「国旗損壊罪」って大丈夫?

Q 国旗損壊罪とは、どのような刑罰ですか。
◆「人に著しく不快または嫌悪の情を催させる方法」で公然と国旗を損壊・汚損をした場合に、2年以下の拘禁刑または20万円以下の罰金が科されます。意図や目的は問わず、処罰の判断は「行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情を総合的に勘案して行う」としています。
Q そんな法律が必要なのでしょうか。
◆いいえ、明白な立法事実はありません。本来、刑罰は国家による最も強い権力行使です。このため刑罰を新設する場合、深刻な被害が実際に発生し、現行法では対処できないような事案に対して、慎重かつ十分に議論を尽くして成立させるべき「最終手段」です。
そもそも日本人が自国の国旗を傷つけ、社会が混乱する事態を見た人が、どれだけいるでしょうか。他人所有の国旗を損壊した事例はありますが、現行の「器物損壊罪」で罰せられます。新たな刑罰の必要性は乏しいと言わざるを得ません。
■刑罰で国民感情縛るのは問題
Q では、何が法律の目的なのでしょうか。
◆提出者は「国旗を大切に思う国民感情の保護」と、国旗損壊の「将来に向けた予防的立法事実」と説明しています。私も国旗を大切に思う一人ですが、国民感情を刑罰で無理やり縛るべきではないと考えます。予防的といっても、海外での損壊事例が伝わる懸念があるというだけで説得力に欠けます。とにかく問題の多い法律です。
■(具体的に懸念されることは?)処罰対象行為が不明確
Q 具体的には。
◆まず処罰対象が不明確です。これは、あらかじめ犯罪行為を法律に定めておく「罪刑法定主義」の観点でも問題です。処罰対象となるのは「不快または嫌悪の情」という、人の主観的な感情が基準になっています。このため国会では、たびたび何がダメで、どんな行為なら処罰されないのかが議論となりました。
■SNSで限界事例試す動きの誘発も
Q 分かったことは。
◆国旗を燃やしたり、切り刻んだりするのは処罰対象ですが、殴るのは対象外です。靴で踏みつけて泥だらけにすることは対象ですが、新品の靴なら該当しません。損壊行為のライブ配信は対象で、事後配信は対象外と、理解に苦しむものまであり、一概にこれなら大丈夫とは言い切れません。ちなみにアニメや生成AI(人工知能)画像、お子様ランチの旗は対象外です。
SNS上では、すでに損壊の限界事例を試す動きも起きており、法律の目的に逆効果です。そうした動きを誘発してしまっているという事実を与党など提出者は重く受け止めるべきです。
■「表現の自由」侵害の可能性
Q 芸術的表現との線引きは?
◆明確になっていません。憲法が保障する「表現の自由」を侵害する懸念があり、国会での参考人質疑でも、識者から「憲法違反となる可能性が高い」と指摘されています。今後、社会問題を扱う現代アートなどにおいて萎縮する恐れがあります。
■国民を威嚇する“権威の象徴”危惧
Q 外国の国旗を保護する「外国国章損壊罪」とバランスを取ったという主張もありますが。
◆外国国章損壊罪は、守るべきものが日本の外交上の国益であり、今回の法益とは性質が根本的に違います。
もともと日本では、刑罰を用いなくても国旗を大切にしてきた歴史があります。刑罰を科すことで、自然と尊重してきた国旗が、国民を威嚇する“権威の象徴”となってしまわないか危惧しています。国旗に対する特定の思想や感情を強制することがないよう、政府に求めていきます。
