23年度補正予算成立 持続的な賃上げ確実に
補正予算では、物価高対策として2兆7363億円を計上。低所得世帯への7万円給付や地方自治体が地域の実情に応じた施策を実行する財源となる重点支援地方交付金を積み増した。今冬の暖房需要に備え、電気・都市ガス、ガソリンなど燃油代の負担軽減策を来年4月末まで延長する。
足元での賃上げの動きを持続的なものにするための中小企業支援などに1兆3303億円を確保。企業の生産性向上を後押しする「中小企業省力化投資補助事業」を実施する。公定価格で運営されている医療・介護・障がい福祉分野の職員、保育士の処遇改善や、構造的賃上げに向けたリスキリング(学び直し)によるキャリアアップ支援も盛り込まれた。
先端半導体支援をはじめとした国内投資促進には3兆4375億円を充てるほか、「こども誰でも通園制度」(仮称)の本格実施を見据えた試行的事業や、度重なる災害からの復旧や防災・減災、国土強靱化を進める。
本会議に先立ち、同日の参院予算委員会の締めくくり質疑で公明党の秋野公造氏は、12月に長崎で開催予定の、核保有国と非保有国の有識者が核軍縮に向け意見を交わす「国際賢人会議」に言及。同会議への出席を検討している岸田文雄首相に対し、被爆者らと面会する機会も設けるよう訴えた。
その後、賛成討論に立った公明党の宮崎勝氏は、物価高を上回る賃上げと投資拡大で、消費と投資の好循環につなげるための補正予算を迅速かつ円滑に執行し「国民生活に恩恵がいち早く行き渡るよう全力を挙げていただきたい」と力説した。
物価高対策には、総額2兆7363億円。物価高騰の影響を受ける生活者や事業者を自治体が独自に支援する財源となる重点支援地方交付金を積み増すため、約1兆6000億円が計上された。
交付金の使途は二つの柱で構成。一つ目は、低所得世帯への支援(1兆592億円)で住民税非課税世帯に1世帯当たり7万円を給付する。早ければ年内の給付開始をめざしており、今夏以降に給付された3万円と合わせて計10万円の支援とする。
二つ目は、地域の実情に合わせて自治体が柔軟に活用できる「推奨事業メニュー」(5000億円)。政府は、生活者と事業者の両面で物価高対策の事業例【上の表参照】を挙げている。政府が示したメニュー以外でも、自治体が効果的と考える支援策があれば、実施計画を策定して申請することもできる。
■省エネ住宅の取得・改修を支援
子育て世帯などによる省エネ性能が高い住宅の取得や省エネ改修、企業の省エネ設備導入への支援などの経費として2556億円を計上した。
■燃油・電気・ガス代補助を来年4月まで延長
物価高対策ではさらに、光熱・燃油費負担を軽減する補助金を継続するため、7948億円を計上。公明党の主張を受け、燃油と電気・都市ガスの価格を抑制する激変緩和事業【下の表参照】の期限を年末から延長し、家計の負担軽減をめざす。
電気・都市ガス代の負担軽減策は、政府が電気・ガス事業者に補助金を支給し、消費者への請求額から値引きさせる仕組み。補正予算に6416億円を計上し、現在の補助額を来年4月使用分まで継続し、5月は支援幅を縮小させる。
ガソリンなど燃油への補助金は、石油元売り会社に支給する。卸売価格を下げてもらい、給油所の店頭価格の高騰を抑制する。公明党の提言を受け政府は、補助金を拡充して年末まで延長し、基準価格と定める168円との差額を60%、185円を超過する部分を全額補助しているが、補助金支給をさらに来年4月まで延長するため、今回の補正予算では1532億円を積み増した。
■(持続的賃上げと地方の成長)省力化や価格転嫁を後押し
持続的賃上げ、所得向上と地方の成長の実現に向けては総額1兆3303億円を計上した。
中小企業などの持続的賃上げに向けた支援には5991億円。公明党が10月に発表した「中小企業等の賃上げ応援トータルプラン」を反映し、「中小企業省力化投資補助事業」として、必要な設備・機器をカタログから選べるような、簡易で即効性のある補助を新たに実施する。中小企業・小規模事業者が適切に価格転嫁できる取引環境の整備なども進める。
■介護職員らの処遇を改善
同プランで公明党が求めていた医療・介護、障がい福祉分野における職員らの処遇改善などに向けては644億円を計上。
人手不足が深刻な介護職員らについては、賃金を2%程度、月額で約6000円を引き上げる。都道府県を通じ、来年2~5月の賃上げ分を支給する。対象は介護事業所と障害福祉サービス事業所の職員と、医療機関の看護補助者。常勤の職員数に応じて賃上げ分を施設に支給する。介護職への補助金は、施設の生活指導員やリハビリ職などの処遇改善にも充てられる。
また、構造的な賃上げに向けた労働市場改革の推進には131億円。リスキリング(学び直し)によるキャリアアップ支援などが進められる。
■観光、文化の振興や食品の輸出拡大も
地方への経済回復波及と経済交流の拡大に向けては7181億円。インバウンド(訪日外国人旅行客)の消費拡大を含む観光立国に向けた取り組みや、農林水産物・食品の輸出拡大策のほか、文化芸術立国の実現へ文化財保存・活用支援事業や子どもの鑑賞体験支援事業などが盛り込まれた。
■(成長力強化・国内投資促進)半導体の開発・生産を支援
成長力の強化・高度化につながる国内投資の促進には総額3兆4375億円。先端半導体の生産拠点整備を支援する基金に6322億円、次世代半導体の量産技術開発基金に6175億円、従来型半導体などの安定供給確保を支援する基金に2948億円を積む。
科学技術振興・イノベーション促進には6001億円。挑戦的な研究課題に取り組む「ムーンショット型研究開発プログラム」の推進、博士後期課程学生の支援強化や科学研究費助成事業の拡充などを図る。
■小中学生の端末更新費で基金
全国の小中学生に1人1台の情報端末を配備する「GIGAスクール構想」の機器の更新費を確保するための基金設置などの経費として2824億円を盛り込んだ。国内関連企業の研究開発力強化などをめざす「宇宙戦略基金」に3000億円を計上。スタートアップ(新興企業)の海外展開などを通じたイノベーション創出(1614億円)なども進める。
■(人口減少対策)「こども誰でも通園」を試行
人口減少対策や社会変革の推進には総額1兆3403億円。子ども・子育て支援など少子化対策に1323億円を計上した。親の働き方を問わず時間単位で保育所などを利用できる「こども誰でも通園制度」(仮称)の本格実施に向けた試行的事業に91億円、来年12月からの児童手当拡充に備えた市町村のシステム整備に232億円、乳幼児健康診査等支援事業に25億円、子ども食堂支援をはじめとする、ひとり親家庭などの支援強化に34億円を充てた。
一方、地方自治体の基幹業務システムの仕様を統一する「標準化」に向けて5163億円を計上。政府は原則として25年度までに、各自治体が共通基盤「ガバメントクラウド」上に構築したシステムに移行する目標を掲げており、自治体向け移行費用の補助に充てる。
マイナ保険証の利用促進・環境整備事業(887億円)のほか、地域公共交通の確保・維持・改善に向けた事業(279億円)、「女性の健康」ナショナルセンター機能構築事業(5億4300万円)なども盛り込んだ。
■(国民の安全・安心確保)防災・減災、強靱化進める
国民の安全・安心確保には総額4兆2827億円。このうち、防災・減災、国土強靱化対策の公共事業関係費に1兆3022億円、自然災害からの復旧・復興の加速に4259億円を計上し、アジアや島しょ国、中東、アフリカなど「グローバルサウス」関連の支援・連携強化に3182億円、ウクライナと周辺国への支援に1481億円を充てた。
また、新型コロナウイルス感染症に関する病床確保などのための緊急包括支援交付金(6143億円)やワクチン接種関連経費(545億円)のほか、大規模な供給不安が生じている医薬品の安定確保などを進める事業(21億円)、花粉症対策(60億円)を盛り込んだ。
食料安全保障の強化(610億円)、不登校・いじめ対策の強化(55億円)、性犯罪・性暴力被害者支援の強化(29億円)なども打ち出した。