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おはようございます。
今日の公明新聞を転載します。
豪雨災害から施設の高齢者どう守るか
鍵屋一・跡見学園女子大学教授に聞く
2020/07/28 3面
 九州に甚大な被害をもたらした記録的な豪雨で河川が氾濫し、熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」の入居者14人が犠牲になった。高齢者施設の被災は過去にも繰り返され【表参照】、法改正などで避難態勢が見直されてきた。それでもなぜ、こうした事態が後を絶たないのか。入所者の命を守る避難のあり方とは。福祉防災に詳しい鍵屋一・跡見学園女子大学教授に聞いた。
■避難計画の実効性高めよ
 ――実際に熊本県内の被災地を巡った受け止めを。
 鍵屋一教授 私は、18~20日で被害が大きかった人吉市と球磨村、芦北町を中心に、福祉施設に支援物資を届けて回った。新型コロナウイルスの影響で、県外ボランティアなどの支援者が制限されているため、被災家屋などの片付けが全然進んでいなかった。
 千寿園にも伺ったが、まずは立地を確認して、まさかここが被災するのかと衝撃を受けた。過去に被災した施設とは違い、見た目には立地が悪い場所とは思えなかった。
 確かに、浸水被害が多い常襲地帯であり、ハザードマップ(災害予測地図)上でも浸水想定区域にあるが、ここが被災するのならば、日本の多くの高齢者施設は、本当にいつ被災してもおかしくないと痛感した。
 ――千寿園は避難確保計画を作り、避難訓練も実施していたが被害を防げなかった。
 鍵屋 2017年の法改正で、浸水想定区域にある福祉施設などに対し、避難先や移動方法をまとめた避難確保計画の作成と訓練の実施を義務付けた。千寿園はまさに、熱心に取り組んでいたわけだ。
 今回は明け方の被災で、特に人手が少なく避難には都合の悪い時間帯だった。被災の要因は詳しい検証が必要だ。とはいえ、日ごろの避難訓練と連携があって、地域住民らの協力を得て多くの入所者を施設内で高い場所に逃がす垂直避難をさせている。事前の備えがなければ、もっと被害は拡大していたのではないだろうか。
 早めに高台に避難すれば、という考えもあろうが、自力での避難が難しい高齢者や障がい者となると一筋縄ではいかない。施設外への避難は、認知症の方などであれば、なおさら精神状態が不安定になりやすい。施設職員から見れば、雨の中で高台の空き地に避難するよりも、できれば避難しない、動かしたくないという意識が働くのは当然だ。今後は、関係者が浸水リスクを深く理解し、避難しやすい条件を一緒に考え、計画に反映することが大切だ。
■自治体の本気度がカギ
 ――避難確保計画の作成は、今年1月時点で全体の45%にとどまっている。
 鍵屋 私はむしろ、思った以上に進んでいると受け止めている。それなりの危機感が表れているのではないか。
 施設側の意欲とともに、自治体がどれほど熱心に計画作成を促したかが大切で、自治体の本気度も試されている。実際は、計画作成の講習会や個別相談を行うなど手間のかかる作業が必要だが、計画作りは地域の連携が不可欠だ。地道に取り組んでいる地域では、水害時でも安全な避難につなげている事例が多い。
■地域住民と共同で訓練を/福祉サービス継続の視点も
 ――被害を繰り返さないために必要な備えとは。
 鍵屋 高齢者施設は、地価が安いなどの理由で浸水想定区域内に建つケースも多いと聞く。まずは、ハザードマップを確認し、災害リスクの高い区域であれば、想定外の災害も考慮した実効性ある避難確保計画を作り、地域住民と共に夜間避難やライフラインが途絶えた状況なども想定した訓練を実施することだ。政府は、22年3月までの作成率100%をめざしているが、それを達成すべきだ。
 現時点で計画を作れていないなら、簡易な計画でもいいので、どの防災情報が出た段階で避難するか、危険が迫る地域の状況をどう把握するかなどを決めておくことだ。そして、安全な場所に避難する方法や垂直避難ができる体制も含めて、地域住民への協力の呼び掛け方なども自治会長らと相談して決めてほしい。
 また、高齢者施設は避難後も福祉サービスの継続が求められる。災害関連死につながる恐れがあるからだ。厚生労働省も推奨するBCP(事業継続計画)の作成が重要で、施設が使用不能になった際の代替施設も想定するべきだ。
 三重県伊賀市では、社会福祉法人の間で相互支援協定を結び、災害時には別の安全な施設へ避難できるようにしている。自治体や同じ法人間などあらゆる形があるが、打開策として参考になるはずだ。
 最終的には立地の問題を解決せねばならない。先の国会で、津波や土砂災害の危険度が高い区域に建物を新設する際の規制を強化する、都市再生特別措置法などが成立したのは、その一歩となろう。
 危険区域に多くの高齢者施設がある現状を国全体の問題として捉え、施設移転への具体的な支援策など、早急な対応を検討する必要がある。
 かぎや・はじめ 1956年、秋田県男鹿市生まれ。京都大学博士(情報学)。東京都板橋区役所で福祉部長、危機管理担当部長などを務め、2015年4月から現職。一般社団法人福祉防災コミュニティ協会代表理事。著書に『ひな型でつくる福祉防災計画』など。

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