昨日は空き家再生関連の団視察のため広島県尾道市の「NPO法人尾道空き家再生プロジェクト」に伺いました。大都市圏から離れた地方自治体では、何年も前から激しい人口減少とともに、現実の問題として空き家問題の対策が進められています。横浜市では2年後には人口減少が始まる見込みですが、地域によってはすでに空き家問題が着実に進んでいる現状があります。今週発表された横浜市内の路線価も二極化。大きく上昇したところもあれば、下げたところもあります。
瀬戸内海のおだやかな海と山々に囲まれた街・尾道市。 固有の町並みや建物は、そこで営まれてきた暮らしの歴史であり文化があります。その中でも特にユニークな環境をもつ山手地区を視察。現在、空洞化と高齢化が進み、空き家が数多く存在。その中には建築的価値が高いもの、不思議で個性的なもの、景観が優れているもの等さまざまな魅力をもったものも含まれていますが、残念ながら住人を失った家々の傷みは年々加速しています。尾道空き家再生プロジェクトではそれらの空き家を再生し、新たな活用を模索している状況を伺いました。
例えば、「尾道市空き家バンク」。尾道らしい坂の町や古い家に暮らしてみたいという方と、空き家をどうにかしたいと願う大家さんとをマッチングするシステム。高齢化と廃屋化の進む坂の町に定住してくれる移住者を広く募集し、地域の活性化を担う次世代のコミュニティを構築。10年間で100軒以上の空き家再生を実現。また、新たな観光コンテンツによる観光交流の拡大、宿泊者数の増加など、目に見える成果があがっていました。
そのきっかけは、専門家ができなかった尾道の空き家再生ではあったが、既成概念のない一人の主婦が着目したことで、NPOを立ち上げ、取り組みを開始。再生には「いろんな視点で見ることが大事」との考えに立ち、使う人、見る人によって、空き家とみることもあれば、ごみ屋敷とも見れる。そこで次のようなマッチングの仕組みを推進。
空き家 × 建築
尾道の旧市街の家々は時代劇のロケセットのように統一されたものではなく、2キロ四方の中心市街地に、家の博物館のように各時代の家々が点在。繁栄した時代を象徴する町屋や土蔵、お茶室や日本庭園のあるお屋敷や洋風建築など。そして、山あり海ありの変化の多い地形に合わせてつくられた不定形な家や眺望重視の絶景の家、増築を重ねた変形の家、希少な木造3階建ての家など、個性的な生活感あふれる尾道らしい家。そんな尾道建築の面白さや失われつつある職人技などをより多くの人に伝える。
空き家 × 環境
地球環境のことを考えると、古い家に住み続けることは、産業廃棄物や森林伐採の減少にもつながり、重要なエコ活動になる。また、空き家が放置される要因の一つである不要な家財道具のリユース・リサイクル、廃材や古道具の再利用によって、エコ活動に貢献するだけでなく、レトロな尾道らしい町並みを残していく。二度と新築の建てられない斜面地の更地などは、畑や手づくり公園など、緑化運動にも努める。
空き家 × コミュニティ
尾道の斜面地や路地裏に点在する多くの空き家は、少子高齢化、地方都市の過疎化、中心市街地の空洞化の象徴となりつつある。いくら古い建物や景観を守っても、そこに人がいないと魅力的な町とはならない。次世代が住まなくなった空き家の里親探しや、新しい移住者への暮らしのアドバイス、空き家・空き地を使った世代間の交流、イベント企画など新しいコミュニティづくりをサポート。
空き家 × 観光
尾道観光は足繁く通うか、長期滞在がおすすめ。そこで、空き家を使った短期貸家を、安く長く滞在したい方や尾道暮らしを体験したい方に提供。
空き家 × アート
尾道は多くの文人や芸術家に愛されてきた町。アートとは切り離すことが出来ない。これからも尾道から世界に発信してくれるアーティストを育てていけるよう、空き家を美術や文学を学ぶ若者たちの寮やアトリエ、ギャラリー、セミナーハウスなどに活用。また、アーティストインレジデンス(芸術家の滞在制作)を尾道に深く浸透させるべく、長期滞在可能な場と制作・発表の場として空き家を活用し続け、アートの仕掛けによって、尾道の町を輝かせていく。
そもそもの問題意識は、コミュニティの崩壊。街中でも高齢化率高く、子どもたちは都会から帰ってこない。住める家には、誰かに住んでもらいたい。そのためにマッチングを開始。定住人口は減っているが、交流人口を増やしたい。空き家を再生させて宿泊業もスタート。シーズンに入ると学生を中心に満室になる。尾道に興味のある日本の若者や外国人などで移住者は月に10人~15人いる。手続きを簡素化するなど行政のサポートも大きい。こうした動きの結果、街は活気を取り戻し、落ち着いてきたとのこと。危惧するのは大資本による街の開発。いくつかの不動産開発の話が来ているが断っている。街の中で経済が回るようにしなければ、定住できなくなっていく。
「道を造ったり、再開発をしたりするなど、「便利になる」ことがコミュニティ崩壊を防いだり、街を再生することにはつながらない。」これは仁田議員の質問への回答。とても説得力がありました。「空き家再生」には、まず地域の特性を知り、他にはないまちづくりを展開していかねばならないと感じました。
尾道と横浜のおかれた環境は異なりますが、「空き家再生」を必要としていることは共通。その上で2点伺いました。
質問1.コミュニティの崩壊の点では、人のつながりの薄い都会は深刻。尾道は100軒以上の再生を行ったが、現在の尾道のコミュニティはどうなのか。課題は何か?
(回答)今、尾道は移住者が増えることで銭湯、サイクリングコース、商店等に活気が出てきて地元民から喜ばれている。尾道といっても様々な地域があるが、旧市街地域(同NPOが担当している地域、坂とか路地が多い地域)はコミュニティの中で顔が見える生活ができるようになった。「都会はスケールが大きすぎる、私には尾道が合っている」「人の近さ、誰でも挨拶する土地柄」「他の地域から来た人々を受け入れる土壌」
質問2.NPO代表からみて都会の空き家再生、空き家問題の解決には何が必要と考えるか?
(回答)数キロ以内、200~300人の単位で街を良くしていこうとすると、動きやすいし、コミュニケーションがとりやすい。それくらいの単位がいいのではないか。大きな街をひとくくりにして空き家再生するということは難しいのではないか。
現地を見ながら様々なお話を伺っていて、昔の尾道に戻ることはないが、移住者が増えることで、新たな尾道になってきているように感じました。地域にもよると思いますが、少子高齢化の日本社会にあって、将来の日本の姿を見ているような気がしました。