昨日は大手町の日経ホールで介護関連のシンポジウム、午後からは東銀座の時事通信ホールで農業関連のセミナーへ。
日経ホールで行われた日経新聞主催の「認知症基本法案成立に向けて、共生社会の目指す姿」と題した認知症シンポジウム。今国会で認知症基本法が成立する見込みの「認知症基本法」。様々な議論を経て、最終的に当初から示された公明党案を基本に法案がつくられています。ともてバランスの取れた内容になっていると医療、介護関係者の方々からお声を頂いています。
こうした動きの中、産・官・学・市民が認知症への共通認識をもって連携し、具体的諸施策の促進を図るためのシンポジウム。認知症は高齢化先進国である日本において喫緊の課題であり、社会全体で取り組むことが急務。「共生」と「予防」を軸に、認知症の早期発見や診断と治療などについて議論を深められました。
特に、共催の日本医療政策機構(HGPI)が行った、「認知症共生社会の実現に向けて」と題したパネルディスカッション(モデレーターは同機構の栗田駿一郎氏)は大変参考になりました。パネルディスカッションのサマリー。認知症の方について、対策の対象でなく、社会の一員としてどんな役割を担ってもらうかを考える。産官学民、それぞれができることを連携して作っていく。国が示した取り組みをするのでなく、各地域で行い、足りないものをどう補うかを指摘されていました。
シンポジウム全体の中で感じたことですが、私の立場からしますと、国が法律を作って、予算をかければ何となかなるものでもなく、国が期待する社会にするには、ボランティアを含めた協力が必要であり、支え合いなどの言葉が多くあります。国が税を集めて、国民に与えてつくられてきた社会ですが、この課題解決のためには、これまで以上の国民からの「協力」が必要。認知症バリアフリーなど、ボランティアなど人の支えを必要とする社会を求めるには、発信する国への「信頼」、掛け声をかける側の人々の率先垂範は不可欠かと思います。また「結果はどうだったのだろう」と感じるこれまでの計画もイベントも、しっかりとした「総括」が大事だと思いますし、真に「弱い人を守る」という思想・哲学が問われているように感じます。
誰のための行政施策か。役人の仕事をつくるための仕事になっているものはないか。そうした検証の必要性を感じることがありますし、それは政治家の仕事。役所の話を「その通り」とするだけで摩擦も起きない政治家もいますが、無意味な摩擦は不要なものの、市民を代表して議会にいて何もないわけがありません。いずれにしましても、類似した話が午後の農業でも出てました。
下記はメモです。
基調講演
1.「人生100年時代の医療介護 高齢化の進展と疾患の性質変化を踏まえて」経産省政策統括調整官 江崎禎英氏
2.「認知症施策の総合的推進について」厚労省医務技監 鈴木康裕氏
認知症の「症(しょう)」は多様な症状の意。10~15%は治る認知症がある研究がある。すべてが治らないわけではない。女性に多いのは寿命が長いから。「脱医療化」をめざす。平成16年「痴呆症」から「認知症」へ。平成29年「新オレンジプラン」策定。高齢者の4人に一人が認知症。よりよく生きるために環境をつくれるかどうか。
(認知症カフェは喜ばれており、これからも必要だが、平日昼間がメインで、来る人が決まってきているという傾向が強い。新たな場が必要となっている中、夜に開く「認知症バル」は時間的に家族、地域も交えやすく効果的)
認知症の原因であるアミロイドをためないためには、除くには、どうしたらいいか。研究を進めている。
〇認知症の人に対して一番大事なこと。「怒ってはダメ」ということ。病気であり、症状であり、本人が納得できるようにしていかないと、周辺症状が出てきて周りが大変になる。
3.「認知症対策の未来を考える」 国立長寿医療研究センター・荒井秀典
4.日本認知症本人ワーキンググループ代表理事 藤田和子氏
ご自身が45歳の時、若年性認知症(アルツハイマー病)と診断される。
認知症になってからも希望と尊厳を持って暮らすことのできる社会を作り出すことを目的に活動を展開。2018年11月「認知症とともに生きる希望宣言」を発表。
「認知症基本法への期待」<3つの要望>1.理念の筆頭に「人権」を明記して欲しい。2.「予防」を「備え」に変えて欲しい。3.自治体計画の「努力義務」を「義務」にして欲しい。
⇒認知症バリアがあり、それによって当たり前に暮らしていく権利や生きる力が損なわれていく。よりよく生きていける可能性をだれもが持っている。新しいことを覚えたり、行きたいところへ出かけたり、自分の人生を、自分なりに心豊かに過ごしていきたい。認知症とともに暮らしているからこそ気づいたことや、工夫していることを、他の人や誰もが暮らしやすい社会を築くために役立ててほしい。
4.パネルディスカッション「認知症共生社会の実現に向けて」
認知症基本法制定など重要な1年になる中、認知症共生社会とはなにかを議論。
パネリストは、首都圏を中心に特養等を展開するらいふホールディングス取締役の小林司氏。
御坊市の谷口泰之係長。H28年度より5か年計画で総務部企画課を中心に全庁横断的なプロジェクトスタート。ポイントは本人たちの活躍=総活躍。ここから条例を策定。
2013年から神戸市認知症対策監として活躍される医師の前田潔氏。2016年「認知症の人にやさしいまちづくり」条例制定。認知症「神戸モデル」。認知症初期支援チーム員会議、認知症事故救済制度等。
認知症介護研究・研修東京センターの永田久美子氏。
日本認知症本人ワーキンググループ代表理事の藤田和子氏
〇地域から、自治体からいかに共生社会をつくっていくか。
神戸市の認知症神戸モデルの3本の柱 1.診断助成制度(早期受診支援) 2.事故救済制度 3.診断後支援制度 ※3番目はまだまだこれからとのこと
早期診断助成制度を始めたら、市民から希望者が殺到し、予算を見直した。
日本はOECDで唯一「認知症診断率が出ていない」と指摘された。神戸市の調査では1/4~3割しか受けていない。初期集中支援チームと神戸モデルの連携を強めることで「共生と予防」の実現がみえる。
御坊市の条例づくりは「認知症の人の視点」でつくった。支援されている、守られている立場でなく、認知症の人とともに築く「総活躍のまち条例」とした。1.自分らしく 2.いつまでも挑戦 3.それぞれが活躍
認知症になったからこそわかること。その本人が発信できるようにし、地域づくりを一緒にできるようにした。御坊市の条例は、認知症の人の役割が書かれた条例であり、「共生」を体現した条例と言える。
午後からは銀座で行われた時事通信社セミナー「食の安全・安心を考える〜地域における食料安全保障とは〜」へ。
内閣府の調査によりますと、農業政策に対して期待することとして一番多かった回答は、「農場から食卓まで衛生面の管理を徹底し、安全な農産物や食品を供給すること」。期待を寄せられると同時に漠然とした不安が広がる中、世界的人口増による食料需要の増大やグローバル化・気候変動といった外的要因と、日本における食料自給率の低下・超高齢社会・過疎化などといった内的要因もふまえた安全・安心な食を持続的に確保するための対策がこれまで以上に求められます。そうした問題意識から、食料・農業・農村基本計画が来年2020年に改定されるにあたり、今回のセミナーが行われました。
冒頭に基調対談。「食料安全保障と日本における重要課題」がテーマ。中家徹全国農協中央会代表理事会長、末松広行農林水産事務次官、ファシリテーターは大学院大学の末廣淳子氏。お三方の言葉のまとめは下記の通り。
何があっても住民が食べ続けられるようにするにはどうしたらいいか。しかし、リスクが高まっている。ひとつは37%という自給率の低さ。生産基盤の弱体化。世界的な災害の頻発により安定的な耕作ができない。食糧不足を導く世界人口増への対応。貿易自由化。大きなリスクが出てきている。すべての国民の問題であり、対策について理解を深め、学校教育の中で食育を通じて学んでほしい。
日本の人口3万人以下の自治体を合わせると全人口の8%。でもそこの面積は全面積の48%を占める。
農業は食糧生産だけでなく、防災等々多面的な機能がある。農業だけでなく農村をどうするという視点も必要。年間7万人が就農をやめている。
企業なら利益が出たら地域貢献するが、農林水産業はそれ自体が地域貢献になっている。
ポイントはふたつ。生産機能をしっかりすることと、地域をいかに守るか。
各自治体でビジョンを持ち、国のメニューを使っていただき、国は支援をすることが大事になる。地方分権はいいことだし、国だけで何ができるわけではないが、分権によって地方がどれだけ考え、行動したかがポイント。
「強い農業をつくる」とは、農業関係者だけでなく、皆が幸せに暮らせる土台をつくるということ。
農地をどうやって維持するか。50年スパンの問題だが、国民の多くにそうした意識は少ない。人の数が必要なのかと言えばそうではない。生産基盤、文化的な基盤、
農業の位置づけをしっかりすることが最重要課題。
農水省の役割を超えて、食料、農業、農村を行っていかないとよくならない。骨太な議論が必要であり、目先ではない農業政策が重要。
中家会長の指摘。その通りだと思いました。「5年前につくられた農業基本計画を総括する必要がある」「地方創生はずっと言われてきが、なかなかうまくいっていない。」「国は計画をつくることが目的になっていないか。計画策定した後に、いかに行動して、実践するかが大事」
「農業の現場から 農は食を育み 人を育て 文化育成する」をテーマに全国農業青年組織協議会の飯野芳彦参与。現場に立つ41位歳の飯野氏。「農業とは」との土壌学から始まり、「ITだIOTだと言っているが、現代に生きる我々の農業は、先人の応用にすぎない」「一朝一夕に農地ができたのではなく、最低30年、50年で成果が出る」「今日は行政の方も多く来ているが、1年や2年で成果は出ない。それを考えるべき時だ」。
「うちの土地はバブルの時に3億になると言われた。税金でもっていかれても、今1億5千万が手に入る。親父とケンカした。でもわかった。年間70万円しか稼げない。でも200年後に1億5千万円になる。親父はそれが言いたかった。農業とはそういうもの」「この農落ちを子や孫のために、消費者の皆さんに届ける。協同や農村が社会を支える」「食料・農業・農村基本法には、不測の事態において位、国民が最低限必要とする食料の供給を確保するため・・・食料の増産、流通の制限等を実施、、、とあるが、増産する農地も技術も、それを支える協同や農村が失われては法律の義務を果たすことはできない」
「食料自給率カロリーベース37%。日本人は世界食糧危機を乗り越えられない」「グローバル化で自給率が減ったのではなく、それは我々の選択だった。我々の選択と着眼点を変えれば自給率は上がる」「将来のために不便を少し受け入れいれてみることが必要」「国産を増やす。例えば、食用油を米粉油にする(価格はサラダ油の2倍。しかし、使用料は年間7ℓ)」「食料自給率をあげるため、パンからご飯の日を少し増やす。」「我々も生産性をあげたりして頑張る。ここを努力してもらえないか」「食料安全保障は政府が考えることでなく、日本国で生活するすべての国民が考えなくてはならない」「都市部は物事をお金で解決する。自然はそうはいかない」まさに環境問題そのものでした。熱い講演。勉強になりました。
その後、「食育/地産地消 実践例紹介 給食現場へ畑からまっしぐら~小平市が進める学校給食の取り組み~」JA東京むさしの本田真道指導経済課長。「食品ロス削減実践例紹介 大阪市の取り組み(事業系)」大阪市一般廃棄物指導課の大西健氏。最後に「日本の持続可能な食と農について考える」東京農業大学国際食農科学科の上岡美保教授が総括。
充実した学びの一日でした。