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“医療崩壊の危機”を克服
24時間在宅医療体制を築き退院後の生活支える
富山・南砺市

 

年を取り、医療や介護が必要になっても、住み慣れた自宅で暮らせる環境をつくる地域包括ケアシステム。その実現には、24時間365日の在宅医療体制が不可欠だ。富山県南砺市では、地方の限られた医療資源の中で、行政と医療、看護が連携し、「地域完結型医療」を進めている。その取り組みを追ってみた (公明新聞2014年6月18日付)

日常生活動作/ADL向上へ専門職が連携


▲訪問看護で患者の在宅生活を支える村井所長(右)=10日 富山・南砺市

「いつもは60なのに、80もあるわ……」。健康相談で訪れた南砺市訪問看護ステーションの村井眞須美所長は男性(81)の脈を取り、体調の異変に気付いた。

この男性は、不整脈の一つである心房細動をはじめ複数の病気を抱えながら一人で暮らす。村井所長はこれまでの処置録を確認しながら、主治医の処方薬、食事や生活状況を丹念にチェック。原因は薬の飲み忘れと分かったが、念のため主治医に連絡を取り、診察を勧めた。

「薬を飲まないで、体調を崩す高齢者は多い。服薬管理も訪問看護の重要な仕事です」と村井所長。「保健指導を含め医療的に必要なケアは年齢とともに重くなってきますが、住み慣れた家で心穏やかに暮らしたいと願う患者に応えていきたい」と、真情を吐露した。

富山県西部の南砺市は2004年に4町4村が合併し誕生したが、人口は合併時の約5万9000人から、現在は約5万4000人に減少。この10年で“4村分”の人口が消えたことになるという。65歳以上の高齢化率も33%を超えた。

合併当初、同市は3病院と4診療所を引き継いだが、厳しい病院経営や医師不足から、診療所の閉鎖や病院の病棟休止などで一時は地域医療の崩壊にひんした。現在は、公立の2病院、4診療所、1訪問看護ステーションを中心に、24時間365日の在宅医療体制を整えている。

▲患者の情報共有や当日の予定を確認する南砺市訪問看護ステーションの朝礼=同

この地域住民の命を支える在宅医療体制を推進してきたのが南砺市民病院だ。「医療は地域の状況の変化に細かく対応していかなければならない」と、同病院前院長の南眞司氏(現・市政策参与)は指摘する。複数の病気を抱える高齢者の医療にどう対応するか。南氏は「治す医療」から「治し支える医療」への転換が必要だと訴える。

同病院では、富山大学付属病院総合診療部と連携し、家庭医や総合診療医を育成。さらに、診療体制を改編して地域医療連携科を設置。患者の退院後の生活を見据え、入院中のADL(日常生活動作)維持・向上のために医師やリハビリ療法士、栄養士など専門職の連携にも力を注いでいる。

「90歳代でもADLは回復する。患者・家族のQOL(生活の質)の向上が医療の目的でなければならない」と南氏。こうした取り組みが平均在院日数の短縮や自宅復帰率を向上させ、在宅医療の展開につながっている。

退院時にも工夫がある。市民病院に併設された「介護福祉支援センター」には訪問看護ステーション、在宅介護支援センター、ホームヘルプステーションが置かれ、退院後すぐに生活相談が行える体制になっている。

訪問看護ステーションには、看護師18人と、訪問リハビリを担当する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が在籍している。村井所長によると、年間利用件数は2万5000件を超え、約5000件を平均とする県内の訪問看護事業所の中で群を抜く。開業医や市医師会と密に連携し、広大な地域の在宅医療・介護を支えている。

市に担当局を設置/住民と協働へマイスター制

こうした多彩な取り組みを後押しするのが、医療関係者と市長ら行政幹部を交えた「医療協議会」、医療・介護に携わる行政職員らによる「地域包括医療・ケアワーキング会議」だ。

定期的に会議を開催することで、現場の課題を吸い上げ、素早い政策決定につなげている。

同市は現在、患者家族の介護負担の軽減に向け、24時間対応の介護サービス基盤整備を進めている。南氏は「在宅ケアといっても、家族を犠牲にしてはいけない。在宅ケアは、家族の絆、地域の絆を結び直すチャンスでもある」と、さらなる体制の充実をめざす。

24時間在宅医療体制を構築する過程で、同市は行政組織を見直し、12年4月に「地域包括医療・ケア局」を設置した。公立の医療機関と介護サービス事業所を一体的に運営して医療と介護の連携を図り、サービス提供体制の拡充に取り組んでいる。

また、住民との「協働」を地域包括医療・ケアに生かすために、09年から「地域医療再生マイスター養成講座」を実施している。医療・介護従事者、住民を、講座を通して地域医療の実情についてよく知る人材に育成。地域全体で医療を守り育てるネットワークづくりもめざす。5年間で210人のマイスターが誕生した。

受講した住民らで「南砺の地域医療を守り育てる会」を組織し、勉強会が定期的に行われている。こうした中から、自主的に活動する住民グループが生まれ、地域包括医療・ケアを分かりやすく解説したパンフレット「なんとすこやか なんと安心」を作成。市内全戸に配布され、地域医療に対する住民の理解を広げている。