昨日は特別市・大都市行財政制度特別委員会。現状のままでは成長が困難な、硬直した現在の地方自治制度。時代の要請や地域の実情に迅速かつ柔軟に応えるための特別市制度の議論。国・地方で動きが出てきました。全国の指定都市長会での議論、市県内3政令市市長・正副議長による初会合開催などによる「特別市」の早期法制化を国へ要望。200名を超える超党派の国会議員で組織される「指定都市を応援する国会議員の会」が、今年6月に大都市制度の在り方の調査審議について諮問し、議論を進めることを決議。大きな推進力。次期地方制度調査会への期待が高まります。
今週の日経新聞「経済教室」に、「大都市制度の論点(下) 行政効率化へ制度設計急げ」と題し、一橋大学の辻琢也教授が寄稿されていました。現実に即した、的を射た、説得力のある内容。ご興味ありましたらどうぞ。
「現在の政令指定都市(指定都市)よりも強い権限を持つ「特別自治市(特別市)」構想は、2010年に指定都市市長会が提案した。第30次地方制度調査会(首相の諮問機関)がその意義や課題をまとめた答申を示したのは13年のことだ。
大阪市を廃止して4つの特別区に再編し、大阪府と市の二重行政解消を目指す「大阪都構想」は地域政党の大阪維新の会によって提案され、15年と20年の住民投票で否決されている。
それから5年が経過したいま大都市制度のあり方が改めて問われている。この数年間で制度改革を迫る要因はにわかに強くなった。現在の行政環境を整理し今後の議論に役立てたい。
現在の大都市制度は、東京都では特別区を設置し、基礎自治体である特別区の業務の一部を広域自治体である都が担う。それ以外の地域では、広域自治体である道府県の業務の一部を基礎自治体である指定都市が担っている。
加えて12年成立の大都市地域特別区設置法(大都市法)で、指定都市と隣接市町村を含めて人口200万人以上の地域は、道府県でも指定都市を廃止して特別区を設置できることとなった(都構想の根拠法)。なお都構想が住民投票で否決されたことで、同法に基づく特別区の新設はこれまでのところ実現していない。
これらに対して、基礎自治体である指定都市を広域自治体(道府県)から独立させ、機能を基礎自治体に集中させるのが特別市構想である。指定都市市長会が実現を求めているが、法制化はされていない。
広域自治体がより大きな役割を果たす都構想と、基礎自治体が域内で全ての役割を担う特別市構想は対照的な内容だが、広域自治体と基礎自治体の機能の一体化を目指すという点は共通する。頓挫を繰り返しながらも、こうした構想が浮上する背景には3つの要因を指摘できる。
第1は、行政のデジタル化の進展である。自治体の主要20業務に関して政府は「25年度末までに、ほぼ全ての自治体が標準準拠システムへの移行を完了すること」を目指している。
これらの業務はマイナンバー(個人番号)や税務系(地方税)、後期高齢者医療、介護保険、国民健康保険など、市町村が国の機関・システムと直接データをやり取りすることが標準となっているものが多い。児童扶養手当、障害者福祉、生活保護などは、都道府県が一定程度は関与しているため市町村と国の機関・システムが直接つながっておらず、従来通りアナログ処理している。
デジタル化が進んでいる領域ほど、国と市町村がシステムで直接つながり両者の役割が高まる一方、都道府県の相対的な役割は低下している。非対面・非来庁型のサービスが原則となれば時間節約の恩恵は住民・職員双方に及ぶため、今後もデジタル化の進展が期待され、都道府県の役割低下は進むとみられる。
デジタル時代に事務作業の改善を進めるには、現場を担う市町村の情報を国の制度改革に生かしていくことが不可欠である。一方で国への陳情要望は都道府県が担うことが多い。このため道府県と市町村の機能の一体化を進め、市町村の情報が国に伝わりやすい体制にしていく必要がある。
第2の要因は自然災害の頻発・激甚化である。大雨の発生頻度は近年大幅に増加し、土砂災害の発生回数も増加傾向にある。そして上下水道や消防などライフラインの維持管理を担う現場部隊を持っているのは原則として市町村であり、道府県は一部に限られる。
このため国は、大きな派遣部隊を持っている市と情報共有し、派遣などを直接要請するのが迅速かつ効果的である。現行の災害救助法でも13の指定都市は救助実施市となっている。この体制を一歩進めて、大規模な指定都市を「副首都」や特別市などと位置づけ、災害時に危機管理対応の中心となるよう義務づけることも今後は考えられる。
そして第3は、少子高齢化と人口減少の進展である。生産年齢人口が減少するなか、道府県や指定都市でも職員採用に窮する場面が増えてきた。このため広域自治体と基礎自治体の間で機能の統廃合を進め、少人数で効率的に仕事を進めていくことが求められるようになってきている。
東京一極集中に伴って東京に税財源が集中するなか東京以外の大都市は今後、厳しい行財政運営を余儀なくされる。これに対して、広域自治体と基礎自治体の機能一元化で地方税収と人材を効率的に活用し、民間資金も呼び込みながら地域の経済活性化を図ろうとする取り組みも始まっている。
大阪府・大阪市では否決された都構想の代案として、21年4月に府・市の「一体的な行政運営の推進」を条例で定めた。万博推進局・港湾局・都市計画局など5つの部局や公立大学法人を、府・市で共同設置し、再開発や万博開催、大学法人の統合強化など、地域振興を進めてきた。
こうした成果もあって、大阪府の人口は24年まで10年連続で転入者が転出者より多い社会増となり、増加幅も拡大している。
大都市制度改革を進めていく上で、課題は関心をもつ人々が限られていることだ。例えばすでに行われた移譲事務のうち、最大の財政規模だったのは県費負担教職員の人件費(およびその財源)の道府県から指定都市への移譲(17年度)であるが、一般にはあまり認識されていない。
都構想や特別市構想のような大きな制度改革は、いずれも住民投票での可決が前提となる。しかし大半の住民は「是非を判断する知識がない」「現行制度でもやっていける」「制度を変えて地域でもめたくない」などの思いから、改革に消極的になるケースも考えられる。理解を得やすくするためには、制度改革による日常生活への影響は最小限度にとどめるべきである。
なお、広域自治体と基礎自治体の機能一体化の必要性が問われているのは大都市だけではない。むしろ大都市以外のほうが高齢化・人口減少が進み、制度改革の緊急性はより高い。しかし従来の体制に郷愁を感じる高齢者も多く、また人口規模が小さいため改革の効果を発揮しにくい。
県全体でも人口が指定都市程度の規模しかないような地域では、県がデジタル技術も活用しながら、市町村の機能の一部を代替していくような制度設計も考えられる。しかし県が抱えることになる負担は大きく、市町村にも警戒感が強い。大都市にもまして丁寧に検討しなければならない。
世界各国、大都市制度の改革は容易ではない。それでも近年はデジタル化とグローバル化のなかで韓国・英国などでも改革が行われている。これまでのよき自治は継承しながら、大阪府・市に関しては今までの一体化の成果を検証したうえで特別区の設置や副首都構想を検討すべきだ。特別市に関しても具体化に向けて制度創設の検討を急ぐべきである。」