世界で急速に広がる「サル痘」とは
欧米などで確認が相次ぐ動物由来のウイルス感染症「サル痘」について、世界保健機関(WHO)は27日、78カ国で計1万8000人超の感染が報告されたと明らかにした。国内でも感染者が25日に初確認され、28日には2例目が確認された。世界各地で急速に広がるサル痘の特徴や、現状の国内対策をまとめた。
■体液など接触で感染/発熱や頭痛、発疹、重症化はしにくく
サル痘は根絶された天然痘に似た感染症で、国立感染症研究所などによると、サル痘ウイルスへの感染で起きる急性発疹性疾患。1958年に研究用のサルから見つかり、70年にはコンゴ(旧ザイール)で人への感染が初報告された。
症状は、発熱や頭痛、リンパ節の腫れ、筋肉痛などの症状が0~5日続いた後に、発疹が出る。潜伏期間は通常、7~14日程度とされている。多くの場合は重症化せず、2~4週間で自然回復する。
感染源はアフリカに生息するリスなどの「げっ歯類」とされる。ウイルスを持つ動物にかまれた場合に感染するほか、感染者との性的接触を含む発疹や体液の接触、近距離での長時間の会話、感染者が使った寝具などを介してうつることがある。
国内で感染が確認されたのは、これまで2人。1例目は、欧州に渡航歴のある東京都の30代男性で、発熱や発疹、倦怠感などがあるが、状態は安定している。
2例目は、北中米在住の30代男性で、21日に倦怠感の症状が出た後に入国。頭痛や口内の発疹などの症状があったため、27日に医療機関を受診して感染が確認され、都内の医療機関に入院した。状態は安定している。2人の感染者に接触はないという。
■WHOが差別、偏見の助長戒める
WHOのテドロス事務局長は23日、サル痘について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当たると宣言した。主にアフリカで流行する感染症だが、欧州など各地にも広がっていることなどから、発令したとみられる。
WHOの宣言は、2020年1月に新型コロナウイルス感染症に対して出して以来。ワクチンや治療法の共有など国際的な協調を促す目的があるが、法的拘束力はない。
欧米では5月以降、流行国への渡航歴がない人の感染が報告されるなど、感染者が急増した。1万8000人超の感染者のうち、約1割が入院し、7割超は欧州という。
感染者の98%が男性と性交渉した男性の間で確認されているが、女性や子どもの事例もある。テドロス事務局長は「サル痘は、密接な接触によって誰もが感染する可能性がある」として警戒を呼び掛けるとともに、差別や偏見を助長しないよう求めている。
■コロナとの違い情報発信/対策に万全、各都道府県で検査実施
WHOの緊急事態宣言を受けて政府は25、26日の両日、サル痘に関する関係省庁対策会議を開催。省庁間の緊密な連携とともに、接触者の把握やワクチン投与などの感染拡大防止に万全を期すことなどを確認した。
「サル痘は新型コロナウイルスと異なり、人から人への感染は容易には起こらない」とし、冷静な対応を要請。国民の不安に対応するため、新型コロナとの違いを明確にして情報発信していく方針だ。
また外務省は25日、全世界を対象に渡航に十分な注意を促す感染症危険情報レベル1を出した。レベル1は4段階の危険情報のうち一番低い。
すでに厚生労働省は、法律に基づく「特定臨床研究」として、サル痘にも効果が期待できる天然痘のワクチンや治療薬を使用できる体制を構築。国立国際医療研究センターの医療従事者には、研究目的でワクチン接種を済ませている。
治療薬については、アメリカの製薬会社が天然痘用に開発した「テコビリマット」という飲み薬がある。国内では未承認だが、東京、愛知、大阪、沖縄の4都府県の医療機関で臨床研究として投与ができるようになった。
水際対策としては、検疫所で出入国者に対し、サル痘の情報提供や注意喚起を実施。検査は国立感染症研究所のほか、各都道府県の地方衛生研究所で可能となっている。
政府は、手指消毒など基本的な感染対策が重要とし、「発熱・発疹など体調に異常がある場合は、身近な医療機関に相談してほしい」と呼び掛けている。
公明新聞2022/07/31 3面転載