クマの出没と鳥獣保護管理法の改正
近年、クマやイノシシといった野生動物が私たちの生活圏に出没し、人身被害が増加しています。環境省のデータによると、ツキノワグマの出没件数は2023年度に過去最多の24,348件を記録し、人身被害も198件(うち死亡者6人)と過去最多となりました。これは、エサの不足に加え、人口減少・少子高齢化、都市への一極集中に伴う中山間地域での人の活動低下、耕作放棄地の拡大などにより、生活圏周辺がクマに適した環境になっていることが要因とされています。
滋賀県においてもクマの出没は報告されており、2024年10月には栗東市や大津市で複数の目撃情報がありました。このような状況を受け、2025年4月18日、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」の一部を改正する法律案が可決・成立しました。この法改正の目玉は、人の生命や身体への危害を防ぐための「緊急銃猟制度」の創設です。
「緊急銃猟制度」とは?
これまで、住居が集合する地域などでの銃猟は原則禁止されていました。しかし、新たな緊急銃猟制度では、以下の条件を満たす場合に、市町村長が住居等またはその付近で銃猟を行えるようになります。
- 場所: 危険鳥獣が住居や広場など人の日常生活の場所に侵入している、または侵入するおそれが大きい場合。
- 緊急性: 危険鳥獣による人の生命・身体への危害を緊急に防止する必要がある場合。
- 方法: 銃猟以外の方法では迅速な捕獲が困難な場合。
- 安全性: 安全確保措置(通行制限や住民への避難指示など)を講じることで、人に危害が及ぶおそれがないと認められる場合。
これにより、「膠着状態にあるクマ」や「建物内に侵入したクマ」、あるいは「箱わなで捕獲した後の止め刺し」など、これまで対応が難しかったケースにも迅速に対応できるようになります。
「危険鳥獣」の対象動物は?
緊急銃猟の対象となる「危険鳥獣」は、「人の日常生活圏に出現した場合に人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれが大きいものとして政令で定める鳥獣」と定義されます。現在、この対象としてヒグマ、ツキノワグマ、そしてイノシシが想定されています。ニホンジカやサルも人身被害はありますが、クマやイノシシに比べてリスクが小さいため、対象は限定されます。
以前、高木の上のカラスの巣で迷惑を受けている方から「銃で追い払えないか」との相談がありましたが、この法律の対象が「人身被害のリスクが高い動物」に限定されているため、鳥の巣など、人身被害のリスクが低いケースには適用されません。
市町村とハンターへの支援
緊急銃猟の実施主体は市町村長であり、迅速な対応と責任の明確化が図られます。緊急銃猟によって発生した物損や人身事故に対する補償・賠償は市町村が行うため、委託されたハンターが責任を負うことはありません。また、ハンターの報酬や手当の適正化、育成・確保のための財政的・技術的支援も国が進めます。
捕獲だけではない総合的な対策へ
今回の法改正は緊急対策ですが、根本的な解決には、人とクマの「すみ分け」が重要です。政府は、誘引物の管理、緩衝帯の整備、柵の設置といった「出没防止対策」や、クマの生息環境の保全整備など、捕獲に偏らない総合的な対策を進めています。
法律の施行は2025年9月1日に予定されており、これに向け、市町村でのガイドライン策定や事前準備が進められています。私たち一人ひとりが野生動物の生態を理解し、適切な距離を保つための行動も不可欠です。国、自治体、そして住民が一体となり、クマとの共存を目指す取り組みが求められています。
