新型コロナ 国産ワクチン開発の現状と課題
新型コロナウィルスの感染拡大を収束させるには、ワクチンの開発が欠かせません。各国の製薬会社や研究機関による開発競争が加速する中、日本では大阪大学とベンチャー企業「DNAワクチン」の研究が先行しているとの事で、大阪大学大学院の森下竜一寄付講座教授に、公明新聞が取材をしております。
⚫ 「DNAワクチン」とは、どのようなものか。
教授 : インフルエンザなどのワクチンと比べて安全性が高く、開発から供給までの期間も短く大量生産できることが特徴。ウィルスそのものを使い抗原を作る一般的なワクチンとは異なり、ウィルスの遺伝子情報のみを輪状のDNA(プラスミド)に合成する。ウィルス自体は一切使わないため副作用の可能性が低い。人に投与すると体の免疫機能が異物と認識し、排除しようと抗体を形成し、ウィルスが侵入してきたら、その抗体が働き抑え込む仕組みになっている。
⚫ 何故、そのようなメリットが生じるのか?
教授 : ワクチンの多くは、一旦鶏の卵にウィルスを打ち、弱毒化や不活化して製造する。患者に打ち始めるまでに5~8ヶ月必要で早期に対応が出来ない。また、ワクチン用の卵をわざわざ作らねばならず供給量も限定される。一方、DNAワクチンはウィルスの遺伝子情報さえ分かれば、開発から供給までが6~8週間ででき、大腸菌を使えば大量生産が可能。よって、今回はDNAワクチンの方が向いている。ただし、ワクチンの効果は臨床試験(治験)を経て実際に打たないとわからない。
⚫ 開発の進捗は?
教授 : 3月下旬にワクチンの原型自体は完成しており、現在、動物実験で抗体の効果が確認できる段階まで進んだ。今後、動物での安全性が確認できれば、医薬品として国から承認を得るために必要な人への治験を7月から始められる。治験は常に感染の危険に晒されている医師らから始める。2週間以内に2回打ち、その1ヶ月後に感染予防効果を確かめる。まずは大阪市の医療関係者10人、9月には大阪府内の400~500人に広げ、問題がなければ年内に東京都や北海道など感染者の多い地域に展開を検討し、1日でも早く全国に届けたい。ただし、日本のワクチン生産能力は高くなく、今のままでは年内に造れるのは100万人程度に限られる。
⚫ 海外の研究はどうか?
教授 : 世界では100以上のワクチン開発計画が進行中だが、中でも米国と中国が進んでいる。我々の研究がそんなに遅れている訳ではない。米国は、ワクチンの完成を待たずに製薬会社に資金提供し、迅速且つ大量に生産できる体制を構築し始めている。米国の場合、もともと軍がバイオテロ対策のためにウィルスの研究開発体制を敷いており、毎年、国から潤沢な研究資金が出ている分、動きが早い。ワクチンを先に開発した国が国際市場を独占するとの意見もあるが、どの国も自国民に十分なワクチンを行き届かせなければならず、どの国も他国に輸出する余裕などない。つまり、日本が早期に必要量のワクチンを確保するには、自前で製造するしかない。
⚫ 今、国に求められることは。
教授 : 開発支援のための予算を大幅に拡充するとともに、ワクチン認可までのスピード感が求められる。DNAワクチンは、大きなビール樽のような物の中で作る。樽が多ければ大量生産でき、供給までの時間も早くなる。ただ、日本にこうした設備はない。年内に20万人分は作れる体制は築いたがコストは現状自前だ。2020年度の1次・2次補正予算に盛り込まれたが、引き続き一層の支援強化を求める。加えて、国は企業に対し、製造量の方針を明確に示して欲しい。今後を見据えると、ワクチンが承認されるまでの時間がハードルになる。従来通り治験の結果を待つと2~3年がかかるので、第2波、第3波が来ると間に合わない。