主張里地里山の荒廃 絶滅危惧種の生息地。保全急げ

公明新聞:2015年7月15日(水)付

人が生活する集落を取り囲むように存在する雑木林や竹林、農地、水田、ため池などは里地里山と呼ばれている。弥生時代から現在に至るまでの3000年という長い歴史を通じて、原生の自然に人の手が加わりながら環境を形成、維持している地域である。

全体の面積は1500万ヘクタールに及び、国土の約4割を占めるほど広大だが、その里地里山の荒廃が著しく進んでいる。早急に手を打たなければならない。

環境省が先月公表した2015年版の「環境・循環型社会・生物多様性白書(環境白書)」では、50年までに里地里山の3~5割が無居住地化し、荒廃が拡大するという衝撃的な予測が示された。

同白書は、主な理由として(1)農林業の担い手減少に伴う耕作放棄地の増加(2)化石燃料の普及による薪と炭の需要減少や、化学肥料の普及による森林由来の堆肥需要の減少を背景とした森林の管理放棄―を挙げている。

里地里山の荒廃により生じる問題は深刻である。まず、日本の豊かな生物多様性が失われる恐れがある。

環境省によると、絶滅危惧種の多くが、原生の自然地域よりも里地里山にいるという。例えば、メダカの約7割、ギフチョウの約6割が里地里山に生息していることが確認されている。

また、伐採や自然災害などで失われた森林を再生した二次林の管理が行われなくなれば、水質や大気の浄化、洪水の緩和といった機能を持つ森林が減少するであろう。

さらに、畑を荒らす鳥獣の生息域が拡大するようなことがあっても対応できなくなり、農作物の鳥獣被害が一層、増大することも懸念される。

環境省は年内に、重点的に保全すべき「重要里地里山」を選定するという。今後、無居住地化する全ての里地里山を、従来通り、人が維持管理していくことは難しい。人が継続して手を加えていくべき地域と、人の関与がなくとも自然に維持される地域を区別し、保全を進めていくことが現実的であろう。

里地里山の保全に関わるボランティアなどの活動団体は全国に1000近くある。政府はそうした団体とも連携し、保全を進めてもらいたい。

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