高齢者の働き手が増えるにしたがい、シニア世代で転倒事故などの労働災害が増加していることが指摘されています。
そのことから厚生労働省は、企業に対して労働災害の防止策を努力義務とする案をまとめ、来年の通常国会で法改正案を提出する方針のようです。
このことに対して少し所見を述べたいと思います。
労働災害とは?
労働を原因に怪我や病気などしてしまうことを労働災害(労災)といいます。
労災かどうかの判断基準は、業務遂行性と業務起因性によるものとされます。
【業務遂行性】
災害を発生させた事故が、労働契約に基づいた事業主の支配下にある状態で生じたことをいいます。
例えば労働者が正当に労務を提供している時間、出張や外回りに出ている時間、強制参加の研修会に出席している時間などが該当します。
【業務起因性】
業務と傷病などとの間に相当の因果関係が存在することをいいます。
一方で飲酒などの私的逸脱行為や、出張中に観光に行くなどの積極的な逸脱行為は認められません。
また第三者などから暴行を受けた場合は民法・刑法で判断するため労災にはなりません。
地震などは不可抗力としてやはり労災にはなりません。
労災保険制度の目的
労働者が安心して働くために、職場の環境は労働災害に対する予防が必要です。
と同時に労働災害が発生してしまった場合の補償も重要です。
もっとも被災してしまった労働者は企業などの使用者に対して民法を用いて損害賠償請求ができます。しかしながらその因果関係を立証するまでのハードルがとても高いのです。
また仮に立証できたとしても使用者側に十分な資力がないと損害賠償を払えないといった事態が生じ被災労働者も補償を受けられないことも考えられます。
そのために労災保険制度があります。
労使双方にとって重要な役割を果たす労災保険の目的は、業務上または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡に対し迅速かつ公正な保護のための必要な保険給付を行うことにあるのです。
また被災労働者およびその遺族に対する社会復帰促進事業を行うことも可能です。
労災保険の認定基準の課題
最初に記載したとおり、高齢者の働き手が増加しています。
そのためにも労災に対する対策を企業が行うことは大変重要です。
では、労災に認定基準は今のままでいいのでしょうか?
私としてはここは十分な議論をする必要があると考えます。
というのも現役世代もシニア世代も労災の認定基準が同じです。
例えば関節などの痛みや怪我があった場合、それが職業によるものなのか、それとも加齢によるものなのか判断って難しいですよね。
また脳や心臓の疾患を引き起こして死にいたった場合も、現行制度では、業務による過重負荷の判断基準が現役世代と同列となります。
総務省の統計によると現在65歳以上の高齢者の就業人数は全国で900万人を超えています。
また社会保障制度を支える仕組みを確保するため高齢者による生涯現役時代の雇用改革も議論されています
そのため、これまでも「経済財政運営と改革の基本方針2019」いわゆる骨太の方針に「サービス業で増加している高齢者の労働災害を防止するための取組を推進する」ことが盛り込まれ、高年齢労働者へのハード面、ソフト面を考慮した職場環境をとるよう周知されてきました。
今回の法改正によって、このことをさらに加速させる意義があります。
しかし、労災保険の役割は労働者が安心して仕事をするために職場環境の予防措置と、労働災害が発生した場合の適切な補償の確保です。
そのため適切な補償の確保の観点から認定基準を年代別・階層別にすることも検討すべきと私個人としては考えます。



