今回は長文になりますがお付き合い下さい。長久手市に現存する二棟の内の一棟とされる鳥居建式の古民家を、全国古民家再生協会愛知支部の代表理事らと見学しました。
18世紀中頃に建てられた家屋で、幾多の巨大地震を耐え抜き、明治24年に瀬戸市から長久手村に移築されました。約10年前に家主から市へ寄贈されたもので、専門家による指導の下に保護され、古戦場再整備計画の進捗に併せて活用方法が模索されてきました。
今、この古民家の移築・保存計画に対する評価は大きく2つに分かれています。「修繕だらけの価値が無い古民家であり、移築は税金の無駄遣い。ハコモノは不要」とする市民の声がある一方で、市の諮問機関である文化財保護審議会や、全国で古民家の評価を行なう古民家再生協会は、「明治〜昭和・平成にかけて長久手の農民の暮らしぶりが証明出来る貴重な資料になる」と評価しています。廃棄してしまえば、これほど状態の良い本物の古民家は二度と現れないため、次世代に継ぐべき市の財産になり得るそうです。
本日、代表理事に目視で評価して頂いたところ、江戸時代から使用されている部材と、劣化を防ぐために適切な修繕・管理がされており、少なくとも数千万円の価値があるのは明らかという事でした。また、白川郷の合掌造りと同じレベルだと表現され、仮に同じ建物を建てようとするならば、余りにも希少なため不可能とした上で、億単位になるのは間違いないと仰られていました。
これまで長久手市議会は、この古民家を古戦場に移築し、国内外から訪れる方や子ども達に様々な体験活動を楽しんで頂く施設にするとの認識の下、様々な要望と共に、予算を削減する事を条件に市の提案を認めてきました。
体験施設といえば平成子ども塾を連想しますが、主に幼・保育園の自然体験や小学生による環境学習の野外授業などに用いられており、市民の暮らしぶりの歴史や文化を学ぶ体験施設とは目的が異なります。古民家では宿泊体験をはじめ、バイオリンなどの演奏会を開いたり、かまどでご飯を炊いたり囲炉裏で暖を取るなど、長久手村だった頃の素朴な住民の暮らしを追体験できる施設が想定されています。
また、市の職員は議会から出された意見に答えるため、国の補助金や中央土地区画整理組合から寄付金などを必死に集めました。解体や移築作業は業者に丸投げするのではなく、予算を抑えるため、市民協働プロジェクトによる手作業を導入するなどの工夫を凝らし、予算の大幅な減額を実現しました。この作業に参加する市民は建築家を目指す高校生や海外の方など多様な所属で構成されており、若者が活躍出来る事業としても価値ある取り組みでした。
いよいよ移築作業に取り掛かるというタイミングで誕生した新市長は一旦、この事業を停止し、古民家を計画通りに移築するか、「税金の無駄使い」と位置付ける市民の声を理由に計画を中止するかを『市長一任で判断する』と表明しました。
計画が中止されれば、長年、費やされた時間や事業費、職員たちが必死に駆けずり回って得た国の補助金が無駄になるだけでなく、ワークショップに参加した市民や文化財保護審議会の皆さん、古戦場周辺に相応しい古民家をと多額の寄付をされた中央土地区画整理組合さん、代々の祖先が暮らした想い出深い家を寄付された家主さんらの『長久手の歴史・文化を後世に残したい』という純粋な気持ちが全否定されてしまいます。この事業の行方を真剣に見守ってきた1人として、古戦場一帯が市内外のお客様から喜ばれる、歴史的・文化的に価値の高い公園になる事を切に願っています。
市長一任とした以上、責任は市長にありますので、移築を目標にしてきた市職員をはじめ、全ての関係者が納得できる、丁寧な説明が求められます。
全国の自治体の文化財事業に精通する文化財保護審議会会長の意見や、愛知県が残すべき古民家と選定している事を、市の文化を護る責任者としてどのように受け止めたのか。日本が誇る職人の技や地域の歴史が詰まった古民家は、海外では自然の叡智・日本の宝として高く評価されています。議員時代から文化交流・国際交流に精力的であった新市長が日本文化を次世代へ繋ぐ事に価値を置かなかった理由は何か。また、この古民家は大災害に耐え抜いた日本家屋であり、構造的にも価値ある建築物といえます。巨大地震の発災確率80%と予測される中、多くの自治体はこうした古民家を保存・活用していますが、本市長の捉え方はどのような視点なのか、大変に興味深いものといえます。
2月にどのようなご判断を下されるのか。事業に関わってきた人々と共に見守って参ります。

↑長久手市の古民家。古民家再生協会の視察風景。移築後、躯体以外の内装は市民らが修繕する計画が進められていた。
↓以下は岩倉市が保存している古民家。予算的にも高額な茅葺き屋根が維持されている。また、伝統構法の石場建てのまま保存されている。自然と共生する建築のあり方で、ジブリ映画の「となりのトトロ」では、メイが孔のあいたバケツで縁の下を覗いていると、小さいトトロが縁の下に駆け込んで行くシーンがある。床下をのぞくと奥まで見通せて、柱の足元が石の上に乗っているのが床下の林のように見えるのが石場建ての特徴。コンクリートがない時代の免震工法。
