増える「カスハラ」 企業は悪質行為から従業員守れ
土下座の強要、購入から半年たった商品の返品、特定従業員への解雇の要求――。どれも顧客や取引先が従業員に悪質なクレームや理不尽な要求を突き付ける「カスタマーハラスメント」(カスハラ)の事例である。
厚生労働省は、カスハラに応対する従業員が精神疾患を抱え、自殺や退職に追い込まれるなど被害が深刻化していることを踏まえ、来年度に企業向けの対応マニュアルを策定する方針を決めた。
疲弊して心を病む働き手が増えれば、企業の事業継続にも影響しよう。近年は、ネット上に企業や個人の実名をさらして誹謗中傷するなど悪質性も目立つ。国が対応策を示すことは、企業に実効性ある取り組みを促す意義がある。
昨年の民間調査によると、苦情対応の担当者らの半数以上が最近3年でカスハラが増えていると感じていた。対応によるストレス増加は約9割に上り、8割が「仕事意欲への低下」で業務に影響があると答えている。国際労働機関(ILO)が昨年6月に採択した職場でのハラスメントを禁止する条約には、カスハラも対象に含まれ、国際的にも問題視されている。
クレームは本来、企業の商品やサービスを向上させる上で有益なものといえる。一方で、「客」という立場を悪用して従業員に面と向かって罵倒するなどの言動は、人権侵害にもつながる。度を越した迷惑行為を許してはならない。
重要なのは、働き手を守ることだ。企業には、従業員が安全で健康に働けるように配慮する義務がある。社内で悪質クレームに対する考え方や対処方針を浸透させるなど、組織として毅然と対応する体制づくりに取り組んでほしい。
公明党はカスハラ被害が相次ぐ事態に対し、昨年の女性活躍推進法等改正案の国会審議などで、行為の定義や対応のあり方を示したガイドラインの策定といった必要な対策を、関係省庁が連携して実施するよう求めてきた。
国はマニュアル策定に当たり、企業対応の好事例も収集する予定だ。どこからがカスハラと呼べるのか、線引きが難しい課題でもあるだけに、可能な限り分かりやすく対策を示し、周知徹底を図るべきである。
公明新聞2020/10/22 2面転載