コラム「北斗七星」

公明新聞:2018年4月26日(木)付

埼玉県にある森林公園を先日訪ねた。園内の運動広場の小高い丘は一面、ポピーの花畑。明るい黄色や白、オレンジ色のポピーが風に揺れ、訪れる人々の目を楽しませていた◆この風景を眺めながら、以前『街と山のあいだ』(若菜晃子著、KTC中央出版)で読んだ一人の国語学者の話を思い出した。戦時中、彼が学生だったころ、戦場の友人から一通の手紙が送られてくる◆手紙は「ここには野原があって、草が風にそよいでおり、その草には小さな花が咲いています」という文面だった。そして草原の絵が描かれていただけだった。検閲が厳しくて自分の思いなど何も書けない時代のことだ◆それでも国語学者には、その草原の絵から友人の気持ちがよく伝わってきた。しかし、彼がその手紙を読んだときには、友人はすでに戦死していたのだった。そう学生時代の思い出を語り一人涙する国語学者◆若菜さんはその国語学者の教え子だった。何年たとうが消えることのない深い悲しみがある。戦争が原因の悲劇もそうだ。そして今なお深い悲しみを人々に刻む残虐な行為が繰り返されている。例えばシリアの内戦◆化学兵器の犠牲となった子どもの姿を報道で目にするたび胸が締め付けられる思いがする。こうした出来事を地球上から一掃するために努力を重ねたい。

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