大津市議会議員 佐藤弘

一人のひとを どこまでも大切に 心豊かな まちづくりを目指します

未来に効く薬を残すために ― 薬剤耐性(AMR)と「かぜに抗菌薬」の問題

医療 情報 / 2026年4月30日

本年(令和8年)3月23日、厚生労働省は「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2025(NAOR Highlight 2025)」を公表しました。これは、ヒト・動物・食品・環境にまたがる薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)の最新動向を国がとりまとめた公式資料であり、抗菌薬が効かなくなる「サイレントパンデミック」と呼ばれる世界的脅威に対し、日本がどのように向き合っているかを示すものです。私はこの報告書を拝見し、改めて住民の皆様と問題意識を共有したいと考えた次第です。

報告書および厚生労働省の公式説明によれば、抗微生物剤(抗菌薬・抗生物質を含む)の不適正使用により、これらの薬が効かなくなる、あるいは効きにくくなる現象を薬剤耐性(AMR)といい、AMRに対してこのまま何も対策がとられないと、2050年には全世界でAMR関連の死亡者数は毎年1,000万人に上り、がんによる死亡者数を上回ると指摘されています(出典:英国オニール委員会報告書、2014年12月)。

今回公表された2025年の報告書からは、日本の現状について次のような事実が浮かび上がります。ヒト用抗菌薬の使用量は、2024年は人口千人あたり12.96 DID(1日使用量)であり、2020年と比較して約27.3%増加していること(2027年目標:2020年比15%減)。また、一般国民を対象とした意識調査では、依然として約4割の方が「抗生物質はウイルスをやっつける」「風邪やインフルエンザに抗生物質は効果的だ」と誤って認識しており、約2割が「抗生物質の内服を自己判断で中止した経験がある」、約1割が「抗生物質を自宅に保管している」と回答していることが明らかになりました。診療所医師への調査でも、感冒(かぜ)と診断した患者やご家族が抗菌薬処方を希望した際に「希望通り処方する」「説明しても納得しなければ処方する」との回答が合わせて約58%に上っています。

私自身、医師の専門的判断を疑うものではありません。しかし、現場では「かぜをひいたのですぐに注射を打ってほしい」とお求めになる方や、「念のため抗菌薬を出しておきましょう」と処方されるケースもあると聞きます。今回の動向調査の数字は、まさにこの「念のため」と「自己判断」の積み重ねが、未来の医療を脅かしかねないことを示していると言えるでしょう。

AMR臨床リファレンスセンターも明確に示しているとおり、かぜの原因の多くはウイルスであり、細菌を標的とする抗菌薬はかぜには効果が期待できません。薬剤耐性菌のまん延を防ぐためには、国民の皆様お一人おひとりのご理解とご協力が不可欠です。

私たち一人ひとりにできること

AMR臨床リファレンスセンターは、私たちの日常で実践できる対策として次の点を挙げています。

第一に、抗菌薬はかぜには効かないという正しい知識を持つこと。第二に、手洗いとワクチン接種など、そもそも感染しない・うつさない予防行動を徹底すること。第三に、処方された抗菌薬は医師の指示どおり、量・回数・日数を守って最後まで服用すること。そして、残った抗菌薬を取っておいて自己判断で飲んだり、家族や知人に分け与えたりしないことです。

「かしこく治して、明日につなぐ」――これは厚生労働省と国立健康危機管理研究機構AMR臨床リファレンスセンターが掲げるキャッチコピーです。今日の「念のため」を減らすことが、未来の自分や子どもたちに効く薬を残すことにつながります。


【参考資料】

それは得か?損か?複雑に絡む社会保険制度を学ぶ

党活動 社会保障 議員活動 / 2026年4月29日

4月27日、公明党滋賀県本部の社会保険研修会において、藤井社会保険労務士事務所(大津市)の藤井貞男社会保険労務士を講師にお招きし、社会保険制度の基礎から実践的な相談対応まで幅広くご講義いただきました。今回は研修の中で特に「目からウロコ」だった2つのテーマを市民の皆さんにも共有します。


テーマ① 老齢年金の「繰り下げ受給」は本当に得なのか

「65歳よりも遅く年金を受け取り始めれば、その分金額が増える」——これは事実です。しかし、繰り下げが必ずしも「得」とは言えないケースがあることを研修で改めて確認しました。

繰り下げると年金額はどれだけ増えるのか

老齢年金の繰り下げ受給では、1ヶ月繰り下げるごとに0.7%増額されます。

受給開始年齢 増額率
65歳(基準) ±0%
70歳まで繰り下げ +42%
75歳まで繰り下げ +84%

一見、大きなメリットに思えますが、次の5つの落とし穴があります。

「繰り下げが得になるとは限らない」5つの理由

① 家族構成による影響:加給年金が止まる

老齢厚生年金には、「加給年金」という家族手当のような上乗せ給付があります。受給者が一定の要件を満たす配偶者や18歳未満の子を扶養している場合に加算されますが、老齢厚生年金を繰り下げている間は、加給年金も受け取れません。

加給年金額(令和8年度)の目安は以下の通りです。

  • 配偶者分:約39万7,500円/年(月約3万3,100円)
  • 子1人分:約22万7,900円/年

70歳まで5年間繰り下げた場合、その間の加給年金(配偶者分だけで約198万円)を丸ごと受け取れないことになります。繰り下げで増える年金額と、繰り下げ期間中に失う加給年金を必ず比較してください。子どもが多い世帯ほど、この影響は大きくなります。

② 配偶者との年齢差:繰り下げ中の生活費をどう賄うか

年金を繰り下げる期間は、年金収入がゼロ(または減少)になります。その間の生活費は、貯蓄・配偶者の収入・就労収入などで賄わなければなりません。

例えば、夫65歳・妻60歳(5歳差)で夫が70歳まで繰り下げる場合、繰り下げ期間5年間の生活費は月25万円とすると25万円×60ヶ月=1,500万円となります。これを貯蓄から取り崩す場合、金融資産の状況によっては現実的でない場合もあります。

年齢差が大きい(夫が年上など)場合、妻がまだ若く働いている間は夫の年金を繰り下げられても、配偶者が高齢になってからは生活費の確保が難しくなる場合があります。保有する金融資産・固定資産の状況も踏まえて判断することが重要です。

③ 18歳以下の子がいる場合:子の加算が受けられない

老齢基礎年金には、一定の子(18歳到達年度末まで、または1・2級障害の20歳未満)がいる場合に「子の加算」が加わります。しかし、老齢基礎年金を繰り下げている間はこの加算も止まります。

子の加算額(令和8年度)の目安は以下の通りです。

  • 第1子・第2子:各約22万7,900円/年
  • 第3子以降:各約7万5,900円/年

例えば、50歳で子をもうけた場合、65歳時点で子は15歳です。老齢基礎年金を68歳まで繰り下げると、子の加算(3年分=約68万円)を受け取れません。晩婚化・晩産化が進む現代では、65歳時点でまだ子が18歳以下という方も珍しくありません。該当する場合は必ず確認が必要です。

④ 国民健康保険料・所得税が増える

繰り下げにより年金月額が増えると、それに連動して国民健康保険料と所得税の負担も増加します。「増えた年金額」がそのまま手取りになるわけではありません。

具体的なイメージとして、老齢基礎年金満額(令和8年度)は847,300円/年(70,608円/月)です。70歳まで繰り下げると70,608円×1.42=約100,300円/月となり、増加分は約29,700円です。しかし、この増加分に対して国民健康保険料(所得割)と所得税が課税されるため、手取りの増加は約29,700円より少なくなります。実際の増加額は市町村・世帯状況により異なりますが、増加分の2〜3割程度が税・保険料に消えるケースもあります。

国民健康保険料は前年の所得(年金収入)をもとに計算されます。住んでいる市町村によって保険料率が異なるため、必ず居住地の市区町村窓口や年金事務所で試算してもらうことをお勧めします。

⑤ 健康寿命:「損益分岐点」を超えて生きられるか

繰り下げ受給は、受け取り始めてから一定の年齢(損益分岐点)を超えて生きてはじめて、65歳受給開始より総受給額が上回ります。

70歳から受給を開始した場合、65歳〜69歳の5年間(60ヶ月)は年金ゼロです。70歳以降に増額分(42%)で5年分の取りこぼしを回収するにはおおよそ11〜12年かかるため、約81〜82歳が損益分岐点となります(税・保険料の増加を考慮するとさらに遅くなります)。

厚生労働省の公式データによると、日本人の平均寿命・健康寿命は以下の通りです。

  • 平均寿命:男性81.09歳、女性87.14歳(令和5年簡易生命表)
  • 健康寿命:男性72.57歳、女性75.45歳(令和4年度)

健康寿命と損益分岐点を比べると、健康寿命の時点ではまだ回収できていない可能性があります。介護状態になった後も年金は受け取れますが、自分でお金を使える状態かどうかも考慮が必要です。「長生きすれば得」は事実ですが、「いつまで健康でいられるか」という現実的な視点も同時に持つことが大切です。

繰り下げを検討する際のチェックリスト

  • 加給年金・子の加算の対象になっていないか
  • 繰り下げ期間中の生活費は確保できるか(金融・固定資産の確認)
  • 国保料・所得税の増加分を試算したか
  • 自分・配偶者の健康状態・健康寿命を考慮したか
  • 配偶者との年齢差・家族全体の収入状況を整理したか

繰り下げを検討する際は、必ず年金事務所または社会保険労務士への個別相談をお勧めします。個々の状況によって最適な選択は異なります。


テーマ② 「扶養に入ったまま収入を抑える」は本当に賢い選択か

「社会保険に入ると手取りが減る」「扶養の範囲で働く方が損をしない」——そう考えてパートの収入を106万円や130万円以内に抑えている方は少なくありません。しかし、研修では長期的な視点から見ると必ずしもそうとは言えないことが示されました。

社会保険加入のメリット vs デメリット

扶養のまま(社会保険未加入) 社会保険加入
視点 短期的な見方 長期的な見方
手取り額 増える 一時的に減る
傷病手当金 受給不可 受給可能
出産手当金 受給不可 受給可能
老齢厚生年金 増加なし 将来増加
障害厚生年金 受給不可 受給可能

傷病手当金とは何か

健康保険の被保険者(本人)が、業務外の病気やケガで休業する場合、月給の約3分の2が最長で通算1年6ヶ月支給されます(健康保険法第99条)。国民健康保険の被保険者や、健康保険の被扶養者(家族加入)の方は対象外です。

支給額の計算式:支給開始日以前12ヶ月間の各月標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × 3分の2

年収の壁と2026年の主な制度変更

現在、収入に応じて以下のような「壁」が存在します(2025〜2026年時点)。

年収 壁の種類 内容・変更点
93〜110万円 住民税 自治体により異なる。2025年分から住民税(均等割・所得割)が課税。
106万円 社会保険 従業員51人以上の企業・週20時間以上勤務等の要件で厚生年金・健康保険への加入義務。2026年10月に賃金要件撤廃予定。
130万円 社会保険 社会保険の被扶養者から外れる基準。2026年4月から判定方法が変更となり、労働契約書ベースでの年間収入見込みで判定。
178万円 所得税(本人) 令和8年(2026年)分から本人に所得税が課税開始。年収665万円以下が対象。

社会保険加入を長期的に考えると

社会保険に加入することで手取りは一時的に減っても、傷病手当金・出産手当金の受給権、老齢年金の増額、障害を負った場合の障害厚生年金受給など、長期的な生活保障が得られます。「損をしない」という短期的な判断だけでなく、ライフプラン全体で考えることが大切です。


まとめ

  • 年金の繰り下げ受給は単純に「得」とは言えず、家族構成・健康寿命・税負担への影響を踏まえた個別判断が重要。
  • 「扶養内」に収入を抑えることの短期的メリットと、社会保険加入による長期的な生活保障のメリットを比較することが大切。
  • 2026年4月から130万円の壁の判定方法が変更されており、最新情報の確認が必要。
  • 個別の状況については、社会保険労務士や年金事務所への相談を強くお勧めします。

制度は複雑で、一般的な「常識」が自分の状況に当てはまらないこともあります。

制度で給付されない支援機器は、どうすれば本人に届くのか

福祉 / 2026年4月28日

制度で給付されない支援機器は、どうすれば本人に届くのか

⑧ALSに負けるな!(再掲)

― 調査の趣旨と具体事例から見える、実用化までのアプローチ

公的制度で給付される補装具や日常生活用具だけでは、障害のある人の暮らしを十分に支えきれない場面があります。近年は、スマートフォンアプリ、ゲーム用アクセシビリティ機器、一般製品の工夫的活用、ICT・AIを活用した機器など、制度の対象外でも生活の質を大きく高める支援機器が増えてきました。今回の調査は、そうした**「制度で給付されない支援機器」**が、実際にどのような経路で障害当事者に届き、購入・活用に至っているのかを明らかにするために行われたものです。調査では、障害当事者19名、支援者6名へのヒアリング、支援機関等3件の現地調査を通じて、情報収集から継続使用までの流れと、その途中にある障壁が整理されています。日本総合研究所 報告書

参考図版として、調査元の記事には「制度対象外の支援機器が当事者に届くまでの一連の流れ」を示した図が掲載されています。全体像をつかむのに非常に分かりやすい図です。
障害当事者に制度対象外の支援機器が届くまでの一連の流れ
日本総合研究所 コラム記事

この調査の趣旨は、「機器があるのに、必要な人に届かない」実態を可視化すること

この調査のポイントは、単に「便利な機器を紹介する」ことではありません。むしろ重要なのは、制度の対象外であるために、機器の存在を知ること、相談すること、試してみること、買って使い続けることのすべてが、本人や家族の自助努力に大きく依存しているという現実を明らかにした点です。報告書では、制度外の支援機器が確実に当事者のもとへ届き、有効に使われるための普及啓発方法を検討することが調査目的だと示されています。日本総合研究所 報告書

「制度で給付されない支援機器」とは何か

報告書では支援機器を、障害当事者の生活を支援する幅広い範囲の機器の総称として捉えています。そのうえで、今回の調査対象には、福祉機器に限らず、一般製品やユニバーサルデザイン製品、障害者向けに開発されたが給付制度の対象外となっている製品などが含まれています。たとえば、スマートスピーカー、ゲーム用アクセシビリティツール、食事介助ロボット、歩行支援スマートフォンアプリ、会話可視化ツール、認知行動療法アプリ、軽い力で使えるハサミ、スマホ用首下げストラップなどが該当します。つまり、制度外支援機器とは「高価な専用機器」だけを指すのではなく、本人の困りごとを具体的に解決するものであれば、一般製品の工夫的利用も含まれるというのが重要な視点です。日本総合研究所 報告書 日本総合研究所 ストーリー集

活用に至るまでの流れは、一直線ではなく「気づき」から始まる

調査では、支援機器が本人に届くまでの流れを、概ね「きっかけ」「情報収集」「機器選定」「購入」「使用」「適合・継続使用」という段階で整理しています。最初の出発点は、本人や家族が困りごとに気づく場合もあれば、支援者の助言、SNSや動画、当事者コミュニティ、展示会、店舗で偶然見かけることがきっかけになる場合もあります。その後、インターネット検索、口コミ、実演動画、相談支援、試用体験などを通して、「これは自分の生活に本当に合うのか」「お金を出す価値があるのか」を見極め、ようやく導入に至ります。つまり制度外機器の普及では、製品そのものの性能だけでなく、“出会い方”と“試せる機会”が極めて重要だということです。日本総合研究所 報告書 日本総合研究所 コラム記事

具体事例1:発達障害のある子どもが使う「布張りの箱型筆箱」

ストーリー集で印象的なのは、発達障害のある子どもの筆箱の事例です。本人には「周囲と同じような見た目の布製筆箱を持ちたい」という思いがある一方で、実際には物の配置が分かりやすく整理しやすい構造が必要でした。そこで選ばれたのが、外見は周囲と馴染みやすく、中は整理しやすい布張りの箱型筆箱でした。この事例が示しているのは、支援機器の価値は「機能」だけでは決まらず、本人が受け入れやすい見た目や、学校生活の中で浮かないことも同じくらい重要だということです。支援とは、できることを増やすだけでなく、本人らしさや尊厳を守ることでもあります。日本総合研究所 ストーリー集

具体事例2:ALSのある人が使う「フットスイッチ付きドライヤー固定台」

ALSのある人の事例では、本人が日常の不便さを「当たり前」と受け止めてしまい、困りごととして自覚していなかったところに、支援者の問いかけが入りました。その結果、ドライヤーを自分で使いにくいことが課題として浮かび上がり、固定台とフットスイッチを組み合わせることで、自分で操作しやすい形が実現しました。さらにその工夫は、別のスイッチ操作にも応用されていきました。この事例から見えるのは、支援機器の導入は「本人が最初から欲しいと言っていたものを買う」だけではなく、支援者が潜在的な困りごとを一緒に言語化することで始まる場合が多いということです。日本総合研究所 ストーリー集

具体事例3:脳性麻痺のある人が見つけた「軽い力で使えるハサミ」

脳性麻痺のある人の事例では、「軽い力で使えるハサミ」が必要になり、本人がインターネット検索や動画、口コミを通じて情報を集め、価格と使い勝手を比較しながら購入に至っています。ここで注目したいのは、制度外機器の導入では、動画などで実際の使用場面を見られることが購入の後押しになる点です。福祉機器に限らず、使っている姿がイメージできることは、「自分にも使えそうだ」という納得感を生みます。日本総合研究所 ストーリー集 日本総合研究所 コラム記事

具体事例4:導尿道具のために選ばれた「一般のポーチ」

胸髄損傷のある人の事例では、導尿に必要な道具を持ち運ぶために、いわゆる福祉用具ではなく、一般の雑貨店で見つけたポーチが活用されていました。サイズ感や使いやすさに加えて、「いかにも福祉用具に見えないこと」が大きな価値になっていた点が特徴です。この事例は、制度外支援機器の世界では、一般製品の中から本人の生活感覚や美意識に合うものを見つける視点が非常に大切だと教えてくれます。日本総合研究所 ストーリー集

具体事例5:精神障害のある人が使う「認知行動療法アプリ」

精神障害のある人の事例では、リワーク施設などで認知行動療法に触れたことをきっかけに、複数のアプリを試しながらセルフケアの手段を探していった経緯が紹介されています。制度では給付されにくいデジタルアプリも、本人の生活に合えば日々の自己管理や心理的安定を支える重要な道具になります。この事例は、支援機器を「モノ」に限定せず、アプリやソフトウェアも含めて生活支援の手段として捉える必要性を示しています。日本総合研究所 ストーリー集


一般論として見えてくるアプローチ手法

では、制度で給付されない支援機器を本人に届け、活用につなげるには、どのようなアプローチが有効なのでしょうか。今回の調査から見えてくるのは、単に「情報を並べる」だけでは不十分で、発見から継続使用までを段階的に支えることが必要だという点です。日本総合研究所 報告書

まず重要なのは、本人が必要性に気づく“きっかけ”を増やすことです。本人や家族が困りごとを言語化できていない場合も多いため、医療・教育・就労・相談支援の現場で、日常生活の小さな不便さに目を向ける対話が欠かせません。支援者が「こういう方法もあるかもしれません」と選択肢を示すこと自体が、導入の出発点になります。日本総合研究所 報告書

次に必要なのは、情報を本人に届く形に翻訳することです。制度外機器は、製品名やスペックだけ見ても価値が伝わりにくいことが少なくありません。本人にとっては、「何ができるか」よりも「自分の暮らしのどの場面がどう楽になるか」が分かることのほうが大切です。そのため、実演動画、活用事例、当事者の口コミ、失敗例も含めたリアルな情報提供が効果的です。日本総合研究所 コラム記事 日本総合研究所 報告書

さらに、試用や伴走支援の仕組みも不可欠です。制度外機器は、買って終わりではなく、「自分の身体や生活に本当に合うか」を使いながら確かめる必要があります。試せる機会、調整を相談できる相手、導入後の困りごとに対応できる場があるかどうかで、継続使用のしやすさは大きく変わります。本人の状態変化や環境変化に合わせて見直せる支援があってこそ、活用は定着します。日本総合研究所 報告書

また、今回の事例からは、“福祉機器らしさ”にとらわれない発想も重要だと分かります。本人が使いたいと思えるデザイン、周囲に溶け込む見た目、一般製品の応用、アプリやソフトウェアの活用など、選択肢を広く捉えることが、結果として本人の自立や参加を支えます。支援機器とは、特別な製品の名前ではなく、その人の生活課題を解決する手段そのものなのだと考えることが大切です。日本総合研究所 ストーリー集 日本総合研究所 報告書

最後に、支援を個人の熱意や偶然の出会いに委ねないためには、地域差を減らす仕組みづくりが求められます。報告書でも、医療機関、教育機関、就労先、相談窓口など、本人や家族が必ず関わる場での情報提供体制や、全国どこでも一定水準の支援が受けられる仕組みの必要性が指摘されています。制度外機器の普及に必要なのは、製品の開発だけではなく、知る・試す・相談する・使い続けるための社会的な回路を整えることです。日本総合研究所 報告書


まとめ

この調査が教えてくれるのは、制度で給付されない支援機器の問題は、単なる「自己負担の問題」ではないということです。本当に大きいのは、必要な人が、必要なタイミングで、その機器の存在を知り、試し、納得して使い始め、使い続けられるかどうかです。支援機器を本人に届けるには、製品の良し悪しだけでなく、気づき、情報提供、試用、調整、継続支援までをつなぐアプローチが必要です。制度の内か外かではなく、その人らしい暮らしを支えるかどうかを基準に支援を考えることが、これからますます重要になるでしょう。日本総合研究所 コラム記事 日本総合研究所 報告書


「認知症の人をケアする家族等を取り巻く認知症施策のこれから」政策提言から

政治 社会保障 福祉 / 2026年4月28日

認知症の人を日々支える家族の負担は、制度が整ってきた今もなお大きく、見えにくいまま残されています。 特に、診断直後の不安、情報の届きにくさ、働きながらの介護、心理的負担、地域の支え合いの弱体化など、家族を取り巻く課題は多岐にわたります。

こうした現状を踏まえ、日本医療政策機構(HGPI)は2026年4月に 認知症の人をケアする家族等を取り巻く認知症施策のこれから」政策提言 を公表しました。

本記事では、この提言の中核となる 「7つの提言」 を、

  • なぜ必要なのか(課題)
  • 何を目指すのか(必要性)
  • どんな内容なのか(提言の内容) を、わかりやすい図解で整理して紹介します。その下にもテキストで一覧表にしました。

提言 課題 必要性 提言の内容
① オンライン・リンクワーカー 診断直後に情報が届かず家族が迷子になる 初期の不安・孤立を防ぎ、早期支援につなぐため 全国共通のオンラインナビサイトを整備し、診断直後から情報をプッシュ通知。相談窓口・地域資源へ確実に接続
② 家族支援の「報酬化」 家族支援が制度で評価されず、現場の善意に依存 支援の質を安定させ、継続的な家族支援を可能にするため 医療・介護で家族支援を報酬化。アセスメント〜支援〜再評価を加算として評価
③ 選べる認知症カフェ(機能タグ化) カフェの内容が分かりにくく参加しづらい 孤立防止の場として活用しやすくするため カフェに機能タグを付与し、自治体・医療機関が紹介しやすい仕組みを整備
④ 職域から届く家族支援 働きながら介護する人が職場で孤立 企業が早期発見・相談につなぐ役割を担うため 保険者単位で相談機能を整備し、企業がゲートキーパーとして地域につなぐ
⑤ 家族への心理支援の標準化 家族のうつ・疲弊が深刻だが支援が標準化されていない 心理的負担の軽減がケアの質向上につながるため CBT等の科学的根拠に基づく心理支援を標準化し、アクセス経路を整備
⑥ つながるケアDX 医療・介護・家族の情報がつながらず家族が“情報の運び屋”に 空白期間の孤立防止や早期対応のため 医療・介護・家族が共有できる情報基盤を整備し、継続的支援を実現
⑦ 未来に届く互助システム 地域の支え合い活動が担い手不足で持続困難 制度だけでは支えきれず地域の互助が不可欠 地域の相互扶助活動を継続できる財源・人材・運営の仕組みを整備

自治体の生成AI活用状況からー議会答弁から考えるAIと政治

AI生成機能 行政 議会 議員活動 / 2026年4月27日

総務省から、令和7年度「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」の調査結果が公表され、地方自治体での生成AIの導入推進や具体的な活用事例が掲載されています。
私たちの住む大津市でも、最新の調査報告を見ると生成AIの導入が進んでいることがわかります。
全国的な調査データを見ると、自治体における生成AIの活用用途のトップ3は以下のようになっています。

  1. あいさつ文案の作成(1,292件)
  2. 議事録の要約(1,131件)
  3. 議会の想定問答の文案の作成(1,085件)

この結果から、気になるのは、全国的に見て「議会想定問答の作成」に生成AIが活用されているケースが非常に多いのが特徴です。
大津市のデータを見ても、例規案や企画書案の作成などと並んで、やはり「議会の想定問答」での活用にチェックがついています。

ある人口約5.8万人の自治体の事例では、生成AIに過去の答弁を学習(RAG)させたことで、150問を超える質問のうち最大96%の答弁案作成や資料準備にAIを活用し、職員の深夜残業が減るなど大きな業務効率化が図られているそうです。
本市も含め、このように議会対応にAIが活用されていること自体は、職員の皆さんの負担軽減や働き方改革に繋がるため、決して否定するものではありません。むしろ、定型的な作業をAIに任せることで、より市民に寄り添った本質的な業務に時間を割けるようになる素晴らしい取り組みだと言えます。
ただ、ここで一つ感じるのは「答弁を作る側(行政)がAIをフル活用しているなら、質問をする側(議員)もAIを活用すべきではないか」ということです。
行政側が過去のデータや関連法令を瞬時に分析して精緻な答弁を準備してくるのであれば、議員側も生成AIを活用して多角的な視点から課題を分析し、より深く掘り下げた、鋭い議会質問を組み立てることがこれまで以上に重要になってくるはずです。
生成AIという強力なツールを、行政の「守り(答弁)」だけでなく、議会の「攻め(質問)」にも活かしていく。双方がテクノロジーを駆使して議論を深めることで、地方議会はより質の高い、市民にとって有意義な場へと進化していくのではないでしょうか。
これからの議会論戦が、AIのサポートによってどのように深化していくのか、一市民としても非常に楽しみです。

市民意見の聴取精度を高めるためにいま求められること

まちづくり 市民協働 行政 行革 / 2026年4月26日

―― 長野市の調査研究事例(令和8年3月)を手がかりに

はじめに ―― なぜ「市民意見の聴取」を改めて問い直す必要があるのか

人口減少、ライフスタイルの多様化、急速なデジタル化のなかで、自治体が市民の声をどう拾い上げ、政策に反映するかは、住民自治の根幹に関わる重大な課題となっている。市民アンケート、パブリック・コメント、ワークショップ、住民懇談会など、これまで多くの自治体で多様な手法が運用されてきたが、近年は回答率の低下、若年層の声の届きにくさといった構造的な課題が顕在化している。

この課題に正面から向き合い、新たな手法の検証と既存手法の精度向上を体系的に取り組んだのが、長野県長野市と一般財団法人地方自治研究機構が共同で実施した調査研究「市民意見の聴取に関する調査研究」(令和8年3月)である。本報告書は、公益財団法人日本財団の助成を受け、長野市の次期総合計画(令和9年度〜令和18年度)策定を見据えて取りまとめられたものであり、全国の自治体にとって示唆に富む内容となっている。

本稿では、同報告書の知見を踏まえ、議会人として市民意見聴取の精度・効果を高めるために何が必要かを、3つの視点から提案として整理したい。


第1部 ―― 長野市が直面した課題から見える「全国共通の構造的問題」

回答率の低下は確実に進行している

長野市の事例で最も衝撃的なのは、市民アンケートの回答率がこの数年で急速に低下している事実である。報告書によれば、長野市の「まちづくりアンケート」の全体回収率は、令和3年度の67.1%から、令和6年度には49.5%へと17.6ポイント低下している。同様に、第五次総合計画推進のための市民アンケートの回答率も、平成29年度の58.8%から令和6年度には42.8%へと低下した。

この水準まで回答率が下がると、報告書が指摘するように「データの信頼性低下やセグメント分析の困難化」が課題として顕在化する。施策の根拠資料としての性格上、これは看過できない問題である。

若年層の声が届かない構造

さらに深刻なのは、回答者の年齢構成の偏りである。令和6年度の総合計画推進のための市民アンケートでは、回答者全体に占める18歳〜39歳の若年層の割合は16.0%にとどまる一方、長野市の総人口に占める同年齢層の割合は24.2%。母集団と標本のかい離が約8ポイントに達している。

長野市は次期総合計画策定方針において「特に未来を担う若者世代の意見等を活かした計画とする」と明記しているが、現状の手法のままでは、この理念を達成することは困難である。

(出典) 一般財団法人地方自治研究機構・長野市『市民意見の聴取に関する調査研究』令和8年3月、第1章第2節「市民意見聴取の課題」(pp.20-21)、序章「調査研究の背景と目的」(p.3)


第2部 ―― 長野市が試みた解決策と全国60自治体の実態

新旧手法の併用という発想

長野市の調査研究で特筆すべきは、「デジタルプラットフォーム(以下、DP)による新手法」と「従来の郵送アンケートを中心とする旧手法」を二者択一ではなく、それぞれの特性を踏まえて連携・補完させるという視点である。

長野市は実証実験として、株式会社Groove Designsの「my groove」を活用し、「Nagano Canvas(ながの・キャンバス)」と銘打った市民意見プラットフォームを令和7年8月19日〜令和8年3月31日の期間で運用した。

全国アンケート調査が示した活用実態

報告書では、長野市以外の中核市・指定都市・特別区など84市区を対象とするアンケート調査が実施され、60件の有効回答が得られている。その結果、約45%(行っている41.7%+試行的3.3%)の自治体が既にDPを活用した意識調査を実施しており、デジタル手法の活用は確実に広がっていることが確認された。

導入の経緯として最も多かったのは「若年層が回答しやすいと考えたから」(70.4%)であり、これは多くの自治体が抱える共通の問題意識である。

一方で、運用上の課題として挙げられたのは以下の点である。

  • 回答数が安定的に確保できない(44.4%)
  • 不正回答や同一人物の複数回答への懸念が残る(29.6%)
  • 利用したプラットフォームの機能・操作性に課題(25.9%)
  • 高齢者層の参加がやはり十分ではない(22.2%)

つまり、デジタル化は若年層対策の万能薬ではなく、別の課題を生むという冷静な現実認識が必要である。

(出典) 同報告書、第2章第2節「他の自治体へのアンケート調査の実施」(pp.37-52)、第3章「デジタルプラットフォームによる市民意見聴取の実証実験」(pp.57-)


第3部 ―― 議会・行政が取り組むべき5つの提案

長野市の事例と全国調査の結果から、市民意見聴取の精度・効果を高めるために必要な視点を、以下の5点に整理して提案したい。

提案1 「問い」の質を最重要視する ―― テーマ設計に最も時間をかける

報告書の事業者ヒアリングで最も強調されていたのは、意見聴取の成否は「問い」の設計で決まるという点である。報告書は次のように記述している。

「投稿を考える者が、具体的な内容を考えることができる『問い』とすることで、短期間であっても多くの市民から意見を寄せられる結果となった事例がある一方、全てをカバーするような抽象度の高い『問い』とすると、期待するほどの回答が集まらない事例があった」

長野市のNagano Canvasでは、

  • 問1 「10年後など将来も暮らすときにどんなまちだと暮らしやすいですか?」
  • 問2 「10年後など将来も長野市に残したいものはなんですか?」

という、身近で具体的に答えやすい問いが設定された。その結果、問1には51名、問2には72名が選択式設問に回答し、自由記述にも30名(問1)・41名(問2)が投稿している。

議会・行政への提案として、アンケートやパブリック・コメントの設問を作成する際には、(1)市民の生活実感に即していること、(2)選択肢が精選されていること、(3)自由記述欄を併設して具体的な思いを汲み取ること――を要件として明文化することが望ましい。

提案2 「プロセスの可視化」と「フィードバック」を制度化する

報告書の事業者ヒアリングでは、意見が施策にどう反映されたかを示さなければ、次の投稿につながらないという指摘が複数社から挙げられている。

「後の取組にどのように意見が反映されたかが示されないと、意見を投稿した市民にとって、意見が役に立ったのかどうかが分からず、次の投稿に繋がらなくなる傾向にある」

議会・行政への提案として、(1)意見聴取がどの政策プロセスのどの段階に位置するかを冒頭で明示する、(2)聴取終了後、寄せられた意見への市の見解(採用・部分採用・不採用とその理由)を一覧で公表する、(3)個別意見への回答が困難な場合でも、意見の傾向と反映方針を文書化して公開する――この3点を制度として確立すべきである。

これは、現行のパブリック・コメント制度を含めた意見聴取制度全般に適用すべき原則である。

提案3 広報は「ターゲットを絞る」ことに徹する

報告書では、広報手法として最も効果的だったのは「公式SNS・公式LINE」(81.5%の自治体が活用)であった。事業者ヒアリングでも、以下のような重要な指摘がある。

「広報活動は、マスメディアを活用した広報ではなく、ターゲットを明確にした広報活動を行うことが効果的であるとの指摘がなされた。例えば、こどもに関連した計画の意見聴取に当たっては、母親向けのメディアに広告を出稿した事例などが挙げられた」

長野市のNagano Canvasでも、「市公式LINE(登録者約3万人)」「市公式アプリ(約7,000人)」「市公式X(フォロワー約19,000人)」を活用しつつ、市内商工会議所加入企業、金融機関、市立保育園・小中学校保護者へとターゲットを絞ったメール配信を段階的に実施している。

議会・行政への提案として、広報を「全体周知」と「ターゲット周知」の2層構造に分け、各テーマに応じた到達経路を事前に設計するべきである。特に、子育て世代には保育園・幼稚園・学校経由、若年層には大学・高等教育機関経由、高齢者には自治会・地域包括支援センター経由――というように、意見を聞きたい相手に確実に届く経路を意識的に選択する必要がある。

提案4 デジタルと対面(ワークショップ)を補完的に組み合わせる

長野市の実証実験では、Nagano Canvasに寄せられた意見をその後の総合計画審議会の作業部会(ひと部会・まち部会・産業部会、各15名程度)のワークショップに持ち込み、議論の起点として活用するという接続設計が行われた。

報告書では、Nagano Canvasの結果を踏まえた作業部会において「産業部会の『商工業』のテーマの中でも、ひと部会で扱う『こども・若者』やまち部会で扱う『コミュニティ』『都市整備』など、領域を横断する意見交換が積極的に行われた」と記録されている。

これは、デジタル意見聴取が単独で完結するのではなく、対面の熟議の質を高める入力情報として機能した事例として注目に値する。

議会・行政への提案として、市民意見聴取の設計段階から「デジタル→集約→対面熟議→計画反映→フィードバック」という一連の流れを描き、各段階の責任主体と期間を明記した工程表を作成すべきである。

提案5 母集団代表性の限界を認識し、複数手法を併用する

報告書は、Nagano Canvasの結果について重要な留意事項を明記している。すなわち、デジタル意見聴取は「回答者の属性が偏っている可能性があることなどから、母集団(市民)の代表性がない点に留意が必要」との指摘である。

実際に、Nagano Canvasの問1の回答者では、年齢を回答した人は76.5%にとどまり、約4分の1が年齢未登録であった(まちづくりアンケートでは99.9%が回答)。報告書はこの点について「積極的な意見表明と個人情報の提供がトレードオフの関係になっている可能性がある」と分析している。

議会・行政への提案として、デジタル手法は「広く・深く・多様な意見を拾う質的調査」、無作為抽出郵送調査は「統計的代表性を確保する量的調査」と位置づけを明確に区別し、両者を併用したうえで、それぞれの結果を分けて公表することが必要である。一方の結果のみを根拠にして政策判断をすることは避けるべきである。



おわりに ―― 「聴く」から「ともにつくる」へ

長野市の調査研究は、市民意見聴取の手法を巡る議論を、単なる「アンケート回答率の改善」から、「市民とともにまちをつくるプロセスをどう設計するか」という、より本質的な問いへと押し上げた点に意義がある。

報告書のサブタイトル「Nagano Canvas 〜つながる、広がる、みんなの声〜」が示すとおり、市民の声は集計されるべきデータであると同時に、市民同士・市民と行政が出会い、対話する**場(キャンバス)**でもある。回答率という単一指標に一喜一憂するのではなく、市民の参加機会の総量と質を中長期で向上させていく――その視点こそが、人口減少時代の地方自治に求められている。

議会人としても、執行機関に対して市民意見聴取の「設計段階での議論」と「結果の検証段階での説明」を求めていく責務がある。長野市の事例は、その問いを立てるための具体的な参照点を提供してくれている。


参考資料

自治会は本当に必要?「防犯・防災の要」を次世代へつなぐ3つの具体的アイデア

まちづくり 地域活動 防災防犯 / 2026年4月25日

「自治会の役員は大変そうだから、できれば断りたい」
「正直、自治会に入るメリットはあるの?」

最近、そんな声を耳にすることが増えました。

実際、全国的に自治会の加入率は低下傾向にあり、役員の高齢化や担い手不足も深刻な課題になっています。

私自身も自治会長を務めていますが、今年も引き継いでくださる方が見つからず、4年目に入りました。
私たちの自治会でも、会員数は98世帯となり、以前の半分以下になりました。だからこそ、「加入してほしい」とお願いするだけでなく、「参加しやすい自治会に変える」努力が必要だと感じています。

しかし、自治会は本当に不要なのでしょうか。

大地震などの災害時、日々の防犯、高齢者や子どもの見守り。いざという時に一番頼りになるのは、遠くの誰かではなく、隣近所に住む人たちです。

岐阜県各務原市の「持続可能な自治会運営に向けた調査研究」を見ると、これからの時代に合った自治会のあり方について、多くのヒントが見えてきます。

地域のつながりを守りながら、役員や会員の負担を減らすために、特に大切だと感じた3つの視点を紹介します。


1. 活動をスリム化し、無理をしない自治会へ

まず必要なのは、これまでの「当たり前」を見直すことです。

自治会の行事や会議の中には、昔から続いているからという理由で続けているものも少なくありません。しかし、共働き世帯が増え、高齢者も長く働く時代になった今、以前と同じやり方を続けることは難しくなっています。

たとえば、すべての行事に全員参加を求めるのではなく、必要な人が、必要な時に、できる範囲で関わる形に変えていくことが考えられます。

また、報告だけの会議は、メールやチャット、文書共有で済ませる。行事も、毎年同じ内容で続けるのではなく、本当に地域に必要なものかを見直す。
(※私も、連絡には公式LINEアプリで連絡網を作っています。)

自治会を続けるためには、「頑張り続ける」のではなく、「無理なく続けられる形に変える」ことが大切です。


2. デジタルを活用し、スキマ時間でつながる

仕事や育児、介護などで忙しい世代にとって、決まった時間に集まることは大きな負担です。

そこで役立つのが、デジタルの活用です。

たとえば、回覧板をスマートフォンでも確認できるようにすれば、情報を受け取るために家で回覧を待つ必要がなくなります。防災情報や地域のお知らせも、必要な時にすぐ確認できます。

また、「掃除なら手伝える」「SNSの更新ならできる」「防災訓練の日だけ参加できる」といった一人ひとりの得意分野や空き時間を、地域活動につなげる仕組みも考えられます。

ただし、デジタル化を進める際には、高齢者やスマートフォンに不慣れな方への配慮も欠かせません。紙の回覧をすぐになくすのではなく、紙とデジタルを併用しながら、少しずつ移行していくことが現実的です。

デジタルは、人とのつながりをなくすためのものではありません。むしろ、忙しい人や参加しづらかった人が、地域とつながるための新しい入口になります。
(※大津市でも、CHIKUWA(ちくわ)回覧アプリの導入支援を進めています。CHIKUWAは、自治会・町内会の“紙の回覧板”をデジタル化し、スマホで回覧・既読確認・資料共有ができる地域コミュニティ向けアプリです。)


3. 行政とのパートナーシップを見直す

自治会が、地域のことを何でも引き受ける必要はありません。

これまで自治会は、行政からの配布物、調査、各種依頼、行事への協力など、多くの役割を担ってきました。しかし、その積み重ねが役員の負担となり、「自治会長は大変そう」「役員になりたくない」という印象につながっている面もあります。

これからは、自治会でなければできないことに力を集中する必要があります。

たとえば、災害時の安否確認、近所同士の声かけ、地域の困りごとの把握などは、自治会だからこそできる役割です。

一方で、事務作業、専門的な作業、広報やデータ管理などは、行政や外部サービス、民間事業者、NPOなどと役割分担することも考えられます。

自治会、行政、民間、地域団体が、それぞれの得意分野を活かしながら支え合う。そうしたパートナーシップが、これからの自治会運営には必要です。


自治会は「義務」ではなく、地域の安心をつくる仕組み

自治会活動は、誰かに押しつけられて行うものではありません。

「義務だからやる」のではなく、「自分たちのまちを少しでも住みやすくするために、できる範囲で関わる」。そんな考え方に変えていくことが大切です。

役員を一部の人に任せきりにするのではなく、少しだけ手伝える人、得意なことだけ関われる人、情報を受け取るだけでも地域とつながる人。いろいろな関わり方があってよいと思います。

自治会離れを止めるために必要なのは、昔の形に戻すことではありません。

今の暮らしに合った、無理のない自治会へ変えていくことです。

地域の絆を守りながら、負担は減らす。
その両立こそが、これからの自治会に求められる「新しいカタチ」ではないでしょうか。



参照:
持続可能な自治会運営(自治会役員等の負担軽減・加入促進)に向けた調査研究

「公明おおつ Vol.71」を発行しました

議員活動 / 2026年4月25日

本日、4月25日の一般紙に折込で、大津市議会公明党議員団の広報紙「公明おおつ Vol.71」を配布させていただきました。

今回の紙面では、令和8年度当初予算に反映された主な取り組みとして、認知症対策の充実、小学校体育館へのエアコン設置、物価高騰対策、木造住宅の耐震改修補助の拡充、感震ブレーカー設置補助、小型充電池による火災対策など、市民の皆さまの命と暮らしを守る施策をご紹介しています。

また、2月通常会議での各議員の代表質問・一般質問の内容も掲載し、防災、子育て、教育、福祉、デジタル活用、空き家対策、ふるさと納税の活用など、身近な市政課題についての取り組みをお知らせしています。

「公明おおつ 」は、視覚に障がいのある方にも内容をお届けできるよう、音声コード「Uni-Voice」も掲載しています。スマートフォンなどで読み取っていただくことで、紙面の内容を音声で確認していただけます。

これからも、公明党議員団は、誰一人取り残さない情報発信を大切にしながら、市民の皆さまの安全・安心な暮らしを守るため、全力で取り組んでまいります。

予防と早期介入が、社会全体の健康と活力を支える

保健 医療 生活 / 2026年4月23日

「非感染性疾患への予防・早期介入に向けた政策提言」から

日本では、がん、循環器疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患などの非感染性疾患(NCDs)が、私たちの暮らしに深く関わる大きな課題になっています。
こうした病気は命に関わるだけでなく、体の不調や生活のしづらさ、仕事や地域活動への参加の難しさにもつながります。
だからこそ今、病気になってから支えるだけでなく、できるだけ防ぎ、早く気づき、早く支える社会へと考え方を広げていくことが大切です。

治療だけでなく、未来を支える「予防」と「早めの支援」を

日本は長寿国として知られていますが、本当に大切なのは、ただ長く生きることではなく、元気に自分らしく暮らせる時間をどう伸ばしていくかということです。
そのために重要なのが、非感染性疾患への予防と早期介入です。これらの病気の多くは、ある日突然始まるのではなく、長い時間をかけて少しずつ進んでいきます。
だからこそ、生活習慣の見直しや健診の活用、早めの受診によって、発症や重症化を防げる可能性があります。
また、予防と早期介入は、本人の健康を守るだけでなく、医療費の増加を抑え、社会保障を持続可能なものにしていくうえでも重要です。
重症化してから支える仕組みだけでは限界があるからです。健診や検診を受けやすくすること、要精密検査となった人をしっかり支えること、高血圧や高血糖などの段階で早めに対応することが、これからますます大切になります。
さらに見逃せないのが、健康格差の問題です。住んでいる地域や収入、生活環境、人とのつながりの有無によって、健康を守る機会に差が生まれることがあります。
だからこそ、個人の努力だけに任せるのではなく、学校、職場、地域、自治体が連携し、誰もが健康になりやすい環境を整えていく必要があります。
予防とは、病気を防ぐためだけでなく、その人らしい暮らしや地域の元気を守るための大切な取り組みでもあるのです。


 


本稿の参照資料

非感染性疾患への予防・早期介入に向けた政策提言(PHSSR Japan 2026年3月)

▶ 提言書の詳細・全文はこちら(HGPI公式サイト)

避難所だけが避難じゃない―在宅・車中泊避難の支援も必要です

防災 / 2026年4月22日

避難所だけが避難じゃない―在宅・車中泊避難の支援も必要です

はじめに

大規模な災害が起きたとき、誰もが指定避難所へ向かえるわけではありません。自宅の損壊が軽微だった、乳幼児やペットがいる、プライバシーが心配、そういった事情から、在宅や車中泊を選ぶ方は実際に多くいます。

平成28年(2016年)熊本地震では、熊本市が実施したアンケートで市民の約4割が車中泊を経験したと回答しており Nikkei、その数の多さが全国的に注目を集めました。しかし一方で、車中泊中のエコノミークラス症候群による死亡事例も確認され、「避難所の外にいる人をどう支援するか」は長年の課題でした。

1.国の方針が変わった――令和6年6月の防災基本計画修正

内閣府は令和6年(2024年)6月28日、「在宅・車中泊避難者等の支援の手引き」を公表しました。在宅避難者や車中泊避難者に対しては、同日修正された国の防災基本計画においても物資の提供など支援の取り組みが位置づけられました。 Newton-consulting

この背景には、熊本地震に加え、令和6年能登半島地震での教訓がありました。避難所に来られない方々が支援から取り残されるという問題が、改めて全国の課題として浮かび上がったのです。

2.「場所への支援」から「人への支援」へ

これまでの災害支援は「避難所という場所」に集まった方を対象とするものが中心でした。今回の方針転換の核心は、どこにいても、支援が必要な人に必要な支援を届けるという考え方への転換です。

在宅避難・車中泊避難には、次のようなメリットがあります。

  • プライバシーの確保:大勢での集団生活が困難な方も、自分のペースで生活できる
  • ペットと一緒に過ごせる:避難所では難しいペット同伴が可能
  • 感染症対策としての分散避難:人が集中する避難所のリスクを分散できる

支援拠点の開設により、避難所にいる避難者と同じような支援(食料・物資・情報の提供)が在宅や車中泊の方にも届けられるよう、仕組みづくりが求められています。 Newton-consulting

3.地域(自治会・自主防災組織)の役割が不可欠

大規模災害時には行政の対応能力にも限界があります。全ての支援を行政だけで担うことは不可能であり、自治会や自主防災組織を中心とした「共助」の力が欠かせません。

在宅避難への支援では、地域住民が協力して、身近な公園や公民館などに小規模な「支援拠点」を設け、安否確認・物資配布・情報伝達を自主的に行うことが期待されます。

車中泊避難への支援では、避難者同士が声を掛け合い、食事の準備や巡回・清掃を協力して行う「自主運営」が基本です。体を動かすことはエコノミークラス症候群などの健康リスク低減にもつながります。

平時から地域住民への啓発や行政職員の人材育成等を行い、在宅避難者や車中泊避難者の自助・共助の取組が進むよう備えておくことが重要とされています。 Bousai

4.熊本市の取り組み――全国が注目する「くまもとモデル」>大津市には公式アプリ「ポケットおおつ」があります

熊本市は、熊本地震の深刻な教訓を活かし、令和6年4月に**「熊本市車中泊避難者支援ガイドライン」**を策定しました。このガイドラインは、崇城大学・BosaiTech株式会社・熊本市の3者による連携協定に基づき策定されたもので、大規模災害時にやむを得ず車中泊避難を行う市民の安全を守ることを目的としています。 Kumamoto City

この取り組みの特徴は以下の通りです。

①デジタル技術の活用 避難者は入場の際にスマートフォンなどでQRコードを読み取り、調査票に名前・住所・避難人数などを記入し、健康に関する情報も入力します。必要に応じて保健師の観察を受けたり、福祉避難所や医療機関に移ったりできる仕組みです。 Kumanichi

②車中泊避難専用の受け入れ場所の確保 市は2か所に避難場所(車計300台受け入れ)を7日間を目処に開設し、スマートフォンで利用できる支援システムで一人一人の情報を把握し、適切なサポートにつなげる体制を整えています。 Nikkei

③「くまもとアプリ」との連携 アプリ内の避難状況登録機能では、車中泊や自宅避難など避難形式を選択でき、登録者の位置情報も確認できるため、どのあたりにどのくらいの方が避難されているかをリアルタイムで把握し、物資提供に関する連絡をプッシュ通知で届けることができます。 Digital

大津市には公式アプリ「ポケットおおつ」があります   ⇦ 登録してね!

5.市民の皆さんへ――今からできること

災害はいつ起こるかわかりません。在宅避難・車中泊避難への支援の仕組みが整ってきた今、市民の皆さんにも平時からの備えをお願いします。

  • 備蓄の確認:食料・水・衛生用品・医薬品など、最低3日分(できれば1週間分)の準備を
  • 地域の防災訓練への参加:自治会・自主防災組織の訓練に加わり、顔の見える関係をつくる
  • 「くまもとアプリ」の活用:平時から操作に慣れておくことで、いざというときに迷わず使える
  • 避難先の事前確認:指定避難所だけでなく、在宅・車中泊も含めた家族の避難計画を決めておく

避難所に行くことだけが「正しい避難」ではありません。自分の状況に合った避難の選択肢を知り、地域とつながりながら備えることが、命を守る第一歩です。



参考資料リンク一覧

① 内閣府「在宅・車中泊避難者等の支援の手引き」(令和6年6月) 内閣府防災情報ページ(資料一覧) https://www.bousai.go.jp/taisaku/shien/index.html ※手引き本文PDF(6.3MB)は同ページからダウンロード可


② 防災基本計画修正(令和6年6月28日)の概要 内閣府・中央防災会議(第44回)資料 https://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/44/pdf/shiryo1.pdf


③ 熊本市「熊本市車中泊避難者支援ガイドライン」(令和8年4月公表) 熊本市公式防災サイト https://www.city.kumamoto.jp/bousai/kiji00370044/index.html ※ガイドライン本文PDF・概要編PDF・避難マニュアルいずれも同ページからダウンロード可


④ デジタル庁ニュース「くまもとアプリ」記事(令和7年1月) https://digital-agency-news.digital.go.jp/articles/2025-01-21