地名は誰のものか―失われる地域の記憶をどう守るか
私たちは日常的に駅名や町名、住所を使っていますが、地名は単なる場所のラベルではありません。その土地の歴史や文化、暮らしの記憶を宿す大切な社会資産です。ところが、日本では地名の命名や管理、表記が行政機関ごとに個別に扱われてきたため、統一的な方針が弱く、さまざまな問題が起きていると、日本学術会議がまとめた地名問題に関する文書で指摘しています。
文書が問題視しているのは、まず市町村合併や住居表示の変更、再開発などによって歴史ある地名が消えていることです。地域の由来や記憶を伝えてきた名前が失われると、その土地らしさも薄れてしまいます。さらに、ローマ字表記や外国地名の日本語表記が統一されていないため、観光や物流、行政の現場でも混乱が生じています。加えて、公共施設などの名称が商業化によって頻繁に変わることも、市民の空間認識を不安定にする要因だとされています。
こうした課題に対し、日本学術会議は三つの対応策を提案しています。
- 行政・研究者・市民などが連携する横断的な組織を設け、地名の命名や変更に助言できる体制をつくること。
- 歴史的地名や災害に関わる地名も含めた地名データベースを整備し、標準化とデジタル化を進めること。
- 国際的な地名ルールづくりに参加し、先住民の言語文化の尊重などを国内制度にも反映させることです。
市民にとって望ましいのは、地名が一部の都合で簡単に失われたり変えられたりせず、公共性と地域性の両方が守られる社会です。
使いやすさのための標準化は必要ですが、それと同時に、その土地の歴史や文化への敬意も欠かせません。
地名を「みんなの共有財産」として扱い、便利さと記憶の継承を両立させる仕組みこそ、これからの社会に求められているのではないでしょうか。
