行政サービスの本当のコストと自治体財政の課題
先日(1月31日)、「自治体議員が知っておくべき地方公会計」に関する研修会に参加しました。
この研修では、自治体の財政管理において重要な「行政サービスの料金設定」と「公共施設更新のための基金の必要性」について詳しく解説されました。
講師である宮澤氏は、これらの課題に対して、発生主義会計の導入と財政の見える化が不可欠であると強調していました。
しかし、実際の自治体運営では、様々な制約があり、理想と現実の間に大きなギャップが存在します。
ここでは、研修で学んだ内容をもとに、地方自治体の財政管理の現状と今後の課題についてまとめてみます。
1. 行政サービスの料金設定と減価償却費の課題
自治体が提供する行政サービスには、施設利用料や手数料などの「使用料」があります。これは受益者負担の原則に基づき、利用者が一定の費用を負担する仕組みですが、多くの自治体では使用料の算定に減価償却費を含めていないという問題があります。
減価償却費とは?
減価償却費とは、建物や設備などの資産を長期間にわたって使用する場合、その費用を年度ごとに分割して計上する考え方です。例えば、10億円の施設を30年間使用すると仮定した場合、毎年3,300万円を費用として考えることで、将来的な更新費用を意識した財政管理が可能になります。
しかし、現金主義会計を基本とする自治体では、この考え方が十分に浸透していないのが現状です。つまり、「現金が出たときにだけ費用として計上する」ため、長期的な維持管理を意識した料金設定がなされていないのです。
なぜ減価償却費を使用料に含めないのか?
- 住民負担の増加を避けるため
減価償却費を含めることで、施設利用料が上昇し、住民の反発を招く可能性があるため、多くの自治体では導入を見送っています。 - 自治体職員の理解不足
民間では当然の経理手法である減価償却費の考え方が、自治体職員には十分に理解されておらず、積極的に活用されていません。 - 首長(市長・町長)の任期が短いため
減価償却費を反映した適正な料金設定は、短期的な財政負担の軽減にはつながらないため、選挙を意識する首長には不人気な施策 となる傾向があります。
このように、行政サービスの使用料に減価償却費を組み込むことは理論的には正しいものの、現実的には多くの課題が存在します。今後は、段階的に導入し、住民への説明を丁寧に行うことが必要 です。
2. 公共施設更新のための基金の必要性と課題
自治体が保有する公共施設(学校、公民館、体育館、道路など)は、建設から30〜50年後には老朽化し、大規模な更新が必要 になります。しかし、現在の自治体財政では、これらの更新費用を十分に確保できていないという深刻な問題があります。
講師の提案:「減価償却費を基準に基金を積み立てるべき」
講師は、減価償却費を基準に計画的に基金を積み立てることが重要だと指摘しました。例えば、年間3,300万円ずつ積み立てることで、30年後の施設更新に備える という考え方です。
しかし、現実にはこの考え方を自治体が実行に移すのは非常に難しい のが現状です。
なぜ基金を積み立てるのが難しいのか?
- 基金を積み立てる余裕がない自治体が多い
現在の自治体財政は厳しく、「将来のために貯金するよりも、今すぐ必要な施策に使うべきだ」という意見が根強い。 - 財政当局の反対
基金を積み立てると、財政の柔軟性が失われ、他の事業に使えるお金が減るため、自治体の財政担当者が消極的になるケースが多い。 - 首長の短期的視点
4年ごとの選挙を考えると、基金を積み立てるよりも、目に見える施策(道路補修、学校改修など)を優先する 傾向がある。
今後の課題と提案
- 段階的な積み立てを実施する
一度に十分な額を積み立てるのは難しいため、減価償却費の一部を基金として積み立てるルールを作る ことが重要。 - 住民に分かりやすい説明を行う
基金を積み立てる理由を住民に丁寧に説明し、「将来の世代に負担を先送りしないため」という視点で理解を得ることが必要。 - 公会計を活用し、財政の見える化を進める
発生主義会計を活用し、長期的な財政計画を住民にも分かりやすく示す ことが求められる。
3. まとめ:地方公会計の課題と今後の方向性
今回の研修を通じて、自治体の財政運営にはまだ多くの課題があることを再認識しました。特に、
- 行政サービスの使用料に減価償却費を含めるべきか
- 公共施設更新のために基金を積み立てるべきか
という2つのテーマは、今後の自治体運営にとって重要な課題です。しかし、現実には短期的な財政制約や政治的な事情により、理想通りに進まない ことが多くあります。
これからの自治体運営には、長期的な視点を持ち、持続可能な財政計画を立てることが不可欠 です。
そのためには、住民の理解を得ながら、少しずつでも改善を進めていくことが求められます。
今後も公会計の知識を深め、自治体の財政健全化に向けた取り組みを考えていきたいと思います。