主張中間貯蔵施設 見えぬ展望、もっと具体的に

公明新聞:2014年8月1日(金)付

「まだまだ深く大きな溝がある」。2人の地元町長が口を揃えてこう語り、不満をあらわにしたのは当然だろう。施設設置の当事者としての自覚と責任を、国はもっと強く持ってもらいたい。

東京電力福島第1原発事故で出た除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設の建設問題で、政府が候補地の福島県大熊、双葉両町と県に新たな方針を示した。

焦点の一つだった用地取得の方法については、「先祖伝来の土地を手放したくない」との住民の思いに配慮して、全面国有化する従来の方針を転換。国による買収のほか、地権者に所有権を残したまま国が土地を利用できる「地上権」を設定する案を提示した。併せて、土地売却後も住民票を移さずに済む特例措置を講じる考えも明らかにした。

ただ、住民説明会などで聴取した“地元の声”に応えた箇所はこの2点ぐらい。最大の焦点だった生活再建・地域振興策の中身や交付金の規模、用地の補償額などについては具体的説明がなく、ほとんど先送りとなった。

「これでは受け入れの是非を判断する材料にもならない」と異口同音にコメントした佐藤雄平知事ら地元関係者の怒りの心中が察せられる。

思えば昨年12月、国が地元自治体に施設建設の計画案を提示してから7カ月余。この間の国と地元との交渉を振り返ってみると、そこにははじめから大きな認識の差、意識のズレがあったように思う。

地元にとって同施設は「迷惑施設」以外の何ものでもない。「故郷を追われた上、なぜそんな施設まで」との思いは住民共通の“本音”だ。

だが一方で、住民の多くは、除染を進める上で同施設が必要不可欠なことも承知している。県内の仮置き場は既に660カ所を超え、「安全な保管施設を一日も早く」と望む。これもまた“本音”だ。

この地元の苦衷を国はどれだけ理解しているか。石原環境相の「金目」発言然り、具体性欠く今回の方針案然り、およそ“福島の痛み”を共有しているとは思えない。地域の将来像を国の責任で明確に描き、その道筋を具体的に示さない限り、溝は埋まらず、施設整備の展望も開けないことを指摘しておきたい。

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