「年収の壁」引き上げ 課税最低限、103万→160万円に/1・2兆円減税、納税者1人2万円超

参院で審議中の税制改正関連法案には、いわゆる「103万円の壁」の引き上げが盛り込まれている。所得増を求める民意に応えるため、自民、公明の与党両党と国民民主党の3党間で合意点を見いだす努力を重ねた成果だ。昨年末には①大学生らを扶養する親の税負担を軽減する特定扶養控除の年収要件を150万円に②所得税の課税最低限を123万円に――それぞれ引き上げを決めた。今年再開した協議を経て、最終的に課税最低限を160万円に引き上げる公明案で決着した舞台裏には、責任与党としての公明党の決断があった。
■制度設計で独自案
昨年12月11日に結ばれた3党幹事長合意を踏まえ、与党が課税最低限を123万円に引き上げる方針を決めた同20日、公明党税調の赤羽一嘉会長は「3党協議は引き続き継続する」とさらなる引き上げに意欲を示した。
ただ、財源や引き上げ幅を巡る議論が難航し、今年に入っても協議は停滞を余儀なくされた。
民意には誠実に応えなければならない――。公明党は2月7日、自民党に対して、単身世帯における最低生活費の基準や食料品の物価上昇率を勘案した“独自の引き上げ案”を提示。3党協議の再開にめどを付けた。
■自民案は「不十分」
同18日、公明の提案を受け自民党は、課税最低限を160万円に引き上げた上で、年収500万円以下の人に基礎控除を上乗せする案を示した。
しかし、公明党は、中間層に減税の恩恵が及ばず不十分だとし「(対象を)もう少し広げるべきではないか」(赤羽税調会長)との見解を表明。さらなる非課税枠拡大へ、党内で案を練った。
■実現可能なギリギリ
同21日に公明党は、課税最低限を160万円に維持したまま、高所得者優遇とならないよう、納税者の8割強を占める年収850万円以下の人に、基礎控除を上乗せする案を3党協議で提示。合計の減税規模は約1兆2000億円となり、「赤字国債を発行せずに実現可能なギリギリの案」(斉藤鉄夫代表)だった。
修正案には、物価上昇に応じて基礎控除が引き上がる仕組みも法定化。「今後、物価上昇に合わせて課税最低限が178万円を超えることもある」(赤羽税調会長)。
■識者「よく考えられた設計」
京都大学大学院の諸富徹教授は日本経済新聞の電子版で、①税収減を抑制②控除額を高所得者ほど小さくして減税額を2万円程度でそろえた――ことを挙げ、「よく考えられた設計だと思う」と評価する。
■公明党に感謝
修正案を巡っては、国民民主党との合意には至らなかったが、与党で国会に提出した。成立すれば、ほぼ全ての納税者が1人当たり年2万~4万円の減税を受けられる。
一連の議論を経て、国民民主党の玉木雄一郎代表(当時は役職停止中)は同27日、自身のX(旧ツイッター)で「1・2兆円もの減税を政府・自民党から引き出してくれた公明党には感謝している」とコメントしている。