シリーズ 介護は今
公明新聞:2009年11月6日

生活苦のお年寄りに安心の住まいを
先進的な取り組みを追う
3食付きで生活保護費の枠内。「快適で申し分ない」と口をそろえる=2日 東京・墨田区
「単身、要介護、低所得の高齢者」が安心して住み慣れた地域で生活できるよう、東京都内の特定非営利活動法人(NPO法人)がスタートさせた、既存の住宅に医療や介護の支援を付けた「生活支援付き住宅」が注目されている。
東京都墨田区の木造住宅の密集地域に、支援付き住宅「ふるさと晃荘」が今年5月にオープンした。
同住宅は、日常生活の支援を必要とする単身で低所得の高齢者に対し、安心して住み続けられる住まいを提供するもので、NPO法人「自立支援センター ふるさとの会」が運営している。
建物は、ふるさとの会が借りる前提で、老朽化して借り手がなくなった木造アパートを、家主が建て替えた。会の職員が24時間常駐し、医療や介護の手配や生活をサポートする。入居者は個室。共用の食堂で3食の給食サービスを行う。食費込みの利用料は、生活保護費で賄える約14万円に抑えられている。
「以前は4人部屋で、ゆっくりできなかった。つえが必要になってからは、和式のトイレを使うのが非常につらかった。ここは私の“ついのすみか”だよ」と笑顔で話すのは、山本太さん(仮名、74歳)。
40歳で離婚し、家族を失った。その後、仕事を転々。いつしかサウナが住まいになっていた。日雇い仕事の帰り、駅で倒れ、救急車で病院に搬送された。クモ膜下出血。後遺症で、つえを使わないと歩けなくなり、仕事に就けなくなった。生活保護を受け、約8年間、都内の宿泊所などで生活したが、要介護状態に。役所の薦めで、同住宅に入った。
藤沢三郎さん(仮名、68歳)も「3食付きで言うことなし。独り身だし、ここは“天国”だ」と語る。持病があるため仕事に就けず、生活保護を受けてアパートに住んでいたが「要支援」と判断され、身を寄せる所もなく同住宅に移ってきた。
このほか、他の高齢者からも「ヘルパーが来て、シーツも替えてくれる」「夜中に何かあっても、職員がいるので安心だ」などと好評の声が相次いでいる。
現在、全18室は満室で、ほとんどが生活保護の受給者。9人が要支援2~要介護3に認定され、訪問介護などを受けている。潜在的には100人程度が入居待ちしているという。
今年3月、群馬県渋川市の「静養ホームたまゆら」で火災が起き、都内自治体からの生活保護受給者10人が亡くなった。この惨事は、低所得者に対する住宅政策の不備を浮き彫りにするとともに、都市部において、介護を必要とする低所得高齢者問題が深刻化する兆しだとも指摘されている。
実際、都内の生活保護世帯は約17万世帯(2009年8月現在)で、このうち高齢者世帯は約45%であり、特に高齢者の単身世帯が約40%を占めている。今後、「単身、要介護、低所得の高齢者」の住まい確保と、安心してケアを受けられる体制づくりが大きな課題となる。
こうした現状に対して、今年7月、東京都の特別区長会は、都と厚生労働省に対し、「生活支援付き住宅の拡充」を要請し、事業者への財政支援策などを講じるように求めた。また都も、自分の家に住み、地域で生活し続けられるように、介護支援を受けられる複合住宅も含めた「ケア付き住まい」といった「東京モデル」を模索し始めている。
ふるさとの会の滝脇憲理事は、「都市部の高齢化問題に対応するには、地域包括センターや、地域の社会サービス、24時間緊急対応可能な中間通過型施設などを合わせた“切れ目のない”地域ケアシステムの中に『生活支援付き住宅』をつくり、重層的な居住セーフティーネットを整備していくのが効果的だ」と指摘している。
高齢者を地域で支えたい
法政大学現代福祉学部教授 山岡義典氏
「支援付き住宅」と聞くと、特別な住宅を新しく建て、そこで介護サービスを受けるという印象だが、基本的には一般の「住宅」であり、特別な「施設」ではない。
「支援付き住宅」の普及へ基本的な制度として求められるのは、医療・福祉政策と住宅政策の連携だ。
福祉・医療政策としては、日常的な生活支援を必要とする人のサポートにかかわる人件費の補助が必要になる。これは、地域の実情が異なるので、国が行うより、地方自治体が実験的、先駆的に実施する方が現実的だろう。
住宅政策としては、公的住宅の入居条件の緩和や、民間のアパートに住む人への家賃補助制度の実現を進めるべきだ。例えば、単身で、サポートがないと生活できない認知症の人でも公営住宅に入居でき、生活支援を受けられる仕組みをつくることも考えられる。
そして、これらを提携させるものとして、公的住宅を「支援付き住宅」として福祉的に活用する仕組みを考えるといい。地域の「住宅」には、元気な人や介護が必要な人など、さまざまな境遇の人がいるが、元気な人も、高齢になれば生活支援が必要になる。そうなった時に、その地域で“支援が付く”という仕組みが重要な意味を持つ。
実施する事業体は、NPO法人、企業、協同組合など、どんな形でもいいが、一定の事業能力が必要だ。経営や人事管理、行政との連携など、きちんとしたマネージメントが欠かせない。
もう一つ大事なのが倫理観。密室で人間を一対一で支援するケースが多いので、組織はもちろん、従事者一人一人がきちんとした倫理観を持たなければならない。
日常的な生活支援を必要とする人にケアやサポートを「他人」が行うに当たっては、(1)ケア関係者による援助カンファレンス(協議会)の開催(2)地域ケア連携ネットワークの構築(3)サービス適正化のための第三者委員会の設置(4)情報公開と説明責任――などを「地域に開かれた」形で明確化することが大切である。
つまり、“介護現場”を密室にしてはいけない。多くの施設の場合、外との関係がないため、内部で何が行われているか分からない。このため、さまざまな問題が起こる。外の目で「監視」している状況が大事だ。
一方、市民と企業の社会貢献的な協力も重要になる。民間からの寄付やボランティアによって、支援を受ける人は、公的に保障される最低水準の生活からプラスアルファの豊かな生活を送れるようになる。
いずれにせよ、既存の福祉政策や住宅政策だけでは十分対応できない「単身、要介護、低所得の高齢者」を地域で支え、民間資源の活用で地域での居住を実現するには、多くの賛同者の協力が必要になってくる。
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