中京病院での視察でとくに感銘を受けたことは病院長をはじめとして脳脊髄液減少症の担当医師や看護師及びスタッフが患者に対しての思いやりや、何とか治してやりたいという温かみを強く感じました。当病院では、まだ、本格的な保険適応がない中、こうした脳脊髄液減少症について苦しんでいる患者の身になって正に忍耐強く対応し、治療に当たってきてた医師がいたことがどれ程、多くの患者にとって大きな救いであったか計り知れないと感じました。以下、今日の視察でお聞きした内容はついては資料を基に報告させて頂きます。 

  低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)は、起立性の頭痛、ふらつき、全身倦怠感等を症状とする疾患で、多くの場合追突事故などの軽微な外傷後に生じますが、原因のはっきりしない場合もしばしばあります。 

 外傷の場合には、その瞬間からでなく、しばらく(30分から数週間)の時間間隔を開けて発症します。比較的急激に発症し、ある日を境にその患者さんの状態、生活は大きく変化していること場合が多く見受けられます。 

 ほとんどの患者さんが多くの医療機関を受診し、特に異常なし、気のせい、などと相手にされないで、時には、心療内科、精神科を受診してくださいといわれ、二重の苦しみを負う場合もあります。こうしていわゆるドクターショッピングを繰り返していますが、最近はこの疾患の認知度も少しずつ上がり、ご自分で診断され、あるいはそうする前に開業の先生方からご紹介いただくことも増えてきました。 

 この疾患は、腰椎部、あるいは下位頸椎部にて髄液が脊髄神経根に沿って、硬膜外に漏出し、このため起立時には頭の圧が下がり、これに伴って、脳や脳神経、脊髄やその神経が移動、牽引されて生じます。このため診断については、脳の下方向への移動の確認(間接所見)、漏出そのものをとらえる直接所見があります。間接所見については、頭のMRIなどで比較的容易に診断がつきますが、直接所見については、多少大き目な侵襲(体の負担、危険)を伴う方法が一般的です。 

 診断基準については、多くの組織で作られ、いずれも自分たちの基準が正しいと主張しますが、同じものは一つとしてなく、現時点(2012.2)ではどれが真実かは不明と言わざるをえません。 

 中京病院としては、症状、経過が最も診断上重要と考え、これにMRIを用いたMRミエログラフィーを主に行っています。 

 自然経過ははっきりとしたものは分かりませんが、非常に早期には水分摂取、安静などで治癒する症例もありますが、慢性に経過している場合にはおそらく自然に治癒することは少なく、一旦発症すると、2年でも3年でもあるいは10年でも20年でも苦しむことになります。 

 この苦しみに対して、ブラッドパッチ療法が有効とされ、当院でも2005年から積極的に治療に当たっています。これは、腰椎部、頸椎部にて硬膜のすぐ外側まで針を進め、この硬膜外腔に針先があることを造影剤にて確認したのちに、肘から採取した血液を注入します。血液はそのうちに固まり、漏出している部位をふさぐことを期待した治療です。普段ない場所に血液を入れるわけですから、内出血を人工的におこす治療となり、注入中とその後は痛みを伴います。 

 インターネットなどの情報では、痛かった人は感想を書き込むでしょうし、痛くなかった人は書き込まないわけですから、あたかも非常に痛い怖い治療法のように知られています。あまりこうしたことに惑わされずに、思い込まないでいただきたく思います。「ネット情報とは大部違いますね。」というのが一番多い反応です。 

  ブラッドパッチ療法1回で完治する患者さんもいますが、そうした場合は1割程度で、平均して3回近く治療を必要とします。中には5回治療が必要な患者さんもいます。時にはまったく症状が改善しない症例も時にあります。原因ははっきりしませんが、注入した血液が、漏出部位とは関係な場所に集積してしまった、固まりにくい血液であった、別の疾患であった、等が考えられます。 

 現在のもっとも大きな問題は、保険治療が行えないという点で、一回の治療(2泊3日)に付き20万円近くの費用を必要とします。治療に伴う合併症頻度は、今のところ、大きなものは0.1%以下です。放置しても、あるいは他の医療機関を受診しても改善しないだろうことは、この疾患の患者さんご自身が最もよく分かっていらっしゃると思います。 

 愛知県内で最も多くのこの疾患の患者さんを受け入れているのは、中京病院であり、治療ご希望の方は、紹介状をお持ちになり、受診していただければと思います。

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名古屋市 木下優
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