農水産品の輸出、さらに拡大へ 政府が決定した新たな政策の柱

■(食品産業の海外展開)国産原材料使う事業者を支援
人口減少などを背景に、農林水産物・食品の国内需要の縮小が予想される中、輸出を拡大することは国内の生産基盤の維持・強化につながる。
その上で政府は、輸出拡大などにより農林水産業を「もうかる産業にしていかなければならない」(林芳正官房長官)との考えから、施策の相乗効果を期待して打ち出したのが「食品産業の海外展開」と「インバウンドによる食関連消費の拡大」だ。農業政策の指針で、今年3月に政府が改定する予定の「食料・農業・農村基本計画」に、収益額や消費額といった目標を盛り込むことも検討している。
食品産業の海外展開は、日本産原材料を使った現地加工や日本食の普及、食文化の理解促進などを通じて輸出促進につなげるもの。
タイや台湾を中心に海外で122店舗を展開(2024年12月末時点)する日本食レストラン「大戸屋ごはん処」は、海外店舗でも日本の商品と同じ味・品質をめざし、魚や調味料など可能な限り日本の食材を輸出して使用。7カ国に185店舗を展開(同11月時点)する菓子専門店「シャトレーゼ」は、日本で製造したケーキの土台と日本産果物を輸出し、海外店舗でフルーツケーキにして販売している。いずれも海外展開を通して輸出拡大に貢献している事例だ。
政府は今後、食品事業者が海外展開に当たって個々の課題に対応できるよう、現地の法務や税務などの専門家によるサポート体制の充実を図る方針だ。また、日本の事業者と現地企業とのマッチングを後押ししていく。
■(訪日客の消費促進)食体験が帰国後のニーズに
一方、インバウンドによる食関連消費は、日本の食に対する海外からの需要という点で、輸出と同じく農林水産業・食品産業に利益をもたらす。さらに、本場での食体験は「帰国後も『あの味をもう一度味わいたい』とのニーズを生む」(農水省担当者)ことから、政府は現地の日本食レストランや電子商取引(EC)サイトの利用などを通じた輸出拡大につなげたい考えだ。
23年中のインバウンドによる旅行消費額(約5・3兆円)のうち、食関連消費は約1・6兆円を占める【図表参照】。24年はインバウンド数、旅行消費額ともに過去最高を記録しており、今後、食関連消費のさらなる拡大が期待される。
政府はインバウンドによる食関連のニーズ調査・分析を行いながら、海外向けの日本食プロモーションに当たって国内産地の観光面の魅力も発信していく。このほか、帰国後に日本の食品を購入してもらえるよう、海外ECサイトとの連携などを通じた販路開拓支援も充実させる。
■30年までに5兆円めざす
政府は20年に、農林水産物・食品の輸出額を25年までに2兆円、30年までに5兆円とする目標を設定。輸出拡大に向けた実行戦略を策定し、推進してきた。
例えば、牛肉やコメ、リンゴなど海外で評価される品目を輸出重点品目に選定し、品目ごとにターゲットとする国・地域や輸出額目標を設定。また、消費者のニーズを重視して生産・販売活動を行う「マーケットイン」の発想で輸出に挑戦する事業者を後押しするなどしてきた。
こうした取り組みもあり輸出額は23年まで11年連続で増加し、過去最高額を更新。24年1~11月の実績は1兆3014億円で、中国などによる日本産水産物禁輸の影響はあるものの、前年同時期を上回っている。
■公明、一貫して推進
公明党も一貫して輸出促進に尽力。党「農林水産物等の輸出促進に関するプロジェクトチーム(PT)」が事業者からのヒアリングを重ね、必要な政策を政府に要請してきた。
同PT事務局長の、かわの義博参院議員(参院選予定候補=比例区)は「1次産品の輸出拡大に向けては、日本の食品産業や食文化を海外に広めていくことも効果的で、こうしたことに取り組む事業者をしっかり後押しすることが大切だ。党として現場の意見を踏まえて政府に提言を行っていきたい」と語っている。