iPS研究 日本の技術を国際標準に/ノーベル賞山中伸弥・京大教授の講演(要旨)
今年のノーベル医学・生理学賞の受賞が決まった京都大学の山中伸弥教授が、18日に公明党再生医療推進プロジェクトチームの会合で行った講演(要旨)は次の通り。(文責・編集部)
『再生医療に無限の可能性/迅速な移植へ 細胞ストック計画急ぐ』
『さい帯血バンクと連携を/患者のために転用可能な仕組み必要』
ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)ができた2007年、当時の自公政権で始めてもらった迅速な支援が今も続いており、研究がここまで続いている。
さい帯血バンクが有田美智世さん(NPO法人さい帯血国際患者支援の会理事長)らの支援で整備され、毎年、国内で1000人以上の白血病患者の命を救っている。しかし、さい帯血は10年経つと古くなり、処分されている。また、細胞の数が少ないものも白血病治療には使えない。
処分される運命にある、さい帯血がiPS細胞として蘇り、白血病だけでなく、脊髄損傷や心疾患などに使える可能性が出てきた。ぜひ推進したい。9月に成立した(さい帯血の研究目的での利用・提供を可能とする)造血幹細胞移植推進法の意義は大きい。成立に尽力した公明党に心から感謝したい。

iPS細胞は最初、皮膚の細胞から作った。皮膚の細胞に四つの遺伝子を組み込んだら、万能細胞の一種であるES細胞(胚性幹細胞)とそっくりな細胞ができた。06年にマウス、07年にはヒトで作ることに成功した。
iPS細胞はES細胞同様、ほぼ無限に増やすことができる。増やした後、iPS細胞から神経や筋肉、血液などの細胞を作る。さい帯血からも効率よく作れ、しかも増やす力と細胞に変わる力が、ともに優れている。このiPS細胞を使って、再生医療や薬の開発に応用すべく、日本、世界で研究が進んでいる。
この5年間の国の支援で、日本はiPS細胞を使った再生医療で世界トップを走っている。パーキンソン病や眼疾患、心疾患などの分野では、近く臨床研究が始められる段階まできている。
血液疾患については、すでに人間のiPS細胞から血小板や赤血球を作ることに成功している。あとは量的な問題で、産業界と連携して大量生産できれば、いつでも治療できる状況だ。脊髄損傷についても、マウスやサルで効果が確認されており、一日も早く人間の治療につなげたい。だが、動物と人間では次元が違う。安全性については石橋をたたいて渡る必要があるが、数年後には臨床試験を始められるのではないか。

iPS細胞は患者本人から作れるので、倫理的な問題や免疫拒絶はない。だが、1人当たり1000万円を超える費用と、半年近い時間がかかる。
そこで私たちは、あらかじめ他人の細胞からiPS細胞を作っておく再生医療用の「iPS細胞ストック」という計画を進めている。これまでの研究で分かったことは、iPS細胞のソース(原材料)として一番いいのは、さい帯血だ。1人から作ったiPS細胞を何万人にも移植できる可能性があり、経済的効率も非常に高い。しかし他人の細胞のため、拒絶反応が起きてしまう。
赤血球以外の細胞は、細胞の血液型といわれるHLA型を揃える必要がある。これが揃っていると拒絶反応は非常に小さくなる。HLA型が適合しないと間違いなく失敗する。HLA型は血液型と違い、ほぼ無限にある。数万種類以上のHLA型を集めるためには、莫大な費用が必要だ。
そこで大事なのが、HLAホモドナーという概念だ。血液型の場合、O型の人は、どの血液型の人でも輸血ができる。これと同じようなHLA型となるのが、HLAホモドナーだ。このHLAホモドナーを持つ1人からiPS細胞を作ると、日本人の場合、20%の人にHLA型が適用されることが分かっている。また、日本人の90%をカバーするためには140人のHLAホモドナーを見つける必要がある。
しかし、この140人を探すとなると、20万人もの日本人のHLA型を調べなければならない。HLA型を調べる費用は1人当たり3万円程度だ。20万人も調べるとなると、60億円も掛かってしまう。
そこで、短期目標として掲げているのは、5人から10人のHLAホモドナーを見つけることだ。これなら、日本人の約50%をカバーできる。しかし、より多くをカバーするためには、日本赤十字の事業や、さい帯血バンクとの本格的な連携が重要だ。

さい帯血は全国のバンクに眠っている。この中には、HLAホモドナーと分かるものも多い。その細胞を有効利用させていただきたい。
そこで最大の課題が同意の問題だ。さい帯血は、採取する前に造血幹細胞移植の治療に使うことで同意を得ている。しかし、それ以外の目的で使うことは、同意を得ていない。あらためて同意を得るには、個人情報の問題などがある。同意を得るべきか、または同意を得ずに再生医療のために使わせていただくか。議論は必要だが、議論をする間にも、研究は日進月歩で進んでいる。この間、多くの患者が亡くなっているのも現実だ。時間は限られている。
また、iPS細胞のストックに関する指針がないことも課題だ。何とかこうした課題を克服して、一日も早く、さい帯血という宝の山を、iPS細胞という違う形で患者のために使わせてもらいたい。iPS細胞の作製は、日本の技術が標準化されるかどうかの瀬戸際だ。今のままでは捨てられてしまう運命にある、さい帯血サンプルをiPS細胞で、患者のために使わせていただきたいというのが、本日の最大のお願いだ。
私自身、研究時間を確保するため、約束していた講演等もほとんど断らせていただいている状況だが、きょうは何があってもここに来たいと思っていた。さい帯血の利用は、私たちの研究そのものだ。どうか、ご支援をお願いしたい。

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