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広域避難者支援
私たちにできることとは
党岡山県本部の「3.11シンポジウム」から

 

▲活発に討論した党岡山県本部主催のシンポジウム=8日 岡山市

東日本大震災から3年3カ月が経過し、記憶の風化が進む中、広域避難者支援をテーマにした公明党岡山県本部(景山貢明代表=県議)主催のシンポジウム「いま、岡山の私たちにできること」が8日、岡山市で開かれた。震災と東京電力福島第1原発事故に伴う3.11の避難者が西日本で最も多く(1103人=復興庁調べ 5月15日現在)、今もその数が増え続ける岡山県での討論を振り返りながら、“あるべき支援”の形を考える。 (公明新聞2014年6月17日付)

多様化、個別化する生活状況とニーズ/日常の触れ合いが重要

今なお約26万人


復興庁によると、震災と原発事故による避難者数は今なお、全国に25万8219人を数える(5月15日現在)。このうち、地元を離れて県外に暮らす、いわゆる広域避難者は、約5万5000人。その大半が、仕事のある夫を故郷に残して二重生活を送る妻子などで、経済的、精神的負担は限界に達しつつある。

シンポジウムでは初めに、広域支援の先進県とされる愛知県で、避難者支援の陣頭指揮に当たっている瀧川裕康・県被災者支援センター事務局長が基調報告【別掲】。この中で瀧川氏は、震災から3年以上が過ぎ、避難者の生活状況や支援ニーズが多様化、個別化していることを指摘。4年目の取り組みとして、県内に避難している約500世帯を全戸訪問する計画を立てていることを紹介した上で、「行政や社協、専門家、NPO、生協、ボランティアなどが一体となって、一人一人に寄り添っていくことがますます重要になっている」と強調した。


帰りたい、でも…


シンポジウムはこの後、瀧川氏ら4氏によるパネル・ディスカッションに移り、活発に討論。

岡山県危機管理課の田中嘉一課長は、岡山県への避難者が多い理由を「温暖で災害が少ないイメージがあることに加え、人付き合いが割と淡泊で程よい距離感を持つ県民性が受けているのでは」と指摘。この県民性を生かして、NPOと協力しながら避難者の交流会などを活発に開いていることを紹介した。

自らも広域避難の当事者で、岡山の地で避難者と支援団体をつなぐ活動を展開している「うけいれネットワークほっと岡山」の、はっとりいくよさんは、「帰りたいけど帰れない人」「帰りたくなくても帰らざるを得ない人」など、避難者が置かれている状況の個別化が進んでいることを強調。夫を残して避難した母親が二重生活に伴う金銭的な悩みなどから虐待に走ってしまうケースなどに言及した。

その一方で、はっとりさんは、避難者が支援活動に関わっていく例が多いことにも触れ、「虐待や子どもの貧困など、自分が感じた痛みを共感、共有し合える場」の重要性を指摘。さらに、会場に向かって「日常の中で普通に接してもらえるとうれしい」と呼び掛けた。

公明党の斉藤鉄夫幹事長代行(党東電福島第1原発災害対策本部長=衆院議員)は、公明党が震災以降、一貫して「支え合う日本」をキャッチフレーズに掲げてきたことを力説した上で、「めざすべきは全ての避難者、被災者の『人間の復興』でなければならない」と主張した。


岡山の可能性


2時間近くにわたったシンポジウムは、避難者の「明日が見えない」現状をあらためて浮き彫りにした。実際、福島からの避難者を対象に民間団体などが行った調査でも、60%の人が今後どうするか「分からない」と答えるなど、避難者の不安な心理が明らかになっている。

そうした中、被災地から遠く離れた岡山県で避難者数が増え続けていることをどう考えるか。シンポでは、「その事実こそ重視すべきだ」として、「程よい距離感で他者を受け入れる包容力」など岡山の県民性を最大限に生かした「岡山発の広域支援モデル」づくりが提言され、注目された。

「広域支援の取り組みは、『新しい市民社会』形成への挑戦でもあるということが分かった」。シンポ終了後、参加者の一人はそんな感想を語っていた。

基調報告 先進・愛知の取り組みから

住居、健康、就労など 生活と心の安定を
愛知県被災者支援センター 瀧川裕康事務局長


愛知県内への避難者数は現在、506世帯1190人。被災地の情報や地方紙の切り抜きなどを届ける定期便の発送、避難者同士や避難者と支援者との交流会の開催、50歳以上の単身者への訪問活動など、さまざまな事業を展開している。

県内の飛島村から提供されたコメを各戸へ配布する事業を通して安否確認を行うこともしている。

「地震・津波避難者」は故郷に帰ることがゴールだが、「原発避難者」は帰るか帰らないかの判断が人によって異なる。「故郷を捨てた」という後ろめたい気持ちを持つ人も少なくない。生活そのものと、心の安定を支える支援の強化が必要だ。

具体的には、生活の拠点である住宅支援制度の拡充、子どもに焦点を当てた健康不安への対処、仕事の確保などが挙げられる。

巡回写真展も同時開催

シンポジウムの会場では巡回写真展「『人間の復興』へ」(制作・公明新聞)が同時開催され、多数の来場者がパネルに見入っていた【写真】。

党岡山県本部はこの日のほか、岡山県玉野市(5月31日、6月1日)、岡山市北区の県本部事務所(6月2~6日)でも同展を開催。震災の記憶の風化に対する取り組みとして、力を入れている。

来場者からは「自分が被災したらどうするか考えるきっかけになった」「忘れてはならないとあらためて思った」などの声が上がっていた。