#自民・公明 次期戦闘機の第三国への輸出容認で合意
❐NHK 三重 NEWSWEB/2024/03/15/19時22分…より転載!
イギリス、イタリアと共同開発を進めている次期戦闘機について、自民・公明両党は輸出先を絞るなどの歯止めを設けて第三国への輸出を容認することで合意しました。
次期戦闘機の第三国への輸出を認めるかどうかをめぐっては、去年4月から、認める方針の自民党と、慎重な公明党との間で協議が続けられてきました。
そして15日、自民党の渡海政務調査会長と公明党の高木政務調査会長が国会内で会談し、政府が示した歯止めを設けて輸出を容認することで合意しました。
具体的には、厳格な意思決定のプロセスを経るため
▽政府が輸出を可能とする場合に加え、実際に戦闘機を第三国に輸出する際にも閣議決定するとしています。
また、
▽対象を次期戦闘機に限り
▽輸出先を日本が防衛装備品の輸出などに関する協定を結んでいる国に絞るとともに
▽戦闘が行われている国には輸出しないとしています。
政府は、両党の党内手続きが終われば、3月下旬にも閣議決定する方針です。
将来的に戦闘機を輸出する可能性が出てきたことになり、戦後の安全保障政策の転換と言えます。
輸出先として認められる15か国
今回の合意で、輸出先として認められる日本が防衛装備品の輸出などに関する協定を結んでいるのは現時点で15か国です。
具体的には、▼アメリカ、▼イギリス、▼フランス、▼ドイツ、▼イタリア、▼スウェーデン、▼オーストラリア、▼インド、▼シンガポール、▼フィリピン、▼インドネシア、▼マレーシア、▼ベトナム、▼タイ、▼UAE=アラブ首長国連邦です。
イギリス イタリアと共同開発 最新鋭超える性能目指す
日本は現在、F35とF15、それにF2という3種類の戦闘機を保有しています。
次期戦闘機はこのうちF2戦闘機が10年後をめどに退役するため、その後継機として開発するものです。
新しい戦闘機を開発するには、ばく大な費用がかかるため、コストやリスクを減らす目的で、おととし12月、イギリス・イタリアと共同開発を行うことを決めました。
次期戦闘機は、敵機を探知する能力を高める一方、敵のレーダーに探知されにくいステルス性をいっそう高めるなど、「第5世代機」と呼ばれる、最新鋭のF35やF22を超える性能を目指すことにしています。
多数の無人機と連携した戦闘も可能にし、2035年までの配備を目指しています。
戦闘機は、新しい世代のほうが圧倒的に優位と言われていて、「第4世代機」と「第5世代機」をあわせた戦闘機の数は2022年で日本が318機なのに対し、中国は1270機、ロシアは916機と圧倒されています。
中国とロシアは「第5世代機」の開発も進めていて、日本としては機体の能力を高めることで対抗したい考えです。
開発担う国内企業から歓迎する声
こうした中、次期戦闘機の開発を担う国内の企業は、防衛装備庁の担当者と、今後本格化する3か国での開発協議に向けて連日打ち合わせを行っています。
第三国への輸出を容認することで合意したことについて企業からは歓迎する声があがりました。
機体の製造で中核を担う、三菱重工業次期戦闘機プログラムオフィスの杉本晃オフィス長は、「当社が貢献できる機会が広がる方向になり、国の安全保障にも貢献できて大変喜ばしい」と述べました。
レーダーや電子機器を担当する三菱電機防衛システム事業部須田勇副事業部長は「共同開発で培った技術で第三国の抑止力にも貢献できると考えています。生産量が増えれば、コストを下げ、生産効率を上げていくよう取り組んでいきたい」と述べました。
一方、防衛装備庁の射場隆昌事業監理官は「非常に厳しいスケジュールだが、実現に向け今後もあらゆる方策を企業と一緒に行っていきたい」と話していました。
自民 公明 両党の主張
他国と共同開発する防衛装備品を第三国に輸出することは、2014年に策定された「防衛装備移転三原則」に規定がなく、認められていません。
しかし、2022年にイギリス・イタリアと共同開発することが決まった次期戦闘機をめぐっては、両国から日本に対し輸出を可能とするようルールの見直しが求められました。
輸出して生産数を増やせばそれだけコストを下げることができるためで、政府と自民党は、日本だけ輸出できなければ、開発に向けた3か国の協議でも不利になるとして輸出を可能にしたいと考えました。
これに対し公明党は、殺傷能力のある装備品は輸出しないのが、これまでの日本の基本的な考えだとして、戦闘機の輸出は安全保障政策の大きな転換となり、国民の理解が必要だなどと慎重な立場でした。
自民 公明 協議の経緯
次期戦闘機など、他国と共同開発する防衛装備品の第三国への輸出を認めるかどうかは、他の課題とともに去年4月から自民党と公明党の実務者の間で協議が行われ、7月にまとめた論点整理では容認する方向で一致しました。
しかし11月に入り、公明党内で幹部を中心に「殺傷能力のある戦闘機の輸出を可能にする大きな転換で国民の理解が必要だ」などという声が相次いで協議が難航し、12月に行われた「防衛装備移転三原則」の運用指針の改正では見送られ、引き続き協議することになりました。
政府は、次期戦闘機の開発の作業分担に関するイギリス・イタリアとの3か国協議が3月以降に本格化すると見込まれることから、与党に対し、ことし2月末までに結論を出すよう求め、協議は実務者の枠組みから政務調査会長どうしに格上げされました。
2月28日の協議では、自民党の渡海政務調査会長と公明党の高木政務調査会長がともに「距離が縮まってきた」と述べるなど、進展がうかがえましたが2月中に結論は出ませんでした。
こうした中、公明党は国民の理解を得るために岸田総理大臣に国会で説明するよう求め、岸田総理大臣は3月5日の参議院予算委員会で「第三国への移転の仕組みがなければ、共同開発のパートナー国としてふさわしくないと国際的に認識され、防衛に支障をきたすことになる」と輸出の必要性に理解を求めました。
この答弁について公明党は、山口代表が「国会論戦の場で丁寧な発信をしたのはよい機会だった」と評価するなど、姿勢を軟化させました。
そして、すべての議員を対象とした会合での議論を経て厳格な歯止めが設けられれば、容認する方向となり、与党の間でどのような歯止めが必要かをめぐり、協議が続いていました。
拓殖大 佐藤教授「極めて妥当な結論」
安全保障が専門の拓殖大学の佐藤丙午教授は「極めて妥当な結論だと思う。3か国で共同開発をする以上、イギリスとイタリアの利益などにも配慮しないといけなくて、輸出政策に関する信頼性の確保を求められてきた。パートナー関係を維持するためにも今回の合意は必要不可欠な要素だ。また日本の防衛産業を伸ばすという意味においても、極めて合理的な結論であると思う」と話しています。
その上で「最初から第三国に移転できないような兵器を作るのか、それとも第三国に移転できる余地がある兵器を作るかでは大きな違いがある。第三国に移転できる余地があれば、他の国のパートナーや資金を入れることで発展させていくことができ、非常に開放的な製造システムになると思う。日本が今回、開放的なシステムの方向に転じることの意義は大きい」としています。
そして「防衛装備移転は防衛産業の維持発展や同盟関係の維持強化という手段として極めて重要なツールだ。ある程度、移転の自由化を担保した上でそれをどのように絞っていくかを政策的に決定していくことが望ましい形だと思う」と話しています。
学習院大大学院 青井教授「落差を感じる」
憲法学が専門で、防衛装備移転に詳しい学習院大学大学院の青井未帆教授は「軍縮外交や平和国家としての日本をこれまで掲げてきたが、国際社会に対してかつての平和国家をもう維持しないというシグナルと受け取られるのではないか。戦闘機という殺傷武器の最たるものの輸出までも当たり前のように語られるようになってしまい、落差を感じる」と話しています。
また戦闘が行われている国には輸出しないなどの歯止めを設けていることについては「今、共同開発しているのはイギリスやイタリアにとってはユーロファイター戦闘機の後継機だが、イエメンの内戦でサウジアラビアが介入した際に空爆で使われた戦闘機で、2019年には違法な輸出だったのではないかという指摘も国際的にされた。今、戦闘していない国だから大丈夫だと言って、それが実質的な担保になるかは甚だ怪しむべきことなのではないか」と歯止めの実効性に疑問を呈しています。
そして「日本の場合、憲法9条があるので、安全保障政策は不可避に憲法問題として扱われてきた歴史がある。政府はおそらく憲法論は済んでしまっているという立場だと思うが、きちんと国会で議論して、国民に説明されなくてはいけない。与党の一部の協議の中で、このような重大な決定をなし崩し的にしていくというのは正しい方法とは到底言えない」と指摘しています。
装備品輸出 安全保障環境の変化に合わせ対象広げる
武器を含めた装備品の輸出について日本は、国際紛争の助長を回避するという平和国家としての理念に基づき、慎重に対処しながらも安全保障環境の変化に合わせて輸出の対象を広げてきました。
【1武器輸出三原則等】
1967年、佐藤内閣は共産圏諸国や紛争当事国などへの武器の輸出を認めないとする「武器輸出三原則」を打ち出しました。1976年には三木内閣が三原則の対象ではない地域についても「輸出を慎む」とし、実質的にすべての輸出を禁止しました。
【2例外的措置】
しかし1983年に中曽根内閣がアメリカから要請を受けてアメリカへの武器技術の供与を例外として認める決定をします。それ以降、迎撃ミサイルの日米共同開発や、PKO活動に従事する他国軍への銃弾の提供など、個別の案件ごとに例外的な措置として輸出を認めてきました。
【3国際共同開発可能に】
2011年には野田内閣が「武器輸出三原則」を事実上、緩和し、戦闘機も含めた装備品について国際共同開発や共同生産に日本が参加できるようにし、共同で開発・生産を行うパートナー国への輸出が可能になりました。また、パートナー国が第三国に輸出する場合には日本による事前同意を義務づけるとしました。
【4防衛装備移転三原則】
その後、装備品輸出のルールを大きく転換したのは2014年の安倍内閣です。新たに「防衛装備移転三原則」と「運用指針」を決定し、他国と共同開発や共同生産した装備品以外についても、厳格な審査のもとで、輸出を判断していくとしたのです。
ただ、完成した装備品を輸出できるのは「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」に該当するものに限定しました。これまで完成品を輸出したのは、フィリピンに対する警戒管制レーダーの1件となっています。
【5改正防衛装備移転三原則】
さらに、去年12月、岸田内閣は防衛装備移転三原則を改正し、外国企業から技術を導入して国内で製造する「ライセンス生産」について、ライセンス元の国に完成品を輸出できるようにしました。
これによりライセンス生産しているF15戦闘機や砲弾など殺傷能力や、ものを破壊する能力のある完成品も輸出できることになり、政府は航空機や巡航ミサイルを迎撃する「PAC2」と、主に弾道ミサイルを迎撃する「PAC3」をライセンス元のアメリカに輸出することを決めています。
【6次期戦闘機の第三国輸出】
そしてきょう、自民・公明両党はイギリス・イタリアと共同開発を進めている次期戦闘機について、第三国への輸出を容認することで合意しました。
林官房長官「早期に制度見直しを実現」
林官房長官は午後の記者会見で「わが国が望む戦闘機を実現するためにも、第三国に直接移転を行いうる仕組みを持つことが、国際共同開発の成功に必要と考えており、与党関係者の尽力に感謝したい」と述べました。
その上で「政府としては、できる限り早期に制度の見直しを実現すべく、閣議決定と『防衛装備移転三原則』の運用指針の改正に向けたプロセスを進めていく。国民の理解を得るべく、引き続き丁寧な説明に努めたい」と述べました。
自民 渡海政調会長「国際情勢に応じた判断」
自民党の渡海政務調査会長は、記者団に対し「2月の末では状況が整わず、公明党に納得してもらえる状況にはなっていなかった。真摯にお互いの考え方をぶつけ合ったため、きょうまで時間がかかったが、国にとって重要な決定であり、この程度の時間はかけてよかったのではないか」と述べました。
そのうえで、輸出する際の歯止めを設けたことについて「国際情勢は大きく日々変化するため、その時の国際情勢に応じた判断を、政府が責任を持って行ったうえで閣議決定し、その中で与党が政治的な責任を負うプロセスを設けた。国民の命と財産を守るという重要事項であり、それくらいの手続きは必要だと判断した」と述べました。
公明 石井幹事長「国会で首相答弁 国民の理解進める役割」
公明党の石井幹事長は記者会見で「重要な変更なので、わが党から広く国民の理解を得る必要があると問題提起し、それが国会でも取り上げられて具体的な岸田総理大臣の答弁につながった。国民の理解を進めるという意味で大きな役割を果たしたのではないか」と述べました。
一方、協議が難航したことを受けて自民党の会合で出席者から「公明党との連立を解消すべきだ」といった声が出たことについて「必ずしも自民党全体の反応だとは思っていない。連立政権はそもそも違う政党の組み合わせなので、政策が全く同じことはありえず、最終的に合意点を導き出せるのが連立のあり方だ」と述べました。
公明 高木政調会長「大きな政策変更 国民の理解大きく前進」
公明党の高木政務調査会長は、記者団に対し「国民の理解を得る必要のある大きな政策変更だったが、政務調査会長どうしの協議や国会での岸田総理大臣の説明によって、国民の理解は大きく前進したのではないか。ただ合意したからといって説明責任が終わったわけではなく、政府には今後、さらに国民の理解を得るために説明を尽くしてもらいたいし、与党としても国民に説明していきたい」と述べました。
また「平和国家として根幹を揺るがすものではないのか」と問われたのに対し「戦闘機は攻撃兵器と捉えられがちだが、わが国は専守防衛のために必要だとしている。もし輸出するのであればそれも国の防衛にとって必要だという認識で、憲法の問題はクリアしている」と述べました。
立民 長妻政調会長「与党だけで決めて閣議決定は拙速」
立憲民主党の長妻政務調査会長は記者団に対し「国際情勢が混とんとし、武器も高度化している中で、共同開発自体は否定しない。ただ第三国に輸出することを国会にきちんと報告もせず、与党だけで決めて閣議決定をするのは説明不足で拙速だと言わざるを得ない。生煮えのまま進んでいるので、閣議決定をもう少し先に延ばし衆参両院で説明の機会を設けることを強く求める」と述べました。
維新 青柳政調会長代行「例外なく第三国への輸出を認めるべき」
日本維新の会の青柳政務調査会長代行は、記者団に対し「国際共同開発の場合は、例外なく第三国への輸出を認めるべきだ。これからAIやドローンなどの最新技術を搭載した防衛装備品が主戦場になり、自国だけでサプライチェーンを用意できる国はないので、基本的には国際共同開発になる。その時に航空機だけなどと制約をつけたり、そのつど検討したりする、面倒くさい国はパートナー国として選ばれなくなるだろう」と述べました。
共産 小池書記局長「断固抗議し撤回求める」
共産党の小池書記局長は記者会見で「戦闘が行われている国には輸出しないと言うが、輸出したあとで戦闘が行われたケースはいくらでもあり、何の歯止めにもならない。戦闘機の輸出は、国際紛争を助長するもので、憲法に違反する。平和国家としての大原則は、武器輸出をしないことだ。自民党と公明党だけで輸出を決めていくのは言語道断で、議会制民主主義や憲法の破壊であり、断固抗議し撤回を求める」と述べました。
国民 榛葉幹事長「公明が難問を乗り越え高く評価」
国民民主党の榛葉幹事長は記者会見で「公明党がさまざまな難問を乗り越えて、ブレーキをかけながらも門戸を開いたことを高く評価したい。共同開発も国防も、国民の理解なくしてわが国の安全保障はない。防衛省・自衛隊のみならず、岸田総理大臣や、われわれ責任ある野党もしっかり議論し、説明責任を果たす努力が必要だ」と述べました。
自民党国防部会などの合同会議では
自民党の国防部会などの合同会議が15日、開かれ、次期戦闘機について、輸出先を絞るなどの歯止めを設けて第三国への輸出を容認することを了承しました。
一方、この問題をめぐっては、与党の実務者による協議で去年の夏に容認する方向で一致したものの、その後、公明党の幹部を中心に慎重な意見が相次ぎ、協議が難航しました。
これについて出席者からは「なぜ幹部が、あのような発言をして急に蒸し返すのか」とか「今後のことを考えれば公明党との連立を解消するべきだ」といった公明党に対する厳しい批判の声が出たということです。