昨日は国交省横浜国道事務所と相談していた246号線の歩道補修完了を確認。その後、ご挨拶まわり、市民相談対応等。今年も様々な市民相談を頂く中、基礎自治体における発達障害の方への支援のあり方について種々頂きました。
4年ほど前にベストセラーとなった「ケーキの切れない非行少年たち」(宮口幸治著 新潮社)。同著をきっかけに、社会の意識が変化したように思います。
小さい頃の勉強は何とかなったが、あるタイミングからついていけなくなった。いじめらるようになった。生きづらい。悪気はないが犯罪に至る。再犯の可能性等、ご相談頂くにあたり様々な言葉がありますが、弱い立場の方をいかに守るか。社会の力が試されます。今も様々な行政サービスがありますが、世界の国々は、各自治体は、この問題とどう向き合っているのか。強い関心をもって動いています。
児童精神科医である同著の著者は、多くの非行少年たちと出会う中で、「反省以前の子ども」が沢山いるという事実に気づく。少年院には、認知力が弱く、「ケーキを等分に切る」ことすら出来ない非行少年が大勢いたが、問題の根深さは普通の学校でも同じ。人口の十数%いるとされる「境界知能」の人々に焦点を当て、困っている彼らを学校・社会生活で困らないように導く方法を公開した著作でした。
先週、公明新聞がその宮口幸治氏(立命館大学教授)のインタビューを掲載していました。興味深く読ませて頂きました。
知能指数(IQ)の平均域と知的障がいのはざまに当たるIQ70~84の「境界知能」の人は、全国に1700万人(人口比約14%)いると推計される。その多くは社会に適応して生活しているが、中には教育や福祉の支援につながることができずに“生きづらさ”を抱えたまま暮らす人もいる。境界知能の人を巡る現状や支援のあり方などについて立命館大学の宮口幸治教授(児童精神科医)に聞いた。
――境界知能の人には、どんな生きづらさがあるか。
宮口幸治教授 一見、日常生活を送る姿は健常者と何ら変わらないので、仕事でミスを繰り返したり、困りごとが起きてパニック状態になったりして困難を抱えることが多いが、周囲の理解や助けを得られにくい。いわば“普通”に見えるのに“普通”ができないため、やる気の問題だと誤解されてしまい、適切な支援につながれない恐れがある。
そうした人々は、仕事が長続きしなかったり、犯罪に巻き込まれたりといった問題に直面した後に検査を受け、境界知能だと判明することが多い。社会に出る前の学校生活では困難が目立ちにくいので、仮に学校の授業に付いていけなくなっていたとしても、恥ずかしさから誰にも相談できず、単に「勉強の苦手な子」として扱われてしまうケースも少なくない。
――何が生きづらさにつながっているのか。
宮口 境界知能の人の特徴として「5点セット+1」が挙げられる。①認知機能の弱さ②感情統制の弱さ③融通の利かなさ④不適切な自己評価⑤対人スキルの乏しさ――そして、身体的不器用さがある。最後をあえて+1としているのは、小さい頃からスポーツを通して身体機能に優れている人もいるからだ。
これらは①見たり聞いたり想像する力が弱い②感情をコントロールするのが苦手③予想外の出来事に弱い④自分のことを客観的に見るのが難しい⑤人とのコミュニケーションが不得意⑥力加減ができない――と言い換えられる。
――どのような支援が求められているか。
宮口 抱えている困難の“克服”へ、早期発見・早期対応が大事だ。先に紹介した「5点セット+1」の特徴も踏まえて当人の状況をよく理解し、生きづらさを和らげるための力を身に付ける取り組みが必要で、ほぼ全ての人が通う義務教育現場で実施するのが望ましい。
小学校の段階から、学習の土台となる認知機能のトレーニングを実施すれば、認知機能を鍛えるとともに一人一人の特性も把握できるので、早くから個別支援が可能になる。社会に出てからでは、境界知能の自覚がない人を見つけ出して支援につなげるのは困難だ。
――具体的には。
宮口 すでに幾つかの小学校で採用されているが、私が考案した認知機能強化トレーニング「コグトレ」は、学習面、社会面、身体面で子どもを支援する包括的なプログラムで、朝の会の10分程度で行える。タブレットなどの情報通信技術(ICT)端末にも対応しているので、現場の負担を大きく増やさずに済む。
なお、トレーニングを行う際は、境界知能の子だけでなく全員を対象にする方がいい。補習のような位置付けでは子どものプライドを損ねてしまうし、誰にでも苦手分野は存在する。皆で一緒に取り組むからこそ、継続した活動になる。
――保護者は境界知能の子どもをどう支えていけばいいか。
宮口 「多様性を大事にして、ありのままを受け入れたい」「少しでも苦手な部分を減らしてあげたい」といった周囲の価値観を押し付けず、本人の話を聞き、その気持ちを大切にしてほしい。
本人が少しでも頑張りたいと思っているのであれば、自立をめざして伴走者として寄り添い、成長を促してあげるのが大人の使命ではないか。ただ、なかなか本音を正直に言えない子もいるので、やる気のサインを見逃さないことも重要だ。
――大人になって自分が境界知能だと分かった人へのアドバイスは。
宮口 まず、自分の特性を知ることが大切だ。自らの強みと弱みを正しく理解すれば不安を和らげられる。そして、誰かに言いくるめられて利用されそうな時など、困った時に備えて相談先をつくることが大事だ。
なお、人の知能について、はっきりとした学説があるわけではない。現時点の主流の説に基づいて作られた知能検査で分かるのがIQという位置付けなので、絶対的なものではないし、状況で数値が変化する可能性もある。障害者手帳や療育手帳を取得する基準としては必要だが、IQの数値はあくまでも参考程度だ。大切なのは、自分の特性に合わせたトレーニングで生きづらさを少しでも緩和することだ。
(編集後記) 境界知能は、IQの平均域(85~115)にも、知的障がい(約70未満=自治体ごとに数値が異なる)にも該当せず、知的能力の上限は中学3年生程度とされる。正式な病名や診断名ではないため、公的支援の対象外。ただ、1965~74年の間は、IQ70~84が「境界線精神遅滞」と定義され、知的障がいの一つとされていた。
境界知能の人を巡っては、勉強、仕事、人間関係などで生きづらさを感じているものの、適切な支援を受けられずに社会的な孤立や経済的な困窮に陥り、罪を犯したり、うつ病などの精神疾患を引き起こしたりする“負の連鎖”が懸念されている。
犯罪という意識はないまま特殊詐欺の“受け子”として利用されたり、言葉たくみに操られて性被害に遭ったりするなどのケースが報告されている。2019年11月には、境界知能の女子大生が空港のトイレで女児を出産し、直後に殺害するという痛ましい事件が起きた。
公判では、女性が幼少期から繰り返し叱責を受けたために自信を喪失したことが明かされ、弁護側は何でも相談できる人がいれば事件は起きなかったと主張。女性は21年9月、懲役5年の実刑判決を言い渡された。」
みやぐち・こうじ 神戸大学医学部卒。医学博士。臨床心理士。児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務し、2016年より現職。一般社団法人「日本COG―TR学会」代表理事。主な著書に『境界知能の子どもたち』(SB新書)、『ケーキの切れない非行少年たちのカルテ』(新潮新書)など。