大津市議会議員 佐藤弘

一人のひとを どこまでも大切に 心豊かな まちづくりを目指します

未来に効く薬を残すために ― 薬剤耐性(AMR)と「かぜに抗菌薬」の問題

医療 情報 / 2026年4月30日

本年(令和8年)3月23日、厚生労働省は「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2025(NAOR Highlight 2025)」を公表しました。これは、ヒト・動物・食品・環境にまたがる薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)の最新動向を国がとりまとめた公式資料であり、抗菌薬が効かなくなる「サイレントパンデミック」と呼ばれる世界的脅威に対し、日本がどのように向き合っているかを示すものです。私はこの報告書を拝見し、改めて住民の皆様と問題意識を共有したいと考えた次第です。

報告書および厚生労働省の公式説明によれば、抗微生物剤(抗菌薬・抗生物質を含む)の不適正使用により、これらの薬が効かなくなる、あるいは効きにくくなる現象を薬剤耐性(AMR)といい、AMRに対してこのまま何も対策がとられないと、2050年には全世界でAMR関連の死亡者数は毎年1,000万人に上り、がんによる死亡者数を上回ると指摘されています(出典:英国オニール委員会報告書、2014年12月)。

今回公表された2025年の報告書からは、日本の現状について次のような事実が浮かび上がります。ヒト用抗菌薬の使用量は、2024年は人口千人あたり12.96 DID(1日使用量)であり、2020年と比較して約27.3%増加していること(2027年目標:2020年比15%減)。また、一般国民を対象とした意識調査では、依然として約4割の方が「抗生物質はウイルスをやっつける」「風邪やインフルエンザに抗生物質は効果的だ」と誤って認識しており、約2割が「抗生物質の内服を自己判断で中止した経験がある」、約1割が「抗生物質を自宅に保管している」と回答していることが明らかになりました。診療所医師への調査でも、感冒(かぜ)と診断した患者やご家族が抗菌薬処方を希望した際に「希望通り処方する」「説明しても納得しなければ処方する」との回答が合わせて約58%に上っています。

私自身、医師の専門的判断を疑うものではありません。しかし、現場では「かぜをひいたのですぐに注射を打ってほしい」とお求めになる方や、「念のため抗菌薬を出しておきましょう」と処方されるケースもあると聞きます。今回の動向調査の数字は、まさにこの「念のため」と「自己判断」の積み重ねが、未来の医療を脅かしかねないことを示していると言えるでしょう。

AMR臨床リファレンスセンターも明確に示しているとおり、かぜの原因の多くはウイルスであり、細菌を標的とする抗菌薬はかぜには効果が期待できません。薬剤耐性菌のまん延を防ぐためには、国民の皆様お一人おひとりのご理解とご協力が不可欠です。

私たち一人ひとりにできること

AMR臨床リファレンスセンターは、私たちの日常で実践できる対策として次の点を挙げています。

第一に、抗菌薬はかぜには効かないという正しい知識を持つこと。第二に、手洗いとワクチン接種など、そもそも感染しない・うつさない予防行動を徹底すること。第三に、処方された抗菌薬は医師の指示どおり、量・回数・日数を守って最後まで服用すること。そして、残った抗菌薬を取っておいて自己判断で飲んだり、家族や知人に分け与えたりしないことです。

「かしこく治して、明日につなぐ」――これは厚生労働省と国立健康危機管理研究機構AMR臨床リファレンスセンターが掲げるキャッチコピーです。今日の「念のため」を減らすことが、未来の自分や子どもたちに効く薬を残すことにつながります。


【参考資料】