者にとって「安全な場」を作り出し、治療への前向きな姿勢を取り戻すきっかけとなります。

2. 生理的な効果:ストレス軽減と痛みへのアプローチ

動物との触れ合いは、単なる気休めではありません。科学的な研究により、以下のような生理的変化が確認されています。

  • ストレスホルモン(コルチゾール)の低下

  • 幸福ホルモン(オキシトシン、ドーパミン)の分泌促進

  • 血圧・心拍数の安定

これらの効果は、患者の不安を和らげるだけでなく、痛みの閾値を上げ、鎮痛剤の使用量を減らせる可能性も示唆されています。リハビリテーションにおいては、動物と一緒に歩くことで、痛みを忘れて運動量が増えるといった具体的な成果も報告されています。

3. 医療従事者のメンタルヘルスケア

動物の効果は、患者だけにとどまりません。過酷な労働環境にある医療・福祉従事者にとっても、現場に動物がいることは大きな支えとなります。職場の雰囲気が明るくなり、スタッフ間のコミュニケーションが円滑になることで、燃え尽き症候群の予防にも寄与します。

研修事業がもたらす「癒やし以上の価値」:プロフェッショナルの育成

「動物がいれば、それだけで良い」わけではありません。医療・福祉現場に動物を導入するには、動物の福祉(ウェルフェア)を守り、かつ患者への安全と効果を担保するための、高度な専門知識と技術が必要です。

研修事業では、単に動物と触れ合う楽しさを伝えるのではなく、医療・福祉のプロフェッショナルとして、動物を「治療・支援のパートナー」として迎えるための包括的なカリキュラムを提供しています。

研修で学ぶ、核心的なコンテンツ

  1. 動物介在活動・療法の科学的根拠(エビデンス)

    • 最新の研究データに基づき、どのようなメカニズムで効果が生まれるのかを深く理解する。

  2. 動物の行動学と福祉(ウェルフェア)

    • セラピー活動に参加する動物のストレスサインを読み解き、彼らの健康と権利を守る方法を学ぶ。動物が幸せでなければ、質の高いセラピーは成立しません。

  3. リスクマネジメントと衛生管理

    • 感染症対策、事故防止、アレルギーへの対応など、医療機関として不可欠な安全基準の習得。

  4. 現場での実践力と多職種連携

    • 医師、看護師、理学療法士、介護福祉士など、異なる専門職がどのように動物と連携し、個々の患者のケアプランに組み込んでいくかを学ぶ。

研修が生み出す、新しい価値の循環

この研修事業を通じて、受講者は「動物を介して患者の心身に深くアプローチできる、新しい専門性」を身につけます。それは、自身のキャリアにおける強力な武器となるだけでなく、勤務する施設に「先進的で質の高いケア」という独自の価値をもたらします。

結び:人間と動物が、共に支え合う未来へ

今、医療・福祉現場は、かつてない変革の時を迎えています。テクノロジーの進化も重要ですが、最終的に人の心を救うのは、温もりのある「関わり」です。

動物との関わりは、医療を「救う」ための、強力で、そして最も優しい選択肢の一つです。

この研修事業は、その可能性を信じ、人間と動物がそれぞれの福祉を尊重し合いながら、共に支え合える豊かな社会の実現を目指しています。