砂川事件と憲法9条の関連性自衛権政府見解と平和安全法制制定
「砂川事件と憲法9条の関連性
自衛権政府見解と平和安全法制制定」
事件番号. 昭和34(あ)710号
事件名. 日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反.
裁判年月日. 昭和34年12月16日.
法廷名. 最高裁判所大法廷.判決.(所謂「砂川事件」)
2017年9月30日
2017年 大学院 憲法特殊講義Ⅰ レポート 佐野 弘仁
「砂川事件の主な経緯」
「砂川事件」
1955~57年(昭和30~32)東京都北多摩郡砂川町(現立川市)における米軍立川飛行場拡張反対闘争をめぐる事件。基地闘争の天王山といわれた。防衛分担金削減を条件に米空軍基地拡張要求をのんだ鳩山一郎内閣は、55年5月地元に接収の意向を伝えるが、砂川町ではただちに基地拡張反対同盟を結成、町をあげての闘争体制を整え、運動は三多摩地区労協と原水禁運動との提携に発展していく。9月の強制測量は反対派、警官あわせて5000人が衝突、負傷者100人を出す闘争最初の山となり、条件闘争派の顕在化という厳しい状況のなかで、反対同盟は「土地に杭(くい)は打たれても心に杭は打たれない」と徹底抗戦を声明した。ついで11月には社会党・総評の支援動員中止のすきをついて測量が強行され(2名起訴、第一次砂川事件)、反対派の苦難の時期が続いた。
孤立した反対派は以後世論喚起に努め、それは基地問題文化人懇談会結成、全学連の支援方針決定、総評の支援強化・共産党との共闘方針採択を経て、1956年9月、共産党、日本平和委員会、全学連を正式構成員に加えた21団体の砂川支援団体連絡会議として結実する。こうして10月の強制測量は武装警官2000人余、反対派6000人余が衝突する闘争の峠となり、政府は測量中止を発表した。
その後、1957年7月土地返還請求訴訟を起こしていた基地内民有地の強制測量に反対して第二次砂川事件があり、7名が起訴された。この訴訟で59年3月30日東京地方裁判所は米軍駐留は憲法第9条違反であるとして無罪判決を下した。いわゆる伊達(だて)判決である。時まさに日米安全保障条約改定作業中であり、検察側は最高裁判所に跳躍上告、同年12月16日、最高裁判所は、外国軍隊は憲法第9条にいう戦力にあたらないから米軍の駐留は憲法に違反しないとし、また、米軍駐留を定めた安保条約は高度の政治性を有し、司法裁判所の審査にはなじまないとして、事実上の安保合憲・統治行為論により原判決を破棄、東京地裁に差し戻した(63年12月有罪確定)。1か月後安保条約は調印されたが、同裁判は日米安全保障条約の憲法適合性を争点とする最初の裁判として重大な意義をもった。[荒川章二]
『伊藤牧夫他著『砂川』(1959・現代社) ▽宮岡政雄著『砂川闘争の記録』(1970・三一書房) ▽田中二郎他編『戦後政治裁判史録 第三巻』(1980・第一法規出版)』
「訴訟までの経緯」
東京・砂川町(現立川市)付近の在日米軍立川飛行場の拡張を巡る砂川闘争における一連の訴訟である。特に、1957年7月8日に所謂接収を行う機関であった特別調達庁東京調達局が強制的に測量を行ったことが起点。この時に基地拡張に反対するデモ隊が、在日米軍立川飛行場基地の立ち入り禁止境界柵を壊し、基地内に入ったとして、7名が日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(現在の地位協定の前身)違反で逮捕され、起訴された。
「砂川事件の裁判と判決」
「第一審判決」
東京地方裁判所(裁判長判事・伊達秋雄)は、1959年3月30日、「日本政府がアメリカ軍の駐留を許容したのは、指揮権の有無、出動義務の有無に関わらず、日本国憲法第9条2項前段によって禁止される戦力の保持にあたり、違憲である。したがって、刑事特別法の罰則は日本国憲法第31条に違反する不合理なものである」と判定し、全員無罪の判決を下した(東京地判昭和34.3.30 下級裁判所刑事裁判例集1・3・776)ことで注目された(伊達判決)。これに対し、検察側は直ちに最高裁判所へ上告している。
「最高裁判所判決」
最高裁判所(大法廷、裁判長・田中耕太郎長官)は、同1959年12月16日、「憲法第9条は日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定しておらず、同条が禁止する戦力とは日本国が指揮・管理できる戦力のことであるから、外国の軍隊は戦力にあたらない。したがって、アメリカ軍の駐留は憲法及び前文の趣旨に反しない。他方で、日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない」(統治行為論採用)として原判決を破棄し地裁に差し戻した(最高裁大法廷判決昭和34.12.16最高裁判所刑事判例集13・13・3225)。
「差戻し審と確定判決」
田中耕太郎長官の差戻し判決に基づき再度審理を行った東京地裁(裁判長・岸盛一)は1961年3月27日、罰金2000円の有罪判決を言い渡した。この判決につき上告を受けた最高裁は1963年12月7日、上告棄却を決定し、この有罪判決が確定した。
「砂川判決に米国が介入していたことに関する新聞記事」
砂川事件時の最高裁長官、米公使と密談、判決見通し伝達。米軍の旧立川基地にデモ隊が侵入した「砂川事件」で、米軍駐留を違憲とした一審判決の後、当時の最高裁長官が駐日米公使らと密談し、上告審判決の見通しなどを述べていたことが、米国の公文書で明らかになった。結果的に一審判決は破棄され、米国側は長官が「金字塔を打ち立てた」と称賛。一方、研究者らは「司法権の独立を脅かすものだ」と指摘する。公文書は1959年8月3日、11月5日、12月17日付の計3通。日米安保条約の改定を控え、両国政府が反対世論の動向を注視していた時期で、すべて駐日米大使のダグラス・マッカーサー2世が、本国の国務長官へ宛てた公電だった。
公電によると、発言したのは当時の田中耕太郎・最高裁長官(1890~1974)。検察側は一審判決を受け、高裁への控訴を経ずに、最高裁に直接上告する「跳躍上告」をしていた。8月3日付の公電は、上告審の公判日程が決まる3日前の7月31日に、田中長官が当時の米首席公使と「共通の友人宅」でかわしたやりとりとされる。 (朝日新聞13年4月8日)
「司法権の独立を揺るがす対米追従」
ジャーナリストの末浪靖司がアメリカ国立公文書記録管理局で公文書分析をして得た結論によれば、この田中判決はジョン・B・ハワード国務長官特別補佐官による“日本国以外によって維持され使用される軍事基地の存在は、日本国憲法第9条の範囲内であって、日本の軍隊または「戦力」の保持にはあたらない”という理論により導き出されたものだという[1]。当該文書によれば、田中は駐日首席公使ウィリアム・レンハートに対し、「結審後の評議は、実質的な全員一致を生み出し、世論を揺さぶるもとになる少数意見を回避するやり方で運ばれることを願っている」と話したとされ、最高裁大法廷が早期に全員一致で米軍基地の存在を「合憲」とする判決が出ることを望んでいたアメリカ側の意向に沿う発言をした[2]。田中は砂川事件上告審判決において、「かりに…それ(駐留)が違憲であるとしても、とにかく駐留という事実が現に存在する以上は、その事実を尊重し、これに対し適当な保護の途を講ずることは、立法政策上十分是認できる」、あるいは「既定事実を尊重し法的安定性を保つのが法の建前である」との補足意見を述べている[3]。古川純専修大学名誉教授は、田中の上記補足意見に対して、「このような現実政治追随的見解は論外」[4]と断じており、また、憲法学者で早稲田大学教授の水島朝穂は、判決が既定の方針だったことや日程が漏らされていたことに「司法権の独立を揺るがす[5]もの。ここまで対米追従がされていたかと唖然とする」とコメントしている[6]。
【脚注】
1 澤藤統一郎の憲法日記「アメリカ産の砂川事件大法廷判決」 日本民主法律家協会
2 砂川事件:米に公判日程漏らす 最高裁長官が上告審前(1/2) 毎日新聞2013年4月8日
3 本判決全文 裁判所 2014年8月17日閲覧
4 『憲法判例百選II[第5版]』210事件有斐閣
5 日本国憲法第76条違反
6 砂川事件最高裁判決の「超高度の政治性」―どこが「主権回復」なのか 水島朝穂ホームページ『平和憲法のメッセージ』「今週の直言」2013年4月15日
「砂川事件から集団的自衛権を許容しようとする動き」
自民党は、集団的自衛権の行使容認を巡って新たに設置された総裁直轄の組織で、2014年3月31日から党内論議を始め、講演した高村副総裁は、今の憲法の下でも必要最小限度の範囲に限定すれば集団的自衛権の行使は容認されるという認識を示した。
集団的自衛権の行使容認を巡って、安倍総理大臣は、政府の有識者懇談会の報告書が提出されたあと、与党側と調整したうえで、憲法解釈の変更を閣議決定する方針を示していて、自民党はこの問題に対する党内の理解を深めようと、総裁直轄の「安全保障法制整備推進本部」を設置した。
高村副総裁が31日に講演し、「最高裁判所は、個別的自衛権と集団的自衛権を区別せずに、自衛権について『平和と安全、国の存立を守るための措置は当然取りうる』と言っている。必要最小限度のものは認められるのに、『集団的自衛権は認められない』といった内閣法制局の論理には飛躍がある」と述べ、今の憲法の下でも必要最小限度の範囲に限定すれば、集団的自衛権の行使は容認されるという認識を示した。そのうえで、高村氏は「アメリカに行ってアメリカを守ること、イラクに行ってアメリカ軍と共に戦うことは、必要最小限度に含まれないだろう。具体的に何が必要最小限度に含まれるのか議論してほしい」と述べ、集団的自衛権を行使できるケースをどう限定するのか、推進本部で具体的に検討するよう求めた。
「2014年3月31日党内論議での各自民党議員の意見」
赤池誠章参議院議員は記者団に対し、「内閣法制局が抑制的すぎるほど限定的に解釈して、集団的自衛権が行使できないことになっているが、時代に合わせて一日も早く解釈を変更するのは当然だ。国民にきちんと理解してもらえるよう現在の厳しい国際環境などを伝えていきたい」と述べた。
萩生田総裁特別補佐は記者団に対し、「必要最小限度の集団的自衛権の行使は、友好国との信頼関係や日本の国益、国民の生命・財産を守るためには必要だ。すでに選挙公約として国民に約束したことなので、ずるずると議論に時間をかけるべきではなく、新人議員も含めて一定の理解が共有できたところが出口ではないか」と述べた。
金子一義元国土交通大臣は記者団に対し、「国家権力の行使には、極めて慎重さや謙虚さがいる。集団的自衛権は憲法9条の存立に関わるものでもあり、政治の判断だけで収まる問題なのかどうか、漠たる不安もある。高村副総裁が指摘した最高裁判所の判決は、今後の議論の有力な手がかりにはなるが、唯一無二のものかどうか時間をかけた議論が必要だ」と述べました。
脇参議院幹事長(当時)は記者団に対し、「国家として非常に大事な問題について、党全体で意見集約すべきだと主張してきたので、こうして初会合が開かれたのはよかった。今の時点で結論が決まっているわけではないし、慎重派とか積極派などということでもなく、具体例を挙げながら、きちんと意見集約して結論を出していく」と述べた。これまで「丁寧な議論」を訴えてきた脇雅史参院幹事長も記者団に「(自身の考えは)ほとんど副総裁と同じだ」と強調した。
「自民党議員の全体的な意見」
出席した衆参156人の議員から目立った異論は出なかった。相次いだのは、高村氏の解説への賛同の声だった。行使慎重派もこれまでの党公約で行使容認を掲げてきたこともあり、「限定的な行使容認」に明確な反対論も出なかった。
「2014年当時の世論」
毎日新聞の世論調査で憲法解釈変更に6割が反対するなど、世論の慎重論は根強い。また、自民党内で、行使を容認する個別事例に関する議論は長期化する可能性もあった。高村氏は、2014年3月28日、安倍晋三首相と首相官邸で会談した際、集団的自衛権について「柔軟に慎重に対応する」ことで一致した。党執行部は6月上旬まで続く全党協議を見守り、党内集約の時期を見定めようとしていた。
(毎日新聞2014年3月31日)
「法の支配の理念に反する」
『砂川事件の最高裁判決を集団的自衛権の行使を容認する根拠とすることについて、憲法学が専門で学習院大学法科大学院の青井未帆教授は、「『砂川判決の言う自衛権は個別的自衛権だ』という前提でこれまで政府は解釈してきたはずなのに、きちんとした理由もないまま解釈を変えるのは法の支配の理念に反する」と指摘。そのうえで「集団的自衛権の行使が必要最小限度の実力の行使の範囲に含まれるという見解は、これまでの考え方を根幹から変えるもので、制約が取り払われて自衛隊の活動範囲がどんどん広がるおそれがあり、認められない」と話している。(NHK14年3月31日)』
「公明党の反論」
公明・山口那津男代表の反論「砂川判決は個別的自衛権を認めたものと理解」している。
山口代表は2014年4月1日午前の記者会見で、自民党の高村正彦副総裁が、昭和34年の砂川事件の最高裁判決を、集団的自衛権の行使容認の根拠としていることについて、「砂川判決は、個別的自衛権を認めたものと理解してきた」と述べ、同判決は集団的自衛権の行使容認を視野に入れたものではないとの認識を示した。(産経新聞14年4月1日)
「集団的自衛権についての意見、政府想定・限定的容認に慎重」
同じく山口代表は2014年4月1日の記者会見で、政府や自民党が想定している集団的自衛権の行使を限定的に容認する憲法解釈変更についても、「政府は長年、集団的自衛権の行使を禁止し、個別的自衛権で対応する方針を取ってきた」と述べ、慎重な考えを示した。山口代表は、自民党の高村正彦副総裁が1959年の砂川事件をめぐる最高裁判決を根拠に、限定的な行使容認ならば解釈変更で可能としていることについても「砂川判決は個別的自衛権を認めたもので、集団的自衛権を視野に入れていない」と否定的な考えを示した。行使容認に慎重な公明党は、砂川判決を援用することについて「集団的自衛権が争点になっていなかった、自衛隊創設直後の判決から、行使容認を引き出すのは、飛躍がある」(北側一雄副代表)
「公明党の北側一雄副代表」
2014年4月27日、自民党の高村正彦副総裁が1959年の最高裁判決(砂川判決)を例示して、必要最小限の集団的自衛権行使は認められるとの見解を示したことについて、「やや違和感がある。あの判決で集団的自衛権を一部であれ、何であれ容認していると引っ張ってくるのは少し(論理的な)飛躍がある」と疑問を呈した。公明党の集団的自衛権に関する勉強会後に記者団の質問に答えた。
北側氏は「米軍の日本駐留は違憲ではない、米軍は憲法9条2項による戦力に該当しないというのが砂川判決だ。集団的自衛権が争点になっているわけでもなんでもない」と指摘した。
(時事通信2014年3月27日)
北側副代表は同4月27日、集団的自衛権の行使容認について昭和34年の砂川事件の最高裁判決を引用し、国の存立を守るために限定的な行使容認は可能との見解を示した自民党の高村正彦副総裁の見解に「やや違和感がある」と反論した。北側氏は最高裁判決について「日本に自衛権があるか、自衛隊は憲法違反かが論議されている時代の判決だ」と論評。その上で「集団的自衛権が争点になっているわけではない判決から、(集団的自衛権の)行使を容認しているとするのは少し飛躍がある」と指摘した。
自衛の措置として自衛隊に認められる武力行使は「外国の武力攻撃によって国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される急迫、不正の事態に対処する場合」に限られるという昭和47年(1972年)見解の根幹部分を取り上げ、「この基本的な論理は、憲法9条の下では今後とも維持されなければならない」(産経新聞14年3月27日)
「新3要件、平和安全法制、北川副代表の見解」
関連法案の全体像が示された与党安保協議会、2015年4月17日(衆院第2議員会館に於いて)自民、公明両党は17日午前、衆院第2議員会館で「安全保障法制整備に関する与党協議会」を開き、周辺事態法や武力攻撃事態対処法の改正など、関連法案の全体像について政府から説明を受け、議論した。
公明党から北側一雄副代表(座長代理)らが出席した。このうち、周辺事態法を改正して定める「重要影響事態安全確保法」(当時仮称「平和安全法制」)の目的規定には、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等」との例示や、「日米安保条約の効果的な運用に寄与することを中核とする」との文言が盛り込まれた。従来の周辺事態法の性格が、今回の法改正によっても変わらないことが明確になり、運用がより厳格となる。
この後政府は2014年7月に閣議決定された武力行使の新3要件のうち、第2要件の「我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない」との文言を、武力攻撃事態対処法に明記する方針も提示。武力の行使が他国防衛ではなく自国防衛のためであり、国民を守るため他に手段がないことを対処基本方針の中で明らかにすることとなった。
また政府からは、国際平和協力法の改正によって、国連平和維持活動(PKO)以外の活動への参加も可能にすることに関し、参加は従来のPKO参加5原則と同じ厳格な原則によることを 前提としたため、2003年のイラク特措法の下で実施した人道復興支援のように、停戦合意や紛争当事者の受け入れ合意がない活動はできないとの説明があった。さらに、同法には自衛隊の業務に、防護を必要とする住民らの安全確保や駆け付け警護を追加する方針も示されたが、政府は「(武装勢力の)掃討作戦をするような業務はあり得ない」と明言した。
17日午後、公明党は衆院第2議員会館で「安全保障法制に関する検討委員会」(北側一雄委員長)を開催。「隊員の安全確保」を求める公明党の訴えを反映し、政府は外国軍隊への後方支援のための国際平和支援法(仮称)に、危険回避のための避難などの規定を盛り込むと言明、現在の法制とした。
(公明新聞:2015年4月18日)付にて」
「衆議院憲法審査会(2016年11月24日)
遠山清彦衆議院議員(国際平和学者)自由討議発言」
【憲法9条と憲法解釈の基本姿勢】
憲法9条は、1項で「戦争の放棄」を定め、2項で「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を定めています。その文言からすると、憲法9条は、国際関係における「武力の行使」を一切禁じているようにも見えます。しかし、憲法を始めとする法の解釈というものは、およそ、一部の条文だけを切り取って行えばよいようなものではなく、その全体構造の中で整合的な解釈を追求することが求められるもの、と理解しています。
【47年見解の論理~基本的な論理とあてはめ~】
昭和47年に参議院決算委員会に提出された政府見解、いわゆる「47年見解」では、このような体系的な法の解釈という観点から、憲法9条の下での「武力行使」の可否とその限界について、一般論の提示に当たる「基本的な論理」とこれを具体的な状況に「あてはめ」た記述とを截然と整理しながら、見事な定式化を行っています。
まず「基本的な論理」では、憲法前文の平和的生存権や13条の幸福追求権の趣旨をも踏まえれば「平和主義を具体化した9条も、外国の武力攻撃によって我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫不正の事態、そのような極限的な場合においては、我が国と国民を守るためのやむを得ない必要最小限度の武力の行使をすることまでをも禁じているとは解されない」旨を述べています。
その上で、「そうだとすれば」という接続語を用いて当時の国際環境への「あてはめ」の論述に入り、「我が憲法の下で武力行使を行うことが許されるのは、我が国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られる(中略)したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されない」と述べて、「当時考えられていた、他国防衛を目的とするような集団的自衛権」を念頭に、「いわゆるフルセットの集団的自衛権」を否定しているのです。
【平和安全法制の合憲性】
その後、弾道ミサイルや核の開発が進み、軍事技術も飛躍的に高度化するなど、我が国を巡る安全保障環境は厳しさを増してきました。このような安全保障環境の変化と、我が国の安全保障に日米防衛協力体制が中核的な役割を果たしていることを踏まえれば、未だ我が国に対する武力攻撃に至っていない状況でも「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」が発生することもあり得るとの認識に至ったのです。すなわち、「47年見解」の(昭和47年9月14日参議院議員決算委員会議事録( http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/069/1410/06909141410005.pdf#search=%2706909141410005%27 )「基本的な論理」を維持した上で、それを現在の安全保障環境に「あてはめ」た結果、このような極めて限定的な事態に対応するための「自国防衛を目的とする集団的自衛権」の行使を認めることは、憲法前文や13条の趣旨を踏まえた憲法9条に反するものではない、と位置付けたものなのであります。
【平和安全法制と近代立憲主義】
ところで、平和安全法制について、「憲法違反」というのではなくて「立憲主義に反する」とか「非立憲的」などという批判を、しばしば耳にします。「憲法に適合するにもかかわらず、立憲主義に反する」という論理が成り立つかはさておき、そもそも、国民の権利・自由を守ることが「近代立憲主義」の本質という観点からいたしますと、国民の生命・自由・幸福追求の権利をいかに守るかという観点から制定された平和安全法制は、「立憲主義違反」どころか、まさに「立憲主義」を具現化したものと評価されるべきもの、と考えます。
【参考資料】
臨時閣議及び閣僚懇談会議事録
開催日時:平成26年7月1日(火) 16:57~17:20
開催場所:総理大臣官邸閣議室( http://www.kantei.go.jp/jp/kakugi/2014/__icsFiles/afieldfile/2014/07/22/260701rinjigijiroku.pdf#search=%27260701rinjigijiroku%27 )
「1 武力攻撃に至らない侵害への対処(4)に明記」
「我が国の防衛に資する活動に現に従事する米軍部隊に対して攻撃が発生し,それが状況によっては武力攻撃にまで拡大していくような事態においても,自衛隊と米軍が緊密に連携して切れ目のない対応をすることが,我が国の安全の確保にとっても重要である。」
「公明党の主張、専守防衛、新3要件」
「平和安全法制」の関連法が、2015年9月19日未明の参院本会議で、自民、公明の与党両党と、日本を元気にする会、次世代の党、新党改革の野党3党などの賛成多数で可決、成立された。
2014年7月の閣議決定を受けた今回の法制は、安全保障環境に適切に対応するため、日米同盟の信頼性向上、抑止力を高める目的。問題点として論議されることは国際法上に於いて他国の艦船、日本国内に在る基地等の防護と行動は集団的自衛権となるが、従来制定の3要件、47年見解、日米安保条約上は法制が無くても、なし崩し的に実施される事が大いに懸念される。平和安全法制制定では、他国防衛を目的とする集団的自衛権は認めない「自衛の措置の新3要件」などや、法整備の目的とともに、公明党の取り組みなどについて、以下に山口那津男代表の見解
- 今回の法制に反映された公明党の主張】
最も大きなものは、憲法9条の下で許される自衛の措置が自国防衛に限られるということです。自衛隊の武力行使の限界について、昨年7月の閣議決定で「新3要件」を定め、法文上にも明記しました。これにより、自衛の措置が他国防衛を認めず、専守防衛を堅持するための厳格な歯止めが掛けられました。
新3要件は、従来の政府の基本的な論理を踏まえたものであり、今後もこれが維持されるという意味で法的にも安定しています。これ以上の解釈を採るには、憲法を改正しなければいけません。
次に、自衛隊を海外に派遣する場合の3原則を設けた点です。国際社会の平和と安全のために活動する外国軍隊への協力支援活動を行う「国際平和支援法」では、1点目として国際法上の正当性が必要であり、国連決議がある活動に限定しました。2点目に民主的統制を確保するため、国会承認を例外なき事前承認としました。3点目としては自衛隊員の安全の確保が重要です。自衛隊の協力支援活動が外国軍隊の武力行使と一体化すると憲法違反になるため、「現に戦闘行為が行われている現場」では活動しません。自衛隊員の安全を守るため、活動期間を通じて戦闘行為が発生しないと見込まれる場所を区域指定して派遣するとの国会答弁がなされ、野党3党との合意でも確認しました。
これは、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態に際し、米軍などへの輸送や補給を行う「重要影響事態法」でも同様です。
- 政府が政策判断する際の基準】
これについても、三つの指針を確認しました。一つ目は日本が主体的に判断する。二つ目は自衛隊にふさわしい役割を選ぶ。三つ目は平和外交努力と相まって判断する。この三つの視点が重要だと公明党が主張した結果、安倍首相も法律の要件が満たされれば必ず自衛隊を派遣するのではなく、そうした政策判断を加えて日本が主体的に判断すると答弁しています。別の言い方をすれば、国益に合うかどうかを見極めて決定するということです。
(公明新聞:2015年9月20日)
「まとめ」
【憲法9条と平和安全法制との関連性について】
2017年7月制定の平和安全法制関連法案制定内容、過去からの経緯や政策を見てみると、細かい部分での問題点なども有ったが、公明党も政権与党の役割を果たし、現在での着地点としてギリギリの、良識を持った、しっかりとした道筋を立てて進めているものと思える。
これについて言えば、過去からの裁判結果、国会議決内容を時系列で追ってみても、専守防衛に関する「憲法9条や自衛隊、米軍基地」への対応として最高裁判決でのいわゆる砂川判決で裁定が下され、これにより国会で審議された47年見解と、その後の三要件が平和安全法制内容に於いて踏襲されているものだと見ている。
また自衛隊運用を含む、我が国の「自衛権」について考えれば、国連憲章によって国連加盟国には全て定められている権利であり、個別的、集団的に関わらず、自衛権はすべての国連加盟国が持っている権利である。日本も当然自衛権を持っており、憲法9条があるから「自衛権を放棄する」という法制も無く、日本も他国と同様に自国防衛、専守防衛としての「自衛権」、これを行使する「自衛隊」は不要とは言い難いものである。
その上で、「いざ有事の際の自衛権の行使」となると話は別であると考える。日本には憲法9条があるので、当然のこと憲法9条に反しないように自衛権を行使しなければならない。この場合「日本の国を守る為だけの自衛権行使」が重要である。しかしいざ行使となった場合には曖昧な部分もあり、明確で無いグレーゾーンが有る以上「自衛権行使として、相手方の攻撃してくる基地を攻撃する」までの拡大解釈論議や、反対に「自衛の為と言ってもどこから反撃とすれば良いか?」「日米安保条約での同盟関係の元、有事の際の日本を助けに来たアメリカの艦船、軍艦、また日本の国土に有る米軍基地が攻撃された場合、之を助けるための措置」についてなど、いざ有事の際の行動も余りに曖昧であり不明確だったのが現状で有った。
更に言えば、日本国憲法には同時に憲法13条が有り、有事の際のこれらの「防衛行動、自衛権の行使」をしなければ「国民の生命・自由・幸福追求権を尊重する」という13条に違背してしまう恐れが有り、法制上必ず侵略に対しては自衛権を行使しなければならないことは憲法解釈上でも正しいことで在る筈だと考える。この事も含め、世界情勢や近隣諸国動向の大きな変化も、我が国の大きな岐路に立たされ、変わらなければならない大きな変化の時期に晒されている現状は有った。
いざ有事の際には、実際の防衛行動に際しての明確化、自衛権行使の場合「個別的自衛権、専守防衛の行動が拡大されないこと」「自衛の歯止めが利かなくなること」を防止しなければならない。これも前もって未然に拡大を防止する体制を作っておくことは「自衛のための絶対条件」であることに間違い無い。
以上の様な要因や経緯、考えなければならない条件、一番重要な法整備の必要性。また近隣諸国との国際情勢の変化に伴う、自衛隊運用での諸課題や自衛権の行使に於ける問題点などに因り、従来からの国の「政府見解」そして「三要件」や「日米安保条約」では、戦闘の拡大などの懸念や、いわゆるグレーゾーンの様な不測事態への対応不可の懸念があるため「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険が有る場合」「我が国の存立を全うし、国民を守るために」他に適当な手段がない時に限りのみ、専守防衛として必要最小限度の実力を行使できる規定と、防衛の実力行使も拡大出来ないような歯止めとなる「必要最小限度の実力行使」の更なる条件の明確化として14年7月制定の「新三要件」は閣議決定され、今回可決された「平和安全法制」へと繋がる法整備と法案制定だと理解をしている。
従来から「問題無い」とされていた「昭和47年の政府見解」や同じく「三要件」が、更に規定としても文言としても戦闘を行う場合の条件の明確化により厳しくなった「新三要件」、グレーゾーンへの対応の明文化ができた「平和安全法制」、内容は共に従来からの主旨を全て踏襲し違背して無いことが判ることから、これが憲法9条への違反だとは思えないという所感を持った。
その上で、後世の者の責務として憲法9条は守り、専守防衛を遵守させる法制を組み上げ、永遠に侵略戦争をしないと決意して行くことだと考える。
「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」