奈良県の県域水道一体化の議論に対する私の考え
令和2年度後半から始まった奈良県の県域水道一体化について私の考えです。
いよいよ、令和4年10月には統一化に参加不参加の態度を奈良市は決定しなければならない時期となりました。
先ずはこれを参照ください。
総括原価とは、水道水をつくるのに必要な費用を算定する方法で、営業費用(人件費、動力費、修繕費、受水費、減価償却費等) +営業外費用(支払利息+資産維持費等) - 営業収益の額から給水収益を控除した額。この算定方法を用いて給水原価(水1㎥つくる経費)と給水単価(卸売単価)、供給原価(水道水の仕入れや供給するために必要な原価)と供給単価(使用者が負担する1㎥あたりの平均小売単価)に区分され、水道料金の基礎となる。
現在、県内自治体で進められている県域水道一体化について、9月28日、予算決算委員会総括質疑において県域水道一体化についての最終の質疑を行いました。
そもそもの県域水道一体化の主旨は、人口減少とともに水需要の減少で県民1人の1㎥あたりが負担する供給原価(仕入等含む原価)と供給単価(小売単価)が増加し、加えて老朽化が進むことにより水道施設の維持が厳しくなる。そのために、各市町村の地下水や河川による取水源を止めて奈良県用水(卸売り)を供給するという事で、当面の県用水事業を守ることが主眼です。
奈良市の県用水の受水率は市水道供給全体の約12%程度しかなく、特に防災の観点が大きいです。奈良市の水道行政の特徴は、市のダム独自水源(卸売り)から市民への給水(小売り)までの一体経営と上下水道の一体経営です。一体化そのものの考え方には理解するところもありますが奈良県の県域水道一体化議論については合理的経営の観点が必要となることから、これまで市議会でも積極的に議論を展開してきました。
総括質疑で明らかにした問題点の一つは、9月21日、県から新たなシミュレーションも示されましたが、市長が求めていた垂直補完に対する支援を更に146億円を奈良県が強化する内容である一方で、老朽化に対する補完であるとも。
そもそも論として、給水装置等の水道関係資産の老朽化対策として修繕費・工事費に集中的に費用を投入することで水道料金(総括原価の上記を参照)を下げられるというより、供給原価の増加要因(修繕費・減価償却費・支払利息)を低減させるという方が正しいと考えることから市の認識を質しました。
すると、垂直補完による給水原価と料金の低減効果について、県の垂直補完を長期前受金(営業総収益区分に相当)に計上し、資産の減価償却と併せて収益化すれば、実質的に減価償却費を圧縮することになり給水原価の増加要因を低減させることができると答弁。また、仮に、各年度において更新投資費用を当初の計画どおり執行できなければ、県の垂直補完額も減少しますので、結果的に当該補完による料金低減効果は小さくなることが明らかになった。
そうなると、老朽化対策に多額の費用を予算化しても執行できる現実性が問題となります。例えば、市の令和3年度決算から明らかとなる更新投資や修繕費、耐震化予算として見積もる額とその執行額との差や執行できない要因については、
令和3年度修繕費予算額1億2千2百万円。
決算額5千8百万円。
修繕費の見積もり額と執行額の差は、過去の実績の修繕件数などを予算化し、決算では不意の故障に対して執行しており、修繕発生件数が見込みより減少した要因による。
更新投資・建設改良費の予算と決算は、
令和3年度予算額54億3千1百万円。
決算額26億9千1百万円。
次年度への繰越額10億2千5百万円。
不用額17億1千5百万円。
更新投資の見積もり額と執行額の差については、大半は管路工事であり、すでに供用されている道路部での更新工事になりますので、他の地下埋設物事業者との協議や調整、地元住民や道路規制など準備や設計に時間を要したのが要因であります。
そうなると、更新投資費用を満額執行できる策を考えないといけないが、そのような提案や補足説明は奈良県からありません。結果的に低減効果はかなり薄まることとなります。
次に、総括質疑で明らかにした2つ目の問題点は、水道法第14条第2項。
「水道事業者は、料金、給水装置工事の費用の負担区分その他の供給条件について、供給規程を定めなければならない。次の各号に掲げる要件に適合するものでなければならない。
一、料金が、能率的な経営の下における適正な原価に照らし公正妥当なものであること。」とされている。
例えば、政治的な財源対策で集中的に営業外収益に繰入し水道料金を恣意的に下げることについて、公営企業経営の観点から、また県域水道一体化の根本主旨から適正かつ適格な「原価」による料金を設定している事となるのか。また、それで本当に抜本的に経営改善として供給原価や給水単価を下げることになり、布いては県民市民の水道料金を低廉化できるのかという問題を質したところ、市の答弁で明らかとなったのは、県が提案している垂直補完は、総務省の操出基準に定められた繰入れで、公営企業会計の独立採算原則から大きく逸脱するものでは無いものの、当該繰入れは企業団の事業開始後「10年間の期間限定」であり、また、「事業統合による相乗効果」とは直接関連しないので、抜本的な経営改善策とはならないと答弁しています。
要は、県の用水事業の「給水原価(卸売原価)」は1㎥あたり83~85円前後の水準であったとされているが、「給水単価(卸売り単価)」は、はるかに高い金額になっていることで県内市町村の水道料金が奈良市より高い要因となっているのが現状です。
問題を整理すると、奈良県の県域水道一体化シミュレーションは、県内統一料金が前提となっていることから、奈良市民が負担する水道料金が上がることが前提で、そもそも県内市町村の高い水道料金水準を、35万人の人口が密集している奈良市民が相対的に負担することとなります。
2つ目は、政治的に10年間の期間限定で財源対策して更新投資費用を増額しメリット感を醸し出し、結果、奈良県の用水事業の高コスト体質について焦点が当たらず、しかも財務会計情報が非公開であること。また、10年以降も水道施設管路の更新投資が続くと、企業債(借金)を活用することとなるので、修繕費とともに元金償還の減価償却費(償還金費用を各年度に平準化する手法)と支払利息がのしかかってきます。このことから水道料金が高額要因となります。(上記総括原価参照)10年以降の経営の見通しが立っていない。
3つ目は、老朽化対策等の更新投資額の満額執行の実効性が担保されていないことから、シミュレーションにある営業総費用の低減効果は不透明であり、そもそも建設改良や修繕費等の原資である企業債(借金)の元金償還にかかる減価償却費(費用の平準化)、その支払利息の増額が前提のシミュレーションとなっていることから、将来的に県民がその負担に耐えられるのかが問題である。もし、事業途中で県民負担の軽減から更新投資水準を下げるとして、その意思決定の民主的統制の在り方と経営体制の構築問題が議論されていない。それは県内管工事等執行の不均衡を残す問題を抱えています。
4つ目は、奈良市下水道事業と上水道事業の一体経営が失われることから、事業分離による費用の増大が発生するため、結果的に下水道料金が上がることとなります。
総括すると、これまでの議論をゼロベースに戻し見せかけのメリット感より、実質的な「給水・供給原価」に議論の柱を据えることが肝要と考えます。
一方で、10年先のことはわからないので政治判断が優先されるという意見もあるかもしれません。しかし、企業の経営は厳しく原価を測定することは当然のことであると思います。その上で経営判断しなければ、それこそ放漫経営との誹りを免れません。
公営とはいえインフラ設備の企業経営と、水道費用の回収は受益者負担が原則なので、先ずは営業総費用、特に固定費の縮減を議論し高コスト体質を改善されなければ県民市民は納得できませんし、私も奈良市民に説明ができるものではありません。
奈良県及び他の市町村は、卸売りと小売りが別々の事業形態であり、奈良市は卸売りから小売りまで一体経営で水道事業を行っており、一体化の議論においての比較検討する「ものさし」が違います。
そこで、奈良市以外の自治体で企業団を設立していただくと、その経営成績である、給水原価と単価及び供給単価、営業利益等を奈良市と比較検討し切磋琢磨できるメリットがあります。
県民市民の暮らしを守るためにある意味の競争相手をつくことは有効な事と考えることから、現在の県域水道一体化の議論から距離を置く考えです。