きょう「世界アルツハイマーデー」 認知症への理解を深めよう
■過度に恐れる必要なし/家族含めればほとんどの人が経験
――認知症について、まず伝えたいことは。
認知症になったとしても、自分らしく希望を持って暮らすことはできるということだ。中には「何も分からなくなる」「人生おしまい」などと絶望的に考えてしまう人もいるかもしれないが、大きな誤解だ。認知症になっても症状と、うまく付き合いながら、やりたいことを続ける人は多い。周囲の助けや理解を得て働いている人もいる。
今や認知症は、珍しいことでも特別なことでもなく、過度に恐れる必要はない。発症率は年齢とともに高まり、85歳以上では2人に1人。誰でもなり得るし、家族を含めれば、ほとんどの人がいつか経験するもの。だからこそ“わがこと”と捉え、正しく理解していくことが大切になる。
――当事者を支える家族に対しては。
一人で悩まず、相談できる「良き仲間」とつながってほしい。孤立しないことが大切だ。相談できる場所は身近にたくさんある。自治体の地域包括支援センターや認知症カフェ、家族の会などを訪ねてほしい。
――認知症の6~7割を占めるとされる、アルツハイマー病の治療薬「レカネマブ」の薬事承認が厚生労働省の専門部会で先月、了承された。年内にも実用化の見通しだ。
従来の治療薬は、症状に対するものであったが、レカネマブは原因とされる物質を除去できる点で画期的だ。こうした治療薬が国内で初めて使えるようになることは大変喜ばしい。
一方、効果が非常に高いとは言い難く、副作用もある。投与できる体制が整っている医療機関は少ない。今回の新薬登場を機に、治療を取り巻く環境整備が加速することを期待する。
■基本法が6月成立
――6月に認知症基本法が成立した。
これまでも認知症施策に関する政府の大綱や総合戦略(新オレンジプラン)があったが、国や自治体の施策の面に偏っていた。一方、基本法は、行政だけでなく国民も含めた社会全体で、認知症の人が希望を持って暮らせる「共生社会の実現」をめざして進んでいこうという方向性を示しており、さまざまな取り組みを支える大きな柱ができたと歓迎している。
認知症の人にとって住みやすい社会は、認知症の人を含む誰もが暮らしやすい社会といわれるが、その通りだと思う。基本法の成立は、そんな安心の社会を構築していく第一歩とも言えるだろう。
――法律の中で特に重視する部分は。
基本理念の一番目には、「全ての認知症の人が、基本的人権を享有する個人として、自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができるようにする」と明記された。重要な一文だ。当事者や家族を含む多くの関係者が協議に加わったことで素晴らしい法律になったのではないか。
基本法では、首相を本部長とする認知症施策推進本部の中に、認知症の人や家族らで構成する関係者会議が置かれることになった。この会議がしっかりと機能していけるかどうかが今後、重要なポイントになる。
基本法が掲げる共生社会は、行政だけでなく皆でつくり上げていくもので、国民一人一人の認知症に対する正しい理解が欠かせない。さまざまな機会を通じ、基本法の理念が社会に広く浸透していくことを願っている。
■公明、いち早く法整備提唱
認知症施策の「基本法」をいち早く提案し、制定に向けた取り組みを一貫してリードしてきたのが公明党だ。
2015年3月の衆院予算委員会で基本法の制定を提案し、当事者や専門家らの声を聞きながら18年に党独自の骨子案を作成。それをベースに自民党と与党案を取りまとめ、さらに野党にも協力を呼び掛け、21年に超党派の議員連盟が発足。与野党が協力する形で今年6月に基本法が成立した。
基本法は、公明案がめざしていた方向性に沿うもので、国や自治体の施策に認知症の人や家族の意見を反映することや、9月21日を「認知症の日」とすることなどが盛り込まれた。