人口減少時代の公共交通について 4243
昨日は地元で広報関連の作業・打ち合わせ等の後、市役所で各種作業、市会運営委員会関連の懇談会。今年度、新たに議会に設置された「郊外部再生・活性化特別委員会」に所属しています。研究テーマも多岐にわたりますが、私が注目していることにひとつに「地域交通」問題があります。人口減少によるバス路線の減少統廃合や高齢による免許返上後の生活の足の問題など、課題は山積しています。
先週から日経新聞「やさしい経済学」に、大阪大学の土井勉特任教授が「人口減少時代の公共交通」と題して連載されています。今週も続きますが、重要な指摘をされています。
「国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、日本の2045年の総人口は1億640万人となり、15年に比べて16.3%、2000万人以上も減少する見通しです。これは現在の近畿2府4県の合計人口が30年間で消えてしまうほど、大規模で急速な人口減少が予想されているということです。
人口が減少すると、移動する人数も減少して交通量は減少します。また高齢者は現役で働いていた頃に比べて外出する回数が減るので、人口構造が高齢化すると交通量は減少傾向になります。さらに近年は若者の自動車運転免許取得率の低下なども影響してか、現役年代の人たちの外出も減少傾向にあります。
こうしたことから、今後は人口減少以上のスピードで総交通量が減少していく可能性があります。地域によっては、自動車交通量が減って道路の渋滞が沈静化する一方、乗客が減少する鉄道やバス・タクシーなど公共交通の事業者の経営が一段と厳しくなると考えられます。
すでに地方では、公共交通の乗客減少→運賃収入の減少→収入減少に対応した経費削減→運行頻度などサービスの低下→さらに乗客が減少、という負のスパイラルに陥っている交通事業者が増えています。
国土交通省の16年のデータによると、全国の一般乗り合いバス事業者(保有車両30両以上)246社のうち、事業収支が赤字の事業者は157社で、64%を占めています。また首都圏や東海、京阪神など大都市部の事業者を除外すると全国で165社になり、このうち収支が赤字の事業者は136社と、実に82%が赤字になっています。大都市部に比べて人口密度が低い地方では、支出を上回る収入を確保することが難しくなるからです。
このままでは人口減少が著しい地域から公共交通は消滅していくかもしれません。しかし、公共交通には重要な役割があり、放置すべきではありません。この連載では、人口減少時代における公共交通のあり方について考えていきます。」
こうした初回での課題認識提示のもと、第4回では「ビジネス」としての公共交通の限界を示します。
「公共交通の事業は、人件費、車両費のほか、車庫や線路などの維持に要する固定費の割合が極めて大きいのが特徴です。収入の減少に対して経費を削減することは容易ではありません。多くの交通事業者は経費を削減するため、人件費の抑制や老朽車両の継続使用を余儀なくされています。人件費の抑制は人手不足の一因にもなっています。
これらは独立採算のビジネスとして民間企業が経営している公共交通の特徴です。しかし、世界を見渡すと、このような経営形態は必ずしも当然ではなく、むしろ珍しいことなのです。
ビジネスとしての日本の公共交通は、阪急電鉄の実質的創始者の小林一三が創り上げました。このビジネスモデルは、都市への人口集中を前提に、鉄道と沿線の開発をパッケージとすることで収益を確保するものです。沿線には住宅地やテーマパークを整備し、ターミナルには百貨店を開業するなど鉄道を軸とした都市型のライフスタイルを人々に提供しました。このビジネスモデルが成功し、多くの交通事業者も追随しました。そして、私たちは公共交通を企業が担うことが当然だと考えてきたのです。
しかし、人口が減少に転じた日本では、沿線の開発余地は乏しく、乗客減少で運賃収入が減っていくなど、このビジネスモデルの賞味期限は過ぎています。」
第5回では他国での取り組み、公共交通は「インフラ」であるとの捉え方について記しています。
「日本では公共交通に対する財政支出割合は1%以下の市町村が多く、2%を超す自治体はほとんどありません。一方、フランスのまちづくりに詳しいヴァンソン藤井由実氏によると、LRT(次世代型路面電車)で有名なストラスブールは都市圏共同体予算の20%を公共交通に支出しています(2011年度)。財政制度などが異なるため単純な比較はできませんが、公共交通に対する支援の枠組みが日本とは大きく異なることが分かります。
公共交通への行政支援が大きいのは、英国やドイツなど他の多くの先進国でも同様です。公共交通がインフラとして位置づけられ、財政負担が行われています。インフラと位置づけ、公費を投入するということは、事業の採算性よりも住民へのサービス提供を重視しているということです。
この背景には、環境政策(自動車から転換し、環境負荷低減)、商業政策(歩いて楽しむ場をつくり、にぎわい創出)、社会政策(運転ができない人の移動手段確保)など、多様な政策を公共交通によって担うという考え方があります。
なかでもフランスは国内交通基本法に「すべての人の移動する権利(交通権)」を明記し、「誰もが、容易に、低コストで、快適に移動できる」公共交通の実現を掲げています。そのため、都市によって多少の違いはありますが、運賃は低廉に抑えられています。運営費用の大半は交通税や補助金によって賄われ、運賃収入は費用の一部をカバーするにすぎません。
交通税は公共交通に充てる目的税です。従業員11人以上の事業所が対象で、給与総額に一定の税率をかけた額が徴収され、赤字企業も負担を免れません。フランスの各都市は、この交通税を財源として確保したことにより、LRTやBRT(バス高速輸送システム)を短期間のうちに整備することができました。
また欧州では、都心の駐車料金を高くしたり、クルマの都心流入を制限したりして公共交通の利用を促す仕組みがあります。こうした政策を実現するため、交通政策の専門家が行政組織に配置され、政策や運営に関する経験が蓄積されるようになっているのです。」
本件に限らず、目の前の問題と対峙しながら、限界を超えた過去の捉え方で対処することは極めて困難。郊外部の活性化のためにも、公共交通に対する根本的な発想の転換が求められていると思います。