昨日は年末のご挨拶まわり。日本周辺の環境変化への対応、攻撃されないようにするための抑止力保有を目的とした、防衛予算の拡大、増税の議論。今月16日に閣議決定された「国家安全保障戦略」など安保関連3文書改定の意義や、今後の防衛政策のあり方などについて、静岡県立大学の小川和久特任教授へのインタビューが公明新聞に掲載されていました。
小川先生と言えば、膨大なデータを客観的に分析され、地に足の着いた洞察と指摘が印象的。直近では10月に発刊された「戦争のリアル」(SB新書)。軍事に無関心とされる日本人も、これまでになく国防意識が高ま中、中国が日本を侵略することはあるのか。北朝鮮からミサイルは飛んでくるのか。単純な軍隊による戦力だけでなく、地政学的な位置づけから防衛に関する政治力まで、国を守るべき力について深く分析され、平和国家・日本の進むべき道を提言された一書でした。
インタビュー、ご紹介します。
■海上保安庁の強化など画期的
――安保関連3文書が改定された意義は。
小川和久特任教授 国の安全は防衛省だけでなく、全省庁にわたる。今回、安全保障を広い視野で捉え、従来の政策課題を克服していく枠組みが示されたことは画期的だ。
例えば、海洋国家である日本の権益を守るため、国土交通省所管の海上保安庁の予算を増やす方向性が明確に示されたことは、高く評価されていい。
――「反撃能力」の保有は専守防衛の域を超える先制攻撃との意見があるが。
小川 軍事問題の基本が分かっていない批判だ。仮に長射程の巡航ミサイルなどを保有しても、軍事的合理性からして他国を先制攻撃することはあり得ない。
というのも、先制攻撃をする場合、その後の戦闘に勝利し、最終的に戦争を終わらせるまで戦うシナリオと能力が必要になる。相手国に攻め込み、占領するような能力がない以上、専守防衛を逸脱するとは言えない。今の自衛隊に、そのような能力はない。
反撃能力の保有は、あくまでも相手方の攻撃をためらわせるための措置だ。この考え方は、どの国でも同じだ。
――反撃能力の保有でミサイル防衛は万全になるか。
小川 日本と隣接する中国やロシア、北朝鮮は、日本への着上陸作戦能力は持っていないが、日本へのミサイル攻撃はできる。まさに「今そこにある危機」だ。今回の防衛力整備では、ミサイル防衛を優先し、可及的速やかに進めなければならない。反撃能力の早期運用のためには米軍の力を借りるべきで、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の導入は現実的な選択だ。
――ほかに備えるべきことは。
小川 建造するイージス・システム搭載艦の配備までは米国のミサイル防衛能力を持つイージス艦(BMD艦)2隻ほどを借り、日本海側に配備する必要がある。
また、多数のミサイルを同時に発射する飽和攻撃への懸念にうろたえることはない。通常弾頭のミサイルは直撃しない限り、被害は限定的だ。既存の地下鉄や地下街、ビルなどをシェルターに指定し、警報が鳴ったら、すぐに逃げ込める訓練を重ねておくことだ。国民が不安を抱かないことも重要な抑止力だ。
■中国との健全な関係を維持せよ
――中国との向き合い方が問われているが。
小川 日本にとって最も健全な関係を維持していかなければならない国は中国だ。中国は、隣接する大国として巨大な国力を備え、米国と互角の力を持とうとしているからだ。
こうした中、平和安全法制によって日本はフルサイズの集団的自衛権(他国防衛のために海外で武力行使をすること)ではなく、専守防衛の範囲内に収めたことを中国は深く理解している。平和安全法制は、中国との健全な関係を維持していく上で重要な役割を果たしている。」
また、昨日は笹川平和財団の渡部恒雄上席研究員へのインタビューが掲載されていました。ご紹介します
■反撃能力、抑止力高め紛争防ぐ
――今、日本が防衛力を整備しなくてはならない理由は。
渡部恒雄・上席研究員 戦後、日本は安全保障の面で深刻な脅威に直面してこなかったが、ここ10年で安保環境が大きく変わってきた。
その一つは、米国の圧倒的な力が相対的に弱っていること。また、日本周辺の北朝鮮や中国、ロシアの軍事能力が上がっていることだ。これらの環境変化に対処する必要があるが、今回の3文書の改定は、過度に周辺国を刺激する内容ではなく、控えめで妥当な対応だと受け止めている。
――反撃能力の保有をどう見るか。
渡部 まず、憲法9条の専守防衛や、戦後、日本が培ってきた平和主義などの理念から逸脱するものでは全くない。
相手側がミサイルを撃てば、日本も撃ち返すという意思を明確にしたのが反撃能力だ。ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアは、ウクライナの人々に脅しをかけるために、民間人や民間施設も攻撃しているが、これは国際法違反にほかならない。
一方、日本が反撃する対象としているのは軍事施設だ。つまり、相手側の脅しには屈しないが、日本が脅しをかけることはしないという日本の姿勢を明確にした。反撃能力の保有は相手側の攻撃を抑止することで、紛争や戦争の予防に寄与すると考えられる。国際環境を安定させるための必要最小限の措置だ。
――米国の反応は。
渡部 米国は今、ロシアのウクライナ侵攻で欧州に気を配る必要がある。同時にアジアへの関与も求められているが、その比重は低下せざるを得ない。そうした中、反撃能力の保有を含む日本の防衛力整備は、新たな日米同盟深化のきっかけになるのではないか。
■米中関係で日本が果たす役割に期待
――外交面での影響は。
渡部 米中関係で懸念すべきは、両国のコミュニケーション・チャンネルが失われつつある現実だ。不慮の事故などによって対立がエスカレートすることがないよう日本が果たす役割への期待は高い。
外交力は、その国の防衛力や経済力に裏付けされるものだ。今後、日本が防衛力を整備することによって外交面でも、より積極的な役割を果たせるようになるだろう。
――防衛費の水準も焦点になったが。
渡部 これまで日本の防衛費はGDP(国内総生産)比1%の水準としてきたが、それでは日本も地域の安定も守れない。日本の経済規模から見てGDP2%程度という水準は妥当と思うが、財政が極端に悪化すれば本末転倒だ。
だから、今後の日本の防衛で真に何が必要なのか、きちんと考えていかなければならない。また、GPS(全地球測位システム)のように、軍事目的で研究開発された技術の民生利用を促し、日本の経済を豊かにしていく取り組みも必要だ。」