主張揺れる欧州 協調と連携で複合危機脱出を

公明新聞:2017年6月26日(月)付

欧州が揺れている。

英国の総選挙では、欧州連合(EU)からの強硬離脱を掲げていたメイ首相率いる保守党が予想外の惨敗を喫し、単独過半数を失った。離脱交渉の迷走は避けられまい。

他方、フランスでは、マクロン新大統領率いる新党「共和国前進」が国民議会総選挙で圧勝し、一気に単独過半数を得た。英国と対照的な結果だが、劇的変化という意味では相似形をなす現象ともいえよう。欧州市民の“揺れる民意”が見え隠れしている。

その英国やフランスなど欧州全土をテロの恐怖が包む。今月3日にもロンドンで7人が犠牲となった。

難民・移民の大量流入や、ギリシャの財政破綻に伴うユーロ危機の試練も続く。結果として、排外主義・一国主義を唱える極右勢力が跋扈し、政治的な分断も進む。

欧州を揺るがすこれらの問題はそれぞれ単独にあるのではなく、互いに連動して危機を増幅させている。EU研究の第一人者である遠藤乾・北大教授の言う「複合危機」であり、EU解体が囁かれるゆえんでもある。

ただ、それ以上に注目したいのは、これほど深刻な危機のただ中にあっても、なお崩れない欧州統合の粘り腰だ。

いくつかの国も英国に続くと見られたEU離脱の動きは沈静化しつつある。テロ続発の中でも、難民受け入れの原則は崩していない。ギリシャへの追加融資を決め、ユーロ危機再発の芽も摘んだ。

思えば、国家という枠組みを超えようとする欧州統合の壮大な実験はそのまま、危機の歴史でもあった。現下の複合危機が過去の危機に比べて圧倒的だとしても、“欧州の知”は再びこれを乗り越えていくと信じたい。

域内GDP16兆ドルと世界全体の2割強を占めるEUの動揺は、日本を含む世界経済に深刻な影響を及ぼさずにはおかないし、政治的にも欧州発で形成されてきた民主主義や人権などリベラルな価値観の行方を左右するからだ。

危機脱出には、草創期から統合を牽引してきた仏独両国を中心とした連携と協力の再強化が欠かせない。メルケル独首相の老練な政治手腕と、若きマクロン仏大統領の清新な政治姿勢に期待したい。

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