「消費税減税」による事業所や行政の「システム改修」問題
物価高対策として聞こえの良い「消費税減税」。
消費税減税は、一見すると家計に優しい政策に思えます。しかしその裏では、社会を支える事業者や行政が「システム改修」という莫大なコストと手間に苦しむことになります。
特に、改修作業が短期間に集中すれば、IT技術者の不足や費用の高騰を招き、その負担は最終的に商品価格や行政サービスの低下という形で、私たち自身に跳ね返ってくる可能性があります。
税金の議論をするときは、税率の数字だけでなく、その裏側で社会が支払うことになる「手間のコスト」にも目を向けることが、より良い未来のために不可欠ではないでしょうか。
減税額の議論だけでは見えてこない、実務現場の問題
1. お店や会社(事業者)を襲う「システム改修」の現実
消費税率が変わると、商品を売る事業者には想像以上の負担がかかります。特に問題なのが、ITシステムの改修です。
ポイント①:レジも会計ソフトも、全部やり直し!
税率が1%でも変われば、全国のお店のレジ(POSシステム)や会社の会計ソフトを更新しなければなりません。
もし減税が「一時的」なもので、また税率が元に戻るとなれば、その都度、同じ作業とコストが2回発生することになります。
- 影響: 会計システム、販売管理システム、POSレジなど、税率が関わるすべてのITシステム。
- コスト: システム改修にかかる直接的な費用に加え、値札の貼り替えやメニュー表の印刷し直しといった物理的なコストも発生する。
ポイント②:インボイス制度で複雑化した現場に、さらなる追い打ち
2023年に始まったインボイス制度により、事業者の経理はすでに複雑化しています。
現在の8%と10%の複数税率の管理だけでも大変な中、もし「5%」や「0%」といった新しい税率が一時的にでも加われば、現場はさらに混乱します。
- 請求書管理の複雑化: 税率ごとに金額を区分して記載する必要があり、一時的な税率が加わると請求書の発行や確認作業が非常に煩雑になる。
- 経理処理の負担増: 税率変更の前後をまたぐ取引や、返品・値引きが発生した場合の処理は極めて複雑になり、ミスが起こりやすくなる。
2. 国や市役所(行政)も他人事ではない負担
消費税は、事業者だけでなく、税を徴収し行政サービスを運営する国や地方自治体にとっても無関係ではありません。
ポイント①:行政システムも、もちろん全面改修
国民から税金を集め、給付金を配る行政のシステムも、もちろん改修が必要です。消費税は地方の重要な財源でもあり、税率変更は自治体の財政運営システムに甚大な影響を与えます。
- 影響範囲: 税計算、各種給付金の算定、手数料徴収など、自治体が運営する膨大な数のシステム。
- コストの出所: システム改修にかかる莫大な費用は、言うまでもなく私たちが納めた税金から支出されます。
ポイント②:自治体は「システム標準化」の真っ最中で、余力ゼロ
現在、全国の自治体は、国の号令のもと「基幹業務システムの標準化」という非常に大きなプロジェクトに取り組んでいます。
これは、住民基本台帳などのシステムを国が定めた統一ルールに合わせるもので、多くの職員やITベンダーがこの対応に追われています。
現場の状況: ただでさえ大きな負担を強いられている中で、全システムに影響する税率変更という「緊急の横やり」が入れば、現場の混乱は必至です。
リスク: システム改修の遅延や、行政サービスの質の低下につながる恐れがある。