働くシニアの労災 ハード・ソフト両面で対策進めよ

定年後も仕事を続ける人が多くなる中、60歳以上のシニア世代で転倒事故などの労働災害が増えている。シニア世代も安全に働き続けられるよう、取り組みを加速させていきたい。
高齢の働き手の労災防止に向けて、職場環境の改善や作業内容の管理を事業者の努力義務とする改正労働安全衛生法が8日、成立した。厚生労働省は2026年4月の施行までに具体的な指針を公表する。
厚労省によると、23年に労災によるけがや病気で死傷した労働者のうち、60歳以上は3万9702人に上り、全体の約3割を占めた。ぬれた床に足を滑らせて転んだり、荷物を抱えていた際にバランスを崩すなどして労災が発生している。
労災による休業期間は、年齢が上がるにつれて長期化する傾向がある。人手不足に悩む企業にとって、従業員の長期休業は痛手となる。身体機能に個人差はあるものの、加齢による低下に配慮した職場づくりを進めることが大切であり、そうした環境を整えることで他の従業員の安心にもつながるだろう。
職場内の段差解消や滑りにくい床材の導入などの対策が好ましいが、「通路に物を置かない」「床をぬれたままにしない」といった、ちょっとした工夫で防げる事故もある。日常的に注意するように心掛けたい。
厚労省は今年度から、中小企業の労災防止対策を促す補助金を拡充し、職場に潜在する労災リスクについて専門家の助言を受け、優先順位を付けて対策を進められるコースを新設している。今年度の申請は今月15日から受け付けが始まっており、積極的に活用してもらいたい。
一方で、高齢の従業員の業務内容を見直すことも欠かせない。健康状態に合わせて勤務時間を柔軟に変えたり、作業工程に時間的な余裕を持たせるといった対応が必要だろう。体力チェックを継続して行うことも労災の予防につながる。
各職場において労災のリスクを適切に把握し、ハード・ソフトの両面から対策を進めてほしい。
公明新聞2025/05/17 2面転載