新型コロナとビッグデータ
昨日の公明新聞三面のコラム”潮流2020″で、京都大学大学院 中山健夫教授による「新型コロナとビッグデータ」と題し、未知なる脅威に対峙する武器として、ビッグデータに関する寄稿が掲載されましたので、ご紹介致します。
新型コロナウィルス対策法を巡り、国内外を問わずビッグデータを活用する動きが加速している。我が国の対応は課題はあるものの、欧米より死者数がはるかに少なく、善戦していると捉えている。その中でデータ分析に基づく対策もいくつか可能性を示したと言える。
ビッグデータの活用は、限られたデータからは見えない実態を見出だすことに意義がある。例えば、エボラ出血熱の場合、致命率が高いため基本的に怖い病気だと理解しやすいが、新型コロナの場合は、無症状や軽症が多い一方で、急速に重症化して死に至るケースもあるなど怖さのイメージを一つに定めにくい。致命率を出すには感染者数と死亡者数が必要だが、実際の感染者数はPCR検査だけではつかめない。病態の解明には個々の症例と全体の蓄積されたデータの双方が重要で、数字が揃ってくれば相手の姿がよりはっきりしてくるので、もう少し冷静に向き合っていける。とはいえ、間違ったデータの収集や活用方法をしてしまえば大きな過ちにつながる。特に、命を扱う医療の世界では慎重を期さねばならない。そのため現在は「エビデンス(根拠)に基づく医療」が重視されている。エビデンスは、治療法があれば、多数のデータからその有効性や安全性を確かめて積み上げる訳だが、生身の人間が相手だと、偏りのないデータを素早く十分に集めることは極めて困難だ。限られたデータで慎重な判断につなげる姿勢が重要になる。今回も同様で、目的を明確にして得られた情報を多角的に組み合わせながら最善策を講じることになる。
政府は一連の対応の中で、携帯電話の位置情報サービスや通信アプリのビッグデータを分析して、各地における緊急事態宣言前後の人出の増減を見たり、LINEと共同で発熱などの体調に関する全国調査を4回実施した。社会の潜在的な実態を知るために有益だ。平均で約2200万人が回答し、そのデータ規模から有用性は高いと言える。一方、自動的ではなく、あくまで自主参加に基づき集まるデータのため、感染症予防の意識が高い人ほど応じる場合もあり得る。一定の偏りがあることを前提に分析しないと、判断を誤りかねない。
未知なる脅威に対峙する政策決定には、今後もビッグデータの活用が重要なアプローチの一つであり続ける。政府は、感染者と濃厚接触した可能性を知らせるスマホ向け「接触確認アプリ」を近く導入予定だが、これまで日本では匿名性を高くすることを常に重視してきた。しかし、平時ではなく、社会全体が危機に晒された時の個人データの保護と利用のバランスの在り方は、社会が少し落ち着きを取り戻した今こそ議論を始める必要がある。

