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ここが“平成の桃源郷”
おがわ作小屋村の挑戦
宮崎・西米良村

 

宮崎県西部の山間部に位置し、豊かな自然に恵まれた人口約1200人の西米良村の小川地区。住民100人ほどの集落だが、地区内にある交流施設「おがわ作小屋村」には年間2万人超の観光客が訪れる。過疎化・高齢化に直面しながらも、郷土料理を観光の目玉に据え、地域の特色を生かした住民主導の取り組みが実を結んだ。“平成の桃源郷”をめざして奮闘する姿を追った。(公明新聞2014年3月20日付)

過疎集落に年2万人超/郷土料理を観光の目玉に

▲かやぶき屋根の古民家が立ち並ぶおがわ作小屋村

宮崎市内から車で約2時間。狭い山道を進んでいくと、眼前にかやぶき屋根の古民家群が見えてくる。ここが大勢の観光客を引き付ける西米良村・小川地区の集落拠点施設「おがわ作小屋村」だ。食事処や宿泊施設などが一体化した施設で、周辺には清流が流れ、梅の花が咲く美しい風景が広がる。

おがわ作小屋村は「平成の桃源郷づくり」を掲げ、2009年10月にオープンした。地区住民の有志27人で構成された、小川作小屋村運営協議会が運営を担う。同協議会の上米良省吾事務局長は、「ここの風景は、“桃源郷”そのもの。都会の人が田舎の人と触れ合い、癒やされて帰ってもらいたい」と胸を張る。

▲目玉メニューの「おがわ四季御膳」

観光の目玉は、山菜など地元で採れた食材をふんだんに使った郷土料理。看板メニューは、16種類のおかずを小皿に分けて提供する「おがわ四季御膳」だ。多い時には1日に130食の注文が出ることもある。毎月6~7品、メニューが変わり、季節によって使われる食材も違う。「小皿に盛り付けるため、限られた食材を無駄なく有効に使うことができる」(上米良事務局長)と、提供する側のメリットも大きい。

米にもこだわる。使用される米は全て地元で収穫され、昔ながらの天日干しで乾燥させたもの。ブランド米に負けない味を誇るが、村外では流通せず、ここでしか食べることができない。

豊かな自然と住民との触れ合いも魅力

美しい風景、そして住民との触れ合いも魅力の一つ。現在、13人の女性スタッフがパート勤務しているが、スタッフとの会話を楽しみに、月1回のペースで宿泊施設を利用するリピーターもいるという。

▲四季御膳を目当てに多くの観光客が訪れる

おがわ作小屋村全体の集客数は初年度だけで約1万9000人となり、11年度には2万人を突破した。昨年度は約2万7000人が訪れ、売り上げも約2700万円を記録した。遠く北海道や神奈川県から訪れる観光客もいる。

オープンのきっかけは、深刻化する過疎化・高齢化への危機感からだった。とりわけ、事業開始前、小川地区の65歳以上の高齢化率は村内で最も高い71%で、集落存亡の岐路に立たされていた。こうした中、西米良村側が地区に「作小屋村づくり事業に取り組んでみないか」と話を持ち掛けた。村としても他の自治体と合併せず、独自に存続していく道を選んだことから、集落ごとに自立経営を進める必要があった。モデル地域として選ばれたのが小川地区。「同地区で活性化の道が開ければ、ほかの地区にも波及できる」(村総務企画課・浜砂亨総括補佐)と考えた。

「いずれは消えゆく集落。どうせつぶれるならば何かやってみよう」。危機感を感じていた地区住民も話し合いの結果、集落存続に向け一致団結。行政と協力しながら、先進事例の視察や協議を重ね試行錯誤の末、オープンにこぎ着けた。

「成功の秘訣は“人”。小さな集落だからこそ皆が一つになって取り組めた」と語る上米良事務局長。地区では、昔から婦人会の活動や地域行事などで住民が協力して取り組んできた。そうした目に見えない相互扶助の伝統や絆が、事業に生かされている。

地域活性化に踏み出した同地区は今後、宿泊などで集客を増やしていく方針だ。景観を壊すような安易な観光地化、料理などの委託販売は行わない。美しい風景の中で料理を味わい、そして住民と触れ合う。すべてがそろってこそ、集落を後世に残すことができると考えているからだ。上米良事務局長は「50年後、地区の人口が半分になっても、住民が生き生きと生活している集落をめざしたい」と意気込む。

働く高齢者の合言葉は「年金プラスアルファ」

おがわ作小屋村で働く女性スタッフの平均年齢は70歳だ。4人のチーフを中心に、四季御膳のメニュー考案や盛り付けなどにさまざまな知恵を発揮している。

▲生き生きと働くスタッフ

「年金だけでは楽しく生活はできないし、孫にお小遣いも渡せない。合言葉は『年金プラスアルファ』」。上米良事務局長が強調するように、高齢者雇用の創出や生きがいづくりの場になっている。スタッフの時給は県の最低賃金に設定し、年度末には全員に賞与も支給される。月10万円以上稼ぐスタッフもいる。

ある女性スタッフ(77)は、「私みたいな年齢で雇ってもらえるところはない。働けるだけでもうれしい」と笑顔を見せた。生き生きと働く女性の姿に、男性住民の意識も変わってきた。働く妻に代わって、夫が家事などを手伝う世帯が増えてきたという。

オープンから5年、見事に成功事例になった小川地区。浜砂総括補佐は「ほかの集落でも、違う切り口で活性化に取り組むケースが出てきた」と村全体への波及効果に期待。「行政任せにすることなく、集落自ら地域の課題を解決し、生き残っていく基盤整備のため、行政としてもフォローしたい」と語っていた。