効果大きく患者負担軽い がん「陽子線治療」/病巣を狙い撃ち


がんの治療法は、「外科手術」と抗がん剤治療などの「化学療法」、「放射線療法」が三大治療法とされる。放射線療法の中でも、粒子線治療の一つに位置付けられるのが陽子線治療だ。
放射線療法はエックス(X)線が一般的だが、照射によってがん病巣にダメージを与えられるエネルギー量は、体の表面近くが最も大きく、奥に進むほど小さくなる。一方、陽子線は、設定した深さで大きなエネルギーを放出でき、その形も調整可能なので、がん病巣を“くりぬく”ように狙い撃ちできる。
日本で早くから陽子線治療を開始した筑波大学付属病院で、陽子線治療センター部長を務める櫻井英幸医師は「周囲の正常細胞への影響を少なくしながら、がん細胞により高い線量を照射して治療効果を高めることができる、体に優しい治療法だ。高齢者や体力のない人も治療でき、小児がん患者に対しては発育への影響や二次がん発生のリスクを低く抑えることができる」と強調する。
■通院で完結、仕事と両立可能
治療期間は患者によって異なるが、肝臓がんであれば2~7週間程度。1回の照射にかかる時間は位置調整も含めて15~30分ほどで、動かずに横になっていれば終わり、痛みはない。通院のみで治療が完結できるため、仕事や子育てとの両立が可能だ。
現在、保険適用の対象となっているのは、肝臓がん(4センチ以上)や前立腺がん、早期肺がん、頭頸部がん、膵臓がん、小児がんなど。保険診療と併用できる先進医療となっているのは、食道がんや脳腫瘍などだ。費用は保険適用の場合、前立腺がんで160万円、それ以外は237万5000円だが、自己負担はその1~3割で、高額療養費制度が使える。先進医療は300万円程度で全額自己負担となるが、民間の医療保険でカバーできる場合がある。
同センターの治療成績では、肝臓がんの奏効率(がんが消失したり、縮小した割合)は9割に上るという。
■東京に施設ない現状打開へ/公明提案で都立病院に整備
■2030年度の運用開始めざす
陽子線治療施設は、筑波大学付属病院や国立がん研究センター東病院(千葉・柏市)など全国19カ所にあるが、日本で最も人口の多い東京都にはなかった。そうした現状の打開へ都議会公明党が提案し、都内で陽子線治療施設の建設をめざす計画が動き始めている。
都は昨年3月、がん医療において高い実績を持つ都立駒込病院に、陽子線治療施設を整備する計画を策定。入札を経て、今月14日に整備予定事業者が決まった。病院敷地内に地下2階、地上2階、延べ床面積約5210平方メートルの治療棟を建設する計画で、治療室を2室以上設け、年間400人程度の治療をめざす。2030年度中に運用開始の予定だ。
都立駒込病院で放射線科治療部長を務める室伏景子医師は「これまで都外に出なければ治療を受けられなかったことから、断念していた人もいたはずだ。そうした地理的な負担がなくなり、患者にとって治療の選択肢が広がる」と期待を寄せる。
■前回都議選での公約実現に道筋
都議会公明党は21年7月の都議選で掲げた政策目標「チャレンジ8」の一つに、「粒子線治療の都立病院への導入」を掲げた。
前回の都議選後、都議会公明党が同12月定例会の代表質問で最新のがん治療導入を訴えたのに対し、小池百合子知事は「最新のがん対策について検討する」と表明。都は翌22年度予算に、都立病院における最先端がん治療の方向性に関する調査費を計上し、調査に乗り出した。
その結果、粒子線治療の対象となる患者数が、都内で年間1000人以上見込まれることが判明し、整備計画の策定につながった。
その間、都議会公明党は筑波大学付属病院陽子線治療センターなどの視察を重ね、都議会で繰り返し粒子線治療の導入を訴え続けてきた。