テレビドラマの舞台となったことや、東日本大震災での活動で、一躍名を広めた「ドクターヘリ」。
命の現場で“希望の翼”と大いに期待されている理由とは。
ドクターヘリは、重症救急疾患に対応可能な医療機器や薬品を搭載した救命救急のためのヘリコプター。高度な医療が提供できる救命救急センターなどの施設内、あるいはごく近い場所に配備されています。
消防機関からの出動要請があれば、救急診療に精通した医師や看護師を乗せて直ちに出動。原則として5分以内に離陸して患者の元へ駆けつける体制を整えています。
ドクターヘリ最大の特徴は治療をヘリの中で行えること。多くの医療器機を備えたヘリの内部はまるで「空飛ぶ救命室」です。
医師と看護師が患者のいる現場、または搬送中に治療を行いながら、患者に適した医療機関に搬送します。いち早く初期治療が始められる上、搬送時間を大幅に短縮できるため、救命率の向上や患者の後遺症の軽減に大きく貢献しています。
「ドクターヘリ」では医師がヘリで駆けつけるため、救急車での搬送に比べて治療開始時間を大幅に短縮することができます。この時間短縮こそ、救命救急医療の命題。専門家からは、治療開始時間が早まったことにより、死亡率が減少したと分析されています。もちろん、救命医療に携わる人たちの実感として、「ドクターヘリがなかったら助からなかった」という症例は少なくありません。ドクターヘリで搬送された患者は入院日数も短くなり、それによって治療費も軽減されていることが分かっています。
ドクターヘリの運航などに関わる費用は国が最大9割、残りを自治体(都道府県)が負担しています。その金額は1カ所あたり年間約2億1000万円。各都道府県に1機ずつ配備すれば年間で100億円必要になります。一見、非常に大きな金額のようにも思えますが、国民1人当たりの負担は約80円。もちろん、命はお金に換えられませんが、多くの尊い命を救えることを考えれば、ドクターヘリの費用対効果は計り知れません。
ドクターヘリにいち早く着目したのはドイツ。1960年代、自動車の普及に伴って、高速自動車道アウトバーンでの死亡事故が急増したことへの対応策として、1970年からヘリコプターによる救命救急が行われてきました。ヘリ導入後、20年間で交通事故による死亡者数を3分の1に減らしています。2005年の時点で、ドイツ全土に72カ所の拠点があり、8万件以上の出動実績を残しています。費用が健康保険を含む、社会保険でまかなわれているのも特徴です。
戦争で負傷兵を救護することから始まったアメリカや、アルプス山岳地帯の遭難者救助を起点とするスイスをはじめ、1970~90年代にはフランス、イギリス、オランダ、オーストリアなど世界各国にヘリコプター救急のシステムが広がりました。2012年現在、欧米諸国をはじめ世界の主要国1300カ所ほどの拠点に救急専用ヘリコプターが整備されています。