Jiam 第4講義 「カタチだけの福祉会議」で現場は死ぬ。重層的支援体制の予算削減から考える、本当の包括的支援とは?
ニッセイ基礎研究所・三原岳氏の講義「包括的な支援体制と重層的支援体制整備事業の今後の在り方」を聴講してきました。
自治体関係者の間でいま大きな話題となっているのが、「なぜ重層的支援体制整備事業の予算が大きく見直された(カットされた)のか?」、そして「これからの包括的支援体制はどうあるべきなのか?」という点です。
今回の研修で、その本質的な理由と、私たちが進むべき「本当の福祉政策」の姿が明確に見えてきました。
1. なぜ「重層的支援」の予算は削減されたのか?
国(厚生労働省)の想定を超えて、この事業を実施する市町村が一気に増えました。一見、良いことに思えますが、ここに大きな「落とし穴」がありました。
多くの自治体が、「隣の町がやるなら、うちもやらなきゃ」、「新しい制度(ハコモノや専任組織)をとりあえず作ろう」と、手段の目的化に走ってしまったのです。
国の本来の狙いと現場のズレ
国の狙い: すでに現場にある取り組みを「上乗せ(ステップアップ)」するために予算を使ってほしかった。
現場の実態: 「重層的支援」という新しい看板を掲げ、書類や手続きを厳密に運用すること(事務執行)ばかりに追われてしまった。
結果として、中身が伴わないまま予算だけが膨らみ、国は「義務的経費(カットされにくい予算)」である生活困窮者自立支援の枠組みなどへの誘導(予算の適正化)に舵を切らざるを得なくなったのです。
2. 制度の「狭間(はざま)」は、国が制度を精緻に作りすぎた結果
三原氏の指摘で最も腑に落ちたのは、「制度を細かく作れば作るほど、制度と制度の『断裂(はざま)』は大きくなる」という点です。
日本の福祉は、介護保険なら「要介護認定」、障害福祉なら「障害程度区分」と、対象を明確に区切って平等にサービスを提供してきました。しかし、その網の目から漏れる「複合的な課題を抱える人」や「孤独・孤立」のリスクは、制度を細分化するほど潜在化していきます。
かつては地域社会や企業の「支え合い」がその隙間を埋めていましたが、コミュニティの力が衰退した今、出口のない「福祉の混乱ケース」が多発しています。
3. 「ケースの押し付け合い」で終わる地域ケア会議の罠
多くの自治体で「地域ケア会議」や「多職種連携会議」が頻繁に開かれています。しかし、現場の職員や専門職はこう漏らします。
「会議ばかりやっていて、一向に具体策が進まない」「複雑な困難ケースのゴミ箱のようになっている」
なぜこうなるのか。それは、会議が「目の前のAさんをどうするか(個別支援)」だけで終わっているからです。
「個別支援」から「地域課題の把握」への転換
本来の地域ケア会議の目的は、個別の事例から「地域全体の課題」を抽出することにあります。
【例:引きこもりの息子と暮らす80代の高齢男性のケース】
間違った会議: 「Aさんに何のサービスをあてるか」「誰が担当するか」の押し付け合い。
正しい会議: 「この地区には退職した高齢男性の居場所がない」「男性が参加しやすいコミュニティが不足している」という地域の構造的な課題に気づき、仕組みを作ること。
個別ケースを地域全体の仕組み(地域づくり)へと昇華させなければ、専門職のマンパワーは擦り切れ、現場は死んでしまいます。
4. 今後、市町村はどう対応すべきか?(提言)
三原氏は、「人口の規模や財政の厳しさは関係ない。小さな自治体だからこそ、最初から全員の顔が見えていて包括的支援ができているケースもある」とエールを送ってくれました。
私たちがこれから取り組むべきは、新しい制度に飛びつくことではなく、「足元の工夫」です。
通知を「尊重して無視する」勇気
国の事務次官通知やガイドラインの通りに1ミリの狂いもなくやろうとすると、現場はガチガチになります。給付事業は厳密であるべきですが、包括的支援は「地域の文脈」に合わせるべきです。国の考え方を読み解いた上で、自社に合わない部分は良い意味でスルーし、地域のリアルに合わせる柔軟性が必要です。
住民を「巻き込む(タスクハメ)」のをやめる
行政はよく「住民を巻き込む」と言いますが、行政の都合で作ったイベントに住民を動員しても長続きしません。住民自身が「楽しい」「やりたい」と思える興味・関心のネットワーク(趣味の集まりなど)を行政が「おもしろがって応援する」関係性への転換が必要です。
「重層的支援事業」の看板はいらない
重層的支援体制整備事業(予算)を使わなくても、生活困窮者支援や高齢者福祉、あるいは独自の地域計画を使って「包括的な支援」はいくらでも可能です。手段に振り回されてはいけません。
結び:市町村議会議員としての決意
今回の講義を経て、私たちがチェックすべきは「予算がついているか」「事業を実施しているか」という表面的な数字ではないと確信しました。
現場の職員が会議の山に埋もれて疲弊していないか?
縦割りを排した「顔の見えるネットワーク」が本当に機能しているか?
行政が住民の主体性を奪っていないか?
足元をしっかりと見つめ直し、制度の枠組みを超えた「本当に温かい、持続可能な一宮市の福祉」を実現するために、今後の議会活動や政策提言に活かしてまいります。

